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学芸員レポート
福島/伊藤匡東京/住友文彦豊田/能勢陽子|福岡/山口洋三
「ON PAPER 大竹伸朗展」/福岡市美術館常設展示・コレクション
福岡/福岡市美術館 山口洋三 
大竹伸朗1
大竹伸朗2
大竹伸朗3
 今年は企画展覧会を担当していないせいで(つまり出張が少ないので)福岡近郊以外の都市で行なわれる展覧会をみる機会に恵まれない。だったら自費でいけ!としかられそうだが、子供を飢えさせてまですべきかどうか(そうやって作品を作っている作家の皆さん許してくだサイ)。そういうわけで、独身貴族の方、あるいは首都圏近郊に住んでいて情報を手に入れやすい方、それなりに出世して裕福な方々は、どうかお金をじゃんじゃんつかって国内外の展覧会を見て、優れた研究論文や評論を書き、今後の企画などに役立てて日本の経済と文化に貢献してください。ヴェネツィアも始まったなー(誰がレポートすんの?)。
 冗談はさておき、それでもどうしても見たいものはあるわけで、東京・ベイスギャラリーでの「ON PAPER 大竹伸朗展」を訪問。昨年の「UK77」展は残念ながら見逃してしまったので、私にとって彼の作品をまとめてみた最後の機会は、6年前の「日本ゼロ年」展(水戸芸術館)や、「ZYAPANORAMA―日本景」(パルコギャラリー)にまでさかのぼらなければならないのです。多彩な作品集や印刷物の作品、絵本の出版などで常に話題の人でありながら、生の作品に接触する機会がなぜか少なかったように思いますが、それは私だけでしょうか? この展覧会では、過去20年間にわたって描かれた未発表のワークス・オン・ペーパー(なんかいい日本語ないですかねえ)45点が会場所狭しと2段掛けで展示されていましたが、「紙の作品」と聞いてドローイングやスケッチを想像して「小作品展」だと思い込んではいけません。約100×70センチの大きさがすでに「紙の作品」の先入観を打ち破り、その量は、国内の画廊としてはそこそこの展示面積を持つベイスの会場をもってしてもあんこがはみだしそうな勢いで、まさに圧巻の一言につきました。
 統一された大きさの版画用紙に描かれた線ののたうちや絵の具の油しみが、額縁のアクリルカバーを超えて匂ってきそうな感じがたまらない「見る」快感を呼び起こします。元来「印刷物フェチ」な大竹氏の専売特許的な表現技法である「貼り込み」は本展では影を潜めていたけれども、それで彼の膨大な数の作品を支えてきた表現の原初的な衝動を感じるには十分すぎる内容。最近の作家たちが用いる多様化を極めた表現手法からすると、大竹伸朗は確かに古典的な作家には違いないのですが、それでもこうして、カンヴァス画に比して一段下に置かれがちな紙作品だけで、観客を魅了することができる作家が巷にどれだけいるのか、と嘆息してしまいます。実際、初日には若い観客が熱心に作品に見入る姿が多数見受けられたし、その日の夕方からのパーティでは、訪れた招待客が大竹さんへの挨拶もそこそこに無言で壁面に視線を吸い込まれていました。おしゃべりばかりでだれも作品なんか見ていないパーティばかり私は体験したような気がするが、こうした観客の反応もまた、彼の作品のレベルを実感させてくれるものでした。しかし、20年というのは半端な時間ではないと思いますが、どれもまるでたった今描き上げたような新鮮さ、生っぽさです。紙の上に定着された創造への衝動の蓄積が、凝縮された「現在」となって私たちに心地よい衝撃を与えてくれます。来年から再来年にかけて国内数カ所を巡回する回顧展もきまりつつあるようです。20代のころ、ロンドン彷徨の頃に撮り散らかした(と形容したほうがいい)写真で構成された驚異の写真集『UK77』や、エッセイ集『既にそこにあるもの』(文庫版)など、出版物でも近年話題に事欠かない大竹氏ですが、本展は来年の回顧展への序章となりそうな感じがしました。宇和島に潜む日本美術界の最終兵器がいよいよ動き出すか?

会期と会場
●'On paper' 大竹伸朗展

会期:2005年6月6日(月)〜8月8日(月)
休館:水曜日
会場:ベイスギャラリー
東京都中央区日本橋茅場町1-1-6 小浦第一ビル1F Tel. 03-5623-6655

学芸員レポート
中ハシ克シゲ
中ハシ克シゲ《Nippon Cha Cha Cha》
ペノーネ+戸谷成雄
右手前:ペノーネ《大理石の皮膚――アカシアのとげ》
左奥:戸谷成雄《28の死I》
中村一美+辰野登恵子
左奥:中村一美《採桑老103》
右奥:辰野登恵子《Untitled》
手前に戸谷成雄
ポルケ+ウォーホル
左:ポルケ《Nessi Has Company II》
右手前:ウォーホル《エルヴィス》
 あまり書く機会がないので、ここで福岡市美術館の常設展示とコレクションのことなどを少し。
今当館の常設展示(2階/近現代美術)を訪れると、まず中ハシ克シゲの《Nippon Cha Cha Cha》(1993)の巨大な小錦像に出くわすはず。チケットブースをぬけるとすぐにアニッシュ・カプーア《虚ろなる母》(1990―91)、さらにアンゼルム・キーファー《メランコリア》(1989)、そして近現代美術室の正面にはジュゼッペ・ペノーネ《大理石の皮膚――アカシアのとげ》(2001)と、大型の現代美術作品が出迎えてくれます。福岡市美術館の近現代美術部門では長らく現代美術収集と展示を続けてきたのですが、特にここ数年、現代美術作品の収集を強化し、ペノーネや中ハシのほか、戸谷成雄、中村一美、そして原口典之や関根伸夫など70年代以後活躍した作家たちの代表的な作品をフォローしてきました。
 さらに昨年度は、今日の絵画動向を語る上で欠かすことのできないドイツの画家、ジグマール・ポルケの大作《Nessi Has Company II》(2003)を所蔵することができまして、かつての常設からは大きく様変わりしたと思います。しかし困ったことが……。作品が大きい、重い、しまうのが大変……場所も手間も。もうひとつの悩みが集客。さすがに特別企画展にはまあまあお客さんはきてくれますが、どこもそうだと思いますが、常設展示の広報費はないも同然。どうやったら普通のお客さんにアピールできるのか? 展示のアクロバットではったりかますしかないか(なんのこっちゃ)。8月下旬には大きく展示替えしますので、みなさんどうかお金をじゃんじゃん使って(しつこい)、9月、10月は福岡へどうぞ(当館ほか、FT3、九州国博、それから……)。
[やまぐち ようぞう]
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