2026年4月、開所式の様子

世界につながるイノベーション・ハブへ。DNPがインドで描く研究開発の未来

2026年4月、インド南部テランガナ州に、オランダに続く海外2カ所目の研究開発拠点を開設したDNP。インドを代表する理工系大学であるインド工科大学ハイデラバード校(IITH)と共同で、モビリティ分野とメディカル・ヘルスケア分野の研究を進めています。一見“紙への印刷”とは縁遠そうな研究テーマを抱えてインドの地に踏み出したその狙いはどこにあるのでしょうか? 技術・研究開発本部の石川浩二と、新たな研究開発拠点で指揮を取る植木貴之が、めざすビジョンとその舞台裏を語ります。

目次

石川 浩二(いしかわ こうじ)

石川 浩二(いしかわ こうじ)
大日本印刷株式会社
技術・研究開発本部 研究開発統括室 室長

植木 貴之(うえき たかゆき)

植木 貴之(うえき たかゆき)
DNP R&D Hyderabad 所長

なぜインドだったのか? 技術都市ハイデラバードの強み

——DNPがここに研究開発拠点を立ち上げた背景を教えてください。

植木:海外2カ所目となる研究開発拠点としてインドを選んだ理由は大きく二つあります。一つは、インドが人口増加と経済成長を背景に、世界経済での存在感を急速に高めている巨大市場であること。もう一つは、地理的に、これから大きく伸びていく中東・アフリカへの展開を見据えた戦略的な要衝であることです。

植木 貴之(うえき たかゆき)

インドの中でも特にハイデラバードは、多様な分野のスタートアップが活発にビジネスを構築している都市です。DNPが注力するモビリティとメディカル・ヘルスケアの事業領域において、「電気自動車(EV)の実証実験の場」と「医薬産業基盤」の双方が整っている環境であることが、進出の決め手となりました。

——インド工科大学ハイデラバード校(IITH)を共同研究の相手に選んだ理由は?

植木:IITHは、インドを代表する理工系大学の一つで、電気工学や化学の分野をはじめとする高い研究力と、優秀な人材を有しています。

同校は、設立当初から日本の政府開発援助(ODA)のうち、円借款を通じてキャンパス整備の支援を受けており、日印の学術・産業連携の中心を担ってきました。DNPは、同校のこうした日本との結びつきの強さ、そして社会実装や標準化を視野に研究活動を進める姿勢を高く評価しています。さらに、大学構内にはEVの実証実験場「TiHAN(Technology Innovation Hub on Autonomous Navigation)」もあります。

DNPとIITH、両者の強みを掛け合わせることで、研究開発成果の創出と社会実装を加速させられる——。そうした判断から、同校との共同研究を始めました。

DNPの研究開発拠点が入居しているIITH内施設

DNPの研究開発拠点が入居している大学内施設

——このインド拠点の立ち上げにどのような思いで関わっていますか?

石川:インドは地政学的なリスクが少なく、日本にとって経済安全保障上の重要なパートナーです。経営戦略の観点からも、有望な成長市場の一つだと考えています。

インドの理工系の学生や研究者たちには、圧倒的な人口の多さという国の背景はもちろん、勤勉さや向上心 、そしてスピード感があります。日本では人口減少もあって、優秀な人材の獲得が難しくなっている今、インドを起点とした人材獲得は、今後の重要な戦略の一つとなるでしょう。

彼らとともに、現地の課題の解決や、ニーズに合致する製品やサービスを生み出し、新たな価値を提供することが、今後のDNPにとって必要不可欠なのです。

「印刷会社」が取り組むモビリティとメディカル・ヘルスケアの事業

——この拠点で最初に取り組む研究テーマについて教えてください。

石川:主に二つのテーマに取り組みます。一つは「EV向け無線給電システムの開発・実証」です。DNPはリチウムイオン電池向けバッテリーパウチ(外装材)で世界トップのシェアを有しており、EVや電子機器で広く使われているほか、次世代モビリティ関連の技術開発を推進してきました。

その中で、金属を微細加工する技術と、異なる素材を貼り合わせる後加工技術を掛け合わせることで、これまで重く分厚かった無線給電のコイルを、驚くほど薄く軽いシート状に変えた実績があります。インドの研究開発拠点では、そうしたシート型コイルの技術を基盤に、EVが「走りながら給電できる」ような無線給電システムの設計・開発・事業化を進めています。

将来的には、自動運転をはじめとする高度モビリティ社会の実現を見据え、現地のニーズに即して実証と改良を繰り返し、インドにおけるEVの普及、市場拡大に貢献していきたいと考えています。

EV向け無線給電用シート型コイル

EV向け無線給電用シート型コイルの実装イメージ

もう一つのテーマが「医薬原薬の合成方法の開発」です。極めて高い純度が求められる医薬原薬の合成には、分子レベルで構造を制御し、効率的な合成ルートを構築することが必要です。

そこで、グループ会社でありジェネリックの医薬原薬製造をおこなう株式会社DNPファインケミカル宇都宮が培った精密有機化学合成・プロセス開発の知見を活かし、コスト・収率・量産などを踏まえて、医薬原薬の最適な合成方法を開発していきます。これにより、インド国内での安価で質の良いジェネリック医薬品の普及をめざします。

  • *収率:化学的手法で原料物質から目的の物質を取り出す際、理論的に取り出せると仮定した量と実際に得られた量との割合。

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株式会社DNPファインケミカル宇都宮

——「印刷会社」が、なぜこうした領域の研究に踏み込むのでしょうか。

石川:DNPの歴史は、「印刷技術と情報技術を多様な社会の課題解決に向けて応用し続けてきた歩み」そのものです。紙をはじめ、あらゆる素材への印刷の強みはもちろんですが、印刷プロセスをさらに要素分解すると、材料開発・微細加工・精密塗工・後加工・評価解析といった技術群が存在しています。

これらを磨き上げ、再構成することで、DNPは高性能半導体やディスプレイ関連、医薬品パッケージ等のメディカル・ヘルスケアなど、必要とする社会・人々・場所に価値を届けてきました。

今回の無線給電も医薬原薬も、その延長線上にある挑戦です。「印刷で培った精密さ」が、全く異なる領域で新しい形になる——。それがDNPらしい研究開発のあり方だと思っています。

無線給電・医薬原薬研究のイメージ

インドでの社会課題解決を見据えた、今後の展望

——この拠点の5年後をどのように見ていますか?

植木:三つのことが達成できていれば成功だと考えています。一つ目は、初期テーマの研究開発を計画通りに進め、社会実装への見通しを立てていること。二つ目は、拠点拡大に向けて次なる研究テーマを複数立ち上げていること。そして三つ目は、現状3人で運営しているこの拠点で、インドでの現地採用人材が研究開発人員の過半数を占めていることです。

その先にめざすのは、現地の環境や人材の強みとDNPの強みを掛け合わせ、世界に新たな価値を発信する「イノベーション・ハブ」としてこの拠点が機能することです。同時に、DNPグループ全体の変革を加速させる「グローバル・ケイパビリティ・センター(GCC)」としての役割も担っていきたいと思っています。

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インドの研究開発拠点の開所式の様子

——最後に、この拠点に関心を持つ読者の方へのメッセージをお願いします。

石川:私たちは、多くのパートナーとの「オープンイノベーション」を推進しています。例えば、インドをはじめとするグローバルサウスが直面しているさまざまな社会課題やニーズにDNPの強みで応え、持続可能な成長を支える。そしてパートナーの皆さんと、「ともに勝ち、ともに社会を良くする“Win-Winの関係”」を築いていきたいと思います。

DNPと一緒に取り組めば、「自分の研究が幅広い分野で社会に活かせる」「未来のあたりまえを実現できる」。そう感じてもらえる存在であるために、今後も邁進します。



植木:「DNP R&D Hyderabad」は、インドの高い市場成長力と優秀な理工系人材、そしてDNPの技術力を掛け合わせていく研究開発の場です。

将来的には、世界を見据えた研究開発の成果を社会実装・事業化し、ハイデラバードから「未来のあたりまえをつくる。」、そんな拠点にしたいと思っています。


DNP R&D Hyderabad 最新情報はこちら(英語)

DNPのインド研究開発拠点「DNP R&D Hyderabad」の最新情報は、LinkedInにて発信しております。拠点の活動内容やDNPの会社紹介、研究員紹介、イベント参加などの情報を毎週投稿しておりますので、ぜひご覧ください。

 

DNP R&D Hyderabad ビジョンムービーはこちら(英語:3分47秒)