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学芸員レポート
札幌/鎌田享|福島/伊藤匡|東京/南雄介大阪/中井康之山口/阿部一直
「青森県立美術館のプレイベント」
福島/福島県立美術館 伊藤匡
青森県立美術館外観
青森県立美術館外観
アレコホール
高さ19.5メートルのアレコホール
企画展示室
企画展示室
棟方志功の部屋
常設展示室・棟方志功の部屋
奈良美智
窓外に高さ8.5メートルの奈良美智の作品
シンポジウム風景
シンポジウム風景
 数年前から、美術館業界の仲間内で「青森の美術館は床が土でできているらしい」「青森の美術館は地下にできるらしい」という噂が聞こえていた。しかも場所が縄文の大集落跡である三内丸山遺跡の隣接地となると、つい竪穴式住居を想像してしまう。いったいどのような建物なのか、どんな形をしているのか気になっていた。
 その青森県立美術館が竣工し、一般公開とシンポジウムが開かれたので、早速見学に出かけた。噂は嘘ではなかったが、事実の半分しか語っていなかった。建物全体が地下に潜っているわけではなく、地上2階地下2階の4階建ての半地下構造。正面から見ると横に長く伸びた白亜の建物に見える。設計の発想は、遺跡を発掘する際に掘るトレンチ(壕)に、上から白い蓋を被せるというもので、三内丸山遺跡の存在がこの美術館にも大きな影響を与えている。建物の構成要素はシンプルである。垂直と水平の直線基調で、上下移動は基本的にエレベーター。色調は白色と土色の二色。展示室は、広さも高さもそれぞれ異なっている。床が土のたたき(三和土)でできている場所もあり、コンクリートやフローリングの場所もある。展示室の配置は一筆書きではなく、観覧者が選択できる。また展示室と展示室をつなぐ空間も、展示空間とも単なる通路ともいえない、どちらにもなりうる空間である。常設展示室では、棟方志功、斎藤義重、工藤哲巳、工藤甲人、今純三、奈良美智らの作品が、一人一室の個展形式で展示されるという。展示室のすぐ裏にケースや展示道具を置くスペースがあるという説明だったが、そこは見学できなかった。
 学芸員としては、作品の展示を想定しながら建物を見てしまうのだが、この空間は展示の可能性が広いが、その代わり展示作業そのものは楽でも簡単でもないと想う。平面作品懸架用のピクチャー・レールはみあたらないし、壁はコンクリートで金具の取り付けも簡単ではない。照明のレールは高い天井に直づけで、照度の調整にも手間がかかりそうだ。作家にしても学芸員にしても、理想的な展示を実現するまで、相当な時間と労力を必要とするだろう。しかし展示を単なる作業ではなく、創造的行為の一環に取り戻すためには、展示のしやすさや使いやすさという要素は犠牲にすることもやむを得ないということだろう。
 館内ミニ・ツアーの後、青森県知事三村申吾氏、設計者青木淳氏、作家奈良美智氏によるシンポジウムが熊倉純子氏の司会で行われた。この建物の印象について各氏の口をついて出たのは「手強い」「挑戦的」「創造性を刺激する」といった、建物の強い性格を表す言葉だったのが印象深い。また「これからは、壁に絵を飾るだけの美術館ではだめだ」という、20世紀型美術館からの決別が宣言され、まことに耳が痛かった。この美術館の基本方針は、美術だけに特化せず、演劇や映画、舞踏、音楽などジャンルを超えた綜合的な芸術センターをめざしている。そのコンセプトでこの空間を見れば、創意工夫しだいでさまざまな使い方が可能であり、なにより来館者が楽しめる空間であろう。落ち着く空間というより刺激的な空間である。なお当日、奈良美智氏制作の高さ8.5メートルもある巨大な作品の命名式があった。作家自身がつけた名前は「あおもり犬(けん)」。この「あおもり犬」君、建物の周囲に掘られたトレンチの一隅に鎮座していて、館内からしか見えない。この場所は作者自身が選んだようだが、美術館のシンボルになりうる作品が遠くから目立たないのは、もったいない気がする。
 青森県立美術館は2006年7月13日<シャガール:「アレコ」とアメリカ亡命時代>展で開館するが、それ以前に演劇、舞踏、映画の催しが組まれている。なかでも太宰治の作品を演劇化した『津軽』は、美術館の空間に五つの舞台をしつらえて演じられる上演時間6時間という大作だ。美術館の空間全体を使うのは、開館前のこの時期にしかできない試みで、たいへん興味をそそられる。

会期と内容
●青森県立美術館プレイベント 県民参加型演劇『津軽』
会場:青森県立美術館 青森市大字安田字近野185
日時:2005年12月3日(土)、4日(日)、10日(土)、11日(日) 
いずれも11:00〜17:00
問い合わせ:県民参加型演劇津軽制作実行委員会(青森県文化振興課内)
Tel. 017-734-9237 Fax. 017-734-8063
●青森県立美術館プレイベント 韓国映画祭「究極の韓流!!」
会場:青森県立美術館
日時:2005年12月17日(土)、18日(日)いずれも10:00〜
問い合わせ:韓国映画上映実行委員会事務局(青森県文化観光部文化振興課内)
青森市長島1-1-1 TEL.017-734-9923 FAX.017-734-8063
e-mail bunka@pref.aomori.lg.jp

学芸員レポート
 ミュージアムの指定管理者制度を考える研究会が、10月27日福島県立美術館で開かれた。これは9月のレポートでお伝えした郡山市での研究会の続編で、前回は指定管理者制度を導入しているか導入が決定しているミュージアムの館長や学芸員のお話を聞いたので、今回は現に指定管理者となっている企業のお話を聴こうという趣旨である。講演者はサントリーパブリシティサービス株式会社(SPS)代表取締役社長の勝田哲司氏と、乃村工藝のシンクタンクである文化環境研究所所長の高橋信裕氏の二人。SPSは今年4月から島根県立美術館の指定管理者になっており、また乃村工藝は11月開館の長崎歴史文化博物館の指定管理者である。お二人とも限られた時間の中で的確に業務の形態、内容、課題等を説明してくれた。とりわけ印象深かったのは、勝田氏のお話しの中で、館内でのコンフリクト(衝突)はあるが、対抗しながらもお互いが美術館の使命を実現するために努力すればよいと思うと言われたことである。組織内部での対立をおそれて徹底した議論を避ける傾向を鋭く批判したものと受けとめた。
 平日にもかかわらず、東北各地だけではなく、茨城、新潟、東京、愛知などからも合わせて80名を超える参加者があり、この問題がミュージアム関係者の目下の関心事であることが窺える。ただ主催者としては学生の参加がなかったことは残念だった。指定管理者制度と学芸職員採用の展望など、学芸員志望の学生に関わる話題も出たのだが。
[いとう きょう]
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