REPORT

150周年の取り組み

人口減少や生成AIの進展、地政学リスクなど、企業を取り巻く環境は大きく変化しています。先行きが見通しにくい時代に、100年以上にわたり事業を続け、成長・発展してきた企業は、何を守り、何を変えてきたのでしょうか。

創業150周年を迎えたDNPは、創業100年以上、売上100億円以上の企業を対象に「長寿企業に関する経営意識調査」を実施し、314社から回答を得ました。単に長く存続してきた企業ではなく、社会や市場が大きく変化する中でも事業を継続し、一定の規模まで成長してきた企業に着目し、事業継続の要因、受け継いできた理念や強み、顧客との関係、組織文化、危機への対応などを多角的に分析しています。結果から見えてきたのは、長寿企業が伝統や既存の事業をそのまま維持してきたのではなく、企業としての軸を受け継ぎながら、環境に応じて事業や組織のあり方を変え続けてきたことでした。

本調査データから、長期にわたる「持続」と「成長」を支えてきた企業の強みと、これからの経営へのヒントを読み解きます。

調査概要

本調査では、創業100年以上に加えて、売上高100億円以上の企業を対象としました。単に「長く続いている企業」ではなく、「社会や市場が大きく変化する中でも事業を継続し、一定の規模まで成長・発展してきた企業」に着目した点が、本調査の特徴です。

100年以上という時間の中で、何を強みとして受け継ぎ、何を変え、新たな成長につなげてきたのか。「持続」と「成長」を両立してきた企業の経営を、314社のデータから読み解きます。

1.長寿を支えた「変化への対応」
46.6%が「事業内容・構成の見直し」を継続要因に

企業が100年以上にわたって事業を継続するには、長年かけて築いたブランドや信用、安定した顧客基盤が重要です。一方、社会や市場が大きく変化する中では、これまでの事業の形を見直し、新たな環境に適応する力も必要です。そこで調査では、長寿企業が自社の事業継続の要因をどのように捉えているのかを確認しました。

「100年以上、事業を継続できた理由」として最も多かったのは、「時代や環境変化に合わせた事業内容・構成の見直し」の46.6%で、「ブランド力・企業としての信頼性」の37.9%、「安定した顧客基盤」の34.7%を上回っていました。注目したいのは、長寿企業自身が、築いてきたブランドや顧客基盤といった強みだけでなく、環境に応じて事業を変えてきたことを継続の主要因として挙げていることです。長寿企業は「変わらなかった企業」ではなく、長年培った強みを土台に、自らを変え続けてきた企業だと捉えることができます。

見直したのは「人材」「市場」「販売方法」、守ったのは理念

それでは、時代や環境変化に対応するため、長寿企業は具体的に何を変え、何を変えずにきたのでしょうか。

「変化させたもの」に対して多く挙げられたのが、「社員に求めるスキル、経験、資質、価値観」「市場・ターゲット顧客」でした。事業を担う人材や価値を届ける相手、その届け方を、環境に合わせて更新してきたことがわかります。

一方、「変化させなかったもの」として最も多かったのが、「社是・社訓・経営理念」でした。このことから、長寿企業は、企業としての価値観を維持しながら、人材や市場、価値の届け方は変えてきたことがわかります。「何を守り、何を変えるか」を見極めることが、長期にわたる変化への対応を支えてきたと考えられます。

成長企業ほど、理念を日々の業務や判断に活用している

理念を受け継ぐことは、多くの成長企業に共通しており、本調査でも回答企業の約8割が、創業時の理念や価値観を現在まで受け継いでいることが確認されました。

ただ、その理念が現在の経営にどのように活かされているかについては、企業によって違いがあるはずです。そこで、直近5年間の業績をもとに、回答企業を成長企業と停滞企業に分け、理念やビジョンの浸透状況を比較しました。

「理念やビジョンが日々の業務や判断に結びついている」と回答した企業は、停滞企業よりも成長企業で多く見られる結果となりました。この結果からは、理念はただ受け継ぐだけでなく、日々の判断に活かしてこそ、変化の中でも自社らしさを保つ軸になることがうかがえます。変わらない軸を持ちながら、変えるべきものは変える。長寿企業が培ってきたこの力は、その先の成長を考える上でも重要な示唆を与えてくれます。

2.競争力の基盤は「顧客との信頼」
66.5%が顧客基盤・信頼関係を強みに

環境の変化に対応しながら事業を継続するには、その基盤となる自社の強みが必要です。そこで、長寿企業が自社の競争力をどのように捉えているのかを確認しました。

「会社の強み」として、最も多く挙げられたのは、「強固な顧客基盤・顧客との信頼関係」でした。「技術力・ノウハウ」の35.1%、「営業力」の31.0%を大きく上回っています。

長寿企業が強みと捉えているのは、製品や技術そのものだけではありません。それらを通じて長い時間をかけて築いてきた顧客との信頼もまた、簡単には模倣できない競争力になっていることがうかがえます。

79.8%が創業時の強みを維持・発展

では、長寿企業が持つこうした強みは、創業時からどのように変化してきたのでしょうか。

企業の強みの変化について尋ねたところ、「創業時の強みを基盤に、現在は内容や形を変えながら発展している」が61.9%で最も多く、「創業時から現在まで、強みはほぼ変わっていない」が17.9%でした。両者を合わせると、約8割の長寿企業が、創業時の強みを受け継ぎながら、その内容や形を時代に合わせて発展させてきたことがわかります。

42.5%が顧客課題をイノベーションの原動力に

強みを発展させ、新しい事業や製品・サービスを生み出す上では、変化の起点をどこに置くかも重要です。そこで、イノベーションを生み出し続けられる原動力についても尋ねました。

最も多かった回答は、「顧客ニーズや顧客課題」の42.5%でした。「トップのビジョン発信」の34.8%、「現状に対する問題意識・危機感」の31.9%がこれに続いています。

ここから見えてくるのは、変革を動かす二つの力です。一つは、顧客との接点から変化の兆しや新たな課題を捉える力。顧客課題に対して自社の技術やノウハウを活用し、解決策を形にすることが、新しい事業や製品・サービスの創出につながってきたと考えられます。もう一つは、経営トップが危機感を持ち、進むべき方向を示す力です。顧客から「変化の兆し」をつかみ、トップが「次にどこへ向かうのか」を示す。この両輪が、長寿企業が変革を続ける原動力になってきたと考えられます。

成長企業の約70%が対話・協創を重視

顧客との関係が強みやイノベーションの起点となっているのであれば、その関係の築き方にも、企業の成長に影響を与えると考えられます。

そこで、顧客や取引先、外部パートナーとの対話・協創を重視しているかについて、成長企業と停滞企業を比較しました。

対話・協創を重視している企業は、成長企業では約70%、停滞企業では約50%となりました。成長企業では、顧客を製品・サービスの販売先としてだけでなく、変化の兆しや新たな課題を捉え、新しい価値を共につくる相手として捉える傾向が見られます。

長い時間をかけて築いた「信頼」を、対話を通じて「協創」へと発展させる。顧客との関係を、現在の事業を支える基盤だけでなく、次の成長機会を見つける接点として活かすことも、持続的な成長への一つのヒントだと考えられます。

3. 長寿企業を6つの経営タイプに分類
アンケートから長寿企業の経営スタイルを分類

次に経営実態に関する20項目の回答をもとに、長寿企業の経営タイプを分析しました。

まず因子分析によって、回答の背後にある経営上の特徴を整理し、次にクラスター分析によって、その特徴の表れ方が似ている企業をグループに分類しました。

分析の結果、長寿企業の経営スタイルには、特徴の異なる6つのタイプが浮かび上がりました。それぞれの特徴をもとに、「理念・挑戦型」「行動・成果型」「職人・慎重型」「自律・分散型」「統制・堅実型」「独自価値・安定型」と名付けました。

興味深いのは、100年以上続く企業であっても、その経営のあり方は一様ではないことです。理念を軸に挑戦する企業もあれば、行動や成果を重視する企業、堅実な運営や独自の価値を強みとする企業もあります。

この結果から、100年以上続くための経営スタイルに、一つの「正解」があるわけではないことが見えてきます。それぞれの企業が、長い時間をかけて培ってきた強みを生かしながら、自社なりの「経営の型」を築いてきたと考えられます。

6つのタイプは、自社の強みや経営の特徴を見つめ直す「鏡」として捉えることができます。自社は何を強みにしているのか、ほかのタイプとの違いはどこにあるのか。自社の現在地を知ることが、次の成長に何を活かし、何を取り入れるかを考えるきっかけになります。

DNP、サッポロビール、東レは異なるタイプに

今回の調査結果の発表に合わせて行われたトークセッションでは、DNP、サッポロビール、東レについても、それぞれの回答をもとに経営タイプが示されました。

「長寿企業のDNAから、企業の持続的成長の秘訣を考える」に関するレポートはこちら

DNPは、理念を軸に新たな挑戦を重視する「理念・挑戦型」。サッポロビールは、行動や成果を重視する「行動・成果型」。東レは、組織的な統制と堅実な運営を特徴とする「統制・堅実型」でした。

同じ長寿企業でも、経営スタイルは1つではないことがわかります。

4.成長企業に共通する
組織文化とは?
「理念・挑戦型」の73.6%が伸長傾向

ここまでで、長寿企業に共通する経営スタイルは複数あり、それぞれ異なる特徴を持っていることがわかりました。では、「企業の成長」という観点では、タイプによってどのような違いが見られるのでしょうか。

6つのタイプごとに直近5年間の業績を比較したところ、伸長傾向にある企業の割合が最も高かったのは「理念・挑戦型」で、73.6%でした。「行動・成果型」も67.4%となり、いずれも約7割を占めています。

なお、この結果は、特定のタイプがほかよりも優れていることを示すものではありません。どのタイプにも成長している企業は含まれています。

その上で、成長傾向が高かった「理念・挑戦型」と「行動・成果型」の共通点を分析すると、3つの特徴が確認されました。

共通点1 新しい取組みや異なる方法への挑戦を評価している

一つ目は、新しい取組みや従来とは異なる方法への挑戦を前向きに評価していることです。

新しい事業や業務改善は、必ずしも短期間で成果が出るとは限りません。「結果だけでなく、新たな方法を試す行動そのものを評価すること」が、社員が次の挑戦へ進みやすい環境につながっていると考えられます。

共通点2 小さな試行や実験を日常的に継続している

二つ目は、小さな試行や実験を日常的に行っていることです。

「理念・挑戦型」と「行動・成果型」では、いずれも6割以上が「小さな試行が日常的に行われている」と回答しました。企業の変革は、必ずしも大きな改革から生まれるとは限りません。「継続的に日々の業務の中で小さく試し続けること」が、環境変化への対応力に繋がっていると考えられます。

共通点3 失敗を次の改善や判断に活用している

三つ目は、失敗や想定外の結果から得た知見を、次の改善や判断に活かしていることです。

「理念・挑戦型」と「行動・成果型」では、いずれも8割以上が「失敗や想定外の結果が生じた場合でも、その経験を次の改善や判断に活かそうとしている」と回答しました。

新しい取組みには、期待した成果が得られない可能性も伴います。失敗を避けることだけを重視するのではなく、原因を検証し、得られた知見を次の試行に反映することが、組織としての学習につながります。

成長傾向の高い企業では、「挑戦を評価し、小さく試し、その結果から学ぶ」という循環が、日常的な組織文化として形成されていることがわかります。

5.危機の種類に応じて選択された「攻め」と「守り」
危機を乗り越える上で重視された経営者のリーダーシップ

100年以上にわたって事業を継続してきた企業は、戦争や自然災害、感染症、景気後退、技術革新、市場構造の変化、事故、不祥事など、さまざまな危機を経験しています。では、そのたびに何を判断し、危機を乗り越えてきたのでしょうか。

「危機を乗り越える上で重要だった要因」として最も多く挙げられたのは「経営者のリーダーシップ」でした。また、「新事業領域への進出・多角化」や「不採算事業からの縮小・撤退」など、事業構成の見直しに関する項目も上位となっています。危機の中で求められたのは、現状を守ることだけではありませんでした。何を守り、何を見直し、次にどこへ経営資源を振り向けるのか。経営者がその方向性を判断し、組織を動かすことが、危機を乗り越える重要な力になってきたことがうかがえます。

危機の種類によって異なる、事業継続のための打ち手

さらに、企業の存続に重大な影響を与えた出来事と、危機を乗り越える上で重要だった要因を組み合わせて分析すると、危機の種類によって選ばれた打ち手が異なることがわかりました。

技術革新や市場・顧客行動の変化、主力事業の競争力低下に対しては、「新事業領域への進出・多角化」や「不採算事業からの縮小・撤退」が多く挙げられています。市場構造が変化する局面では、新たな成長領域を開拓すると同時に、既存事業の見直しを進めてきたことがわかります。

一方、供給網や需要側の問題に対しては、調達先の見直しや関係強化、新規顧客の開拓など、取引先や販売先を組み替える対応が重視されました。品質・コンプライアンス上の問題や事故、不祥事といった経営内部の危機では、情報開示や説明による信頼回復、金融機関との関係構築が重要な要因として挙げられています。

この結果から、長寿企業は危機に対して一律の対応を取るのではなく、市場の変化には事業の転換、供給や需要の問題には取引構造の見直し、内部の問題には信頼回復というように、危機の性質に応じて打ち手を選択してきたことがわかります。ここから見えてくるのは、長寿企業のレジリエンスとは、環境が変わったときに、自らも変わることができる力だということです。

会社を将来につなぐためには、これまで会社を支えてきた事業や成功モデルであっても、時には見直す必要があります。「会社を守ること」と「今の事業を守ること」は、必ずしも同じではない。100年以上の歴史は、必要なときに「守るために変わる」という判断を積み重ねてきた結果とも考えられます。

まとめ 調査データから見えた長寿企業のDNA

今回の調査から見えてきたのは、長寿企業が、伝統や既存の事業を守り続けるだけで存続してきたわけではないということです。

100年以上続く企業だからといって、100年先の未来を見通せていたわけではありません。その時々の社会や顧客の変化に向き合い、「何を守り、何を変えるのか」を判断し続けてきた。その積み重ねが、100年を超える持続と成長につながってきたと考えられます。

長い歴史の中で培ってきた理念や強み、顧客との信頼、経験は、これからの変化にも活かせる大切な「経営資産」です。これまで培ってきたものを、これからをつくる力へ。長寿企業の歩みからは、自社らしい強みを活かしながら、次の成長へ踏み出すためのヒントが見えてきます。