欧州家具2021 新作レポート

2021年のミラノデザインウィークはコロナ後、ミラノの街を含めた大きな規模で、かつリアルの場で開催されるイベントとして世界的にも注目を集めました。DNPではヨーロッパ駐在者が実際に足を運び、インタビューをしたり、写真を撮りながら約60ほどのブランドを視察しました。また同時に、プレスの情報からCMF(Color/Material/Finish)に関して数値的に分析・考察も行い、それらをまとめたレポートを作成いたしました。そのレポートの一部をご紹介いたします。
*こちらに記載した内容は2022年3月時点の情報です。

ミラノデザインウィーク会場の様子


01 ミラノデザインウィーク2021トレンドキーワード

今回のミラノデザインウィークでは“豊かさとは何か”についての新しい価値観が産まれようとしているような雰囲気が感じられました。それは一言で表すならば“New Normal, New Premium”。
パンデミックを背景に大きく変わった人々の生活、いわゆるニューノーマルの時代と連動するように、「豊かさ」に関する価値観が、贅沢をすることだけではなく、新しくなりつつあるように感じられました。今回はこのNew Normal, New Premiumという切り口で、3つのキーワードでトレンドの方向性を表してみました

図:トレンドの方向性 横軸に「Respectful」「Well-being」「Boudless」、縦軸に「Trend」「Keywords」「CMF」


“Respectful”
高級なものを所持したいという欲求だけではなく、サステナビリティに配慮した製品や、地域の歴史・伝統を大事にするなど、世の中のさまざまなものに敬意を払うという考え方。この軸では、デザインの背景に流れるストーリーに注目し、Ethical StoryとRe-Discoveryの2つのサブキーワードを設定しました。

“Well-being”
Well-beingとは、病気ではないというだけではなく、肉体的、精神的、さらには社会的にも健康である状態を指します。インテリアに置き換えると今回のミラノデザインウィークでは柔らかく、癒しを感じられるような提案が特によく見られました。この軸では、感覚的に目や肌で感じられる空間コーディネイト寄りのキーワードに焦点を当て、2つのサブキーワードを設定しました。 Cocoon Homeはホワイトを基調としたコーディネイトで繭に包まれるような安心感や癒しを感じる空間です。 Aroma Chiqueはグレートーンを基調とし、まるで紅茶やコーヒーの香りを楽しむような味わい深い癒しを感じる空間です。

“Boundless”
世界的にステイホームが長引き、閉塞感のある状況において、空間的な意味だけではなく、家の機能、さらには文化の違いなど、さまざまな隔たりから解放されようという潜在的な欲求があるように感じられました。そこでOn-Off/In-OutとMulticulturalの2つのサブキーワードを設定しました。

Text: Hidehiro Anzai
Edit: Chihori Kunito



02 CMF Report


#Product Type

グラフ インテリアとアウトドア比の割合 インテリア86%、アウトドア14%

2021年に発表された新作家具568点に関してCMF分析を行いました。毎年ミラノデザインウィークに参加しているブランド38ブランドを抽出しましたが、この中には今年のデザインウィークに出展していないブランドも含まれています。

グラフ:インテリア、アウトドアでの家具の割合

昨年は新柄コロナウイルス感染拡大の影響により、新作発表数が少なかったですが、今年は例年と同じ規模で新作がリリースされました。約8割がインテリア、約1割強がアウトドア家具のリリースでした。カテゴリーとしては、インテリアではダイニングテーブル・デスク、キャビネット・サイドボード・コンソールの新作が増加、アウトドアではダイニングテーブル・デスク、ローテーブルの新作が増加しました。ニューノーマルの到来により、自宅におけるワークスペースの需要増や収納スペースの見直し、また屋外での過ごし方の多様化が提案されているように感じました。





#Material

グラフ:素材の割合

箱物家具、テーブルに対し、天板や側板に使われていた素材の割合を算出しました。異なる素材を組み合わせるマテリアルミックスの傾向は今年も継続しています。昨年に比べると木や石は減少し、金属やそのほかの素材の増加がみられマテリアルの多様化が伺えます。






#Wood / Wood Color

グラフ:樹種カラーの割合、樹種の割合

素材として約4割を占めていた木質の樹種とカラーの割合について分析しました。今年も主要樹種としては、ウォールナット(以下、WN)とオークですが、WNは減少している傾向にあり、一方でオークは昨年に比べ増加しました。コロナ禍でナチュラル嗜好が高まったことから、オークの出現頻度が回復していると考察します。アッシュは2020年の数値ほど出現しませんでしたが、ナチュラルからダークな塗装調と、オークと同様に幅広い仕上げが見られています。数値として大きな値を示しているチェリーは或るブランドで複数のプロダクトに対して、多様なチェリーのカラーを提案していたためそれが数値として表れています。
樹種のカラーについては、2019年にグレー基調のトレンドから変化を感じていましたが、今年はさらにグレーが減少しました。ライト、ダークはやや増加し、木質らしいナチュラルな表現が多かった印象です。大きく増加したディープ・スモークカラーは木質の質感を残しながら、空間全体の印象を引き締めるマテリアルカラーとしての役割が増加しています。





#Stone Color

グラフ:カラーの割合

マテリアルの中で、石の素材に関してカラーの割合を示しています。大理石の一番のボリュームゾーンは今年も変わらずホワイトカラーですが、数値はやや減少傾向にあります。またブラック、グレー、ブラウンなどオーソドックスなカラーは減少し、グリーンやレッドのカラー系の大理石が増加しました。
Boundlessな空間やナチュラルテイストが求められる中で、アクセントカラーも自然に近い形での表現が求められ、そのような空間に大理石のグリーンやレッドが用いられたと考察しています。またサステナビリティの観点で、2018年辺りからミラノで出現した新しいテラゾーのトレンドは、世界中に拡大しています。今年もテラゾーをイメージしたような新しい組み合わせのマテリアルが出現していました。





#Accent Color

図:有彩色 6つのカラーカテゴリー(Cobalt Blue、Teal Blue、Sage Green、Goldenrod Yellow、Amber Orange、Brick Red))

空間のアクセントになる有彩色は6つのカラーカテゴリーにまとめ、昨年と同様に、自然界をイメージさせるネーミングにしました。オフホワイトやグレーを基調とした空間に、自然の要素を思わせるアクセントカラーを加え、空間に華やかさを与えていました。




図:ホワイト・グレー・ブラウン系の4つのカテゴリー(Cotton White、Taupe Gray、Camel Brown、Rust Brown)

続いて、アクセントだけでなくアソートカラーにもなるホワイト・グレー・ブラウン系のカラーを、4つにカテゴリーに分けネーミングしました。全体的にクールなグレイシュカラーは減少し、ウォームカラーの方向に移行している動きが見られます。よりナチュラルな木質と調和しやすいカラーと言えるでしょう。

Text: Chihori Kunito




03 欧州ブランド新作家具2021

ここからはイタリアを中心とした欧州ブランドからいくつかピックアップして、2021年の新作情報をご紹介いたします。
*掲載はブランド名のアルファベット順です
*製品に関するお問合せは、各ブランドのホームページよりお問合せください。




# B&B ITALIAhttps://www.bebitalia.co.jp​

Antonio Citterio氏がデザインしたNoonuはモルディブ諸島北部の環礁の名を冠したソファです。2018年発表のB&B Atoll の系譜を継ぎ、この2つのコレクションを通じて一つの旅が完成します。 Noonuは脚を見せない構造と曲線的なフォルムにより、海に柔らかく浮かぶ島をイメージし、ゆったりとした空間を室内に創り出します。コロナ禍で自宅で過ごす時間が長い中、リゾート気分を味わえるよう、サンゴを思わせるオレンジ、レッドや、海を思わせるブルーなど空間に彩りを与えるファブリックカラーも提案されています。基本エレメントは“ピアノ”と “セイル”型、正方形と長方形で構成され、Antonio Citterio氏はNoonuは島々からなる群島がコンセプトである、と語っています。

テーブルAllure O’、チェアFlair O’ほか

1960年代のテーパードされたドレスのような、彫刻的なフォルムが特徴のテーブルはMonica Armani 氏デザインのAllure O’です。直線・曲線をダイナミックに組み合わせ、天板と脚のマテリアル・カラーのコントラストも楽しむことができます。18色のグロッシーとマット塗装仕上げ、あるいは明るい色とブラックのオーク材から選択が可能です。天板はガラスやマーブルにすることもできます。Allure O’に合わせたチェアFlair O’ はシートのオートリターン機能もあり軽やかな動きを楽しめるデザインです。
これらの新作はアマンヤンユン(中国 上海)でもお披露目されました。

ショールーム「D Studio」



D Studio Milano(ミラノ)
ミラノ市内Via Durini地区にあったB&B Italiaの店舗は、Massimiliano Locatelli と Piero LissoniのプロデュースよってD Studioという総合的なショールームに生まれ変わりました。 ここでは、同グループ内のブランドであるB&B Italia, Maxalto, Azucena, Arclinea, Flos, Louis Poulsenのデザインが一堂に会し、これらイタリア、北欧の家具・照明などがコーディネイトされた空間を体験することができます。

Photos by B&B ITALIA

Text: Chihori Kunito






#Cassinahttps://www.cassina-ixc.jp​

Cassinaは“The Cassina Perspective 2021”と題し、Cassinaとミラノ工科大学の協働による持続可能なデザイン実現のためのプロジェクト“Cassina LAB”の成果を反映した新製品や、ワークプレイス/ホスピタリティ用途向けの新シリーズ“Cassina Pro”を発表しました。

1969年にAfra&Tobia Scarpaによってデザインされたソファ“Soriana”は、Cassina LABの研究によりリサイクルPETや天然由来樹脂繊維が用いられたサステナブルなシリーズとして復刻されました。ミラノデザインウィーク中、ミラノ市内のショールームではVogue ItaliaとのコラボレーションによるSorianaをテーマにしたインスタレーション“Out of Ordinary”が展示され、生活空間の新しい時代を想起させるような空間が創り出されました。ふっくらした形状、リサイクル材製とは思えない程柔らかな手触り、座り心地が印象的でした。

ソファSoriana

日本の伝統的な神社建替えの儀式である「遷宮」からその名を採った“SENGU”はPatricia Urquiolaによりデザインされました。日本の建築文化の伝統的な再生と循環の思想から影響を受けて創られたこのシリーズは、ミニマルでありながら心地よく快適な空間を演出します。ソファのクッション素材にはCassina LABの研究により100%再生繊維が使用され、コーヒーテーブルの脚部にはカナレットウォールナット材またはオーク材、天板にはガラスの他、ホワイトカラーラやヴェルデアルピなどの大理石から素材を選択することができます。

SENGUの、ソファとコーヒーテーブル

テーブルPetit bureau en forme libre

“Cassina Pro”では、Cassinaの名作家具の構造や素材を変更し、ワークプレイス/ホスピタリティ用途に再構成されたものが発表されています。Charlotte Perriandが1956年にデザインした“Petit bureau en forme libre”は、小さなスペース向けという当時のコンセプトを受け継ぎながら、内蔵電源の登載や金属による構造補強により、より現代仕様にリデザインされました。素材にはマット仕上げのカナレットウォールナット材が用いられています。

Photos by Cassina
※のみPhoto by DNP

Text: Hidehiro Anzai






#Flexformhttps://www.flexform.jp

ANY DAYのコンソールテーブル

Christophe Pillet氏のデザインしたANY DAYは「引き算」をコンセプトとし、余分なものをそぎ落としたデザインです。スチールのフレームに木箱を置くというアイデアのもとコンソールテーブル、ダイニングテーブルがつくられました。天板はアッシュとカナレットウォールナット、大理石などから選択可能。繊細なスチールのフレームと、洗練された木や大理石のマテリアルコントラストをシンプルに味わえるデザインです。

LEE armchair & sofa

LEE armchair & sofaはデザイナーのAntonio Citterio氏が幼少期のアームチェアとソファの記憶からインスパイアされデザインした製品。フレームはアッシュとカナレットウォールナット、背もたれとシートはペーパーラッシュコードで作られています。LEEはイロコをフレームに使用したアウトドアコレクションもあり、インテリア・アウトドアの両方の空間でコーディネイトすることができます。

Photos by Flexform

Text: Chihori Kunito






#Giorgettihttps://www.giorgettimeda.com/ww/en/​

円柱状のキャビネットHOUDINI

円柱状のシンプルな佇まいをしたHOUDINIは、扉を開けるとジュエリーなどさまざまなものが収納できる機能的なキャビネットになっています。サイドボードでも、収納棚でも、バーキャビネットでもなく、神秘的で魔法のような家具を作りたいというRoberto Lazzeroni氏がデザインしました。円柱の形はイタリア ロンバルディアの農村地方で見られる穀物の貯蔵庫「サイロ」からインスパイされ、これはAldo Rossi氏の建築では良く見られる要素です。側面はカナレットウォールナットとメイプルの2種類、上部はレザーで構成されています。円柱が1つ、円柱が2つの2バージョンがあります。




Aldiaのコーヒーテーブル

アウトドアコレクションで注目されたAldiaはCarlo Colombo氏のコレクションです。高さが異なるバージョンを持つコーヒーテーブルの印象的な天板は、大理石を粉砕した粒子を混ぜた主材に、異なる形・大きさのウォールナットトラバーチンを埋め込んだマテリアルです。新しいテラゾー表現として注目しました。そのほか、このコレクションにはダイニングテーブルやソファ、チェアがあります。

Photos © Giorgetti by Sergio Chimenti

Text: Chihori Kunito






#GLAS ITALIAhttps://www.glasitalia.com/en

コーヒーテーブルSIMOON

Photos by GLAS ITALIA

Patricia Urquiola氏によってデザインされたSIMOON Coffee Table。12mmの軽量ガラスの素材に、リサイクルされたムラーノガラスを粉砕したものを吹き付け、目で見ても触っても心地よい質感を表現しています。アメジストとダークトパーズの2色展開です。

Text: Chihori Kunito






#Kartellhttp://www.toyokitchen.co.jp




コーヒーテーブルTHIERRY

Piero LissoniがデザインしたTHIERRYはエルメスのカラーからインスピレーションを受け、宝石のような華やかさのあるカラフルなコーヒーテーブルです。天板はガラス、脚はメタルで構成されています。天板と脚で異なるカラーをコンビネーションさせ、空間に明るい彩りを与えるデザインです。

ダイニングチェアCharla

Patricia UrquiolaデザインのCharlaは包み込まれるようなエレガントなデザインのダイニングチェアです。サステナビリティにも配慮し、脚はリサイクルプラスチックを活用しています。
同じくPatricia UrquiolaデザインのLunatと組み合わせ、自宅のワークスペースやホテルの客室にも適しています。直線の脚に対し、有機的な月の形をしたウォールナットの天板が組み合わされています。Lunatは少し小さめのデザインのため、あらゆるスペースにフィットします。テレワークが普及した現代のトレンドに応えたデザインです。

Photos by TOYO KITCHEN STYLE

Text: Chihori Kunito






#Living Divanihttps://livingdivani.it/en/homepage

Sumoコレクションのソファとテーブル

Piero Lissoni氏デザインのSumoは華奢なフレームとエレガントなフォルムが特徴のコレクションです。Lissoni氏は、ソファ、ラウンジチェア、ローテーブルなどさまざまなプロダクトで構成されるSumoコレクションを大家族と例え、2021年に発表されたソファはその中で長男の立ち位置だと語っています。ベース部分が曲線を描く2020年のモデルに対し、2021年に発表されたSumoは直線のラインと薄く細いシルエットが特徴です。
Sumo Tableは薄い天板と細い脚を組み合わせ、日本らしい感性も感じる繊細なデザインとなっています。天板は、フォレストグリーンマーブル、レッドレバントなどの大理石のほか、カナレットウォールナットやラッカー塗装仕上げから選ぶことができます。

アウトドアコレクションKasbah

スペイン生まれのDavid Lopez Quincoces氏がデザインしたアウトドアコレクションKasbahは、モロッコに拠点を置くクライアントの住宅向け生まれたデザインです。このプロジェクトは2つの特徴があり、1つはLiving Divaniがこれまで使用していなかった新しい木材を使うということで、認証を受け環境への負荷がないビルマ産のチークを使用しています。2つ目は優れたモジュールによる柔軟性です。Kasbah Low Tableも同じくビルマ産のチークを使い、美しいチークの表情を組み合わせたローテーブルです。
ミラノに2020年末にオープンしたショールームでは、家の中でもアウトドアの雰囲気を感じられるよう、あえて地下フロアにグリーンと共にアウトドア家具が展示されていました。アウトドア家具ではありますが、インテリアでも使用できるような内と外との隔たりを感じさせないデザインです。

Photos by Living Divani
※のみPhoto by DNP

Text: Chihori Kunito






#Minottihttps://minotti.jp

Rodolfo Dordoni氏は、「お客様が好みのデザインを実現するためのエレメントを提供する」というコンセプトのもとに、住宅、ホスピタリティを含むさまざまな空間に応じてレイアウトが可能なシーティングシステム“Roger”をデザインしました。水平なキルティングパターンが特徴的なクッション部は、実製品を見ると非常に立体的で、艶消しのパリサンダー材とのコントラストが洗練されながらも優しい空間を演出していました。

シーティングシステムRoger




ブラジルの建築家Marcio Kogan氏デザインのソファ、ベッドのシリーズ“Brasilia”とキャビネット、テーブルのシリーズ“Superquadra” 。スリット加工あるいは大胆な板目使いが特徴的なサントスパリサンダー、サハラノワールやメタル素材からなる一連の家具は、それらを組み合わせることにより“Kogan Home”と呼ばれるKogan氏特有の上質な建築様式を居住空間に再現します。

シリーズBrasiliaとSuperquadra




GamFratesiによるアウトドア向けモジュールソファシステム“PATIO”では、マット/光沢仕上げのアルミニウムをフレーム材に採用し、メンテナンス性と耐久性、美しさを実現しました。テーブル部に使用されたマホガニーやブラッシング加工のバサルティーナ(玄武岩)が自然な素材感を加えています。ミラノ市内のショールームに展示されていた同シリーズのブルーグリーンのソファは、屋内でありながら解放感のある空間を演出していました。

モジュールソファシステムPATIO

Photos by Minotti

Text: Hidehiro Anzai






#Molteni&Chttps://www.molteni.it

Vincent Van Duysen氏のプロデュースによるMolteni&C|Dadaの新作コレクションは、イタリア建築界の巨匠Ignazio Gardella氏とCarlo Scarpa氏へのオマージュをテーマに、彼らの伝統や素材、形に対する繊細なまなざしに敬意を払いデザインされました。Duysen氏デザインの“Marteen”は、コーナーからアイランドまで自由にレイアウト可能なシーティングシステムです。ユーカリ材または熱処理で仕上げられたオーク材のテーブルと組み合わされたシートファブリックは、癒しを求める時代に応えるかのようにふんわりと優しく、豊かな手触りが特徴的でした。

シーティングシステムMarteen




また、Gio Ponti氏の名作家具の復刻デザインで構成されるコレクション“Heritage Collection”には、同氏が1950年代にデザインしたチェア“Round D.154.5”が追加されました。丸みのある座面やアッシュプライウッド製の接合部等、全部でたった8つのパーツから構成された革新的な構造のアームチェアです。
この製品は、Supersaloneの展示会場にて、Ron Gilad氏による航空機内をイメージしたインスタレーションで発表されました。会場内には空港アナウンスが流れ、窓の外には名作家具は空を飛んでいる遊び心のある演出も。これは、当時このチェアがアリタリア航空のラウンジに使用されていたことから着想したものだそうです。

チェアRound D.154.5

Photos by Molteni&C


Text: Hidehiro Anzai






#Poliformhttps://www.poliform.it/en-us

Poliformが提案するスタイルは「Calming retreat(落ち着きのある隠れ家)」。柔らかなラインに囲まれたモダニズムのヴィラ、再生のインスピレーションが宿る空間をイメージしています。Emmanuel Gallina氏デザインによる楕円形のサイドボード”SYMPHONY”は、その空間にふさわしいフォルムと色調をしています。Emmanuel氏の作品の特徴はエレガンス、明快、シンプル。そのエッセンスは側面の華やかなゴールドオーク、ダークに塗装されたブラックエルムにも感じられます。天板は木質のほか、サハラノワール、ゼッチューボを始めとした大理石から選ぶことができます。

サイドボードSYMPHONY




ソファBRISTOL

“BRISTOL”はJean-Marie Massaud氏によってデザインされたソファです。快適で大らかなプロポーション、優雅でミニマルな印象を併せ持ったデザインが特徴です。脚はブラックのニッケル、スモールテーブルはシュペッサートオークやブラックエルムが使用されています。

Photos by Poliform

Text : Ryo Nagai






#Poltrona Frauhttps://www.idc-otsuka.jp/poltrona-frau-tokyo-aoyama

2021年4月にイタリア本国で発表され、今春いよいよ日本初上陸となるPoltrona Frauの新コレクションのテーマは“Take Your Time”。パンデミックを背景に新たな時間の過ごし方を提案しました。その中でも特にそのテーマを象徴するような家具を提案していた、Roberto Lazzeroni氏によるデザインを3点ご紹介します。

デスクPeek-a-Book

“Peek-a-Book”は、オフィスデスクとしての機能性と、リビングとの親和性を併せ持つ、まさにホームオフィス時代のための家具です。ヴィンテージの革装丁本をイメージしてデザインされた天板部はレザー製で、ケーブル配線やワイヤレス充電装置を内蔵することができます。脚部にはウェンジカラー染色仕上げのアッシュ材を使用。実物は写真で見るよりさらにゆったりと大らかな印象のデスクで、仕事だけではなく一息をつき、リラックスするシーンも想像させられるデザインでした。




テーブルInfinito∞

総天然大理石製のテーブル “Infinito∞”。彫刻的な造形のカラカッタマーブルの脚に支えられている天板は、トルコ産のロッソレバントの塊から切り出したものです。本来この大理石は、赤から紫へと移ろう自然なグラデーションの中に白い筋が入った、天然の特徴で知られています。しかし自然界における何か神秘的な出来事が原因となって、石切場の一部から深いセージ色を帯びた一角が発見されました。「無限」を意味する名前の通り、その天板は∞の字の形状を描き、深いセージグリーンをベースにしながら白や赤等のさまざまな要素が織りなす表情はまさに自然の芸術。製造工程の特性から、複製のできない完全限定生産品で、デザインとアート作品の中間に位置するような製品と言えます。




アウトドア家具コレクションBoundless Living

今年、Poltrona Frauはブランド初のアウトドア家具コレクション“Boundless Living”を発表しました。貴族の館を改装したショールームの中庭を使用し、その名の通りインドアとアウトドアをつなぐというコンセプトの空間を表現していました。同コレクションのためにLazzeroni氏がデザインしたシリーズ“Secret Garden”。フレームに使用されたライトカラーのチークはさらさらとした手触りの残る仕上げで、テーブル天板に使用されたグリーンバイカラーのエナメル陶器はアンティークのような味わいとさわやかさを感じさせます。

Photos by Poltrona Frau

Text: Hidehiro Anzai




04 北欧ブランド新作家具2021

続いて、北欧ブランドに関してご紹介します。




#Accent Color

アクセントカラーとして、4つの有彩色カラーと、ブラックとブラウンをトレンドカラーとして選びました。欧州家具アクセントカラーと同様に、自然界をイメージさせるネーミングにしました。有彩色は昨年よりやや彩度の低い方向です。プロダクト単体で見ると、派手な印象ですが、オフホワイト、グレー、ブラウンといったカラーを基調とした空間に、アクセントとして有彩色が1~2色取り入れられ、全体的にクラシカルなテイストやアンティークな雰囲気を感じる、落ち着いた空間をつくりあげています。
コロナ禍で“豊かさとは何か” 、そして“上質なものは何か”といったところが見直された中で、トレンドに左右されずに長く人々に愛される北欧デザインの復刻版にも注目が集まりました。

図:有彩色のカラー4つのカテゴリー(Mahogany Red、Midnight Blue、Olive Green、Pumpkin Yellow)とトレンドカラーのブラック(Coal Black)、ブラウン(Walnut Broun)






#Carl Hansen&Sønhttps://www.carlhansen.com

Carl Hansen & Søn社は1958年に発表された、デンマークのデザイナーOle Wanscher氏による”OW58T-Chair”をコレクションに追加しました。後ろ脚と融合するT字型の背もたれは、この椅子のニックネームともなっています。また、今回は現代人の体格に合わせて高さが1インチ高く調整されました。素材はオイル仕上げのウォールナット、ソープ仕上げのオークが用意されています。

チェアOW58T-Chair

Carl Hansen & Søn社は、 Hans J.Wegner氏の名作と同社の70年以上にわたる協働を記念して、ロンドンを拠点に活躍するデザイナー、 Ilse Crawford氏による新色9色を” CH24 ” (Yチェア)に加えました。Ilse Crawford氏は、私たちが生きている時代を反映した色、 現代人の心に響く落ち着いた色調を表現したかったと語ります。そのカラーのインスピレーションとなったのは、自然への関心を作品に表現したデンマークのアーティスト、Per Kirkeby氏の絵画です。フレームにはFSC認証のオーク材、ペーパーコードの座面、塗装は水性塗料が使用されるなど、環境配慮への意識も感じさせます。

YチェアCH24

Carl Hansen & Søn社は、 オーストリアのデザインスタジオEOOSと共創した” EMBRACE SOFA ”を発表しました。” EMBRACE SOFA ”は 10個のモジュールで構成された汎用性の高いソファです。昨今のソファに見られるフレキシブルのニーズは、コロナ禍を経てより高まっているのかもしれません。また、EOOSはCarl Hansen & Søn社の流行に左右されず、次世代へ引き継がれる家具を作る姿勢そのものが、サステナブルであるとコメントしています。こちらの素材にはFSC認証のオーク材、またはウォールナット材が使われています。

ソファEMBRACE SOFA

Photos by Carl Hansen&Søn

Text : Ryo Nagai






#Fritz Hansenhttps://fritzhansen.com

“POUF”はデンマーク人デザイナー、Cecilie Manz氏によりデザインされたシンプルなインテリアアクセサリー。時にオットマンとして、時にサイドテーブルとしてあらゆるシーンに対応します。その”POUF”にライトグレーとベージュの新色が加わりました。素材はバターのように柔らかな質感のバフレザー、もう一つはTwill Weaveのファブリックです。どちらも温かみの中にエレガンスを感じさせます。

インテリアアクセサリーPOUF




“PLURALIS”はKasper Salto氏によりデザインされたワーキングテーブルです。”PLURALIS”はラテン語の「一つより多い」が意味する通り、テーブルトップを延伸することができます。電源ケーブルの収納を兼ね備えるなど、上面をすっきりと見せる工夫がされていることに加え、カーブを帯びた脚はワーキングスペースに柔らかな印象を与えます。テーブルトップはオークとウォールナットの他、リノリウムやラミネートからも選ぶことができます。

ワーキングテーブルPLURALIS




Arne Jacobsen氏がデザインしたチェア”DROP”と、Christian Dell氏がデザインした”KAISER IDELL”のテーブルランプに新たにグレー色がラインナップされました。2つのプロダクトのグレーには、多様な空間に同調しながらも、存在感を失うことのない、適切な明度と彩度のバランスが見受けられます。1958年に有名なコペンハーゲンのSASロイヤルホテル向けにデザインされたこの”DROP”は、現代的な製造方法と技術とともにFritz Hansen が2014年に発売し、再び注目を集めました。”KAISER IDELL”は「バウハウスと北欧の感性の融合」という言葉がまさにぴったりなデザインに仕上がっています。質実剛健な”KAISER IDELL”の新たな魅力が感じられます。

チェアDROPとテーブルランプKAISER IDELL

Photos by Fritz Hansen

Text : Ryo Nagai






#GUBIhttps://www.gubi.com




チェアMR01 INITIAL CHAIR

木工職人のMathias Steen Rasmussen氏によってデザインされたMR01 INITIAL CHAIRはもともと彼が自宅で瞑想をするために作られました。低めの座面と緩やかな傾斜の背面は、座る人に浮いているような感覚を与えると同時に、地面とのつながりを感じさせ、瞑想的な落ち着きを促進するように設計されています。

コーヒーテーブルEpic Steel Coffee Table

Epic Steel Coffee Tableはギリシャ様式の柱やローマの建築からインスピレーションを受けたデザインです。オリジナルはイタリアのトラバーチンで作られたテーブルでしたが、スチールプレートに亜鉛メッキ加工やラッカー塗装を施しユニークなマテリアルを用いた新作がリリースされました。カラーはEarthy Red, Misty Gray, Midnight Blackの3つがあります。

Photos by GUBI PR

Text: Chihori Kunito







#HAYhttps://www.hay-japan.com

“KOFI”はHAYの製品開発責任者でもあるノルウェー人デザイナー、 Martin Solemがデザインしたコーヒーテーブルです。仕上げはFSC認証を受けたオーク又はウォールナット材のフレームに、水性ラッカーを使用するなど、環境意識の高い製品です。
また、天板はクリアガラス、カラーガラス、リブ構造のモールガラスの3種類から選ぶことができます。フレームとの組み合わせ次第では、ミッドセンチュリーのような懐かしい印象にも、アールデコのようなモダンな印象にも変わるユニークなプロダクトです。

コーヒーテーブルKOFI




“KNIT”は日本人デザイナー、倉本 仁氏による彫刻的なデザインのコートラックです。「編み物」のように三次元的に交差するラックは、分解した際にフラットパックに収まることが意図されています。また光沢感のあるスチールは、特徴的な編み目を視覚的に際立たせています。マットな質感が主流となる中で、シンプルですが、的確な意図を持った仕上げであると感じます。

コートラックKNIT




“TWO-COLOUR”は、ベルギーのデザインチーム、 Muller van Severenとのコラボレーションにより生まれました。天板にはFSC認証でもある、バルクロマットMDFを使用しています。バルクロマットは製造工程で有機着色料を含浸させた木質基材です。スチールの脚とのカラーの対比が印象的なこのプロダクトには、HAYの多くの家具に見られる、遊び心と実験的な姿勢が表れています。

テーブルTWO-COLOUR

Photos by HAY

Text : Ryo Nagai






#muutohttps://www.muuto.com

“Cover Armchair”はThomas Bentzen氏によってデザインされたチェアです。その特徴は脚との接合部に薄く、タイトに巻きついたベニヤにあります。3年を掛けて開発された、この工業と手工芸を組み合わせたデザインは、2021年のミラノトレンドに見られたクラフトマンシップに通じるものがあります。仕上げには、オークの木目を活かしたステイン仕上げ、ミニマルに塗装されたビーチとアッシュベニヤの組合せがあります。2020年よりMuutoは椅子の仕上げを環境に優しい水性ラッカーに変えており、環境志向の高まりが顕著になっています。

チェアCover Armchair

“Around Coffee Table”も同じくThomas Bentzen氏によってデザインされたコーヒーテーブルです。特徴は淵に沿うように走るベニヤのフレームにあります。このコーヒーテーブルにおけるベニヤのアイディアは、” Cover Armchair”にも活かされています。スカンジナビアデザインの伝統を参考にしながら作られた本作は、どこか日本のお盆やわっぱにも通じる、手工芸的な温かみを感じられます。こちらも水性ラッカーが使用されています。

コーヒーテーブルAround Coffee Table

Muutoのエコロジカルな活動は、すでに新商品開発にステージを移しています。2022年の春に北米から発売を予定している、”Fiber Armchair“および”Side Chair”は主原料として、8割のリサイクルプラスチックに2割のバージンプラスチックを配合することで、十分な強度を保ちながら、Muutoならではの色彩を表現しています。また、木部にはFSC認証を受けたオーク材を使用し、プラスチックの製造工程においても100%環境再生エネルギーを使用するなど、徹底したエコロジカルの姿勢がうかがえます。まるで、EV自動車のように、すでにインテリア業界においても環境配慮型の製品は、ポートフォリオの一角を担う段階にあることを示す好例であると言えます。
デザインはコペンハーゲンを拠点に活動するIskos-Berlinによるものです。

チェアFiber Armchair、Side Chair

Photos by Muuto

Text : Ryo Nagai







まとめ

今回のミラノデザインウィークは、規模が例年より小さかったということもあると思いますが、世界全体がコロナという共通の課題を抱えている中の開催で、トレンドの方向性が非常に明確で分かりやすく、親近感を感じられるものが多かったように感じました。DNPが分析した3つのトレンド“Respectful”, “Well-being”, “Boundless”という考え方自体は、パンデミック前からも見られたものですが、コロナ禍でこれらのトレンドに対する世の中の要求が際立ったのではないかと考えます。それらに合わせ、マテリアルやカラーも自然を連想させるモチーフが増加している傾向を感じます。またグリーンリカバリーの実現に向け、SDGsに関連する取り組みを積極的にコンセプトやデザイン、マテリアルで示すブランドが急増しています。今後も、人間と自然の共生により、優しい未来をのぞめる提案が増えてくると予測しています。



アームチェア

Hermes
Studio Mumbaiによる、木製フレームをセルロースマイクロファイバーでコーティングしたアームチェア。

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Kvadrat
「自然は訪れるだけのものではなく、家の中に存在するものである」というコンセプトをテキスタイルで表現。

ウォールパネル

Rossana Orlandi画廊にて
Elaine Yan Ling Ngによる、廃棄される卵の殻を再利用したサステナブルなウォールパネル。



Editor紹介

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ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネイト提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター

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ドイツ・デュッセルドルフを拠点として欧州市場のデザインマーケティングを担当。現地駐在員として市場調査やデザイナーとの対話を通じ、ヨーロッパトレンド情報の収集、及びその発信活動に従事。

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DNPのWSシリーズに携わるデザイナーの一人として、ミラノサローネを中心にCMFのトレンド分析を行っている。

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