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学芸員レポート
福島/伊藤匡|東京/住友文彦|豊田/能勢陽子福岡/山口洋三
「アート&テクノロジーの過去と未来 Possible Futures: Japanese postwar art and technology」展/「シュテファン・バルケンホール」展
東京/NTTインターコミュニケーション・センター(ICC) 住友文彦
 ここ2カ月ほど、自分の担当する展覧会を準備するために引きこもっていて、ほとんど他の展覧会を見に行けませんでした。ようやく先週無事オープンしましたが、この原稿を書いている時点では横トリも見にいっていないので、東京オペラシティタワー内の展示について二つ書くことにします。
 まず、「シュテファン・バルケンホール」展。この展覧会は大阪の国立国際美術館でも行なわれていましたが、今回は展示空間に応じた作品の設置や、新しくドローイングを加えた内容になっています。
 私はこの作家を知りませんでしたが、印刷物などで受けた印象とは違い、ほとんどがかなり荒々しく木が削られた痕を残した作品であるのに眼を惹かれました。それらは、建物などが描かれたレリーフ状の作品群が一見平面作品のように見えながらも実は立体的な厚みを持つことと同様に、見た目の質感が、視点の移動をともなう身体的な知覚の経験と重なり合いません。全体性をもった統一感に揺らぎが生じ、ほんの少し目眩さえ感じます。また、人物像が居並ぶ様子も、それぞれの個性が浮かび上がるのではなく、どこにでもいそうな人物像(作家は「ミスター・エヴリマン」と呼ぶらしい)であり、いわば現実の世界に具体的な対象を持たないゆえの浮遊感をおぼえるでしょう。
 ささくれだった木の表面に、私たちは古典的な作者の存在や、質量を持つ彫刻へのノスタルジーをかき立てられるかもしれませんが、これらが現代の社会で反復的に生産されているイメージとして眼の前に現出していると思える点が、この作家を興味深いものにしているのではないでしょうか。「誰でもありうる―ミスター・エヴリマン」とは、あらゆるものが交換可能なシミュラークル的世界に生きる私たちにほかならないからです。
 そして、チラシなどでも使用されている「エレファントマン」などハイブリッドな動物にも、あらゆるものの境界線が曖昧になっていくなかで、医療、工学、分類学などによって〈人間〉を定位させているものは何なのかを問う態度が透けてみえないでしょうか。
 ここまで書き進めてきて、もしかして、まったく違うと思われる、二つの展覧会がこういった情報化社会の進展を背景にして同じ視点から眺めることもできるかもしれないことに気付きました。
「アート&テクノロジーの過去と未来」展には、日本の戦後美術においてテクノロジーに関心を向けた作家たちが、近作までを含めると22組(一部展示替えあり)参加しています。実験工房や具体美術協会の作家から、現在30代の作家の作品までを一挙に概観できます。
 特に20世紀の美術は、現実の世界に対象物を持たなくなり、イメージの向こうに何かを見るのではなく、見るものとの関係性の中で作品を成立させてきました。それが他には交換しがたい具体的な経験として感じとられることを目指してきたとすれば、テクノロジーを使うことは、常に変化し続けるダイナミックな世界をどう自分が捉えるかに敏感な感受性を持った多くの作家たちの関心を惹いたと思われます。いまやキネティック・アート、実験映像、現代音楽、メディア・アートなどに分化して捉えられがちなこうした動向を一緒に眺めてみることで、根本にある、秩序立てられた固定的な世界を、もっと生き生きとしたものとして捉えようとした作家たちの考えが伝わってくるように企画しています。
 また、今やコンピュータやソフトウェアによって何でも表現できるような気がするいっぽうで、そうした技術がないときにはどのような試みがなされてきたかを知ることの意味も大きいはずです。新しい分野として考えられがちなテクノロジー・アートに、こうした歴史的な奥行きを与えることで、逆に現代の表現が持つ特徴も確認できることでしょう。テクノロジーは「新しさ」という価値観と分かちがたく結びついているように思えますが、それは「技術立国」を目指し戦後の経済成長を成し遂げようとした産業側の要請ではないでしょうか。芸術は、それをただ目新しいものとして受け止めるのではなく、私たちの生に別の可能性を与えてくれるものとして使いこなしてきた気がするのです。そして、けっして機械を都合よく管理や制御するために使うだけではなく、そもそもは、自らの認識や解釈を過大評価してきた〈人間〉を世界の中心 の座から引きずり降ろすような過激さを持って機械が登場したことを思う と、はたして私たち自身がつねに別の何かに代(変)わりえるような可能性さえ受け入れられるようなところにまでいけるのだろうか、とさえ考えもしました。
 あと、私自身がこの仕事をしようと考えるうえでおおきなきっかけとなった古橋悌二の《LOVERS―永遠の恋人たち》は11月20日までの展示で、その後、近年のメディア・アート作品に顕著にみられるロケイティヴ・メディア(移動位置認識メディア)を使う三上晴子+市川創太の《gravicells[グラヴィセルズ]―重力と抵抗》に替わります。会期中再入場可能なチケットですので、ぜひお見逃しなく、どちらもご鑑賞をしてください。また、関連イヴェントも盛りだくさんですので、ウェブサイトのチェックをお薦めします。
 ぜひ、二つの展覧会を身に、心地よい秋のこの季節に西新宿の初台までお越しください!

会期と内容
●「アート&テクノロジーの過去と未来 Possible Futures: Japanese postwar art and technology」展
会期:2005年10月21日(金)〜12月25日(日)
会場:NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]ギャラリーA、B、5Fロビー、エントランス・ロビー 
東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー4階 TEL. 0120-144199
開館時間:10:00〜18:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日)
●「シュテファン・バルケンホール」展
会期:2005年10月15日(土)〜12月25日(日)
会場:東京オペラシティアートギャラリー
東京都新宿区西新宿 3-20-2 TEL. 03-5353-0756
開館時間:11:00〜19:00(金・土は11:00〜20:00。いずれも最終入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日

[すみとも ふみひこ]
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