あたりまえホンネトーク #04 かっこいいことばかりじゃない新規事業開発術

ABセンター
デジタルトラスト事業開発ユニット
新規事業開発部
佐藤 英吾
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デジタルトラスト事業開発ユニット
データビジネス推進部
岡本 凜太郎

「あらゆる人・モノ・データ・AIを、安心してつなぐ“社会の信頼基盤”になる」というビジョンを掲げるこの部署で、新規事業の開発に奮闘する佐藤英吾と岡本凜太郎。華やかに見られがちな業界だが、その道のりはなかなかほろ苦い。事業を何度もクローズした佐藤、社内のビジネスコンテストに4回連続で落ちた岡本。2回以上起業に成功する人を「連続起業家」と呼ぶならば、さしずめ佐藤は「連続撤退家」で岡本は「連続落選家」だ。それでも何度だって打席に立つ2人の思いとは? かっこいいことばかりじゃない、新規事業開発の裏話。

ABセンター デジタルトラスト事業開発ユニット
新規事業開発部、データビジネス推進部の2人。

佐藤 英吾(さとう えいご)

2020年キャリア入社。情報銀行事業の立ち上げや社内新規事業プログラムの設計・運営に携わる。2025年度には自ら起案したアイデアでプロジェクトの立ち上げに成功。現在は部長として、次の新規事業の芽をせっせと育てている。

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岡本 凜太郎(おかもと りんたろう)

2017年入社。福岡で営業職を経験し、社内の新規事業のビジネスコンテストに5度挑戦。自身の個人情報が漏洩されてしまった実体験から分散型ID事業を着想し見事、事業化へ。国際コンソーシアム設立にも携わり、2026年4月からリーダーとしてチームを牽引。

ただならぬ新規事業への意欲

佐藤岡本さんは、新規事業を立ち上げるために社内のビジネスコンテスト(ビジコン)に何度も挑戦したと聞きました。

岡本4回続けて落ちました(笑)。入社2年目の頃からずっと応募していたんです。

佐藤そもそもどうして新規事業への意欲がそんなに高かったの?

岡本最初の配属が福岡の営業所だったことが大きかったかも。東京で企画の仕事をしたくてDNPに入ったので正直最初は凹みました。

佐藤希望とは違う配属かあ。

岡本でも福岡は想像していた感じと違いました。地方では、東京中心でつくられた製品やサービスがそのままでは売れないこともよくあり、福岡のメンバーは「だったら自分たちで新しいものを考えよう」という人が多くて。そんな中で「自分も」という気持ちになりました。

佐藤最初に出したアイデアは何だったの?

岡本「買い物プラットフォーム」というもので、スーパーに行く人が買い物に行けない近所の人の分も買ってきてあげる、というマッチングサービスです。

佐藤すごい。今っぽいアイデア!

岡本一次審査を通って東京で発表したら、審査員から「見知らぬ他人に買い物を頼むなんて気持ち悪い」って。

佐藤10年近く前か。早すぎたのかなあ。

岡本1年近くかけて資料をつくっていたので落ち込みました。でも、また次の年からも出し続けて。

佐藤4回目の案は、選考もかなりいいところまで進んだんだよね。

岡本「没入感のある買い物体験」というアイデアでした。リアルな大型のボックスに生活者が入ると中は全面スクリーンで、別世界に行ったような買い物体験ができる。プロトタイプもつくってイベントにも出して、「これはいけるぞ」と。

佐藤そこからが大変だった?

岡本一次審査は通って予算もついたんですが、予算を使おうとするたびに詳しい説明が必要で、説明してコメントをもらっていくうちにアイデアの形が変わっていって。

佐藤最初にやりたかったものと違ってくるやつだ。

岡本そうなんです。ワクワクする買い物体験をつくりたかったはずなのに、だんだん社会課題に関連した買い物難民の話になっていきました。もちろんそれも大切なんですけど、最初に思い描いたものからは随分違ってしまった。

佐藤それで、クローズに……。

岡本いろいろとやりようを考えたのですが、全部行き詰まりました。最終的には、このアイデアはこれ以上進められない、と決断しました。

佐藤そっかあ。

岡本その後も普通に会社に来て、いつも通り仕事してました。いつも通りの仕事があったから逆によかったのかも。

佐藤わかる。そういうの、あるよね。

岡本後から上長に「あの頃、げっそり痩せていたよ」と言われました(笑)。自分では気づいていなかったんですけどね。

今日も感情がジェットコースター!

岡本

岡本佐藤さんも、いくつか撤退の経験を持っているんですよね。

佐藤私の経歴には撤退の文字が並んでいます(笑)。

岡本尊敬します(笑)。

佐藤本業をやりながら社内の新規事業プログラムに手を挙げ、通った案件が2件。でもどちらも事業化の手前で断念しました。

岡本2件とも!

佐藤私は人の心にすごく興味があって、1件は、毎日自分の気持ちを言語化することで少し楽になったり、自己肯定感を上げたりするメンタルヘルス系アプリ。もう1件は、中学受験をするお子さんがいる家庭向けのサービス。合否の裏側で苦しくなる親子関係や、追い詰められる子どもや親をなんとか支援できないかと考えていました。

岡本どっちも佐藤さんらしいですね。需要も多そうです。

佐藤選考を通ったり、「いいね」「ほしい」と言われると、その瞬間は自信が湧くんです。でも別の人には「これって誰がお金払うんですか?」「僕は要りません」と言われる。すると自信がしぼんでいっちゃう。

岡本わかります。毎日、上がったり下がったり。

佐藤そう、感情が忙しい。でもそんな状態もだんだん“あたりまえ”になっていくんですけどね(笑)。

岡本確かに、ぼくらの領域では“あたりまえ”の光景かもしれないですね(笑)。

佐藤中学受験の支援は、身近な方々からの反応は良かったけどビジネスモデルとして教育産業に「なくてはならないもの」になりきれなかった。“Must Have”をつかめなかったんです。

岡本ほしい人と、お金を払う人が違う。

佐藤そこが難しい! 当時は教育というテーマに気持ちがかなり向いていて、個人的に思い入れもあったので、実現したかったんだけどな。

岡本クローズした瞬間って、どんな感じでしたか?

佐藤もうリベンジできないんだっていう喪失感かな。続けてさえいれば、また新しいヒントやチャンスを掴めるかもしれない。でもクローズすると可能性ごと途絶えちゃうからね。

岡本あぁ〜。

佐藤長い間息をするように考えていたものがなくなって、さすがに2〜3日はポッカリ穴が開いたみたいにボーッとしてました(笑)。

給湯室生まれの新規事業?

佐藤

佐藤社内ビジコンに4回落ちた後、岡本さんはもう応募しないつもりだったんだよね。

岡本はい、通常業務に集中しようと。ところが実行委員の方が福岡に出張で来て、雑談してる中で「あれ?今年は出さないの?」と。

佐藤軽い(笑)。

岡本「待ってるよ」って。すごく無責任な発言だと思いました(笑)。でもちょうどその頃、あるアプリから何十万人もの個人情報が流出する事件があり、自分もそのアプリを使っていて情報を流出された一人だったんですよね。その怒りを「個人情報を守りたい」という強い思いに変えて、提案にしたんです。締め切りまで1週間くらいでした。

佐藤多少粗くても、勢いがあったんだね。

岡本審査委員長から「中身はともかく、熱量がすごい」と言われました(笑)。そこから社内の専門的な知見を持つ方々に助けていただき、分散型ID事業として具体化していきました。

佐藤それが今につながってるんだ。

岡本「事業開発を行う部署に異動してそれを事業として形にするように」という辞令をもらい、今に至ります。佐藤さんの今の案件も、偶然がきっかけだったんですよね?

佐藤今進めているアイデアは、給湯室生まれ(笑)。

岡本え、あの25階の給湯室?

佐藤コップを洗ってたらたまたま総務部長が来て、そこで話した何気ない雑談をヒントにアイデアを具体化してみたら書類審査に通って、形を変えながら事業化に向けて進んでます。

岡本きっかけは、たまたまだったんですね。

佐藤そう。でも、そのアイデアは自分の原体験にはまったんだよね。それは必要だと強く思えたから熱中できた。 “Why Us”があったからこそ打席に立てた。何度も進めてはクローズしてきた経験も、小さなアイデアを形にする手法として自分の“あたりまえ”になっていた気がします。

岡本たまたまのひと言というボールを、打ち返せる状態になっていた。

佐藤何度も打席に立っていると、空振りでも少しずつスイングの型ができてくる、みたいな感覚かなあ。

ちゃんとめげて、ちゃんとめげない

佐藤、岡本

岡本新規事業を起こせる人って、どんな人だと思いますか? めげない人か、めげる人か。あきらめが悪い人か、きっぱりあきらめられる人か。

佐藤その両極端を持っている人だと思います。

岡本どちらか一つでは足りない?

佐藤「これだけはゆずれない」がないと、「そんなの要らない」と言われた瞬間に折れちゃうから。一方でこだわりすぎてもいけない。せっかくいいフィードバックをもらっても「絶対にこれが正しい」と言い張ってたら、良くなるものも良くならないよね。それこそ“あたりまえ”かもしれないけど。

岡本ピボットする、という言葉もありますね。
*ピボット:軸足はそのままに、もう一方の足を動かして方向を変える、スポーツの動作から生まれたビジネス用語。

佐藤時にはちゃんとめげたり、あきらめたりしながらも、軸になるところではめげない、あきらめない。その両方が必要だと思うなあ。

岡本私の場合は、自分が“何もできない人”だったことが大きいと思ってます。

佐藤ほう、興味深い!

岡本分散型IDの事業化を始めた当時、まだ入社5年目くらいで知識も経験もありませんでした。だからいろんな人が助けてくれたんです。

佐藤それは、岡本さんの巻き込む力でもあるよ!

岡本そう言ってもらえると嬉しいです(笑)。もし、自分はできるんだ、自分でやるんだと思っていたら、今はなかったかもしれません。自分より優れた人は大勢いるので、助けてもらう、一緒にやってもらうことが私にとっては大事でした。DNPには挑戦をサポートしてくれる人がいて環境がある。それが“あたりまえ”の会社であることが大きかったです。

心震える瞬間を求めて、ぼくらは今日も打席に立つ

佐藤、岡本

岡本佐藤さんは本当に次々と新しいことに挑んで、楽しそうに見えます。

佐藤実は35歳頃までは、仕事が全然楽しくなかったの。

岡本そうなんですか!?

佐藤だけど新規事業の立ち上げに携わるようになってガラッと変わって、仕事が楽しいと思えるようになりました。今、私は「仕事は楽しい」をみんなの“あたりまえ”にしたいと思っていて。

岡本素敵ですね。佐藤さんならではって感じがします。

佐藤仕事する時間って人生の中でやっぱり長いから、その中に少しでも感情が動いて「楽しい」と思える瞬間があったほうがいい。楽しくなかった時期と楽しい時期、両方を知っているからできることがあると思ってます。

岡本楽しいって、難しい言葉ですね。私も今の仕事が楽しいかと言われると、少し考えます。知的好奇心を刺激されて、“おもしろい”とは思いますね。

佐藤うん、“おもしろい”でもいいと思うし、“心が震える”でもいいかもしれない。以前はスポーツや映画で感動して震えることはあっても、仕事で震える瞬間ってなかった。でも今は、少しだけど、そんな瞬間があるんだよね。

岡本すごく共感します。新規事業では、それまでやってきたことがある日全部つながる瞬間があって、「以前の経験が、今ここにつながった」とわかったときは、もう鳥肌が立つような感じです。

佐藤そんな震える瞬間を求めて、また次の打席に立つのかもしれないね。

岡本そうですね。私がつくりたい新しい“あたりまえ”は、オンラインでも「DNPがここにいる」という安心感です。ICカードなどで財布の中の安全・安心を支えてきたDNPが、デジタルの世界でも“あたりまえ”に安全・安心を支えている。国内でもグローバルでも、それを“あたりまえ”にしたいです。

佐藤いいね、いいね。落選したアイデアも、撤退した事業も、その時は終わってしまったように見えるけど、どこかでそうした“未来のあたりまえ”につながっているんだよね、きっと。

岡本そう信じて、一緒に頑張りましょう!