
挑戦が価値になる循環へ 〜企業と人材の新たな関係をつくる「出向起業型カーブアウト」
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DNPのABセンターは2024年に、新規事業を継続的に創出する事業開発プログラム「OneABスタジオ」と、そこで生まれた事業の出口戦略としてDNPに在籍したまま自ら起業に挑む「出向起業型カーブアウト」の仕組みを立ち上げました。その第1号として2025年10月に創業したのが、AIで技術ドキュメントの課題を解決するDigKnow(ディグノウ)株式会社です。社員の挑戦を最大限に尊重するこの仕組みが、DNPの文化やキャリアのあり方にどんな変化をもたらしているのでしょうか。「OneABスタジオ」事務局の金井剛史と、DigKnow CEOの伊藤悠一に話を聞きました。
目次
- 新規事業を連続的に生み出す「OneABスタジオ」
- 既存事業の「正解」を新規事業の「足かせ」にしないために
- 挑戦する社員が実力を発揮できる環境をつくる
- 「出向起業型カーブアウト」の希望者が増加! 挑戦する文化が一層浸透
- チャンスがあるなら飛び込みたいと思った
【プロフィール】
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ABセンター
事業開発ユニット 事業企画部 リーダー
金井 剛史
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DigKnow株式会社 CEO
伊藤悠一
https://digknow.co.jp
新規事業を連続的に生み出す「OneABスタジオ」
——「OneABスタジオ」とはどういうプログラムですか。
金井:一言で言えば、継続的かつ再現性のある形で、新規事業創出プロセスにおける「0→1」(ゼロイチ:無から有)を生み出すプログラムです。
私たちが所属するABセンターは、将来の事業の種を創出・育成し続けることをミッションとする組織です。0→1の事業創出に加えて、中長期で一定の売上・利益規模に育成するというKPI目標が設定されていますが、2023年度までは、事業の種を継続的に生み出す仕組みが十分に整備されていませんでした。
その危機感から立ち上げたのが「OneABスタジオ」というプログラムです。これはABセンターに所属する全員が参加し、アイディエーション(アイデア出し)、フィジビリティスタディ(実現可能性調査)、PoC(Proof of Concept)*という3つのフェーズを経て、事業アイデアを形にしていく取り組みです。
各フェーズで審査を行い、通過したアイデアは、社内の投資やサポートを受けて本格的な事業化に動き出します。初年度の2024年度は500件以上のアイデアが集まり、最終的に3件が審査を通過しました。
- *PoC:新たなアイデアやコンセプトの実現可能性、得られる効果などを本格開発の前段階で検証すること
既存事業の「正解」を新規事業の「足かせ」にしないために
——社内での事業化に加え、「出向起業型カーブアウト」という選択肢を設けたのはなぜですか。
金井:実はプログラムを設計している段階で、「DNPの中ではどうしても育ちにくい事業アイデアも出てくるだろう」という懸念がありました。
DNPは既存事業において、安全かつ確実に運営するための高度なセキュリティ基準や、出荷判定基準といった社内レギュレーションを築き上げてきました。これは社会を支える企業として必要不可欠なルールであるとする一方で、新規事業開発では、そこで求められるスピードと柔軟性にあわせていく必要があります。
DNPが掲げる「未来のあたりまえをつくる。」というブランドステートメントのもと、新規事業創出の際に事業領域を設定する上で自由度が高く、熱量を持って想いやアイデアを形にしやすい風土が社内に根付いています。しかし、いくら想いが強くアイデアが良くても、適切に育てるための環境が伴わなければ、事業として実を結ぶことは困難です。「想い」と「環境」のギャップをどう埋めるかが、私たちの課題でした。
——既存事業では必要な判断も、新規事業の成長を止めてしまうことがある、というジレンマですね。
金井:そうなんです。熱意はあるのに、機会を逃してしまうのはあまりにももったいない。そんな課題を意識していたところ、出会ったのが経済産業省が提唱する「カーブアウト」でした。これは事業の一部を切り出して新しい会社として独立させ、外部のベンチャーキャピタル(以下VC)などから資本を調達して自律した経営を行う仕組みです。
そこでDNPは初めて、社員が会社に在籍したまま起業できる「出向起業型カーブアウト」を設計・導入しました。これは、既存の社内の枠組みではスピーディかつ柔軟な成長が難しい事業アイデアの受け皿となる仕組みです。設立する新会社では、DNPの既存のルールには捉われない戦略や組織体制で事業を進められるので、事業化のスピードが格段に上がります。加えて、DNPグループの社員としてのキャリアは継続できるため、リスクを抑えながら挑戦に踏み出すことができます。
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——社内で事業化するか、社外で起業するかは、どのように決めるのですか。
金井:会社側で指定するのではなく、最終審査を通過した発案者に、「社内でやりたいか、社外でやりたいか」の意思確認を行います。
発案者が事業の成長戦略を考える中で、DNPのアセットを活かしたほうが効果的な場合は社内で事業化を進め、社外に出たほうが早く成長できると考える場合は「出向起業型カーブアウト」を選択します。どちらの手段がベストかは、事業の性質によって異なりますから。
挑戦する社員が実力を発揮できる環境をつくる
——「出向起業型カーブアウト」の第1号として、2025年10月にDigKnowが誕生しました。
金井:DigKnowの伊藤悠一CEOは、ABセンターでITエンジニアとして研究開発に携わっていました。
彼が取り組むのは、ソースコードをAIが自動で読み解き、仕様書などの技術ドキュメントを自動生成・更新する事業です。AIがシステムのソースコードを書くことがあたりまえになりつつある一方で、開発内容の理解や共有が追いつかず、システムがブラックボックス化するという現場の課題をエンジニアとして感じていました。その原体験に基づく解決は、AI時代に即したスピードが求められるテーマであり、だからこそ「出向起業型カーブアウト」という選択肢が適していました。
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Codeledgeとは、GitHubと連携してソースコードをAI解析し、技術ドキュメントを自動生成・更新するサービス。文章だけでなくフローチャート等の図版も生成でき、編集・更新履歴を一元管理することで、ドキュメント作成の手間を減らし、品質の標準化と開発生産性向上を支援する。 |
——最終審査の通過から起業までの流れは? また、DNP側はどのような支援をしたのですか。
金井:伊藤さんの場合、最終審査を通過した2025年4月からフルコミットで会社設立の準備を進めてきました。約半年間かけてVCを回り、資金調達に専念。中心的な役割を果たすリード投資家が決まった後は、会社設立の準備を進めて2025年10月に創業しました。
その間、私たち事務局側と週次でミーティングを行いますが、その際は基本的に、VC探しやピッチ(短時間の提案等)*を含め、発案者自身に「任せる」というスタンスです。
一方で、DNPとしての枠組みの設計には相当な時間をかけました。出向する社員の評価軸をどうするか、賃金や福利厚生はどうなるのか、ストックオプションを付与していいか、DNPとどのような契約を結ぶべきか——。こうした条件を一つひとつ詰めていきました。
- *ピッチ=起業家や事業主が投資家や顧客に短時間で事業の魅力や価値を伝えるプレゼンテーション
——枠組みの設計にあたって、特に意識したことはありますか。
金井:会社としての合理性と、起業する社員の意見の「最適な着地点」を探り当てることを特に意識しました。組織としては、管理やリスクの観点から会社側に有利な条件を整えたくなるもの。しかし、この新しい仕組みの事務局の立場からすれば、起業する社員が最大限に実力を発揮できる環境をつくることが重要です。
私自身も、挑戦する社員を全力でバックアップしたいという強い想いがありました。だからこそ、彼らの要望を丁寧に汲み取り、会社側との交渉を事務局が引き受けることで、彼らが資金調達や事業成長に100%集中できる体制をめざしました。
また、以前DNPにあった社内ベンチャー制度では、DNPが51%以上の株式を取得していましたが、「出向起業型カーブアウト」では、リードVCから資金調達できたら、自動的にDNPはマイナー出資するという取り決めにしています。
DNPがあえてガバナンスを効かせ過ぎない株式取得比率にすることで、起業した社員は自身の判断でスピーディに意思決定できる仕組みになっています。この点も特徴です。
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「出向起業型カーブアウト」の希望者が増加! 挑戦する文化が一層浸透
——「出向起業型カーブアウト」という選択肢に対する社員の反応はいかがでしたか。
金井:想像以上にポジティブな反響がありました。経営層もこの取り組みを好意的に受け止めています。DigKnowの設立にあたっても、「すばらしい取り組みだから、早く世に出しなさい」と背中を押されたほどです。
現場の空気も変わり始めています。第1号となるDigKnowの実績ができたことで、「OneABスタジオ」に参加する社員の間で、「出向起業型カーブアウト」という選択肢が周知されました。道を切り開いた先達に続いて、「チャンスがあるなら自分も挑戦したい」という意識が高まってきたように感じます。
——社員が社外で経営に挑戦することで、DNPにどのような利点があるのでしょうか。
金井:まず事業面で言えば、DNPのメンバーが立ち上げるスタートアップなので、シナジーを起こす可能性は十分にあります。設立直後など短期的には共創・協業することで事業シナジーが見込めますし、事業が一定の売上規模に成長した段階で、双方の合意があればDNPが株式を追加取得してグループに迎え入れるといった出口戦略も描けます。
また、人材育成の面でもメリットがあります。仮に事業が思うようにいかなかったとしても、DNPへの復職が可能です。1人の経営者として、自ら資金を調達し、ゼロから組織をつくり上げた経験は、社内に留まっているだけでは決して得られるものではありません。そうした経験値を持つ人材が社内に増えていくことは、DNPにとって貴重な資産になるはずです。
新しい事業が外の環境で育ち、そこでタフな経験を積んだ人材が再びDNPへ戻ってくる。こうした「事業の成長」と「人材の還流」という両輪が回り続けることで、DNPがより成長していく原動力になると確信しています。
——今後の「OneABスタジオ」の展望を教えてください。
金井:現在進めている第2期では、第1期で設定したアイディエーション期間を短縮して、フィジビリティスタディとPoCなどの検証に注力することで、実現可能性をより高くできる設計にしています。今後は、事業の検証からリリースまでのリードタイムをさらに短縮することで事業開発スピードをあげるように改善していきます。
現在はABセンターだけの取り組みですが、将来的にはこの新規事業創出の枠組みを全社に広げていきたいと考えています。
DNPは「未来のあたりまえをつくる。」というブランドステートメントのもと、社員一人ひとりの挑戦を後押しする企業文化を大切にしています。「出向起業型カーブアウト」は、その文化を具現化した取り組みの一つです。「未来のあたりまえ」をつくるためにも、挑戦したい社員の背中を押す土台となれるように、このプログラムをさらに進化させていきます。
「チャンスがあるなら飛び込みたいと思った」
DigKnow株式会社 CEO伊藤悠一
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事業アイデアを考えた当初はDNPの一事業として検討していましたが、2025年2月に「出向起業型カーブアウト」という選択肢が生まれ、起業を決意しました。社内よりも外の環境で取り組んだほうが、よりスピーディに事業を成長させられると判断したからです。不安はありましたが、DNPに在籍しながら経営に挑戦できる貴重な機会であり、すべての経営判断を自分たちで行える点にも強い高揚感があり、飛び出すことにしました。
現在は早期のプロダクトリリースをめざし、PoCを進めています。DNPに在籍していたときと大きく変わったのはスピードです。飛び出す前は、社外に提出する資料の社内レビューに時間をかけて、数週間後にアポイントを取るのがあたりまえでしたが、今は「明後日にアポが決まったから、今日中にこの資料を仕上げよう」といったスピードです。体感で2〜3倍は違うと思います。
経営や資金調達については右も左もわからない状態からのスタートでしたが、エンジニア一筋だった私にとって、CEOとしてビジネスの根幹をゼロから学ぶ日々は、苦労よりも楽しさが勝っています。
決断の“密度”も劇的に変わりました。自分たちの責任ですべてを決め、試行錯誤しながらプロダクトを形にしていく感覚は、「大人たちが全力で準備している文化祭」のようなワクワク感があります。創業メンバーとしてDNPからともに出向してくれた仲間の存在も大きいですね。
もし、「出向起業型カーブアウト」という仕組みがなかったら、私はこの一歩を踏み出せていなかったかもしれません。DNPというバックボーンがあるからこそ、私たちはリスクを恐れず、本気で社会課題の解決に挑むことができています。DigKnowは設立したばかり。私たちの挑戦が、後に続く社員の道しるべとなるよう、事業を成長させていきたいと思います。
- ※記載された情報は公開日現在のものです。あらかじめご了承ください。
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