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村田真|原久子
2003年から2004年へ
原久子
大地の芸術祭越後妻有国際トリエンナーレ
たかいちとしふみ《いつも心にwelcome》
湊町アンダーグラウンドプロジェクト
上:大地の芸術祭越後妻有国際トリエンナーレ会場風景
古郡弘《盆景─II》

中:PARTY展会場風景
たかいちとしふみ《いつも心にwelcome》
下:湊町アンダーグラウンドプロジェクト会場風景
 昨年もさまざまな作品や作家、そして美術展との出会いがあった。海外ではヴェネチィア・ビエンナーレなどの恒例の国際展がいくつかあった。国内で大きな話題となったのは、第2回目を迎えた「大地の芸術祭越後妻有国際トリエンナーレ」、秋には森美術館が「ハピネス展」でオープンした。そして私の日常の生活範囲である関西では、京都国立博物館で開かれた「アート オブ スター・ウォーズ EPISODE IV・V・VI+α」が賛否両論の物議をかもした。展覧会の内容を語るというよりは、独立行政法人化した国立7館の運営に関する憶測まで含み、議論は迷走していた。個人的に心に残っている展覧会は、いくつかの例外はあるものの、ひとことで言うと“「場」との関係性”が決め手になっていた。「場」にはそこが単にもつ景色(ランドスケープ)、空間といった表層的な部分だけではなく時間、歴史といった要素がからんでいる。そうした「場」に対するアプローチが、いろいろなかたちで展覧会やアートイベントにみられたのが印象的だった。

 まず、1月にCAP HOUSEで開かれた「PARTY展」も、その場に合わせて新しくつくられた作品が多く、旧神戸移住センターという築70年以上たつ建物にアーティストたちがかなり触発された展示になっていた。「CAP HOUSEというさまざまな人々が集う場に、作品を持参してアーティストが集まってPartyをしよう」それだけが決まっていて、だれがキュレーションを担当するというわけでもなく行なわれたものだ。しかし「場」に突き動かされたアーティストたちは、場と人、人とモノ、などさまざまな関係において、とてつもないものを成立させてくれた。どの作品もずっと前からそこにあったかのようにしっくりと溶け込んでいて、これは「場」によってつくられた空気感だったのだと思う。いまここに生きている作家たちにだからこそできる展覧会だった。
 一方、「円山応挙展」(大阪市立美術館、福島県立美術館ほか)では、応挙が晩年に弟子などとともに描いた大乗寺(兵庫県香住町)の襖絵が、立体的に再現するようなかたちで展示されており、展覧会の見せ方(展示方法)として画期的な試みだった。この襖絵は、寺の建物全体をひとつとして考え、立体曼陀羅という構成をとっている。現代では寺院を建てるにしても、こうした発想は浮かびにくいかもしれない。海など寺の近隣の風景とのつながり、平面としての絵画というより、それらの要素を空間をすべてとりこみながら、観る人との関係もはかって描いたものだ。この部分を展示にも反映させようと試みているところは、テーマとしてとりあげられていた「写生」ということ以上に私のなかではポイントが高かった。

 「横尾忠則展 横尾byヨコオ:描くことの悦楽──イメージの遍歴と再生」(京都国立近代美術館)は、これまでいくつか観てきた横尾展とは、まるで異なる印象のものだった。それは、すでに観てきたものが、横尾の作品を単に概観していこうというスタンスから脱しきれていなかったのが原因のように思われる。勿論、横尾自身の力の入れ方も違ったのかもしれないが、展覧会は作家とキュレーターが二人三脚でつくっていく作品のようなものなので、その2名の呼吸がうまく合っていたのだろう。自分の場所がわからなくなるような展示になっていたが、そのことも興味深いことだった。一般にある入口があって出口があるひとつの動線がある展示というのではなく。いくつものベクトルに導かれ、歩いてはまた別なところへと連れてゆかれるような不思議な体験をした。
 「川崎清展」(2003/12/4〜1/18)を最後に、万博記念公園から国立国際美術館が大阪市内中心部に移転する。そのまえにこの美術館で、万博世代の申し子のようなヤノベケンジが十数年を回顧する個展「MEGALOMANIA ヤノベケンジ」(国立国際美術館)をやったことも、「場」との関係性で語れる展覧会のひとつだ。
 「京都ビエンナーレ スローネス──〈速さ〉の中に〈ゆっくり〉を創り出す」(京都芸術センター、法然院ほか)は、「スローネス」という大きなテーマに対する、各々の作家からの回答を出しているように見ることができた。展覧会の開催された2003年10-11月の「いま」、この場所(日本であり、京都であり)ということも意識されていた。とくに、高嶺格《在日の恋人》はマンガン採掘抗での厳しい労働に耐えた在日朝鮮人の人々が日々直面していた現実。高嶺自身がこれまで在日韓国人の恋人と過ごす時間のなかで経験した意識のズレや、心のなかになにかひっかかり続けるもの。いろいろなものが展示会場となった抗道の「闇」のなかに膜のようになって表れて出てきて、そのつかめそうでつかめない存在が、カタチとなって視えてくる。他者の心のなかを身体感覚として体感したようなインスタレーションになっていて、これまで体験したことのない身震いが起こりそうな作品だった。これも「場」がつくりだしたと言える部分が大きい。
 「場」ということでもうひとつ付け加えておきたい美術イヴェントは「湊町アンダーグラウンドプロジェクト」だ。薄暗い打ち放したコンクリートのざっくりした壁が生生しい廃墟っぽい空間。壁一枚隣合わせたツルピカの建材に覆われた場所も、まったく同じ構造をもっていることに気付くと、やはり私たちは日常的に表層しかみていないことに愕然とする。アーティストたちが「場」と対峙して取り組んだ一つひとつの参加作品もさることながら、ああしたかたちでプロジェクトとしてみせられたときに、はじめて目や耳を覚まして深層に近づこうとする愚かさに打ちのめされた。あの場所にプロデューサー(橋本敏子)が約10年こだわり続けてついに実現したプロジェクトだということもさらに付け加えておきたい。

中西夏之《R・R・W-4ツの始まり-III》
小谷元彦《Phantom-Limb》
上:中西夏之《R・R・W-4ツの始まり-III》
油彩、木炭、画布 181.5 x 227.5 cm
2002
作家蔵
Photo courtesy: 愛知県美術館
下:小谷元彦《Phantom-Limb》
© Motohiko ODANI
Photo. Masakazu Kunimori
Courtesy of P-House, YAMAMOTO gallery
 年明けの関西での注目の展覧会といえば、「小谷元彦展」(KPOキリンプラザ大阪、1/17〜3/28)と、「結成50周年記念『具体』回顧展」(兵庫県立美術館、1/24〜3/14)だろう。小谷元彦は昨年のヴェネチィア・ビエンナーレでは日本館に代表作家として出品したものの、二人展ということもあり、実力をフルに発揮した展示には必ずしもなっていなかった。そういう意味ではこれは彼がリベンジをかけた個展でもあるのではないだろうか。関西出身だが、地元では初個展となる。新作3点を含むこの個展がどういったものになるのか楽しみである。また、「『具体』回顧展」については、70歳、80歳を過ぎても、いま尚ほとばしるようなエネルギーをもって制作を続ける元「具体美術協会」のメンバーたちの関西での活動を常々目の当たりにしているだけに、回顧展をどういったかたちにキュレーターがまとめてゆくのかが見どころだろうか。
 そして、田名網敬一の個展がKPOキリンプラザ大阪ほかで予定されている。田名網の活動はアニメーション、グラフィックデザインなど広い範囲にわたり、この40年間つねに第一線での仕事を続けてきた。昨年暮れにはギャラリー360°で、60年代雑誌誌上で発表された《ワンダーガール》のマントを再制作し展示。生西康典、掛川康典といった若手とのコラボレーションで、旧作映像作品のリミックス・バージョンをつくるなど、新しい展開に発展させていっている。
 「具体」にせよ、田名網敬一にせよ、60-70年代を単に回顧する対象にしてしまうのではなく、憧れの先輩としていま若い世代の人々が彼らをリスペクトしている。『老人力』を執筆した赤瀬川は田名網の旧友だが、この世代のアーティストたちの動きから、今後も目が離せない。
 そして、手前味噌で恐縮だが私もノミネーターの一人として企画に参加した「六本木クロッシング展」(森美術館、2/7〜4/11)もお見逃しなく。総勢57組のファッション、建築、デザイン、ダンスなどジャンルを問わず旬なアーティストたちをフィーチャーし、53階展示室を埋め尽くす。20-30代が中心にはなるが、年齢を越えて中西夏之といった巨匠も登場する。同時開催は「草間彌生展 KUSAMATRIX」、やはりアーティストには年齢は関係ないのである。

 ある新聞社で美術担当をしていた記者に「最近なにかおもしろいものありますか」ときかれた。おもしろい作家、おもしろい作品……。その記者は、取材をするのに食指を動かされるような作品との出会いがしばらくない、ということだった。そしてさらに続けて曰く、いろいろ観ても美術に興味が持てなくなってきた、とまで。私には観に行く時間が足りないくらいおもしろいものはあるように思う。作品をどう楽しむか、ということは観者に託されているのだから、楽しむ方法を、あの記者にも自由に考えてもらえると某新聞もおもしろくなるかもしれない。
[ はら ひさこ]
村田真|原久子
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