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学芸員レポート
福島/伊藤匡東京/住友文彦東京/南雄介|豊田/能勢陽子|福岡/山口洋三
「愉しき家」愛知県美術館
豊田/豊田市美術館 能勢陽子
塩田千春 《窓の家:第三の皮膚》 2005
「第3回福岡アジア美術トリエンナーレ2005」福岡アジア美術館での展示

 「愉しき家」と名付けられた本展に出品されている国内外の17人の作家の作品は、家族の団欒や幸福を感じさせるものばかりではなく、むしろそのタイトルが反語的に響いてくるものも多くあった。最初に眼にする塩田千春の壊れやすく透過性のあるガラス窓でできた《窓の家:第三の皮膚》は、自らを守ってくれるのではなく、むしろ剥き出しにしてしまうような危うさを感じさせるし、小林孝亘の日常的なひとコマを描いた絵画にあるのは、白々とした静寂である。乃美希久子のクッションがのしかかった屋根、ぐにゃりと歪んだ畳の家も、心地よさと同時に不気味さを漂わせている。家という造形や、家族、社会を含んだ構造により想起させられるのは、フロイトによる家族間のセクシャリティの問題や、ジェンダーによる家父長制の問題、公と私をめぐる政治学、引きこもりなどの社会現象など、多岐に渡る。この「愉しき家」というタイトルは、ある場合には肯定的に、ある場合には反語的に響いてくることで、家に付いての一筋縄ではいかない多様な側面を示しているようである。
小林のりお 「デジタル・キッチン」
小林のりお 「デジタル・キッチン」シリーズより、2005
  本展で特に関心をそそられたのは、小林のりおの《デジタル・キッチン》である。本作は、キッチンで朝、昼、夕と食事の支度をする妻の姿を、インターネット上で日々更新していくものである。家の形をしているとはいえ、美術作品であれば実際に人の家を覗き見しているような気にはなかなかならない。しかし、撮られている当人ももはやそのことを気にしている風でない本作は、日々どこかの家で繰り返されている他愛のない日常を覗き見しているような気にさせられる。キッチンの女性の姿というと、日々の単調な生活、家に閉じ込められた女性といったクリシェを思い起こしてしまいそうだが、ここに登場する作家の妻にはそうした悲惨さは一切感じられない。むしろその小さなスペースでは、日々いろんな出来事が起こっているのだということを、何の衒いもなく知らせてくれるのが小気味よい。
 そしてもう一人、美術館という展示場所を活かした大転覆を果たしたのが、西野達である。西野は常設展示室の一角にキッチンを作り、その中に館所蔵のピカソを設置した。そのキッチンは、80・90年代風のどこかチープなプラスティック製品に溢れるキッチンである。その中で私たちは、妙にリラックスしながらピカソに向き合うことになる。名画がどこにでもある台所に飾られているという違和感、いやもしかして案外ピカソはその場にそぐっているのかもしれない。そうした堂々巡りを始めたとき、私たちはこれまでの認識を疑い始めるのである。
 本展は、不安定で、脆く、構造的なお仕着せを生むことにもなる家というものを認識しながら、リロケーションやシステムの転換により、新たな家のあり方を模索する方向へと意識を向けさせてくれるものであった。

会期と内容
●「愉しき家」
会場:愛知県美術館(愛知芸術文化センター10階)
愛知県名古屋市東区東桜1-13-2 
TEL. 052-971-5511(代)
会期:2006年8月4日(金)〜10月1日(日)
開館時間:10:00〜18:00 金曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
※ただし9月18日(月・祝)は開館、翌日9月19日(火)が休館

[のせ ようこ]
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