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学芸員レポート
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「小林孝亘展――終わらない夏」
東京/国立新美術館設立準備室 南雄介
小林孝亘展
 最初に小林孝亘の作品を見たのは、10年ほど前になるだろうか、とにかく今や初期作に分類される潜水艦をモティーフにした作品で、おそらくその最後の方の発表だったのではないかと思う。ずいぶんしっかりと描き込んである絵だと思ったのを覚えている。「描き込む」というのは、もちろん絵具がたくさんのっているとか、時間がかかっているとかいうこともそうなのだが、思い返してみると、むしろ絵の中の空間がしっかりと描かれているということなのだった。公園の隅のようなところに黒っぽくてころっと丸い潜水艦がいる。その潜水艦の有り様が、物語的と言えば言える様子で、少し見ていれば何となくそれが自画像だとわかる。夏の日盛りのように、隅々まで明るく光に照らされた、くっきりとした空間。暗闇の中に四角く切り取られた、たとえば映画のスクリーンのような、明るい空間。画面の中の空間は、あるたしかな距離を隔てられたものとして、存在していた。今から思えば、この距離感が描出されているのが、画家の力量だったのだと思う。
 その後、犬の絵があったり、蜂の巣箱の絵があったり、また門の絵があったり、という具合に続いていくわけだが、このあたりになってくると、最初の青年らしい、自伝的な感慨をこめた絵の印象をはなれて、この人は企みのある人ではないかと思うようになった。個展の度に、新しいモティーフ、新しい側面が提示され、作品世界に広がりと奥行が加わっていく。選ばれている主題は、いずれも熟考のあとをうかがわせる。たとえば、数年前に「小さな死」という連作が描かれているが、この言葉が性行為のあとの眠りを意味するものであることを知るならば、静かな安らぎに満ちた画面の背後の、描かれていないものを強く想像させられることになる。さらに、以前の作品に遡行して、たとえば閉ざされた門の向こうにある生活とか巣箱の中に隠された蜜蜂の生活とか、同じく一見して平明な作品が暗示する、描かれていない要素の存在の大きさに気づかされる、といった具合である。
 具象的なモティーフを描きながら、主題以外の要素、つまり画面としての密度とか充実とか、絵画としての形式的なクオリティの追求を図る、そのような方法論を提示しえたところに、小林に対する大きな支持の理由があるのだと思う。若い世代の作家たちに少なからぬ影響を与えているのも、おそらくこのためである。そして、主題のヴァリエーションは、絵画を読み込む楽しみを見る人に与える。
 今回の目黒区美術館における展覧会は、東京の美術館における初の本格的な個展であるという。くだんの潜水艦をモティーフとした初期作から新作まで、10年間に及ぶ小林の営為がまとめて展示されることによって、その企みであるとか、今までに見えなかった隠された主題であるとか、別様の読みの可能性であるとか、いくつかの新しい要素が見えてくるのではないだろうか。楽しみにしたいと思う。
会期と内容
●「小林孝亘展――終わらない夏」
会期:2004年4月24日(土)〜6月20日(日)
会場:目黒区美術館
〒153-0063 東京都目黒区目黒2-4-36
TEL 03-3714-1201
http://www.mmat.jp/ 
学芸員レポート
 前回お伝えした、東京藝術大学大学美術館、セゾン現代美術館、東京都現代美術館の3館が共催する「再考:近代日本の絵画 美意識の形成と展開」の開幕まであと2週間足らずとなりました。いよいよ追い込みです。2会場あわせて650点というたいへんな展覧会です。いろいろな意味で画期的な展覧会になったのではないかと思います。実際に作品が並んでみて、何が見えてくるか、それが楽しみです。日本の近代絵画を考える手がかりがつかめるのではないかと思います。
東京都現代美術館 東京藝術大学大学美術館
 さて、私事ですが、そのオープンを直前に、3月いっぱいで東京都現代美術館を退職し、4月からは国立新美術館設立準備室に勤めることになりました。国立新美術館は、コレクションを持たない、いわゆるクンストハレで、企画展を中心に、新しい活動形態をこれから何年かかけて模索していくことになるでしょう。しばらく展覧会の現場からは遠ざかることになるのですが、このレポートは継続していくことになるようなので、これからもよろしくお願いします。
会期と内容
●「
再考:近代日本の絵画 美意識の形成と展開」
会期:2004年4月10日(土)〜6月20日(日)
会場:東京藝術大学大学美術館 東京都現代美術館
東京藝術大学大学美術館 〒110-8714 東京都台東区上野公園12-8
03-5777-8600(ハローダイヤル)
東京都現代美術館 〒135-0022 江東区三好4−1−1(木場公園内)
03-5245-4111
[みなみ ゆうすけ]
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