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掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
言葉がさらさら落ちていく──ウェッブ・アート
歌田明弘
 今年も2月末から3月始めにかけて、文化庁メディア芸術祭が開かれ、受賞作が展示された。デジタルアートの作品はこれまでインタラクティブとノンインタラクティブに分けられ、アニメーション、マンガとあわせて4部門で構成されていたが、平成15年度からはアート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門に編成替えされた。デジタルアートでインタラクティブかノンインタラクティブかということは本質的な違いというよりスタイルの違いぐらいの問題だろう。新しい分け方でも、アートとエンターテインメントの境目がつねにはっきりしているとはかぎらないし、アニメやマンガはエンターテインメントではないのかとか言い出したらきりはないが、アートを育成するということであれば、多額の資金が投じられることの多いエンターテインメント作品とともかく分離するのは妥当な判断かもしれない。

 新設されたエンターテインメント部門は、ゲーム、Web、VFX(映像)、キャラクター、遊具その他とのことだが、やはり大手メーカーが作るゲームが圧倒的な強みを発揮し、《ファイナルファンタジー・クリスタル クロニクル》が大賞を受賞している。
 アート部門では、優秀賞の橋本典久《パノラマボールとゼログラフ》がおもしろかった。「パノラマボール」というのは写真を球体に貼り付けただけ、とも言えるのだが、実際に作品を見ると、日常見慣れたはずの風景が宇宙的な広がりをもって感じられてくるから不思議である。「ゼログラフ」のほうは円形に囲まれた空のなかに大地がぽっかり浮いている写真で、こちらもこれまで体験したことのない浮遊感を味わわせてくれる。橋本のサイトでそれぞれの作品を詳しく見ることができる。
 イタリア生まれでロサンジェルス在住の女性アーティスト、シルビア・リゴンの《Venus Villosa》は女性の胸の形をしたゴム状の透明なオブジェに触れると、女性の裸体がみるみるうちに毛に覆われていくというもので、サイバーフェミニズム的感覚にあふれた作品になっている。こちらはメディア芸術祭のサイトでビデオ映像を見ることができる。

 芸術祭の会期は終わってしまったが、受賞作だけでなく審査委員会推薦作品も含めて「オリジナル」を見れる作品群がある。いうまでもなくウェッブ作品だ。推薦作品と優秀賞あわせて13作品を一通り見てみた。日本の作品はひと言でいって「俳句風味」とでもいうか小粒で日常的でありながらユーモアを感じさせるものが多く、海外の作品は作り込まれた濃厚なものが多いと色分けがはっきりしている。
 優秀賞となった《スリー》は3人の女性の物語をインタラクティヴに構成している作品。6枚のパネルの組み合わせで物語が変わるだけなのかと思ったら、できた物語をミックスさせて、ほかの人の物語にジャンプしたりもできる。そういったインタラクティヴ性も評価されたのだろうが、3人の女性たちがそれぞれ歩いていって展開される場面のリアルな背景と、イラスト感覚の絵の奇妙なアンバランスさが、異世界にさまよい入った感覚をよりいっそうかもしだし、この作品の魅力になっている。
 推薦作品のなかでおもしろかったものもいくつか紹介しよう。いずれもクリックひとつで「オリジナル」が見れるわけだから直接見ていただければと思う。「アート作品」としてのウェッブの水準がわかって興味深い。
 stanza《the central city (version 5 2003)》は情報空間と都市、有機体どれともつかぬ渾然とした世界がこれでもかというほど多様に繰り広げられる。圧倒的なボリュームをもった作品である。とてもすべてを見つくせなかったが、増殖していくビジョンを見ていると、都市とデジタル・ネットワークという二つの人工空間のなかで有機の身体をもった人間が生きている異様さが感じられてくる。
 Nicolas Clauss, Jean-Jeacques Birge, Didier Silhol《somnambules》はウェッブ上のダンス。エントランスを入ると見客のざわめきが聞こえてきて、まっくらな画面から劇場空間が現われる。somnambulesというタイトルどおり、ダンサーたちが夢遊病者のように踊っている。この作品を作ったのは、プロの振り付け師たちであるが、マウスの動きやクリックによって踊り方が変わるので、眺めているわれわれも振り付け師の役を担っていることになる。
 Francis Lam《Nudemessenger》は、クリックしてアクセスしていただければわかるとおり、小さな裸の男たちが走ってきて腰をふりながら人文字を作ったりいろいろなパフォーマンスをするというものだ。左下のメニューをクリックしてギャラリーを開けば、男たちの身体を使ったさまざまなメッセージを見ることができる。作者は、インターネットのポルノにインスパイアされてこれを作ったとのことだ。ウェッブ・サイトの12パーセントはポルノだそうで、それらの大半は男のために女性のヌードを載せているか、ゲイのためのサイトで、いずれも男たちによって作られたものだという。さらにポルノに関するスパム・メールも毎日送られてくる。ウェッブでは「あなたがポルノを探しているのではなくて、ポルノがあなたを探している」と作者は言い得て妙な指摘をしている。このコミカルなサイトは、こうした状況を風刺するために作ったものだそうだ。ヌードの男たちをアレンジしたEカードも送れるようになっているが、もらったほうはそうとうびっくりするだろう。
 akuvido - hanna kuts, viktor dovhalyuk《stadt sound station》も都市が現われるサイト。《the central city》のようにサイバーな都市ではなく、ビルが建ち並ぶもう少しリアルな都市である。アクセスした当初は寝静まっているかのように無表情な都市が、クリックしていくと救急車が走り、飛行機やヘリコプターが飛び、光や音が乱舞し、雪まで降ってくるにぎやかな街並みに変わる。
 Daniela Alina Plewe《GeneralNews──An Interactive Metabrowse》は、タイトルどおり「メタブラウザ」で、このサイトにあるウィンドウにurlを入れるか、あらかじめリストアップされているサイトにアクセスすると、バーが表示される。そのバーを動かすと、ウェッブ・ページの言葉が変換されて、サイトの文章の抽象度が変わる仕組みである。抽象度を変えられれば、ニュース記事を子どもにわかりやすいようにしたりもできる。実用のレベルにまでするのはたいへんそうだが、いずれはそうやってウェッブ・ページを変換して読みやすくしたりすることも一般化していくのかもしれない。
 ペイントワーク・エー《クリック・ピーポー》は、クリックすることによってにぎやかな都市になっていく《stadt sound station》の部屋版ともいえそうなサイトで、ベッドだとかトイレだとかの備品を増やし、人を呼びこんで部屋のなかで起こるアクションを楽しむ。
 エキソニモ《Natural Process》は、検索サイトのGoogleのページを模した絵画《A web page》の展示を生中継するというもの。《A web page》は前回取り上げた「六本木クロッシング」に展示されている。「[Webページがアナログ(絵画)に変換され]→[美術館にインストールされ]→[展覧会という場の空気を通して]→[再びデジタルに変換され]→[インターネットに送信される]、Webから来てWebに戻っていく、おそらく世界一遠回りなややこしいプロセス!!」と作者は言っている。
 宮田里枝子・緒方壽人《ことばの砂時計》は、メッセージを砂時計に入れてひっくり返すと、メッセージを構成する言葉がさらさら落ちていく。それだけのことだが、意味のある言葉が一語一語ばらばらになって落ちていく様子がユーモラスでもあり哀愁を誘いもする。詩心も起きるような、何ともいえぬ味わいがある。個人的には、今回見たウェッブ・アートのなかでもっとも惹かれる作品だった。
[ うただ あきひろ ]
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