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データにみるアート−9
372点
太下義之

nmp8月21日号から連載を開始したこの小文は、アートに関する統計・資料をひもとき、例えば「鑑賞料金」「参加者数」等の具体的なデータを取り上げて、それを話のマクラに芸術文化振興政策やアートマネジメント等についてコメントしていこうというものである。

東京都が所管するパブリックアート(野外彫刻の他にレリーフ、モニュメント、碑文等を含む)の作品は、われわれ三和総合研究所が調査・編集を担当した『野外彫刻の維持管理の手引き』(東京都生活文化局コミュニティ文化部)によると、1997年7月現在で372点の作品が確認されている。
東京都に限らず、パブリックアートを設置するケースは全国的に増えてきており、一種の流行とも呼べる状況にある。実際、あちらこちらの街かどで芸術作品に出会う機会は増えており、普段は気がつかずに見過ごしているものも含めると、われわれの周りにはすでに膨大な数の芸術作品が設置されている模様である。

しかし、このパブリックアートに関しては、実際にはまだまだ試行錯誤の段階にあるようであり、ブームの陰でさまざまな矛盾や限界も噴出してきている。特に、パブリックアートを設置する最初の段階にはかけ声の勢いもよいが、後は手つかずで放置されているケースが大きな問題として指摘されている。
パブリックアートの天敵としては、腐食やさびの他、酸性雨、排気ガス、鳥のフン等が想定されるが、メンテナンスを怠って、ただの金属や石の固まりに成り果てた元・アート達が目につくのは残念なことである。そして、パブリックアートが“アート”でなくなったとき、単なる街の粗大ゴミになる懸念すらある。
このような事態が生じてしまった原因としては、設置部署と管理部署の責任分担があいまいであったケース、また、管理費を予算として見込んでいなかったか、見込んでいたとしても不足していたケース、その他、関係者のパブリックアートに対する無理解や無配慮等が考えられる。
傷つき、汚れたままの作品は美観上好ましくないだけでなく、街のイメージダウンにもなり、さらには、芸術を軽んじる風潮すら生み出しかねない。このようなことになっては、そもそも何のためにパブリックアートを設置したのか、訳がわからなくなってしまう。つまり、単に設置するだけではなく、設置後の適切なメンテナンスも必要不可欠なのである。

パブリックアートを常に最高のコンディションで管理していくためには、設置段階の当初から、メンテナンス体制が確立されていることが必要であろう。ここでいうメンテナンスとは、日常的な点検はもちろんのこと、数年に一度のサイクルにのっとった大規模な清掃や補修も含んでいる。
また、設置されたパブリックアートを住民共有の財産として、意味のあるものとして機能させていくためにも、教育プログラムが重要である。具体的には、小中学校の美術や社会の授業で活用することにより、アートや街づくりに関する生きた教科書となることが期待される。また、パブリックアート写真コンテストや写生会等を開催することで、住民が改めてパブリックアートに目を向けるきっかけづくりに努めるべきであろう。
その他、「ファーレ立川」において北川フラム氏が熱意をもって取り組んでいるように、自分の足で作品を巡ることができるオリエンテーリング用のアートマップの作成・配布、さらには講演会、シンポジウム、見学会等の開催についても検討する価値があろう。
このように、パブリックアートという仕掛けを最大限に活用し、われわれ自身が公共空間に対する意識をより一層高めていくことにより、新しい「まち」「ひと」「アート」の素敵な関係を築いていくことが、これからのパブリックアートには期待されているのではないだろうか。

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