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学芸員レポート
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「GUNDAM」展/「木村真由美展」/「森村泰昌展『フェルメールの部屋』」/「Hotel Pantaloon 居城純子+memento mori 展」
大阪/国立国際美術館 中井康之
森村泰昌《フェルメール研究》
《フェルメール研究――大きな物語は、小さな部屋の片隅に現れる》
居城純子+memento mori展DM
「Hotel Pantaloon 居城純子+memento mori展」DM
 暑気払いというわけでもないのだが、梅雨開けの週末に、大阪の楽園を求めて彷徨することを思いついた。というのは、或る日、或る作家から、Hotel Pantaloonという場所への誘いのハガキを受け取っていたからなのだが、その場所は、大阪(梅田)から私鉄で一駅という、とてもディープな場所だったので、さすがに昼間から足を踏み入れることは気が引け、先ずは大阪港へと足を向けた。そこではサントリー美術館で夏休み企画とも思われるような「ガンダム展」が始まっていたからである。
 いわゆる「ガンダム世代」というものが存在しているらしいのだが、残念ながら私はその世代より上の世代になるらしく、そのテーマ自体に感情移入することは難しく、またにわかにその物語を学ぶ勤勉さも持ち合わせていないため、本当にお客さん状態の軽い乗りでその場所に突入してしまった。「戦争/進化/生命/From Gundam」というテーマで区切られて展示されていたそれらの作品は、やはりどうしようもなく共通認識を持ち得ていない私のような観衆には距離がありすぎたようだ。現代美術と一般の美術愛好家との距離もこのようなものなのかもしれないとしたら……、と考えたときに思わず背筋が寒くなってきた。
 気を取り直して、そこから大阪地下鉄中央線で西へ向かい、少し不気味でエロティックな雰囲気を漂わせる写真作品をDMに用いていた「木村真由美展」が開催されているノマル・プロジェクトスペース キューブ&ロフトへと向かった。木村の、果物やウィッグ、ランジェリーなどを用いて女性の身体の部位を想像させる近作は、あるかたちを先入観によって見てしまう私たちの視覚認識に対する文化的ともいえないような自然なコードを穏やかに感じさせるものであり、ウェディング姿の人形を用いて様々舞台設定を用意して造り上げた女の子の変身願望を戯画化したような初期の写真作品シリーズと共に、特異な時間の流れを持ったロマンティックな世界を見せていた。また、併せて紹介していたヴィデオ作品は、そのようなロマン主義的な物語を身につけてしまっている私たちの思考回路自体が、欧米のドラマや映画といった大衆文化を通じて洗脳されていることを繰り返し語っているような内容で、写真作品とは異なり自己の存在の不確かさを繰り返し問い直しているような作品で興味深かった。
 そろそろ、最初の目的地であるHotelへ向かうつもりであったが、その前に人気のない都心部へ戻り、森村泰昌による「フェルメールの部屋」展を開催しているMEM Galleryに立ち寄ることにした。大阪の証券取引所がある北浜に位置しているその画廊がある建物は大正期に建てられた洋風建築で、舞台設定としては申し分ないものと思われた。というのは、その森村の個展で中心を為す作品《フェルメール研究――大きな物語は、小さな部屋の片隅に現れる》は、勤務先である国立国際美術館が移転した直後、未だ開館する前に展示空間の一部を用いて、森村がフェルメールの《画家のアトリエ(絵画芸術)》を演じてつくり出す過程をNHKが取材することになって制作されたわけであるが、地下3階で行われていたその出来事は、一夜の夢のような幽かな記憶となっていたからである。
 閑散とした真昼のビル街は少しシュルレアルな雰囲気を漂わせ、クラシックな雰囲気の漂うビル内の画廊空間に足を踏み入れると、森村が再現した《画家のアトリエ(絵画芸術)》の舞台設定である白と黒の大きな格子状の床上にイーゼルや椅子、テーブルなどが置かれあった。その空間に、言うなれば、森村の作品世界に、鑑賞者が入っていくような仕掛けになっているのである。暫くその空間に身を置いていると、突然に和服姿の三人の女性が現れて、その緊張した空間に心地よい不協和音を奏でた。真夏の真昼に夢を見ているような心地になった。
 いくつかの作品によって意識の中の時空が乱され、当初の目的であるHotel Pantaloonへと向かう気持ちの準備がようやくできた。私鉄に相互乗り入れしている地下鉄を利用し、大阪(梅田)駅から一駅のその駅に向かう。私が普段利用する路線では、各駅停車でさえ停まることのない(これは事実です)その駅は、先の案内状が届かなかったら降りることは決してなかった幻のような駅である。二人が交叉するのがやっとと思える細いプラットフォームを降りると、古びた立ち飲み屋が大きく構えた典型的な大阪の下町風景が現われる。案内図通りに歩を進めると、これも戦前から残っているような商店街が立ちはだかる。何となく予期していたことではあるが、今日は異次元のような場所へ足を踏み入れることが予め決められていたようだ。昂ぶる気持ちを抑えながらHotel Pantaloonの場所へ近づく。古い長屋と長屋の間に無機質でモダンな空間が現れた。どうやら其処らしい。
 入り口の横壁には、焼かれた絵画が掛かり、正面には画面の多くが剥落した風景画が展示されてあった。来る時期が遅かったのだろうか。しかし、よく見るとその剥落した部分の形がある方向性を持っている。恐る恐る作者に尋ねると、絵の両脇にカーテンを掛けたのは風を感じさせるためで、絵の剥落も、その風を見える形にしたものらしい。脇の小部屋にはライティング・デスクが置かれ、そこには日記が置かれてあった。会期中は作者がこのHotel Pantaloonに滞在している、ということなのだろう。日が傾きかけてきたのでここに腰を落ち着けて、その日記を少し読んでみようと思った。

会期と内容
「GUNDAM 来たるべき未来のために」
会期:2005年7月15日(金)〜8月31日(水)
休館:会期中無休
会場:サントリーミュージアム[天保山]
大阪市港区海岸通1-5-10 Tel. 06-6577-0001
●「Nomart Projects #03_02 木村真由美展」
会期:2005年7月16日(土)〜8月6日(土)
休館:日祝休み
会場:ノマル・プロジェクトスペース キューブ&ロフト
大阪市城東区永田3-5-22 Tel. 06-6967-1354
●「森村泰昌展『フェルメールの部屋』〜大きな物語は小さな部屋の片隅に現れる〜」
会期:2005年7月2日(土)〜7月30日(土)
休館:日祝休み
会場:MEM gallery 
大阪市中央区今橋2-1-1新井ビル4階 Tel. 06-6231-0338
●「Hotel Pantaloon 居城純子+memento mori 展」
会期:2005年7月1日(金)〜7月31日(日)
休館:月火休み
会場:PANTALOON 
大阪市北区中津3-17-14 Tel.06-6377-0648

学芸員レポート
 先頃、展覧会の打ち合わせ等のためにチューリヒ美術館を訪れた。そこでは「ジグマー・ポルケ展」を開催していて、巨大な作品が並んだ広い展示場に羨望と溜息をついたのだが、その巨大な作品をどのように搬入したのかを何気なく担当の学芸員に尋ねた。すると事も無げに、壁の一部を外してクレーンで搬入した、と答えるので、確かに本館(勝手にそう呼ばせてもらう)と違って新館(勝手にそう呼ばせてもらう)は新しくて機能的なのかと思い、この新しい展示施設はいつ増設されたのか尋ねると、50年ほど前、という回答が帰ってきた。それでは、この美術館ができたのはいつなのかを再び問うと200年前地元の作家たちによって美術館が設立されたのだという。全く無知をさらけ出してしまったわけだが、よく日本では美術館の設立に関して、ルーヴル型とMoMA型というように類型化して、その他というような分類をしてしまいがちだが、このような中規模の都市にこれだけの歴史に培われた美術館があることに、言葉を失った。観覧後にその学芸員バイス・クリガー氏に学芸員の仕事場に案内してもらったのだが、それはアール・ヌーヴォー様式の建築物一棟が学芸員棟のようになっていて、一人一部屋の広さはもとより、ラインの流れが臨めるようなロケーションには、もうなんとも、ある諦念を覚えるような感覚になった。
[なかい やすゆき]
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