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プライバシーステートメント
展覧会レビュー
小吹隆文/福住廉
2/20〜2/25
佐藤健博展「Location」
2/20〜25 立体ギャラリー射手座[京都]
佐藤健博展「Location」
柔らかなパステルトーンで森の中の情景を描いた絵画が、観客を取り巻くように展示されている。絵画といっても、正方形の小品を一定間隔で並べたインスタレーション的な構成だ。佐藤は、とある風景を白黒コピーで拡大し、一部を正方形にカット。それを見ながら描いている。一見ひとつの風景に見える作品も、実は複数の景色が混ざっており、入れ替えも可能らしい。同じ作品でも、作者と観客が見ているものは異なるのだ。「見る」という行為が、対象との距離や関係性次第でいくらでも意味が変わるということを再認識させる作品である。
[2月20日 小吹隆文]
夏への扉 マイクロポップの時代
2/3〜5/6 水戸芸術館現代美術センター[茨城]
夏への扉 マイクロポップの時代
90年代後半から現在にかけての10年間あまりの現代美術のシーンを歴史的に位置づけようとする野心的な企画展。その中心的な概念であるマイクロポップとは、グローバルな資本主義経済が押し進める社会の流動化と不安定化のさなかで、多くの現代人が背負わざるを得ない「社会的な無名性」や「経済力の欠如」、あるいは「子どものような想像力」といった不利な条件をもとに、それらをマイナーな創造へととらえ返す表現のありようを指している。
企画者である美術評論家の松井みどりがマイクロポップの主要な表現手法だとするドローイングが多く出品されているせいか、それぞれの作品は厳然と自立しているというより、全体的にお互いがゆるくつながっているような印象で、展覧会の構成としてはあまりメリハリが見受けられない。稚拙な落書きのようなドローイングを立て続けに見ていくと、閉ざされた部屋のなかで一心不乱に個人的な手遊びに没頭する作家たちの姿が、思わず目に浮かんでしまう。
とはいえ、このような内向性が、とくに00年代以降のアートシーンにおける際立った特徴であることはまちがいない。日常の暮らしの現場である都市空間ひとつとってみても、それまで余白としてあった自由な空間が隙間なく埋め尽くされ、監視と管理の権力はますます強化されている。路上で写真を撮る写真家ですら、ひとつまちがえば不審者として通報されかねない事態を考えれば、現代の表現が内向性を志向しがちなのは当然の成り行きなのかもしれない。その意味で、大きな物語が失効したあと、マイナーな創造を手がかりに独自の立ち位置を模索するという文脈のもとに集められた本展の作品が、「マイクロポップの時代」を反映していることは疑いない。
ただし、このマイクロポップなる概念がドゥルーズ=ガタリやセルトーの理論から触発されたという経緯を考えれば、この展覧会がそうした現在の状況の反映にほとんど終始していることは見過ごすことができない。というのも、彼らのいう「マイナー文学」やら「戦術」といった西欧的な概念は、現実の暮らしや政治的な緊張関係のなかから生み出されたものであり、大まかにいって「抵抗」の文脈で語られたものだからだ。実際、松井自身もマイクロポップがある種の「サバイバルの方法」だとしたうえで、それがマイクロポリティカルをも含意していることを明かしている。であれば、問題なのは彼らの作品の内向的な「弱さ」に共感することだけではなく、外向性の立場からそうした安易な自己肯定を批判することだけでもなく、内向性がどのようなかたちで抵抗しているのか、この点を見極めることに尽きる。
たとえば泉太郎の映像インスタレーションは、そうした内向的な抵抗の様態を示す、もっともすぐれた作品である。テレビ画面に映る人物の輪郭をひたすらサインペンでトレースしていく作品《キュ ロス洞》(2005)は、一見するとたんなる子どもの一人遊びのように見えるが、これは自己と世界の接点であるテレビのモニターを通したコミュニケーションの試みとして見るべきだ。当然テレビの画面は次々と切り替わっていくから、トレースが完成することはついになく、その途中で次の画面のために消し去らなければならない。このバカバカしいまでの反復的行為が意味しているのは、泉による世界への働きかけが、いつまでたっても対象を正確にとらえることができず、つねに未完に終わるということだ。高速で変化して絶えず変転していく世界に翻弄される泉の姿勢は、ピエロのように滑稽であり、自転を繰り返す独楽のように虚しくもある。だが、泉はその空虚を何かしらの内容によって充填しようとしているのではない。むしろ、その空虚を丸ごとを引き受け抱え込んだまま楽しんでいるのであり、だからこそ泉の自転運動は他者をひきつける磁力を放っているのである。そこにあるのは世界を知らないがゆえに自由奔放な子どもの想像力というより、知っていてもなお自由奔放でいられる、ある意味で成熟した、たくましい想像力なのだ。この強さこそ、機動隊に石を投げつけたり、路上でイリーガルなグラフィティを描き散らすような形式とは真逆の、内向的な抵抗のありようにほかならない。
そう考えてみたとき、本展のなかに全般的に抵抗の契機を見出しにくい要因が、もしかしたらマイクロポップという概念のなかの「ポップ」に起因しているのではないかと思えてならない。松井自身はここでいうポップがアメリカのポップ・アートとは(そして日本のネオ・ポップとも)異なる、支配的文化のなかでさまざまな構成要素を自由に組み替える、個人の創造的な立ち位置として定義づけているが(それがかつてのシミュレーショニズムとどのように異なるのかはさておき)、いずれにせよ今現在の社会状況において「ポップ」を抵抗の武器として用いることがどれほど有効なのか、甚だしく疑問である。政治的にも文化的にもこれだけアメリカ合衆国の影響下に置かれ、これまで回収元として機能してきた天皇制ですらポップに呑み込まれているように、あらゆるものを取り込むポップという下部構造を抱えたこの社会にあって、「ポップ」は状況の反映や追認に役立つことはあっても、その変革のための準拠点にはなることはほとんど期待できないからだ。80年代のシミュレーショニズムや90年代のネオ・ポップが一方で抵抗の手段として記号の差異の組み換えを賞揚しつつ、他方で芸術の資本主義化に加担してきた推移を考えると、むしろこれらの動向が批判的に乗り越えてきたはずのアナクロなリアリズムのほうが、今となっては抵抗の希望の原理になりうるのではないだろうか。
そのとき必要とされるのは、ポップが社会的に全面化した80年代より以前のアナクロニズムに遡及していき、そこから抵抗の根源的な原型を持ち帰り、いわばマイクロ・リアリズムといもいうべき、新たなパースペクティヴを鍛え上げることだろう。結局のところ問われているのは、抵抗の到達目標、すなわち目前の重い扉を押し開けた先に、ぼくらがどんな夏の光景を夢見ているのか、ということにほかならない。

[2月23日 福住廉]
ウチナル音〜身体音からの造形〜
1/27〜3/18 ボーダレスアートギャラリーNO-MA[滋賀]
ウチナル音〜身体音からの造形〜
“アートと音”と言っても、サウンドアートではない。制作時に発せられる音やリズムに着目したのが本展の特徴だ。一定のストロークとリズムで同じ形態を描き続ける木村茜や、紙を切る行為を作品化した森本絵利はその典型。また、独特の文字で白い木箱を埋めていく橘高博枝の作品からは、われわれの日常とは異なる時の流れが感じられ、心が解き放たれる。他に小川由文、金沢健一が出品。テーマ切りながら重複する作品がなく、展示も美しかった。
[2月24日 小吹隆文]
須田一政 OKINAWA
2/20〜3/16 ビッグストンギャラリー[大阪]
須田一政 OKINAWA
近年制作している沖縄シリーズを展示。同地で撮った8ミリフィルムを映写し、その映像を写真撮影してプリントしている。凝った手法から得られるざらついたテクスチャーやノイズが、ある時はノスタルジックに、またある時はヒリヒリした感触で見る者に突き刺さる。もし消え行く記憶をビジュアライズできたなら、あぶり出されるイメージは、こんな感じではなかろうか。
[2月25日 小吹隆文]
Index
2/20〜2/25
佐藤健博展「Location」
夏への扉 マイクロポップの時代
ウチナル音〜身体音からの造形〜
須田一政 OKINAWA
2/27〜3/3
原田依紗帆 膨らむ憎悪と強気のマスターベーション
北本裕二展
大阪・アート・カレイドスコープ2007「大大阪に会いたい。」
木村秀樹展
山中現 新作展
3/5〜3/6
加藤つくし展
栗田咲子展
岡野香織展
首藤枝美:日本の美術展
城戸孝充展
3/13
ブレーメン・アート・サテライト「正しい答がひとつとは限らない」
小池歩展「おきにいり」
だれも知らなかったアルフレッド・ウォリス──ある絵描きの物語
3/14〜3/17
中村宏小品展
平久弥展──subway series 2007
平成17-18年度文化庁買上優秀美術作品披露展
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