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デザインについて考える場所──21_21 DESIGN SIGHTの1年
白坂ゆり
 オープンから1年を過ぎた「21_21 DESIGN SIGHT」で、三宅一生ディレクションによるアート&デザイン展「XXIc.─21世紀人」が開かれている。今後のものづくりの可能性を、三宅一生が若いデザイナーやアーティストたちと共に考えてつくりあげた展覧会だ。「21_21 DESIGN SIGHT」は、1988年にイサム・ノグチ、三宅一生、安藤忠雄のあいだで交わされた「日本にもデザインの発信基地ができれば」という会話を機に、昨年ようやく実現した。同展には、遺志を継ぐかのように、ノグチが人体を描いたドローイングが展示されている。
イサム・ノグチ《スタンディング・ヌード・ユース》
イサム・ノグチ
《スタンディング・ヌード・ユース》
1930年
 「21_21 DESIGN SIGHT」は、デザインのためのリサーチセンターであり、デザインについて考える場所であり、ものづくりの現場である。デザインはいまだ表層を飾るものとして捉えられがちだが、目的に向けて枠組みを設計し、そのものやことや場がどのようにつくられたか、プロセスを含めた考え方を提案するものであるといえるのではないだろうか。デザインへの関心の高まりと同時に、ブームとして消費させないためにも、ものの背景にある考えを伝えることが重要だ。
 同館は衣服デザイナーの三宅一生、グラフィック・デザイナーの佐藤卓、プロダクト・デザイナーの深澤直人がディレクターを務め、年2回、1人のディレクターがひとつのテーマで企画展を行なう。ほかにも、外部ディレクターによる展覧会など、さまざまなプログラムが行なわれている。今回は、アソシエイトディレクターを務める、ジャーナリストの川上典李子に取材した。
 「この場所は、デザインとは何かという問題意識を共有するところからスタートしています。最初の話し合いで、三宅さんは、工房や若いデザイナーとのものづくりの現場を通じて感じてきたこと、深澤さんは、デザインに表われる記憶や体験の大切さ、佐藤さんは色やかたちで表現されない部分の大切さなどを語っていました。ディスカッションは全員で行ない、形にしていくプロセスではリスクを恐れずトライしてきました。3人とも出品者とともに作品や空間づくりも行ない、会期中も走り続けています」。
 深澤ディレクションの第1回企画展「チョコレート」では、「チョコレート」と聞いて皆が抱くイメージに個人の経験がどう交わるか、国内外のデザイナーに投げかけ、多様な発想が集まった。例えば、子どもの頃のラッピングの記憶を扱った作品など、デザインの第一歩である「気づき」に目が向けられた。
 佐藤ディレクションの第2回企画展「water」では、水について学びながら、考えたことをデザインでどう表現するか話し合いを重ね、「water」と「design」を双方向の矢印でつないだときにヒントが見えたという。豊かな生活のためのものづくりが進められ、その結果、資源不足あるいは過剰生産といった問題を抱えてしまった20世紀。21世紀のものづくりを考えるとき、状況や関係性に応じて無理な負荷をかけずにフレキシブルに形を変える水が、持続するデザインのメタファーとして有効ではないか。
 文化人類学者の竹村真一をはじめとしたクリエイティブチームで展覧会をつくるなかで、メッセージを可視化するデザインの力が、問題意識を広く伝えるのに役立つという実感があった。会期中、毎週行なわれたレクチャーにも多くの人が集まった。
 また、21_21のパートナー企業を主役にした展覧会「200∞年 目玉商品」では、作家11組と25社が組み、企業が持つ開発力をクリエイターの視点で引き出し、共同制作が行なわれた。企業からは「社内では型通りになりがちで、打ち合せだけでも刺激になった」という声も挙がった。
「チョコレート」展示風景 「WATER」展示風景
左:「チョコレート」展示風景
右:「water」展示風景
受け継ぎながら変えていく力
三宅一生《21世紀の神話》
三宅一生《21世紀の神話》
2007-2008年
 「XXIc.─21世紀人」では、イサム・ノグチの“人間”と、ティム・ホーキンソンの絵画“ドラゴン”が、三宅一生の《21世紀の神話》に受け継がれている。三宅のつくる服の根本にあるのは、一枚の布だ。今回は、再生紙で服をつくることから始まり、工業用梱包紙を素材に、「八岐大蛇」とストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」にインスパイアされたインスタレーションになった。16人のチームで、紙をぬらし、もんでからアイロンをかけ、リボン状に裁断し、指で編みながら繋いでいく。マティスの「ダンス」などを参照した8人の娘のボディは、越前和紙の工房で、プリーツの製造に使われる紙を漉き直し、ワイヤーネットに絡ませた。左の3人娘は希望を表し、コウゾの枝を持つ娘は、デュイ・セイドの人体像にもつながる。
 デザインオフィス「nendo」は、「プリーツ・プリーズ」の製造過程で処分される資材から、椅子を制作。一枚ずつ剥いただけのシンプルなアイディアが光る。
 また、藤原大率いるイッセイミヤケ クリエイティブルームは、パリコレクションで発表した、風というテーマから見つけた、ダイソンクリーナーを分解し部品の形状を組み直してデザインした「DYSON A-POC」と、今回制作した、ダイソンの部品で制作した服を着せるボディを展示。
 鈴木康広は、枝の形をした銅管に不凍液を流し、結露によって切り株のオブジェに滴が落ちると、水の波紋が年輪のように見えるインスタレーションを制作。ベン・ウィルソンの一輪車作品とともに「循環」を思わせ、「water」展ともつなげて見られる。
 関口光太郎の新聞紙とガムテープを素材にした巨大な塔には、原初的な創造力がみなぎる。全体を通じて、資源や人生は有限だが、バトンを受け渡しながらどんな危機もなんとか乗り越えていこうとする人間への希望が感じられる。
nendo《キャベツチェア》 上:nendo《キャベツチェア》
2007-2008年
下:藤原大+イッセイミヤケ クリエイティブルーム
《ザ・ウィンド》
2007-2008年
イッセイミヤケ クリエイティブルーム《Dyson A-POC》 イッセイミヤケ クリエイティブルーム《Dyson A-POC》
鈴木康広《始まりの庭》 関口光太郎《明るい夜に出発だ》
左:鈴木康広《始まりの庭》
2007-2008年
右:関口光太郎《明るい夜に出発だ》2007年
写真=nendoと藤原大+イッセイミヤケ クリエイティブルーム以外、Photo: Masaya Yoshimura / Nacása & Partners Inc.
表現し、伝えようとする行為/解決策の提案
 約10年前のインタヴューで、エットレ・ソットサスはこう語ったという。「人が骨に印を刻んだ、I am hereと表現したことがデザインの始まりだと思う。デザインは、人のためにつくられるべきもの。しかし、量産化のために、誰のために何をつくっているのか目的が見失われている。人間が最初に、誰のために何を伝えたいと思ったかという地点に遡ることが大切だ」。川上は「人間は解決する生き物であり、先々の生活を提案することにデザインの面白さがある」と言う。
 公園の中、日常と地続きにあろうとするサイト。つくり手と観客つまりユーザーが、同じ生活者として共に考える場づくりが、消費社会を変える力にもなり得るのではないだろうか。
しらさかゆり・美術ライター]
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