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プライバシーステートメント
学芸員レポート
札幌/鎌田享青森/日沼禎子大阪/中井康之|山口/阿部一直
池田亮司「C4I+datamatics[prototype]」/「マッピング・サウンド・インスタレーション」
山口/山口情報芸術センター 阿部一直 
 ポストテクノあるいはエレクトロニカなどと呼ばれ、ひとつのムーヴメントとして浮上したサウンドアートの動きが、このところひとしきりの沈静化を迎え、大枠の大集団からポップスやロックテイストへ回帰するもの、アンビエントへ離脱するもの、また別領域とのマージナルな接触を試みるもの、と各自がソロランナーの走りへとベクトルを修正し始めている(し終わっている?)気がしている。このムーヴメントとは、ミュージックだったのか、サウンドだったのか、はたまたアート?、現代音楽?、クラブ?、サブカル?、と結局落としどころは多様で、終幕を欠いた答えのない質問というものだったかもしれない。それは、テクノロジーのイノベーションへの共振要素が大きかった故の、新種のムーヴメントの性格をそこに読み取ることも可能なのだ。
 その中で、新たなサバイバル、問題系を垣間見せてくれたのは、去る6月7日に東京での数年ぶりになるコンサートを行なった池田亮司(東京国際フォーラム・ホールC)ということができるかもしれない(このコンサートのレポートは『Sound&Recording』誌8月号にインタヴューとともに詳細が載っているので興味のある方は参照されたい)。ここでこれを、コンサート、と言うとき、一瞬の迷いが浮かぶように(実際は「オーディオ・ビジュアル・コンサート」と銘打たれている)、こうした発表形式自体がどこかで新種感を漂わせ、さらにひとつのアーティストサバイバルというものを、われわれに指標しているのだとも感じられる。いいかえればそれは、作品プレゼンテーションのクウォリティ、コンテンツと環境を含めて最高レベルまで上げながら、それを比較的容易に巡回可能なものに両立しうるかという問い、あるいはそのための新たなアートフォーマットの模索ということにもなる。
 大概のラップトップミュージックコンサートは、机上にノート型パソコンと幾つかのミキシング機材のシンプルな風景のもとに、アーティストが登場するのが常である。ノートの液晶画面を覗き込みながら何やらパフォーマンス中の操作を行なっている、というのがクラブテイストの身体性ということになる。うまくいけば、そこそこのプロジェクタで、それなりの大きさのスクリーンに、サウンドに同期したVJ風の映像として視覚性が出ているというものだ。池田の場合は、どうか。1500人収容のホールに、映画館より大きなスクリーン、現在最高峰の再現力を持つメイヤーの最新システムが積まれ、音響工学技師によるホールへのチューニングが綿密に行なわれたコンサートであるという。しかしライヴでありながら、アーティストはもはや観客の眼前には現われない。PAブースにしかアーティストは存在しないのだ。それでは最高級のセットによる映画ではないか、と思われもするが、これは1回性のライヴでもあり、サウンドインスタレーションでもあるのだ。
 極端に巨大な空虚があり、かつ極限までの飽和状態が共立する空間というのはあまり体験したことがない。もちろん池田が志向する、あらゆる情動を排除して、物理的音組織の側面のみからデザインされた平面の提示。さらに今回の「datamatics[prototype]」と名付けられた新作の繰り広げる、リテラルな情報&プロセスのみの過剰なオントロギーが、その飽和を助長するが、やはり驚くのは、これだけの極端な世界の提示が、(下手をするとラップトップミュージック並みの)ポータビリティがあるという、アートの方法論の発明である。徹底したミニマリズムが、ある種危機的快感に充ちた過剰な飽和世界の唯一の通路になっているということが、美学的に同調している点でも、この発明は鮮やかであり、世界観としてきわだっているのではないか。ちなみに、「datamatics[prototype]」は山口情報芸術センター(YCAM)で滞在製作として協力し,今年の3月にニューキャッスルとロンドンの委嘱で初演されたものの東京公演であったが、それとは対照的な、池田版コヤニスカッティといわれた「C4I」(YCAMの委嘱作品)が同時公開されることで、ダンテの神曲の挿画のごとく、世界情勢やら無人のランドスケープやらがめくるめく現出したとしても、これら2作の触れ幅というのは、つまるところ、リテラルな厚みのないデータスケープが反転して展開する擬似的過剰への滑るような移動の光景であったのだと、納得がいってしまうのである。
 これも一種のトランジションであり、向かう場所の固有性に意味性は全くといって認められない空虚なトランスポータブルな身振りなのだ(池田自身は、特にアメリカではそのような空虚の提示は認められないのだと述べるが)。池田のコンサートは、細部において、どのような傾向を提示するために処理や調整を行なっているかという微視的興味以上に、このランドスケープ観に、何よりも驚かされるのである。「datamatics[prototype]」は、タイトリングの通り、ワーク・イン・プログレスで継続的に制作発展が行なわれるはずである。

会期 と会場
●池田亮司「C4I+datamatics[prototype]
会期:2006年6月7日(木)
会場:東京国際フォーラム・ホールC
東京都千代田区丸の内3丁目5番1号 TEL. 03-5221-9000 )

学芸員レポート
 
《filmachine》制作風景1
《filmachine》制作風景2
山口情報芸術センター(YCAM)では、8月9日〜10月9日の日程で、「マッピング・サウンド・インスタレーション」という実験的新作サウンドインスタレーションの企画展を開催する。これは、2つの企画から構成されており、そのひとつは、サウンドアーティスト・作曲家の渋谷慶一郎と複雑系科学の研究者の池上高志とのコラボレーションによる新作サウンドインスタレーション《filmachine》と、YCAMがホストとなって全国4大学の情報デザイン専攻学部の選抜学生によるコンソーシアム「公共空間とサウンド/ワークショップ+作品展示”自鳴する空間”」である。《filmachine》は、渋谷・池上両氏の提案する、周波数中心主義によらない非線形科学に基づいた音色と音の運動、形の生成を目指す新しい音楽の創造方法論=「第三項音楽」をベースにしたインスタレーションで、今回さらにHuronによる立体音響ソフトを組み込んだ24チャンネルによるシステムを組み立てている。しかも床はモザイク上にアンバランス化されたコンストラクションとなっており、通常の安定した知覚が生み出すプレート感覚が、微視的なサイクルの知覚の集積に分解されていってしまうような、ちょっと楽しみな作品になる予定である(原稿執筆時点で50%ぐらいまで制作中)。コンソーシアムの方も、まだ最終形は未定だが、YCAMの館内全体を有機的な流動体と見立て、館内公共空間の各場所が、循環的にサウンドとして連動して変化していくという興味深いパブリックアートのアプローチになりそうだ。

会期 と会場
●「マッピング・サウンド・インスタレーション」シリーズ「科学とアートの対話」#3
会期:2006年8月9日(水)〜10月9日(月・祝)
開館時間:10:00〜20:00
休館:火曜日
会場:山口情報芸術センター スタジオB、ホワイエなど  
山口市中園町7-7 TEL. 083-901-2222
入場:無料

■渋谷慶一郎+池上高志 《filmachine》(新作サウンドインスタレーション)
会場:山口情報芸術センター スタジオB
■YCAM大学間コンソーシアム
「公共空間とサウンド“autonomic sound sphere─自鳴する空間”」
会場:山口情報芸術センター 館内各所
参加:IAMAS(情報科学芸術大学院大学+岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)、多摩美術大学、東京藝術大学、山口大学
監修:渋谷慶一郎+池上高志

[主催]財団法人山口市文化振興財団
[後援]山口市、山口市教育委員会 
[共同製作]YCAM InterLab
[企画制作]山口情報芸術センター
[プロジェクトキュレータ]阿部一直
[特別協力]東京大学大学院総合文化研究科、ATAK
[協力]IAMAS(情報科学芸術大学院大学+岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)、東京藝術大学音楽研究科、多摩美術大学美術研究科、山口大学工学部感性デザイン学科
[助成]財団法人地域創造、平成18年度文化庁芸術拠点形成事業
[協賛]オタリテック株式会社、カラーキネティクス・ジャパン株式会社、株式会社オービット・ミューズテクス事業部、株式会社カメオインタラクティブ、株式会社タイムロード、三菱電機エンジニアリング株式会社

■オープニングイベント
アーティストレクチャー+シンポジウム
8月9日(水)14:00〜17:00
会場:山口情報芸術センターホワイエ 
料金:無料
1.「公共空間とサウンド ”autonomic sound sphere─自鳴する空間”」プレゼンテーション
2. アーティストレクチャー/出演:渋谷慶一郎、池上高志
3. シンポジウム「サウンドアートの方向性と未来 [仮]」
パネリスト:渋谷慶一郎、池上高志、久保田晃弘(多摩美術大学教授)、阿部一直(YCAMキュレータ)
■ サウンドLIVEコンサート
9月16日(土)時間未定
会場:山口情報芸術センター スタジオA  出演:渋谷慶一郎 ほか

[あべ かずなお]
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