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『Party』C.A.P. HOUSE
木ノ下智恵子[神戸アートビレッジセンター]

 
福岡/川浪千鶴
神戸/木ノ下智恵子
東京/南雄介
倉敷/柳沢秀行

植松奎二
今村源
森口ゆたか
村岡三郎
アトリエ
上から植松奎二、今村源、森口ゆたか、村岡三郎の作品およびC.A.Pメンバーのアトリエ
 「C.A.P. ー芸術と計画会議」は、神戸市の美術館構想に対する提案を視野に入れ、芸術と社会のつながりをより密接にすることを目的とする、杉山知子、藤本由紀夫など12人のアーティストによる任意団体として1994年にスタートした。震災の影響で市の美術館構想は流れてしまったが、それまでの提案を踏まえたアーティスト達の指針を表明する場として、以後、CAP+PARTYの造語「CAPARTY」と題して、主に神戸/居留地を活動の中心にシンポジウム、レクチャー、ワークショップ、展覧会などの催しを開催してきた。
 1999年、これまで特定の場を持たなかったC.A.Pが、当時空きビルとなっていた旧神戸移住センターの存在に着目し「C.A.P. HOUSE―190日間の芸術的実験」をスタートさせた。このプロジェクトの第一歩は、ほとんど廃墟と言っても過言ではない忘れられた場所を一掃することをイベントとして設え、参加者全員がC.A.P. HOUSEのオープンに関わり、それを祝う場となった。以後、メンバーのアトリエと発表の場として様々な人が訪れ、結成当初、キャリアのあるアーティストだけだったメンバーも、ホールディレクター、ミュージシャン、ダンサー、芸術愛好家など立場は元より世代の幅も広がりを持って増加し、多様な価値観が交差する場となっていった。一方、この活動が契機となって、この場の源泉である世界各国の日系人から海外移住の歴史を体現した構造物の保存の要望があり、神戸市はブラジル移住100周年にあたる2008年をめどに国立の施設として整備されるための運動を推進している。そうした経緯を踏まえ2002年春、建物の管理や資料展示の委託を神戸市から受託することを契機に、C.A.P.はNPOの認定を受けて新生「C.A.P. HOUSE プロジェクト」をスタートさせ、資料室、ギャラリー、パーティールーム、厨房、事務所、会議室、子供部屋、アトリエなど様々な目的に対応するオルタナティブなアートセンターとして、先の実験よりもさらに本格的に腰を据え、アートを軸とした多くの人々が交流する【場】を提供している。
 C.A.P. HOUSEが本格的に始動して1年足らず2003年1月、建物全体を会場にして『Party』という展覧会が開かれた。ここではC.A.P.メンバーが出展するのではなく、ホストに徹して出展者を迎えるユニークな仕組みによって作品が一同に会した。赤松玉女、イチハラヒロコ、石原知明、今村源、植松奎二、榎木忠、児玉靖枝、椿昇、西山美な子、松井紫朗、村岡三郎、森口ゆたかなどのキャリア組から岡田一郎、たかいちとしふみ、田中ちえこ、日野貴行といった若手まで、C.A.P. メンバーの層の厚さを物語る顔ぶれの総勢35名のアーティストがホワイトキューブではない特徴ある空間に作品を委ねていた。それはいわゆる大人数の小品展ではなく、階段の構造を活用したインスタレーション、細長い廊下に設えられたオブジェ、元移民センターという歴史的背景をモチーフにした映像インスタレーション、建物の時間の経過と意味を示唆するかのような彫刻によるインスタレーションなど、C.A.P. HOUSEへのオマージュとも言える秀逸の作品が設えられていた。もちろん、C.A.P. メンバーのアトリエも同じく公開され、C.A.P. HOUSEの日常的な営みとゲストの作品に導かれて、空間全体をオリエンテーションすることが出来た。正しく展覧会タイトル通り、ホストとゲストが逸品を持ち寄って饗宴を楽しむ『Party』の用意が施されていた。
 通常、ホワイトキューブではない廃校や商店街での展覧会など一時的な作品の設置は、時に雑多で作品が場に引きずられ、アートの力がマイナスに作用してしまうことが往々にしてある。しかしながら、本展はアートが場に関与することで展覧会としての強度を保持している勝因は、C.A.P. HOUSEの【場】の成り立ちが先の事例とは全く性質の違う試みであるからに違いないだろう。C.A.P.の活動は、はじめから【場】を求めてあるいは用意されていたわけではなく、アーティスト集団ならではの発想に基づいて【とりあえず何かをやってみる】ことを積み重ね、その机上の空論ではない実践が功を奏して【場】を獲得したと言える。C.A.P. HOUSEは、元々、アートのために設えられた【場】ではなく、本来は別の目的であった建物をアーティスト自らがカスタマイズして創り上げた【場】であり、ここには表層的な意味ではなく創造が日常的に行われ、日々、変化している。この場の力をゲストアーティスト達は敏感に察知して向き合い真摯な態度で【場】に挑んだったに違いなく、このホストとゲストの相互作用が本展の成功の秘訣なのだろう。
 私は、C.A.P.創設時からメンバーの方々に親しくして頂き、これまで幾度となくC.A.P. HOUSEを訪れてきたが今回の展覧会で改めてC.A.P.の意義について熟考することが出来た。オルタナティブで日常的な営みと蓄積があってこそ、はじめてアートの力が多様な人々に関与し、今日的なアートのあり方が表明されるのだと……。
 そして、またここでホスピタリティー溢れる心地よいステキなPartyに出会えることを期待している。

  
学芸員レポート

湊川新開地古今遊覧1
湊川新開地古今遊覧2
湊川新開地古今遊覧3
湊川新開地古今遊覧4
湊川新開地古今遊覧5
 新年から3月にかけて私は殆ど職場にいました。
 通常は手帳にある展覧会チェックリストを○印で記入することがちょっとした喜びであったのが、×印が目立ち「ミイラ取りがミイラ」になっている状況を証明しています。それは、当センターが所在する「新開地」というまちを主題にした『新開地アートストリート(SAS)』というプロジェクトを実施していたからです。「アートと社会のより良い関係」などといった胡散臭いキャッチフレーズを横目で見ていた私ですが、とうとう、この種の企画を実施することになってしまったのです。さて、何をしたら良い結果が導きだれるか。
 通常、企画を練り上げる時にはテーマに基づく資料集めやリサーチを行いますが、その過程そのものを企画にしてしまおう!と思い立ったが吉日ではなく期日でした。アートという非日常がエイリアンのように地域を侵略するのではなく、日常生活に潜む微細な面白いコト(アート)に気付かせてくれるアーティストや研究者などをナビゲータとして位置づけ、景観やモノではなく人々の意識に緩やかな変化をもたらす、ささやかな【アートマジック】を中期的なスパンで仕掛けることにしました。
 第一歩の本年度『新開地アートブックプロジェクト まちの地質調査』は、見えないモノとして埋もれているまちの魅力の地層を掘り起こす一連の行程をワークショップやフィールドワークとして実施し、まちの生態系をあらゆる角度から検証、そしてそれらの成果を一冊のアートブック『湊川新開地ガイドブック』に編集すると共にドキュメント展として再構成する、とても欲張りなプロジェクトです。
 この無謀なプランの共犯者には、ガイドブックのコンセプトメイク=本プロジェクトのメインナビゲーターとして、岡山市内の廃ビルを利用したアートスペース「自由工場」や様々なまちネタアートの実績がある井上明彦氏を迎え、また、井上氏を中心にしたプロジェクトチーム『曙団』(かつて新開地を徘徊していた輩の通称)を結成し、ガイドブックの制作に向けて独自のテーマに基づいてフィールドワークをしてきました。
 一方、本プロジェクトのスタートとして1月に「事始め!新開地新年会」を開き、ここでは、商店街の人々を中心とした十数名が集い、昔の街並みを記録した画像や名物料理などを肴に宴が繰り広げられ、プロジェクトプランのお披露目は無事終了しました。この日を皮切りに「ピンボール取材大作戦」と題して、まちの人々から、街の歴史、知られざる魅力、お薦めの人などを聞き、数珠繋ぎのリレー形式で取材を敢行したり、「新開地カタログをつくる」や「新開地人インタビュー」といったワークショップや「新開地夜話集」としてまちのあちこちで夜な夜な集まってテーマに基づいた夜話を展開してきました。
 ある種のライフワークと言えるこの試みをド・短期で実施するこのプロジェクトは、“バラケツでいこう!”(チャランポランなチンピラなどを意味する新開地から発生した言葉)を心の糧に「温故創新/古きを尋ね新しきを創る」日々を過ごし、3月末、プロジェクトの中間報告としてドキュメント展『湊川新開地古今遊覧』を開催しました。そして最終目標のガイドブックの制作のラストスパートに励んでいます。
 この経験は私のこれまでのアートバカな一面に風穴を開けてくれたと共に、他の展覧会などを見られなかったことをフラストレーションに感じることもあり、更にアート大好きな自分に気付かせてくれました。
さあて、これから見まくるぞっと!

[きのした ちえこ]

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