
恐竜から始まる新しい学びのデザイン。DNP×福井県立大学 恐竜学部の共創ストーリー
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2025年9月、DNPと福井県立大学 恐竜学部は、「恐竜・古生物学分野における連携・協力の推進に関する協定」を締結しました。日本初の恐竜学部と、情報をわかりやすく伝える技術や空間デザインのノウハウで新しい体験価値を創出してきたDNP。両者の連携は、恐竜というテーマを起点に、研究成果を社会へどうつなげていくかを探る取組みです。
協定のきっかけは2023年、DNPが自社施設で開催した「見かたを変える、ふしぎな恐竜展」での、同大学・今井拓哉准教授と、展示企画を手がけたDNPの宮澤悠大の出会いでした。前例の少ない「“恐竜”をテーマにした産学連携」は、どのようなかたちで成長したのでしょうか? 身近な関心を入口に、「学びの体験」をデザインし、社会へ広げていく姿を紹介します。
目次
【プロフィール】
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福井県立大学 恐竜学部
今井拓哉准教授(写真右)
高校を卒業後、恐竜研究者を志してアメリカ西部のモンタナ州立大学に6年間留学し、本場の研究や発掘を学ぶ。帰国後、金沢大学博士後期課程を経て、恐竜研究者として恐竜王国・福井で活動中。主な専門は恐竜の卵と、恐竜時代の鳥類。また恐竜研究における3Dデータやバーチャルの活用にも取り組んでいる。
大日本印刷株式会社
情報イノベーション事業部
ハイブリッドマーケティングセンター
宮澤悠大(写真左)
空間開発部門で、体験型コンテンツや展示企画などのサービスデザインに携わる。学芸員の資格を持ち、副業で「恐竜コンサルタント」としても活動。恐竜をテーマにしたイベントやワークショップの企画・実施を通じて、人々の自然科学への関心を広げる体験づくりに取り組んでいる。
きっかけは「見かたを変える、ふしぎな恐竜展」
――2023年開催の「見かたを変える、ふしぎな恐竜展」(第1回恐竜展)※1に、今井先生はどのようなきっかけでご来場されたのでしょうか。
今井准教授:福井県は、全国でも有数の恐竜化石の発掘地として知られています。福井県立恐竜博物館を中心に、恐竜は地域ブランドの核に位置づけられ、研究と普及の両面で取組みが進められてきました。私自身も福井の恐竜研究に長く携わっています。
そうしたなかで、「福井の恐竜に関心を持っている企業がある」と聞いたのがきっかけです。正直にいえば、「民間企業が恐竜をテーマに?」という驚きはありました。ただ、恐竜という分野は研究としては広がりがある一方で、社会との接点をどうつくるかは常に課題でもあります。どんな展示をされているのか、純粋に見てみたいと思い、うかがいました。
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※1 DNPが運営するオープンイノベーション施設「DNPプラザ」(東京・市谷)で、2023年10月20日~2024年1月13日に開催したオリジナル企画展。“見かた”の工夫で恐竜を楽しむ内容で、“リアル×バーチャル”の体験や恐竜飼育マンガ「ディノサン」との連携を通じて、恐竜と生活者の関わりを捉え直す内容となった。
https://www.dnp.co.jp/media/detail/20170174_1563.html
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――展示をご覧になって、どんな点が印象的でしたか。
今井准教授:いちばん驚いたのは、VR(Virtual Reality:仮想現実)恐竜展システムです。卓上のステージの上にミニチュアのパーツを自由に配置すると、そのレイアウトに合わせて、目の前のディスプレイに映るバーチャル空間の展示会場がリアルタイムで変化します。恐竜は原寸サイズで表示され、仮想の展示空間の中でその姿を体験できる仕組みでした。
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私たちは化石をCTスキャンし、3Dデータとして解析する研究を進めています。 “デジタル恐竜学”ともいえる取組みです。ただ、その成果を一般の方や教育現場に届けるとなると、まだ十分とは言えません。研究は進んでいるのに“届け方”は止まっている。そこを何とかしたいという気持ちがありました。
その点、この展示は体験として完結していて、専門的な内容を直感的に理解できる。研究成果を社会に届ける新しい形になるかもしれない、と感じました。
――宮澤さんにとってVR恐竜展システムはどのような位置づけでしたか?
宮澤:2023年の第1回恐竜展で展示していたのは、試作段階のいわばプロトタイプでした。DNPが持つセンシング技術や3D表示技術を組み合わせて、「恐竜を色々な視点で楽しみ、学べる展示をつくりたい」と試行錯誤していたところです。そのとき使っていたのは展示用データで、学術的な研究データを組み込んでいたわけではありません。
だからこそ、研究者の方に見ていただくことには大きな意味があると感じていました。もし本物の研究データと組み合わせることができれば、体験の面白さだけでなく、教育や学びの場にも広げられるのではないか、と。
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――恐竜展に今井先生が来場されると聞いたとき、どんな気持ちでしたか。
宮澤:正直にいえば、「どう受け止めていただけるだろう」と緊張はしていました。ただ、それ以上に楽しみな気持ちのほうが大きかったですね。
私は子どものころから恐竜が大好きで、この展示も「自分が本当に見たいものをつくりたい」という思いから始めています。その展示を恐竜研究の第一線で活躍されている先生に見ていただけるのは、うれしい機会でした。
「もしかしたら、一緒に何かできるかもしれない」という期待もありました。
今井准教授:実際にお話ししてみると、展示の狙いがとても明確でしたよね。単に“楽しい展示”ではなく、見かたを変える仕掛けが随所にあった。
――展示を見たあと、お二人は語り合われたそうですね。
今井准教授:はい。展示を見終えたあと、自然な流れでカフェに移動しました。窓際のテーブルでコーヒーを飲みながら、展示の感想から研究の話へと広がっていきました。私からは、研究データを社会に届ける際の課題についてもお話しました。
宮澤:お話をうかがって、「ぜひ一緒にやりませんか」と私のほうからお声がけしました。先生の研究データとこの仕組みを組み合わせれば、もっと意味のある体験になると思ったからです。
今井准教授:恐竜という分野は、医学や工学のようにすぐに産業応用に結びつくテーマではありません。産学連携の前例も多くはないのが実情です。そのなかで、民間企業の方から具体的な提案をいただけたことで、研究成果を社会に届ける新しい道筋が見えた気がしました。
そのときは小さな対話でしたが、あのテーブルから、いろいろなことが動き始めましたね。
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前例の少ない挑戦――「恐竜」で産学連携をするために
――対話をきっかけに、具体的な動きはどのように始まったのでしょうか。
宮澤:2023年の恐竜展の終了後、本格的に話し合いを始めました。恐竜展で展示したプロトタイプを福井県立大学の研究成果と組み合わせることはできないか。まずはそこからでした。
今井准教授:研究室で扱っているのは、福井県で発掘された恐竜化石のCTスキャンデータです。これをどうすれば一般の方にも伝わるかたちになるのか。宮澤さんとは何度もやり取りを重ねました。
宮澤:そのときの議論が2024年の「VR恐竜展システム 福井編」につながっています。これは2023年のプロトタイプに福井産標本のデータを組み込んだバージョンアップ版で、福井県立恐竜博物館で展示されました。VR上の3Dデータに学術的な裏付けを持たせることで、研究視点が伝わるリアルな体験をめざしたものです。
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2024年に福井県立恐竜博物館で展示された「VR恐竜展システム」 |
今井准教授:博物館は、研究と社会を展示でつなぐ場です。そこで実装できたことは大きな意味がありました。福井で生まれた研究成果が、地域の方々、そして全国からの来場者に体験として届く。その実証になりました。
宮澤:その実装経験を後の展示企画にも引き継いで、体験の完成度を高めていきました。より完成度の高い体験を来場者に届けることができ、研究と体験が一段と近づいたと感じています。
――ここまでの流れは順調に見えますが、実際には調整も多かったのではないでしょうか。
今井准教授:そうですね。大学、博物館、企業は、それぞれ立場が違います。研究データの扱い方、公開範囲、展示での表現方法。慎重な議論が必要でした。大学としても新しい形の連携なので、学内での合意形成は丁寧に進めていきました。
宮澤:私たちの社内でも同じでした。「恐竜」というテーマがどこまで事業として広がるのか。展示としては面白い。でも、継続して取り組む意味は何か。その説明は簡単ではありませんでした。
――どのように社内の理解を得ていったのでしょうか。
宮澤:まずは、恐竜そのものを事業化するというよりは、恐竜を入口にした体験設計、デジタルアーカイブ、学習プログラムなどに展開できる可能性はある。その将来像を描き、少しずつ共有していきました。正直なところ、時間はかかりました。
今井准教授:企業が事業性を考えるのは当然です。一方で、研究者としては学術的価値を守る責任があります。その両立を模索する過程があったからこそ、議論は深まりました。
それに、宮澤さんの熱意は相当なものでしたよ(笑)。最初は「展示が面白かった」というところから始まったのに、話を重ねるうちに「これは本気だな」と。
宮澤:本気でしたね(笑)。「学術として何を守るのか」「企業としてどこまで挑戦できるのか」。その接点を共有できたことが大きかったと思います。
今井准教授:恐竜は、企業にとってすぐに収益化できるテーマではありません。それでも継続したいと言ってもらった。その姿勢があったからこそ、研究側としても前向きに応えたいと思えました。
宮澤:DNPには、すぐに答えが出ないテーマであっても、まずは形にして検証してみる、という文化があります。個人の思いを、組織としてどう受け止め、どう次の挑戦につなげるか。その積み重ねが、今回の連携にもつながっています。
とはいえ、社内で説明するときは、まず自分自身が「ここまでやる意味がある」と腹落ちしていないと、なかなか伝わらないと思っていました。だからこそ、展示の可能性や研究とのつながりが創出する価値を自分なりに整理しながら進めていくことで、少しずつ社内の理解が得られていきました。
――そして、2025年9月の連携協定へと進みました。
今井准教授:協定の検討自体は、展示の成功後に急に始まったわけではありません。福井での実装や2025年の第2回恐竜展の展示準備と並行して、どのような形で継続的な連携ができるかを話し合っていました。
宮澤:東京での試作、福井での実装、そして展示へ。その積み重ねがあったからこそ、協定は自然な流れでした。連携協定締結は一つの区切りではありますが、ゴールというより、次の段階へ進むための基盤が整ったという感覚です。
今井准教授:あのカフェから始まった対話が、地域を巻き込み、組織を動かし、制度へとつながった。感慨深いですね。
宮澤:個人の思いだけでは実現できません。組織が挑戦を受け止め、後押ししてくれる環境があったからこそ、ここまで来られたのだと思います。
「サービスデザイン」で学びを設計する
――連携協定の締結後、どのような取組みが始まっていますか。
宮澤:現在進めているのが、恐竜をテーマにした学習プログラムの開発です。そのベースになっているのが、DNPが培ってきた「サービスデザイン」です。
――DNPの事業でも活用してきた方法論ですね。
宮澤:はい。サービスデザインは、単にコンテンツをつくるのではなく、「どんな体験を設計するのか」という視点で全体を構造化していくメソッドです。
まず、ワークショップ等で参加者がどんな興味や疑問を持っているのかを捉える。次に、その関心をどう深めるかを整理する。そして試行を重ねながら磨き上げていく。そうしたプロセスを通じて、体験そのものを設計します。
恐竜は題材の一つであり、私たちが設計しているのは、参加者の中にどんな問いが生まれ、どんな思考の変化が起きるかという体験の流れです。コンテンツを見せるのではなく、参加者が考えたくなる状態をつくることが、サービスデザインの役割だと思っています。
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今井准教授:研究も、観察から仮説を立て、検証を重ねる営みです。サービスデザインのプロセスは、その思考の流れと重なる部分があります。学生にとっても、自分たちの学んだことを“どう社会に伝えるか”を考える機会になっています。
――学生もプログラム開発に関わっているのですね。
今井准教授:ええ。恐竜学部の学生が参加しています。研究者だけでは、専門分野のなかで完結してしまいがちなので、こういう機会を通じて、自分たちの専門性をどう社会と接続するかを考えることは、大きな学びになります。
宮澤:学生と一緒に試行錯誤しながら、ワークショップ等の参加者の“体験の価値”を形にしていく。そのプロセスを共有できたことは、私たちにとっても貴重な経験でした。
――図書館での展開も視野に入れているそうですね。
宮澤:きっかけは、連携協定の話をキャッチした出版イノベーション事業部から、DNPグループの図書館流通センター※2(TRC)へ協業企画を提案したいとの相談でした。図書館でも人気の高い恐竜コンテンツを使って、地域の図書館でイベントを実施できないか、という話があったのです。
DNPには、“体験の価値”を設計するサービスデザインのノウハウや、展示として形にする技術があります。そこにTRCが持つ全国の図書館ネットワークが加わることで、今回の学習プログラムを図書館という公共の場へ広げていく可能性が見えてきました。
まだ構想段階ですが、恐竜を入口にした探究型の体験を、図書館という身近な場所で展開したいと考えています。
- ※2 図書館流通センターは、主に図書館向けに書籍の提供や運営支援を行う「図書館総合支援企業」です。
――この連携をどのように発展させていきたいですか。
今井准教授:福井県立大学 恐竜学部は、「恐竜学」という言葉を使っていますが、学生を“恐竜オタク”に育てることを目的にしているわけではありません。
恐竜の化石を通じて地層や地質を読み解いたり、生物の進化を考えたり、過去の環境変動を探ったりと、地学の非常に幅広い領域を横断する総合的な学問です。
教育機関の使命としては、恐竜を「入口」として、その先にある地球や生命の歴史にまで視野を広げられる人財に育てていくことが必要です。
その方法論という面で、これまで構想として語られていたものが、今回の連携で現実味を帯びてきた印象があります。研究の成果を社会に届ける新しい場として、大きな可能性も感じました。
宮澤:私は以前から、いつかDNPの中に“恐竜博物館”のような場をつくりたいと話してきました。今回の連携を通じて、そのイメージがより具体的になってきています。
建物としての博物館という意味だけではありません。博物館の役割として「収集・保存」「調査・研究」「展示・教育」の三つがありますが、DNPならばそれらを踏まえ、より昇華させた拠点にできると考えています。展示演出、学習プログラム開発、デジタルアーカイブ、地域連携が有機的につながる場を通じて、博物館的な学びを社会に開いていく。恐竜から始まるこの共創は、DNPが描く「学びの未来」の一つのかたちです。
福井県立大学 恐竜学部との共催企画展「見かたをひろげる、ふしぎな恐竜展」
会期:2026年3月20日(金)~6月20日(土)
会場:DNPプラザ ※入場無料
(東京都新宿区市谷田町1-14-1 DNP市谷田町ビル1階・B1)
主催:大日本印刷株式会社、福井県立大学 恐竜学部
WebサイトURL:
https://dnp-plaza.jp/CGI/event/reservation/detail.cgi?seq=0001496
DNPの“表現技術”と恐竜学部の“学術”を掛け合わせ、恐竜の魅力や可能性をさらに「ひろげる」体験を散りばめた“ふしぎな恐竜展”です。
化石標本とデジタル技術を掛け合わせた鑑賞体験をはじめ、「DNPコンテンツインタラクティブシステム みどころウォーク®」を活用してMR(Mixed Reality:複合現実)空間内で巨大恐竜の周囲を歩きながら鑑賞できる体験など、「見る」展示から「体験し、考え、学ぶ」機会へと「ひろげ」ます。
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