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第2回福岡トリエンナーレ「語る手、結ぶ手」
川浪千鶴[福岡県立美術館]
 
札幌/吉崎元章
埼玉/梅津 元
神戸/木ノ下智恵子
福岡/川浪千鶴


第2回福岡トリエンナーレ「語る手、結ぶ手」
 「福岡トリエンナーレ」自体は2回目だが、福岡市美術館時代の「アジア美術展」から数えれば、福岡市で開催される大規模なアジア国際美術展としては6回目にあたる。今回の「福岡トリエンナーレ」は、こうした厚みのある経験に裏付けられた、成熟した国際美術展としてまず評価したい。
 国際美術展のあり方について、何よりも祝祭的な要素が大切だという意見を聞いたことがある。テーマの掘り下げをないがしろにはできないが、多くの人々をひきつけるために、華やかで大規模な作品を配した「ハレ」の要素が不可欠なのは事実だ。しかし、今回の「福岡トリエンナーレ」は、「ケ」の国際美術展の可能性を初めて考えさせてくれた。
 第1回の「福岡トリエンナーレ」が福岡アジア美術館の開館を記念する「ハレ」の国際美術展だったこともあって、今回は作品の規模が小さい、おとなしい雰囲気で印象が薄い、といった感想をもつ人が多いようだ。
 それは映像やテクノロジーを駆使した作品が大半を占める昨今の国際美術展事情に反して、「人の手が作り出すもの」をテーマにすえたことによっている。「手と筆の技」、「伝統と現代」、「記憶・歴史」、「共同体」、「女性・社会」とテーマ分けされた会場には、陶や布や藤や竹といった工芸素材を使った伝統にまつわる作品や、食べ物やお香や古着や髪の毛などを用いたくらしや五感と密接につながる作品が多い。また、大小取り混ぜて絵画作品が多いことも特徴的だ。
 小ぶりで地味な作品は確かに多いが、それらからはアジアという枠組みや国の区別を越えて、現代を真剣に生きる個人の意識が伝わってくる。いつもはあまり読まない解説パネルを熱心に読んでしまったのは、作家の国籍や国柄を知りたいからではなく、「複相的な文化の中で生きている各個人の実態」をもっと理解したい気持ちがおきたからだと思う。
 なかでも絵画作品に強くひかれた。振り下ろされた筆の数をそのままタイトルにした、ドイツ滞在が長いソン・ヒョンスク(韓国)の作品には、韓国とドイツの伝統文化と現代文化が豊かに絡み合っている。ハーシャ(インド)の「私たちは来る、食べる、眠る」は、とにかく見飽きない。描かれているのは群であり個でもある。作家はこの群集を「彼ら」ではなく「私たち」と明示している。

ハーシャ「私たちは来る、食べる、眠る」(各部分)

私たちは来る 私たちは食べる 私たちは眠る
ビーナスの誕生
アイシャ・カリッド
「ビーナスの誕生」
 アイシャ・カリッド(パキスタン)の、細密な文様とブルカを被った女性を描いた小さなミニアチュールからは、伝統や宗教や文化や近代化などなど、容易には越えられない相克をめぐる大きな問題を突きつけられた。

 自分の顔を印刷したお札で鶴を折る、柳幸典の「大東亜仮想通貨千羽鶴」や、タイの政治史が彫りこまれた机の上でフロッタージュするスッティー・クッナーウィチャーヤノン(タイ)の「歴史の授業」など、自然な観衆参加を促す作品も好評だ。
 ただ、会場を見渡しても鑑賞者があまりに少ないことが気になる。実行委員会の方々には、「ケ」の国際美術展の魅力を広報する新たな方策を至急ご検討いただきたい。

大東亜仮想通貨 歴史の授業
柳幸典「大東亜仮想通貨千羽鶴」 スッティー・クッナーウィチャーヤノン「歴史の授業」「黒板ドローイング」
会期と内容
会期:3月21日〜6月23日
会場:福岡アジア美術館(福岡市博多区)
問い合わせ先:福岡アジア美術館(ハローダイヤル 0570-008886)
URL:http://faam.city.fukuoka.jp

学芸員レポート

  4月22日(月)、2003年秋開館予定の山口情報芸術センター/プレ・イベントであるきむらとしろうじんじんさんの「野点・焼立器飲茶美味窯付移動車」に、福岡から詩人の中村淳子さんと一緒に参加した。心配した天気もまずまずで、女二人しゃべり続けながら、一路山口へ。
 私たちはのんきに昼前に山口駅に到着したが、駅に出迎えてくれた同センターの江口よしこさんの開口一番の話を聞いて、う〜む…。
 市長選にセンター反対派の候補が出たことは耳にしていたが、センター批判の新聞一面広告など巻き返しの選挙運動が効いて当選し、まさにこの日の午前中の新市長会見で、基本骨組まで進んだ工事を3ヶ月間中断し、その間に見直しを行うという発言がでたとのことだった。基本方針の見直し、スペースの貸し出し、自主企画事業の削減などが余儀なくされる可能性もあるとか…。
 資料によると図書館併合施設である同センターは、「『であう』『はぐくむ』『かたちづくる』のコンセプトのもとに、『人と人』『人と情報』『情報と情報』が相互につながり、広がっていく社会のための、新しい形の文化コミュニケーションセンター」とあり、「最新のテクノロジーとユニークなアイデアで、いままでの枠にとらわれない新しいコミュニケーションのあり方を考える」という基本姿勢をもっているが、ここでいう情報やコミュニケーションといった言葉が実際に何を意味するのかよくわからない、という意見には私もうなずくところがある。
 その一方で、すでに実動している現場に「すべての市民に利用できる施設への見直し」が行われることで、総花的な、本当にわけのわからない、単なる箱としての「センター」への退行にならないことを祈りたい気持ちにもなった。
 基本方針とともに批判の対象になっているのが、維持費の問題(毎年7億かかる)だが、磯崎新設計によるガラス張り構造もその要因かもしれない。これもあれも、なんだか、せんだいメディアテークを思い出させる。
 波状の屋根が特徴的な骨組みは、まるで巨大なジェットコースターをみるようだった。(だからアップダウンが付き物、という落ちはありません)

 現在同センタースタッフは、回りの雑音に振り回されることなく、目の前のイベントに全神経を注ぐ意気込みとのこと。その現場のひとつの「野点」は、応募してきたボランティアさんらの素人運営とはいえ、ほのぼのした良い雰囲気で、順調な滑り出し(野点はこの日が2回目)のように見受けられた。
 昨年は福岡市でも開催された「野点」だが、今回は山口の町の規模や人々の落ち着き、自然環境の美しさが生きていて、特に親密な雰囲気を醸し出していた。
 この日の会場の白藤邸は、来月にはゲンジホタルも楽しめるという美しい流れの一の坂川沿いにある個人のお宅。野点初日に商店街でたまたまじんじんさんをみかけたおじさん、おばさんたちが、親しげに再び立ち寄る様子を見て、これこそが「野点」の醍醐味だと感じた。じんじんさんが山口のために新調したドレス(迷彩柄のマーメイドドレス、腰に「武装ではなく女装」の刺繍入り)のお披露目も今後の楽しみのひとつ。
 藤幡正樹さんの「Off-Sense」展も、『Off-Sense』、『Beyond Pages』、『Small Fish』といった代表作品がそろった充実した個展。特に「人」と「人工知能」の日常会話に大勢で参加できる『Off-Sense』は、ケーブルテレビ(山口ケーブルビジョン)に24時間リアルタイムでサイバースペースの模様が中継されているという驚きの作品で、ケーブルテレビ加入世帯数が80パーセントを越える山口市のために企画された、世界初の試みとのこと。人工知能との会話にはまり、うれしそうに毎週末通ってくる9歳児の常連もすでにいると聞いた。

 高齢者も多い山口市における新たな文化施設をめぐる問題が、箱ものに振り回されるだけでなく、こうしたプレイベントの成果や参加市民の意見を受け止めつつ見直しされることを願いたい。

会期と内容
野点・焼立器飲茶美味窯付移動車(山口情報芸術センター プレ・イベント1)
作家:きむらとしろうじんじん
会期:4月20日〜5月5日(全9回)
場所:山口市内各所
野点の問い合わせ先:じんじんチーム・スタッフ(090-1689-7940)

野点・焼立器飲茶美味窯付移動車
白藤邸、山口市

藤幡正樹「Off-Sense」展〜共有するサイバースペース〜(山口情報芸術センタープレ・イベント4)
作家:藤幡正樹
会期:3月23日〜5月6日
場所:地域情報交流センター ぱそら(山口市中園町)
問い合わせ先:山口情報芸術センタープレイベント実行委員会事務局(083-928-5165)
作品インターネットアドレス:http://www.off-sense.net/
★山口情報芸術センターのURL:http://www.ycam.jp/

[かわなみ ちづる]

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