髙松建設株式会社様

都心のビルで親しみを感じさせる外装パネル
髙松建設はどのように扱ったのか-施工事例

日本有数の繁華街である東京・六本木の目抜き通り沿いに建つ、テナントビル「ZONE麻布六本木」。2023年に竣工したビルで、敷地の間口が限られた都市型の建築でありながら、その個性で街にインパクトを与えています。
通りに面したエントランス部には、各テナントのサインを組み込んだ柱を設置しました。木目調の「DNP内・外装焼付印刷アルミパネル アートテック®」が、来訪者や通行人にテナントをアピールする役割の一部を担っています。

ZONE麻布六本木の設計を手がけたのは、賃貸集合住宅やオフィス、ビルなどの設計から施工までを一貫して行う髙松建設です。設計を担当した竹國亮太氏に、今回のプロジェクトの背景や設計のプロセスについて、話を伺いました。

本記事は、壁材・床材など住空間向け製品を扱っているDNP生活空間事業部が編集しています。以下のバナーよりDNP製品・採用事例等をご覧いただけます。

髙松建設株式会社 竹國 亮太氏

プロジェクトの概要

今回のテナントビルは、事業としてどのような背景と狙いがあったのでしょうか?

竹國亮太(敬称略。以下、竹國):既存の建物を建て替えるプロジェクトで、2021年3月から構想が始まりました。コロナ禍によってリモートワークやネットショッピングが進み、働き方とともに、商業テナントや事務所のあり方が大きく変わった時期です。

そうした情勢のなかで、このテナントビルでは、貸面積の縮小を図ろうという話がクライアントとの間で出ました。賃貸物件をつくる場合、これまでは、1フロアの貸面積をなるべく大きくして賃料を高くするスキームが一般的でした。しかし、コロナ禍の六本木は、広すぎるテナントに空きが出る状況だったのです。そのため、小さめの面積で初期費用が抑えられ、借りてもらいやすいテナントにすることがプロジェクトのテーマとなりました。

昼間のZONE麻布六本木

スカイラインに変化をもたせて個性を出す

東京都心の真ん中の繁華街に建設するにあたって、ビルの設計はどのように進めましたか?

竹國:敷地は都市計画道路に接していたため、道路から一定の距離内は、3階までの高さを10m以下にすることが求められます。また、絶対高さは31mという制限もありました。設計にあたっては、地域の特性を理解するために、いつも現地に足を運んで周辺環境を観察するのですが、今回は高さ制限から生じている「揃ったスカイライン」が特に印象に残りました。歩きながら見上げると、隣り合う建物の上部が地上31mで一直線に揃っているのです。

今回のビルも、階を積んで31mのラインまで立ち上げることに決定しました。なおかつ、当ビルの範囲では地上31mの揃った建物ラインから空を切り取って余白をとることで、特徴的なスカイラインをつくることを考えました。具体的には、外部の避難階段を手前の道路側に配置するとともに、進入口の役割のあるサッシを取り付ける箇所を外壁ラインから後退させています。そうすることで建物の平面形状に凹凸を付け、単調になりがちなスカイラインを崩しています。

夜間のZONE麻布六本木

クライアントには、機能面からも形状の意味を説明することを心がけています。意匠の意図を理解してもらい、より多くの人にとって“腑(ふ)に落ちる”デザインとするためです。また、自分自身が設計で悩む時にも、立ち返るポイントになります。設計者のエゴにならないように意識しつつ、意匠と機能が両立する領域のデザインをめざしています。

ZONE麻布六本木の周辺環境

スカイラインが揃った周辺環境

自然の要素で視認性を高める

4階から上が凹凸を付けた部分ですね。低層部の形状については、いかがでしょうか。

横にボリュームを持たせたZONE麻布六本木の低層部

竹國:敷地の間口が約7mと限られるため、建物はどうしても細長のプロポーションになります。いわゆるペンシルビルと呼ばれる姿です。そこで、低層部を利用して、ビル全体をなるべく大きく見せたいと考えました。上階では縦を強調するラインを引き継ぎつつ、低層部では横のボリュームをめいっぱい見せるようにしています。

また、1階のエントランスは、ビル全体のなかでも重要なポイントになりました。通りの人を引き込んで上階のテナントにも入りやすくするため、建物を切り欠いて道路側で余白をつくっています。そして、駅や近くのバス停側から来る人への視認性を高めるために、建物正面の右側に見える柱を利用して、各階のテナントのサインを設けています。

柱を外観に合わせて白色にする案もありましたが、最終的には、木目が入った焦げ茶色に仕上げました。その理由は、2つあります。1つは、シックでオーセンティックな落ち着きを求めたためです。そしてもう1つは、モダニズム建築のガラスや金物、コンクリート壁のように無機質で硬質な仕上げから生じる緊張感や威圧感を、自然の要素で少し和らげたいと考えたためです。

ZONE麻布六本木のエントランス部

印刷アルミパネルの選定プロセス

木目の仕上げには「アートテック」が選定されました。その理由を教えてください。

竹國:木目の素材といっても、シートや塗装、化粧板など多岐にわたります。そのなかで焼付印刷アルミパネルの「アートテック」を採用したのは、耐候性と質感、そしてメンテナンスでのメリットが高かったためです。

ZONE麻布六本木のサインパネル部

まず屋外に設置することから、耐候性が求められました。この柱は庇の下にあるとはいえ、屋外に設置するならば、耐候性は非常に重要です。「アートテック」は暴露試験を実施しており、屋外の環境でも20年は保つとされていたので、耐候性については安心感がありました。アルミパネルに塗装を施して木目を出す方法もありますが、「アートテック」と隣り合わせて置くと、ハケムラで木目を表現する塗装は少しわざとらしく見えます。ちなみに、これだけ木の質感が高いと、通る人が気になって触れることも想定されました。そのため、耐久性の高さも念頭に置いていました。

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メンテナンス面では、サイン部分のパネルの取り外しと取り付けが容易にできることを必要条件としました。サイン部分は照明を内側に仕込む形式としたため、サインを取り替える時や照明の交換時は、前面のパネルを取り外す必要があります。その取り替えに耐えられる材料を探していました。また同じ柱部分でも、建築工事とサイン工事でそれぞれアルミパネルを扱うため、仕上げを揃えながらパネル自体に加工を施せる材料を求めました。

なお、サインの入る前面は「アートテック」を4つに分割しています。柱をビル全体に見立てて、横に入る下部の目地の位置が、建物全体の低層部と上層部を区切る高さにくるように設定し、建物外観をデフォルメした形状でアルミパネルを分割しました。機能的に生じる要素を意匠に昇華させた、説明できるデザインということですね。

設計と施工一体で品質を高める

今回のビル計画で、設計と施工の両方を手がける髙松建設ならではのメリットを感じた場面はありましたか?

竹國:設計と施工が社内にあるので、設計中に現場で与件が変わる時やディテールを詰める時など、施工とすぐに対話できるメリットが大きいですね。例えば、都心では、周囲が立て込んでいる状況で建物を解体して新築することがほとんどです。そのため、隣の建物との関係や敷地の道路との接し方で、設計が左右される場合があります。今回も三方に建物が迫り、既存建物の杭が土中に残っていました。杭を抜いて撤去する場合、1本あたり数百万円のコストがかかります。そこで、ビルの柱は残置物の内側に位置をずらして立てるように設計しました。

また、柱のパネルをどの位置で割り、パネルの加工形状を指定し、パネルをどのようにビスで施工するかということまで、自分で詳細図を描いて指示しました。施工と密にやり取りをすることで、意図するデザインを高いクオリティで実現できると感じています。

昨今では、材料費と建築費が日増しに上がっており、着工してから特定の材料の代替品を探さなくてはならないことがあります。こうした場合も、設計意図を外さずに材料の変更をかけることが可能です。

下から見上げたZONE麻布六本木の様子

アートテックのテクスチュアと完成後の評価

今回「アートテック」は指定を変更することなく施工されました。木目や柄については、設計時に調整しましたか?

竹國:「アートテック」は代替ができない製品なので、最初から「アートテック」ありきでディテールまで設計しています。色柄については「マテリアル シリーズ」のほか、アルミの素地を活かした「アートアルミ シリーズ」も出していただき、ほかの素材と並べて比較検討しました。

最終的に「マテリアル シリーズ」を採用しています。色や柄をこちらから指定してサンプルを出してもらったところ、最初からイメージと合致しました。ほかの素材では、例えば色味や表面のテカリ具合などで、大抵イメージとギャップが出るものですが、「アートテック」ではその差がすごく少なかったので即決でしたね。

実際に竣工してみての感想は、いかがでしょうか。

竹國:このビルは工事完了後、引き渡し前にすべてのテナントが埋まり、1階の柱にはバラエティ豊かなサインが入りました。テナントのバーの店長と会話する機会があり、「木目はいいですね」と柱のことを挙げていましたね。こうした結果を見聞きして、当初の狙いどおりに答えと成果を出せたという達成感があります。

■設計者
竹國亮太(たけくに りょうた)
1995年愛媛県松山市生まれ。2018年 近畿大学工学部建築学科卒業。2018年 髙松建設設計本部入社。
主にテナントビルを担当し、2023年2月竣工の六本木自宅付きテナントビル(東京都港区六本木)、2023年6月竣工六本木テナントビル(東京都港区六本木)、2024年6月竣工予定の集合住宅(東京都墨田区曳舟)、2025年12月竣工予定の飲食店舗ビル(東京都中央区三越前)などに携わる。

■事例DATA
ZONE麻布六本木
所在地:東京都港区六本木5丁目16-4
用途:角柱
竣工年:2023年
設計:髙松建設株式会社
施工:髙松建設株式会社
建物構造:鉄骨造
規模:地上10階建
敷地面積:78.63m2
建築面積:54.86m2
延床面積:296.53m2
設計期間:2021年03月-2022年06月
施工期間:2022年06月-2023年06月

本記事は、壁材・床材など住空間向け製品を扱っているDNP生活空間事業部が編集しています。以下のバナーよりDNP製品・採用事例等をご覧いただけます。

  • *2024年1月25日 DNP市谷加賀町ビル 応接室にて
    *アートテックは、DNP大日本印刷の登録商標です。

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