
フォトブース、推しのアクスタ、語られる写真――写真家・大山顕さんと語り尽くす、プリント文化の未来
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多くの人が写真をデータで保存するようになった現代でも、なぜ「プリントした写真」や「写真をプリントする文化」は人々に選ばれ続けているのでしょうか。そんな素朴な問いを掘り下げるために、写真家・ライターの大山顕さんを迎え、写真プリント事業に携わるDNPのメンバーが対話を深めました。自撮り文化、西洋絵画の歴史、推し活、AIなど、さまざまな切り口から「写真をプリントする意味」に迫ります。
目次
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大山顕(おおやま けん)さん
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フォトブースは「自撮り」に近い
――最近、若者を中心に、フィルムカメラ写真の現像が注目されているといった指摘もありますが、大山さんは、背景に社会のどんな変化があると思いますか?
大山:前提を覆すようで申し訳ないのですが、本当に「流行っている」んですか?
使い捨てカメラやインスタントカメラが若い世代に人気を集めているというニュースは見かけますが、それらカメラの出荷台数がInstagramのユーザー数を上回ったわけではないでしょう。
そもそも、何をもって「流行っている」と言えるのか、まずは定義した方がいいと思います。安直に「流行っている」と言ってしまうことで、見過ごされる何かがあるんじゃないかと。
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――確かに、「流行っている」という状態を定義するのは難しそうですね。例えば、家電量販店などに展開しているDNPのセルフ型プリントシステム「PrintRush」のようなサービスは、日本ではどのくらい設置されていますか?
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山田公威(やまだ きみたけ)
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山田:現在、国内のセルフ型プリントシステムは、約2,000台稼働しています(DNP調べ)。生活者が写真をプリントする“場”の提供という役割を担っていると考えています。
一方、別の動きとして、私たちのプリンターを組み込んだフォトブース(撮影からプリントまでを一貫して行う筐体)は日本だけでなく世界中で展開しています。
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その意味で、プリントされた写真がさまざまな世代に届く流れは、数年前より強まっていると言えるのではないかと思います。
大山:フォトブースはどういう風に使われているんですか?
山田:フォトブースの形態はさまざまで、プリントシール機のように商業施設に常設されているものや、企業のイベントやウェディングパーティー等に運び込むものなどもありますが、友人や家族、恋人らと一緒に撮るというのが一般的です。有名なIP(Intellectual Property:知的財産)とコラボした筐体では、キャラクターと一緒に撮ることもできたりします。
大山:それっておそらく、プリントした写真が欲しいんじゃなく、撮る行為自体が楽しくて、その“お土産”として写真を持って帰りたいという感覚なんじゃないでしょうか。つまり、写真ではなく撮る行為の方に本質がある。
フィルムカメラが若い世代に流行る理由として「写真のアナログな質感が支持されている」といった話がしばしば語られますが、個人的にそこはあまり重要ではないと思っていて。もちろん、表現方法の一つとして注目すべきだとは思うのですが、それ自体が支持されているわけではない。
――写真のプリントが選ばれる理由は、どのように考えられますか。
大山:そうですね。その意味で僕は、フォトブースを自撮りの延長線上に捉えました。
SNSが浸透して以降、自撮りが定着して、人はようやく「自分たちを撮ること」の楽しさに気づいた。写真の歴史は200年くらいありますが、ほとんどの期間そのことに誰も気づいていなかったわけです。
そうした「自撮りの体験」をもっと充実させるために、フォトブースで手間暇かけて写真を撮って、最後に「モノ」が出てきたらより楽しい、と思っているんじゃないかと。
これって、同じ撮る体験でも、旅行先で風景写真を撮ることとは根本的に違うんですよね。なぜなら、撮るのは風景じゃなくて自分たちだから。
まさに、自撮り文化によって発見された、写真プリントのまったく新しい価値ですよね。
よりすぐりの一枚を、いつでもそこに
大山:ただ、なぜ(フォトブースの)写真がデータ形式じゃダメなのか、なぜプリントしないと「物足りない」のかは、まだうまく言語化できていなくて。
かつての写真論において、写真の画期性は「複製性」にあると考えられていました。
昔の写真は、一枚しかつくれない特別なものでした。しかし、ネガを使って何枚も焼き増しできる技術が生まれたことで、写真は一気に広まりました。これが、長く「写真の価値=複製できること」と考えられてきた理由です。
でも、フォトブースで撮った写真をプリントする上で、複製性はあまり重要じゃない。人数分に分けておしまいですよね。
じゃあどこにプリントする価値を見出しているのか、というと「特定の場所に置けること」なんじゃないかと。
話は少し脱線しますが、西洋絵画の作品にタイトルが付けられるようになったのって、19世紀以降なんですよ。
それまで画家は自分の絵にタイトルを付けていなかった。なぜなら、注文主の要望に合わせて描くものや壁画がメインで、絵の内容は注文主が飾ろうとする特定の場所と結びついていたからです。親戚に「名古屋のおじさん」みたいなあだ名で呼ばれている人っていませんか? あれと同じように絵も呼ばれていたんです。
それが同じ規格のキャンバスが大量につくられるようなり、複製のコストが下がって、商品として取引されるようになると、絵にタイトルが付き、場所から切り離されて流通するようになった。
そんな西洋絵画の歴史は、写真のたどった歴史と近しい部分があります。
フォトブースで撮った写真はおそらく、家の中に置いたり、スマホケースの裏に入れたりと「定位置」に飾られるはずですよね。これは絵にタイトルがなかった頃の西洋絵画に近い鑑賞のされ方ではないでしょうか。
――写真と置く場所の関係については、どのようにお考えですか。
大山:アメリカの映画で、ベッドサイドに家族写真が置かれているシーンをよく見ますよね。あれは西洋絵画の歴史を汲んだ写真文化のあり方だと思っていて。
――「家のここに飾ろう」という動機も考えられそうですね。
大山:そうですね。もしかすると、写真プリントが「“推し活”の延長」として広まると、日本にも定着するのかもしれません。“推し”のイラストや写真が印刷されたアクスタ(アクリルスタンド)を祭壇のように飾る人がいますよね。あれは家の中で「“推し”の定位置」をつくる行為だと言えます。
同じように、家族や恋人、子どもの写真の「定位置」を家の中につくるのはどうでしょうか。
――写真のデータをネットでアップロードする時代ですが、クラウドに保存した写真を後から見返しますか?
大山:僕も子どもの写真を日々大量に撮影していますが、クラウドに上げたものはほとんど見ないですよね。やっぱり、よりすぐりの一枚をプリントして、いつでもそこにあるという状態にしないと。
そもそも写真とは、見返すたびに何かしら発見が得られるものです。例えば、10年前に撮った写真をある時ふと見て「後ろにあれが写っていた!」と気づくこともあるでしょう。
写真と「インテリア」の意外な結節点
――写真プリント技術のアップデートについてはどのような動きがありますか?
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榎田和起(えのきだ かずき)
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榎田:DNPは昇華型熱転写プリントの技術を約20年前にほぼ確立しています。もちろん性能向上の取り組みは継続しています。近年は変化する法規制への対応や、より環境に配慮した素材への切り替えといった取り組みが中心ですね。
大山:おそらく技術的に新しい昇華型熱転写プリンターというのは、もうあまり出てこなくて――。先ほど述べたように、写真プリントの体験を通じて、どういうお客さんに、どういう楽しみを提供するかというサービスとセットで初めて新たな価値が生まれそうですよね。
山田:先ほども少し触れましたが、DNPでは、プリンターやプリントシステムの開発を行っていて、それによって写真のいろいろな楽しみ方(価値)を提供しています。また、アミューズメント施設などで、その場での体験・その場での瞬間をカタチに残すフォトサービスを展開しています。
大山:写真プリントの価値とは、そういったサービスを通して現在受け入れられていますよね。強いて印刷技術の話をするなら、一つの場所にずっと飾っていても色褪せない「耐光性」が重要になってくるのでは?
榎田:そうなんです。耐光性は重要です。
光、特に紫外線など、染料を劣化させる原因をカットする材料をオーバーコート層に添加する、劣化しにくい染料を選定するなどして耐光性を発現しています。ですので、事業化初期のオーバーコート層がないものと比べれば、格段に良くなっています。
ただし、ずっと飾っても色褪せないというのは現状難しいです。なので、これまでとは異なる層からの耐光性機能発現や新規材料を検討し、写真の価値を見出せるメディアの開発に取り組んでいこうと思います。
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イエロー(Y)・マゼンタ(M)・シアン(C)の各インクの層と、それらを保護するオーバーコート層から成るインクリボンを大山さんに紹介。「黒(K)がないのは面白いですね」(大山さん) |
――「プリントできる場所」を増やすことについては、どのように捉えていますか?
山田:街の写真屋さんのようなプリントする場が少なくなってきている今、プリントできる場所を増やすことはDNPが担っているとても重要な役割の一つだと考えています。その上で、先ほど大山さんがお話しされたように、プリントした後の写真がどう使われるかを考えるのも大事だと感じています。
大山:プリントした写真を身の回りにどう置いてもらうか、というテーマですよね。額縁なのか、それとも全く別のソリューションなのか。
もしかしたら、インテリアを研究したほうがいいのかもしれませんね。
大手電機メーカーで働いていた頃、薄型テレビを普及させるため、事業部の人たちがインテリアの研究をしていました。
後ろに出っ張りがあるから部屋の角に置かれがちなブラウン管テレビと違い、薄型テレビは壁と並行に置かれることが多い。そうなると、画面が向く方向も「部屋の対角線上」から「壁の正面」に変わる。じゃあ、一般家庭では壁の正面にどんなものが置かれているのか(テレビがどういう環境に設置されるのか)を調べていたんですね。薄型テレビに「壁掛けテレビ」の通称があった所以です。
――DNPにも生活空間関連の事業があります。思わぬコラボレーションが生まれるかもしれないですね。
写真を「置く」と、どうなるか
――家の中での写真の「定位置」についてですが、榎田さんは自宅にプリントした写真を飾っていますか?
榎田:靴箱の上に飾っていますね。
大山:靴箱は帰宅して最初に目に入るところですし、来客を最初に迎える場所なので、写真を飾る場所としては最適かもしれません。
そういえば僕が子どもの頃は、アップライトピアノの上、テレビの上、タンスの上など、家の中に「ちょっとした平面」がたくさんあって、そこに博多人形やフランス人形が飾ってあったものです。
しかし、薄型テレビのようにあらゆるモノが「薄く」なっていく中、家の中から平面が失われ、その結果として人形の置き場所もなくなってしまったんだと思います。
そんな中で写真をどこに置くのか。そのヒントが得られそうなのが、今もフォトフレームをたくさん売っているIKEAのような大手インテリア雑貨・家具チェーンです。あそこで買ったフォトフレームが家のどこに置かれているのか、調べてみると面白いかもしれませんね。
山田:家の中に置く以外に「オフィスに(写真を)置く」という方向性もあるのではないでしょうか。
自分もオフィスのデスクに家族写真を置いていた時期があったんですが、フリーアドレスになって、それができなくなってしまい……。
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大山:それは面白いアイデアかもしれません。
山田:フリーアドレスにすると偶発的なコミュニケーションが生まれると一時期盛んに言われていましたが、個人的にはなかなか生まれにくいという実感があって(笑)。写真が置いてあったら、それがきっかけで会話が生まれるかもしれないなと。
大山:写真はコミュニケーションを活性化させるメディアでもあります。絵だと知識がなければ触れられないし、キャラクターだとどこまで突っ込んでいいのか分かりづらい。でも、写真なら「これお子さんですか?」と気軽に話しかけやすい。
それに、場所の話と絡めるなら、写真を置いた場所は「自分のテリトリー」だと認識しやすいんです。例えば、ハリウッド映画によくある、クビになった社員が段ボールの中に自分の荷物を片付けるシーンでは、最後に家族の写真をしまいますよね。あれが象徴的で、家族の写真を会社から撤去することは、会社に自分の場所がなくなることとイコールです。
そう考えると、フリーアドレスの環境で小さな写真を「マイ写真」のように持ち歩き、作業スペースにその都度置いて、「今日はここが自分の仕事場」と見なすような習慣が根づけば、写真プリントの新たなニーズも掘り起こせますし、何よりみんな会社へ行きたくなりそうです。
生成AIが浸透しても、写真の価値はなくならない
――最近は生成AIで綺麗な画像がつくられています。ネット上の写真も「実際に撮影されたものかどうか」判別しにくい状況にあります。その中で、写真をプリントして持つことの価値はどう変化していくでしょうか?
大山:写真の価値を考えると、「AIなんて恐れるに足らず」だと思います。
なぜなら、AIは「出力(写真の中身)」しか問題にしないからです。もちろん、「出力」のクオリティだけで言えば、もはや人間の出る幕はないかもしれません。でも、人間にとって写真の価値は、いつ・どこで・誰と・どんなシチューションで撮り、その写真をどこに置いているといった「入力(写真の背景)」にこそあるはずです。
むしろ、AIは「入力」をもたらさないからこそ、プリントした写真の価値はますます高まっていくのではないかと。
ちょっと突飛な話になりますが、心霊写真に欠かせないのも、やはり「場所」なんです。
性能が高くなかった頃のAIが生成する画像は、不自然に感じるものも多かったと思います。でもこれらは結局、心霊写真とは見なされませんでした。現実と違うものが写るというのは、心霊写真の“定番ネタ”であるにもかかわらずです。
そう見なされないのは、AIが生成する不自然な画像には「場所」の要素がないからです。あそこで撮ったこの写真に、こういうものが写っていた。あの場所にはかつて病院があって……というように、場所の由来とセットにして語られなければ心霊写真にならないのです。
人間にとって写真の本質的な価値とは、「出力」ではなく「入力」。今日話してきたのは、それをプリントの領域まで徹底させることだったように思います。出来上がった写真にも「場所」を与えてあげると、また新たな日々が「入力」され、脳に記憶される。
山田:より魅力的な写真をプリントできるようにするのはもちろんですが、対談を通して、「撮影体験」や「出来上がった写真の持つ価値」に目を向けることの大切さを再認識しました。
そういえば以前、韓国のフォトブースに仕事で関わった際、現地でこんな光景を目にしました。プリントシール機の筐体を集めた店舗の壁に、ハート型にお花を並べたオブジェを飾ったら、撮影を待っている人たちがそこで自撮りをして、それが拡散して、より多くの人が集まったんです。フォトブース自体の性能や機能以外で、こんなに人を呼び込める仕掛けがつくれるのか……と感心した覚えがあります。
大山:一時期ショッピングモールなどで見られた、天使の羽を壁に描いたフォトスポット に近いですね。
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山田:そうですね。私たちもそうやって、撮影の手前から生活者の方々に楽しんでいただける仕掛けを考えていきたいです。
榎田:対談を通して、写真を飾ることの重要性、そして飾るための場所は時代に応じて変化していることを実感しました。
また、人間と写真の関係は、写真に飾る場所・置く場所を与えることで、こんなにも変わるのだなと新鮮に感じましたし、自分自身とっておきの1枚を飾ってみたくなりました。
だからこそ、DNPとしてはさまざまな場所やモノに写真を飾ることを意識した新製品の開発、飾った後に記憶に残りやすくなるような、例えば特殊な意匠性を持つ新製品の開発などに取り組んで、「写真プリントはDNP」というブランドを訴求していきたいと思います。
大山:プリントシール機やフォトブースなどのプロダクトは、「友だちと一緒に写真を撮る」ことが本能的に好きな人間の性質をよく表していますよね。
そう考えると、写真プリントの未来は演出や仕掛けでまだまだ面白くなりそうです。
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