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プライバシーステートメント
展覧会レビュー
小吹隆文/福住廉
3/20〜3/29
THOM 松井沙都子展
4/2〜14 GALLERY wks.[大阪]
THOM 松井沙都子展
会場には無菌室を思わせる白いボックスが4つ。その中には断末魔の喘ぎを見せるズタズタの動物の姿が。勿論本物ではなく、ぬいぐるみの皮を剥ぎ取るなどして作ったオブジェである。まるでリンチや動物実験の現場に立ち会うような嫌な気分。松井は「残虐趣味ではなく、自虐性の表われとしてオブジェを制作した」と語っている。しかし、静謐感漂うボックスに納められることで自身の思いは隠蔽され、観客は対照的な性質を帯びたオブジェとボックスを前に途方にくれることになる。思わせぶりな仕草と拒絶を同時に食らうような、不条理な魅力をたたえた作品だった。
[4月7日(土) 小吹隆文]
河田潤一作品展 Black & White+Color
4/1〜14 月眠ギャラリー[大阪]
河田潤一作品展 Black & White+Color
一見ファッションイラスト風だが、コラージュやグラフィティの要素が融合し、独自の画風が作られつつある。作品から都会の喧騒やポジティブな空気が滲み出ているのは、やはり本業である地下鉄運転士の日常が影響しているのだろう。会場には1点、ワーク・イン・プログレスで描き進められる大作が。イメージの豊かさ、技法の多彩さ、オリジナリティ、さまざまな意味で彼の新たな方向性がそこに凝縮されていると感じた。
[4月7日(土) 小吹隆文]
森村泰昌──美の教室、静聴せよ
3/24〜7/8 熊本市現代美術館[熊本]
森村泰昌──美の教室、静聴せよ
森村泰昌の本格的な回顧展。「美の教室」と名づけられているように、美術館の会場が教室に見立てられ、1時間目のフェルメールから、ゴッホ、レンブラント、モナリザ、フリーダ・カーロ、ゴヤとそれぞれの教室を渡り歩いていく構成になっている。来場者にはMP3が貸し出され、森村センセイの講義を拝聴しながら名画を鑑賞していく仕掛けだ。
若干話が長い気がしないでもないけれど、おおむね明朗快活な森村節のおかげで、じっさいの美術史的な背景を教えられながら、なりきりポートレートを楽しめるようになっている。とはいえ、この展覧会の白眉は、なんといっても、最後に「放課後」として設けられた「ミシマ・ルーム」である。
本展のなかで最大の空間を占めると思われる暗い教室に、一本の短い映像作品。ここで森村が扮しているのは、1970年11月25日、市ヶ谷の陸上自衛隊東部方面総監部(当時)に乗り込み、大演説をぶちかまして自害した三島由紀夫である。「静聴せよ!」とは、いうまでもなく三島がみずからの演説に野次を飛ばす自衛隊員に向かって何度も口にしたフレーズだが、森村のミシマもまた三島の演説と同じように日本文化への信服を告白しながらも、その精神的な空虚感と根源的な歪みを嘆き、覚醒と決起を促す。
ただミシマが三島と違っているのは、三島においては「七生報国」と書かれていた鉢巻を「七転八起」に書き換え、三島が口にした「憲法」と「自衛隊」を「芸術」に置き換えている点だ。「自分を否定する日本の芸術にどうして憧れるんだ!」「みんなみんな間違っている!」「立ち上がるやつはいないのか!?」。期待を裏切られて切腹した三島にたいして、ミシマは芸術への夢が破れたことをもらしつつも、腹を切る代わりに、万歳を何度も何度も声がかすれるまで繰り返し叫び続ける。しかし次の瞬間、カメラがミシマの眼下を映し出すと、そこには明るい陽射しの降り注ぐ公園があり、いかにも穏やかで平和な暮らしを楽しむ人びとの光景が広がっている。ミシマの芸術に賭ける切実な声は、最初から最後まで彼らには届いていなかったのだ。
もちろん、ここには民衆のなかで虚しく空転する芸術の滑稽な姿が十分な皮肉を込めて表わされているのだろう。だがそれは、たんなる「自虐的な」パフォーマンスというわけではない。三島の自決が大阪万博が終了した数カ月後になされていたことを考えると、ミシマの万歳の根幹には万博芸術以後の芸術の不可能性、すなわち前衛の死が隠されていることは疑いない。しかも、「七転八起」という悪意にあふれる鉢巻に見られるように、それは不可能な前衛にたいする深い絶望感を表明するやけっぱちの万歳というより、不可能であってもなお立ち上がろうとする、滑稽なまでに不屈な精神の現わわれにほかならない。健軍の地・熊本で発表された、このすぐれてサイトスペシフィックな作品は、現在の日本の現代美術にとっての起源が、ミシマが体現している創造的かつ積極的なニヒリズムにあることを如実に物語っていたのである。

[4月7日(土) 福住廉]
MORIYAMA──集団蜘蛛・森山安英インタビュー上映会
4/7 Gallery SOAP[福岡]
MORIYAMA──集団蜘蛛・森山安英インタビュー上映会
森山安英は1936年に北九州市八幡で生まれたアーティスト。60年代後半に活躍した前衛芸術運動「集団蜘蛛」の首謀者である。80年代後半からは絵画作品を発表し、97年には福岡市美術館で「集団蜘蛛の軌跡展」が催された。現在も北九州市で暮らし、当地のアーティストたちから絶大な信望を集めている。
この作品はアーティストの宮川敬一が、彼が主宰する小倉のオルタナティヴ・スペース「Gallery SOAP」に日頃から出入りしている森山に数度にわたって試みたインタビュー映像だ。森山のほかに、「集団蜘蛛」をはじめとする戦後の前衛芸術運動の研究者として知られる黒田雷児と、美学校の創立者にして60年代の前衛芸術の目撃者でもあった今泉省彦が森山について語っているが、両者がともに森山に負けず劣らずキャラ立ちしているため、たんなる脇役以上の存在感を放っている。こうした三者三様の語り口に加えて、当時の記録写真や、ソウル兄弟によるノイジーなサウンドが重ね合わせられることで、ひじょうに魅力的な映像作品となっているのだ。
むろん、その魅力が森山の徹底してラディカルな活動に起因していることはまちがいない。ホームレスとして山中に3年あまり暮らしたこと、マッチ箱に自前のうんこを詰めて商店街で配布したゲリラプロジェクト、九州派のスター菊畑茂久馬の版画を署名以外そっくりそのまま剽窃した贋作作品、テレビ番組の生放送中に行なわれた剃髪ハプニング、交差点の中心での性交ハプニングなどなど、森山の武勇伝は数限りない。そうしたいわば変質者的な表現活動は、路上から異物を抹消し、街の隅々まで滅菌しようとしている現在の都市社会にとっては、たんなる排除の対象にすぎないのかもしれないし、おしゃれで小粋な東京の現代アートシーンにとっても、田舎の下品で土着的な戯れにしか見えないのかもしれない。
けれどもその一方で、森山的な魂が完全に死に絶えたというわけでもない。それは、必ずしも「はだかとうんこ」という原始的で肉体的な手段を取るわけではないし、現代美術という制度に依拠するわけでもないにせよ、現在においても脈々と受け継がれていることは確かである。たとえば、ここ最近高円寺近辺で盛り上がった騒動は、そうした地下水脈が噴出した事態として考えることができるだろう。東京都知事選挙における外山恒一の政見放送や杉並区議会議員選挙における松本哉による高円寺駅前の「街頭演説」は、森山的な悪意のある表現活動と通底しているところがあるように思われる。
森山らによる「集団蜘蛛」に一貫していたのは「否定の否定」(黒田雷児)というラディカルな志向性であり、直接的に矛先を向けていたのは九州派をはじめとする当時の前衛芸術運動や左翼運動だったが、森山らはそのことによって前衛芸術の弁証法的な止揚や芸術と政治の有機的な統一を試みていたわけではまったくなかった。むしろそれは端的に悪意のある嫌がらせであり、悪戯であった。外山恒一の政見放送も当選を目的とした演説というより、なによりもまず公共の電波をじつに賢明なかたちで悪用したパフォーマンスであり、松本哉を中心とした「素人の乱」による高円寺駅前を占拠した一連の活動も、公認された街頭演説の名を借りて既成政党の醜い選挙活動を逆照する美しいライヴ・パフォーマンスだった。いずれの場合も、対話や議論による民主主義的な解決を目指していたわけではない。むしろ、そうした物分りの良い顔をしながら近づいてくる似非民主主義者の顔に向けてうんこを投げつけたりノイズを浴びせかけたりする暴力性こそ、「集団蜘蛛」や高円寺近辺の表現活動が内側に抱える熱の正体ではなかったか。
それは時としてみずからの表現を自滅に追い込むほどの熱量を持っているが、根源的に考えれば、そもそも「表現」とはそのようなものではなかったのだろうか。無菌室で培養されるような持続的で商品化可能な自己表現とは対照的に、一時的な現象にすぎないとしても、じっさいの暮らしの現場で敵対的な接触面を作り出し、そこに一瞬だけでもきらめきを輝かせること。この映像作品は、在りし日の前衛を偲ぶ回顧映画などではまったくなく、そうした輝きがインターローカルな場で今も継続して練り上げられつつある現在進行形の美学であることを、じつに鮮やかに照らし出していたのである。

[4月7日(土) 福住廉]
Index
3/20〜3/29
笹倉洋平展 つたふ
植松奎二展──螺旋の気配から
飯田淑乃展
はまぐちさくらこ展
貝川開個展「青いこだま」
4/7
THOM 松井沙都子展
河田潤一作品展 Black & White+Color
森村泰昌──美の教室、静聴せよ
MORIYAMA──集団蜘蛛・森山安英インタビュー上映会
4/10〜4/16
度會保浩展
綿引恒平展 第A期 観音様
涌田優樹展
様々なる祖型 杉本博司 新収蔵作品展
寺島みどり展
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