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学芸員レポート
北海道/鎌田享|福島/伊藤匡|愛知/能勢陽子大阪/中井康之広島/角奈緒子
いわての現代美術に出会う、夏
福島/伊藤匡(福島県立美術館
 近年の現代美術の展覧会では、展示が美術館内だけではなく、館外に飛び出す傾向が強くなった。石神の丘美術館で開かれている、岩手県ゆかりの若手作家たちの展覧会もその一例である。
 このシリーズは2006年に第1回展が開かれた。今回は新機軸として、美術館内と美術館背後の広大な野外展示場の他に、美術館近くの商店街にある病院、郵便局、銀行、酒店などに、展示場所を拡張している。
宇田義久《森の供物》
石神の丘美術館、外観
宇田義久
同館展示室内
佐藤一枝《untitled/ishigami/2008》
佐藤一枝《untitled/ishigami/2008》
宇田義久《森の供物》
宇田義久《森の供物》
 出品作家は、板垣崇志、宇田義久、小畑裕子、佐藤一枝、濱千尋、広野じんの6人。板垣は銅版画に背後から光をあてたボックス状の作品。宇田はストライプの抽象画。紙を使った作品を展開している小畑は、銅版画と活版印刷を使った詩画集と、岩手町特産のキャベツの繊維だけで漉いたキャベツ紙のインスタレーション。佐藤は石と鉄を使ったインスタレーション。濱は平面と布などを使った立体の動物。木彫の広野は、食物を題材にしたユーモラスな立体を出品している。
 展覧会を企画した同館の齋藤桃子学芸員の案内で、各展示場を見て回った。展示は、野外展示場では新作を、商店街では旧作、美術館では旧作と新作の両方を展示している。
 野外展示場の作品が興味深かった。この作家はどんな野外展示をするのだろう、という興味もあったが、各人が新しい側面をみせていた。なかでは、佐藤一枝の平鉄やエキスパンドメタルを使ったインスタレーションが、この作家の本領を発揮している。見晴らしのよい場所に設置された作品は、自重でたわんだ鉄板のラインが、奥に見える山の稜線に重なって美しい曲線を見せている。固い素材を使いながら、波のような曲線を追求している佐藤の意図が、明快に伝わる作品に仕上がっている。
 一方、森の中を選んだ宇田の《森の供物》は、大豆をはさんだ割り箸を松林の中に宙づりにした作品である。日が経つにつれて大豆が地面に落ち、鳥たちがついばむ。それが森の生き物への「供物」という意味のようだが、なかにはそのまま芽を出している生命力の強い大豆もある。生命が育まれる空間、生命の育つ時間を意識させる作品だ。一周すると30分以上はかかるだろうが、見落としかねない作品や、お天気次第で印象が変わって見える作品などを宝探しの気分で楽しむことができる。
 一方、今回の新しい試みである商店街展示のほうは、病院の待合室や酒店内のミニギャラリーなどに展示されている。
 岩手県内では旧東和町で「街かど美術館」が開催されている。両者を比べると、「街かど美術館」は商店街の展示が主で、美術館が従であるのに対して、石神の丘の場合は美術館が主で、商店街の展示は従である。ここは高台にある美術館とふもとの商店街との間の急な坂が心理的な距離感をもたらすため、商店街も含めた回遊式鑑賞が難しい面もあるかもしれない。その代わり、石神の丘には美術館の裏に広々とした野外展示場があることが魅力になっている。岩手町特産のラベンダーやブルーベリーを見ながらの美術散歩は、すがすがしい気分になれるし、これからの季節なら萩など秋の野草も楽しめそうだ。
 これからは、場所の特性をどう活かすかが、作家や展覧会の企画者にとって重要な課題のひとつになるだろう。

●いわての現代美術と出会う、夏
会期:2008年8月2日(土)〜9月23日(日)
会場:岩手町立石神の丘美術館(展示室・野外展示場・沼宮内大町商店街)
岩手県岩手郡岩手町五日市10-121-21/Tel.0195-62-1453

[いとう きょう]
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