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プライバシーステートメント
デジタルアーカイブ百景
岐阜県 今一度の活性化を
笠羽 晴夫
 デジタルアーカイブが始まったころから、岐阜県は自治体の主要プレーヤーだった。単に地域振興とのかかわりだけでなく、ミュージアム所蔵品のデジタル化、ハイビジョン・シアターの導入に積極的だった。国際的にもEVA(視覚芸術に関する電子画像国際会議)の開催招致などでは、多くの内外関係者がさまざまな形で参加した。
さて、それからしばらく経って、ここのデジタルアーカイブそのものはどうなったのか、探ってみた。

地域と博物館
岐阜県博物館
岐阜県博物館
 まずは地域を語るもののアーカイブということから、岐阜県博物館を見てみよう。これは関市にあって、県の全体、そして過去から現在までをバランスよく見渡せる博物館のようである。「資料案内」から「岐阜県の地域情報検索」に入ると、県にまつわる5,000点以上の写真を検索することが出来る。キーワードを入れなくても多くのカテゴリーから検索することが可能で、美術系の写真は鮮明でないものも多いが、屋外のさまざまな状景を撮影したものなどは興味深い。点数は多くないが、風土記映像(動画)を見ることができるのもよい(Real Player プラグインが必要)。このようにサイト全体で岐阜県のおおよそをつかめるものとなっている。あえて注文をつけるならば、展示全体をネット上から概観する機能に「クイズつき展示案内」というものがあって、子供向けにはいいかもしれないが、これほど多くの項目にクイズがついているのはわずらわしい。
 一方、当サイト(アートスケープ)にリストアップされている個々の地域の博物館には、期待したものがあまり見られない。可児市のものは画像が乏しく、飛騨・高山関連は観光案内にとどまっているものが多い。それでも一宮と高山の中間にある明宝村立博物館は、廃校となった小学校校舎を利用したもので、村民から提供された収蔵品の多くを検索することができる。画像表示に到達するまでクリック数もそれほど多くなく、わかりやすいのはよい。ただ、画像があまり鮮明でないのは惜しいところで、できれば今後撮り直しを望みたい。

美術館の現状は
岐阜県美術館
岐阜県美術館
中山道広重美術館
中山道広重美術館
岐阜県陶芸美術館
岐阜県陶芸美術館
 次に岐阜県美術館に入ってみる。岐阜県は川合玉堂、前田青邨、山本芳翠、熊谷守一などを輩出しており、このミュージアムのコレクションも、これらとオディロン・ルドンを中心にしている。「ルドンとルドンをめぐる画家たち」からも、高いレベルのデジタルアーカイブがここにあることがうかがい知れるし、以前に私もそれを見学させていただいたことがある。Webサイト上で公開されているのは数枚のみである。10月26日までは「いのちのかたち熊谷守一」が開催されていることから画家の絵が数枚紹介されており、それだけにもう少し見たいという思いはつのる。
 一方、少し趣きのことなった中山道広重美術館では、中山道の恵那あたりに縁のあるものを中心に、歌川廣重、渓斎英泉、歌川国芳、井上安治、名取春仙の版画を数多く見ることができる。拡大してもノートパソコンで葉書より少し大きい程度であるが、国芳の「木曾街道六十九次之内」は特に見ごたえがあるし、廣重の「魚づくし」も面白い。惜しむらくは「コレクション紹介」からこういうものがあるとわかるまでのプロセスがシンプルでないこと、そして解説がほとんどないことである。現在の中山道との対応などガイドがあればと思われる。美術館ボランティアの募集がここに出ているけれど、ここに必要なノウハウが集まってくるとよい。
 さて岐阜県を語るには陶芸が欠かせない。多治見市には岐阜県陶芸美術館岐阜県陶磁資料館がある。美術館が扱っているのは現代陶芸で、かなりのデータベースである。ただここの検索では、最低ひらがな一字を入れないと何も出てこないから、初めての人が閲覧するのは難しい。年表から入ると鮮明な画面は出てくる。ここに出てくるキーワードがカテゴリー検索につながっているとよいのだが。
 資料館は展示室単位に数個の画像を出しており、拡大も可能で画質はよい。この二館のようなデータベースは、継続することにより現在から未来にかけてのアーカイブとして意味が出てくるだろう。

図書館、大学では
 地域によってはミュージアムだけでなく図書館のデジタルアーカイブが必見ということは、これまでにも見たとおりである。岐阜県図書館では、ネット上で見ることができる資料が「岐阜県関係資料」というところに集約されている。ここには画像で見ることができるものが多く、「デジタルコレクション」では、古い絵葉書、植物などのさまざまな図譜、産業関係資料、そしてこれはアパレル産業がこの地で栄えたからか、戦前のフランスモード誌をまとめて見ることができるのも貴重だ。これらのほかにも、検索機能が提供されているものが多い。ここで検索にかかるまでの情報が今後増加してくるとさらに面白いだろう。また、「岐阜県ゆかりの先駆者たち」は、写真一枚と文章であるが、他の各県でもほしいものである。
 さて岐阜県教育機関のデジタルアーカイブは、岐阜女子大学に集約される。ここの文化情報研究センターで、「デジタルミュージアム」から「博物館所蔵資料」に入り「岐阜県内博物館等の記録」をクリックすると、そのタイトルに似合わず20以上の県内中小博物館・資料館の画像による紹介があり、地域、時代で検索することが出来る。また「地域情報データベース」では高山、白川郷などについて、多くの画像で紹介があるし、県外では沖縄、ハンガリーのものもある。
 この大学では、デジタルアーキビスト養成の試みを実施しているので、その課程で作成されたものもあると見られる。こうして蓄積していくとかなりの量になるから、一つのスタイルとして注目すべきだろう。ただ、その説明、画像などは長期にわたって残していくものとして完成度が高いものとは言いがたく、今後さらに習熟していってほしい。

自治体に自覚はあるが
円空
円空
岐阜市デジタルアーカイブ
岐阜市デジタルアーカイブ
 こういう諸機関とは別に自治体はどうなのかと、岐阜県と岐阜市を見てみた。岐阜県では、トップページからは多少わかりにくいが、「くらしの情報」「文化・スポーツ」と入っていくと、「円空」というサイトがあり、ここでは岐阜県内にあるもののうち20近くの非常に鮮明な画像を味わうことが出来る。今後増えていくようである。
 そして岐阜市のサイトでは、左少し下に文字通り「デジタルアーカイブ」という入り口がある。ここは、岐阜市の観光振興を目的とした広報活動に利用してもらうことを目的に、関係メディアに無料貸し出しをするサイトである。長良川、金華山、岐阜城、伝統工芸など多くの分野にわたっている。こういう試みはその多様性、量、そして長期間にわたる採録によって、価値が出てくると考えられる。継続を望みたい。

 このように、ミュージアム、図書館、大学、自治体それぞれに興味あるデジタルアーカイブを継続している。しかしかつてのデジタルアーカイブの雄としては、現在のアーカイブの質と量、そして公開の度合いは、今ひとつの感が強い。何かのきっかけで勢いを取り戻すことを期待したい。
2008年10月
[かさば はるお]
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掲載/笠羽晴夫
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