生活空間デザインレポート ホテル Vol.3

ご好評頂いている「デザインレポート ホテル」。第3弾は関西に開業した新しいホテルを2件ご紹介します。ホテルのコンセプトやデザインの背景をご紹介するとともに、筆者視点でインテリアのポイントやコーディネートについてご紹介します。
※2023年3月時点の情報です。

ノーガホテル清水 京都01

Photo ノーガホテル清水京都

・さまざまな京都の伝統工芸が美しく映える、和と洋が融合したスタイリッシュな空間

・ホテルの世界観へ誘導する共有部と、空間を広く感じさせる客室デザイン

・心身の健康を促すメディテーションルーム

Point of Materials
木質・モルタル・金属・ファブリックなど

Zentis Osaka01

Photo Zentis Osaka

・ナチュラルな素材を上質にまとめ、洗練された空間を表現


・オリジナル家具や、壁面のデザインにより空間を広く感じさせる演出


・「最高の身支度を整える場所」がコンセプトの多目的スペースの提案

Point of Materials
木質・石・ブリック・レザー・ファブリックなど

ノーガホテル清水京都02

https://nohgahotel.com/kiyomizu/
住所:京都府京都市東山区五条橋東4丁目450番1号
TEL:075-323-7120
アクセス:京阪電車「清水五条」駅 徒歩7分、JR「京都」駅 タクシー10分、バス20分

ノーガブランドのホテルとして国内3件目となるノーガホテル 清水京都が2022年4月に開業しました。「MEET HOT KYOTO.」をコンセプトにかかげ、主にエンターテイメント、ウェルビーイング、サステナブル 、エクスペリエンス の4つの価値をゲストに提供します。館内には京都にゆかりのあるアーティストが手掛けた作品が複数展示され、ホテルステイをしながら、作品を身近で楽しむことができます。またノーガブランドのホテルは音楽にも強いこだわりがあり、当ホテルも館内にはそれぞれのテーマに合わせたオーディオを設置しています。共有部のインテリアデザインはROOMSが、客室のインテリアデザインはUDS+Dugout,LLC が担当しています。




01-1. ホテルの世界観に誘うエントランス

ホテルに到着するとまず目に入るのが、種類の異なる沢山の植物。建物外観は京都らしい和の佇まいですが、沢山の植栽からはモダンさを感じ、そのコントラストから、これからこのホテルでどのような体験ができるのか、高揚感が高まります。

ノーガホテル清水京都03

開口部がガラス張りになっていることで、外の景色とホテルの館内がシームレスにつながり、京都の街並みとホテルの世界観が美しく調和をしています。夜はライティングの演出により、ホテルの外からでも幻想的な空間を感じられます。




01-2. 五感を刺激するロビーラウンジ

ロビーラウンジは「和える」をコンセプトに設計され、和と洋の要素を融合した空間です。日本の伝統的な構造物の一つである櫓を想起させる木組みが空間全体を包み込み、照明による美しい印影が魅力的なロビーラウンジをつくりあげています。古材で構成されたこの櫓からは、時間の経過や歴史を大切にしている趣を感じることができました。一方で、中央にあるモルタル仕上げの柱がスタイリッシュさを表し、空間の和と洋の要素を結んでいるように感じます。

ノーガホテル清水京都 内観01



ロビー奥の階段は、地下のレストランにつながります。櫓に連結するように、同じ古材で構成された階段空間は、ホテルに訪れた人々をホテル内部へ、そしてノーガホテル清水京都の世界感へと、自然に誘導させるような空間演出でした。
ロビーラウンジにはベーカリーが併設されています。焼きたてのパンの良い香りが常に漂い、五感が刺激される心地良いスペースでした。パンを販売しているテーブルや床にも古材が使われていて、パンの美しい見た目と、どんな味なのだろう、という想像力を空間デザインが掻き立てています。

ノーガホテル清水京都 内観02




01-3. 和と洋を融合したモダン空間

207室の客室の中で多数のルームタイプがありますが、その中からジュニアスイート、ノーガスイート、エグゼクティブダブルをご紹介します。


ジュニアスイート

ノーガホテル清水京都は2つのスイートルームがあります。ジュニアスイートは57m2を有したモダンな空間で、 この客室は有限会社ROOMSが設計デザインを手掛けています。壁面はベージュの左官仕上げをほどこした温かみのある印象で、スタイリッシュなブラックのアイアンフレームにより空間をひきしめています。



ノーガホテル清水京都 客室01

リビングスペースに対し、ベッドルームのフロアレベルが一段高いところに設えられています。壁面にあるミラーの効果もあり、天井が高く、空間が広く感じました。
ミラーに挟まれた黒い木質の壁面は、実はスライディングドアになっています。一見、そこにドアがあるとは思わないようなノイズレスな空間デザインでした。ドアの向こうはバスルームが広がっています。



ノーガホテル清水京都 客室02

ベッドサイドに設けられたラウンジスペースは、行燈風のスタンドライトにより、モダンな空間に和のエッセンスをほのかに与えています。
TVが設置された壁面は、一見木質の壁ですが、収納機能が備わっていました。ドリンクや食器などが収納され、空間のノイズになることなくミニバーが設けられています。



ノーガホテル清水京都 客室03

またソファが置かれたリビングスペースには、真空管アンプと上質なスピーカーが設置されています。真空管の灯を視覚で感じながら、音楽を味わうことができ、上質なリラックスタイムへと引き込まれます。




ノーガスイート

もう一つのスイートルームであるノーガスイートは76m2を有した和モダンスタイルで、ミニキッチンを備えたレジデンシャルライクな客室です。



ノーガホテル清水京都 客室04

客室に入ってすぐに目に入るダイニングエリアには、Yチェアの愛称で親しまれている北欧デザインの椅子がしつらえられています。奥には床座でくつろげるリビングスペースに、長 大作氏のローチェアがあり、和とスカンジナビアの融合を感じることができました。石や金属で構成された無機質な空間の中で、家具の持つ木質のあたたかみが強調されています。



ノーガホテル清水京都 客室05

ダイニングとリビングを結び、空間の中でひときわ輝きを放っていたキャビネット。西陣織の帯に使用される引き箔の技術を使用し、焼き箔という技法で豊かな表情を出しています。大正13年創業の老舗 西村商店とのコラボレーションによるデザインです。パネルの一つひとつが異なる抑揚を描き、寒色から暖色へと変化する表現は、空間に調和をしながら、京都の伝統を継承していくという強い決意とクラフトマンシップを感じさせます。このキャビネットはダイニングとベッドルームをゆるやかに仕切る役割も果たしています。



ノーガホテル清水京都 客室06

ベッドルームはチェリー材のフロアで構成されていました。リビングやダイニングに比べると木質が使われている面積が大きいため、より温もりを感じます。このように、大きなひとつの空間の中で、用途ごとに空間デザインに少し変化をつけることで、空間にメリハリが生まれ、心地よさを高めているように思います。ベッドサイドに置かれたリーディングランプは朝日焼で作られたオリジナルデザインです。




エグゼクティブダブル

ダブル・ツインルームはグレーをベースにしたスタイリッシュな空間です。京町屋を想起させるような細長い間取りで、玄関スペースから広いベッドルームへと誘導させる空間でした。山紫水明をテーマにしたカラーコーディネートで、やや紫味も感じるようなグレイッシュな空間に、京都の伝統工芸で造られた焼き物やファブリックが美しく映えています。



ノーガホテル清水京都 客室07

ベッドサイドやミニバーにも、ノーガスイートで紹介した引き箔が使用されています。ペンダントライトもオリジナルデザインで、シェードの表面に花が咲いたような結晶模様が現れる京焼・清水焼窯 陶葊とのコラボレーション作品です。

ノーガホテル清水京都 客室08




01-4. ウェルビーイングを高めるメディテーションルーム

ノーガホテル清水京都では、京都の伝統文化を感じられるさまざまな体験サービスを提供しています。その一つとして、地下に設けられたメディテーションルームでの瞑想体験があります。心拍を測定する専用のリストバンドをつけて部屋に入り、個々の心拍のリズムにあわせて、目の前に置かれた灯りが移ろいます。このメディテーションルームは鴨川の「Sagan(左岸)」をテーマにしていて、四季や時間、鼓動の移ろいを空間全体の体験を通して感じることができます。

ノーガホテル清水京都 メディテーションルーム

卵型をした空間は、ベージュカラーの左官仕上げが壁面を覆い、ぼんやりと天井を照らす間接照明により、温かさと安心感を感じます。陶芸家 谷口晋也氏が制作した水琴窟(すいきんくつ)に滴る水の音に集中し、移ろう灯りの中で、心身のリフレッシュができる一時でした。

Photos ノーガホテル清水京都



Zentis Osaka
ホテルエリア:1階~13階

https://zentishotels.com/ja/osaka/
住所:大阪市北区堂島浜1丁目4番26号
TEL: 06-4796-0211
アクセス:JR東西線「北新地駅」より徒歩約4分、阪神「大阪梅田駅」より徒歩約9分、阪急「大阪梅田駅」より徒歩約15分

大阪の堂島浜に2020年7月に開業したZentis Osakaは地上16階建て、暮らすように滞在を楽しめるホテルです。「Encounters of a New Kind 感性が、深呼吸する場所。」をコンセプトにかかげ、今まで出会うことのなかった人々、ビジョン、価値観、アイディアといった「新しい何か」との知的邂逅の場をゲストに提供することを目指しています。内装デザインは世界的インテリア デザイナーであるタラ・バーナード氏率いるタラ・バーナード&パート ナーズが担当。洗練されたゲストをターゲットに、館内は自然な素材や色を基調としたデザインになっています。




02-1. 洗練された明るいエントランス、ロビー

ホテルに入ると、優しくやわらかい印象の空間に包まれ、Zentis Osakaの世界観に引き込まれます。外光が白のシアーカーテンを通して空間を柔らかく照らし、天井に設えられた木目のルーバーにより、心地良い影を生み出しています。グレージュカラーの木目、ホワイトブリックや、グレーのチェッポストーンなど、ナチュラルなマテリアルの質感を活かしながら、洗練された上質なエレガントスタイルを表現しています。



Zentis Osaka ロビー01



ロビーの中心には、1階から2階へと続く階段が設けられ、空間の開放感を感じます。この階段のデザインにもこだわりがみられ、手すり部分がレザーのテープを重ねながら巻き付けたようなデザインになっています。このような細部へのこだわりにより、空間を構成するマテリアルの質感を一つひとつ大事にしていることを感じます。

Zentis Osaka ロビー02

またロビーのキャビネットには、さまざまな調度品がコーディネートされています。このキャビネットにエレベーターが組み込まれたようなデザインで、ゲストが快適に過ごせるための設備と空間デザインが見事に融合していました。




02-2. ナチュラルとラグジュアリーが融合したラウンジ

ロビー奥には宿泊客が24時間利用できる宿泊客限定ゲストラウンジがあります。コーヒーや紅茶は無料、そのほか大阪のクラフトビールや地元銘柄のソフトドリンク、スナックも販売しています。用途に合わせてさまざまなくつろぎ方ができるように、ソファやチェア、そして壁側にはそっと包み込まれるような安心感を感じるパーソナルソファが設置されています。



Zentis Osaka ラウンジ01

空間を構成しているのは、ナチュラルな印象のホワイトブリック、幾何学模様のタイルと、いっけんカジュアルにも感じてしまうマテリアルですが、空間全体としてはエレガントなラグジュアリースタイルを表現しています。選び抜かれた上質な家具もあいまり、ナチュラルとラグジュアリーという相対する印象を、見事にまとめあげていました。


Zentis Osaka ラウンジ02

窓際にはガラスで構成されたスタイリッシュな暖炉があり、夜になると外のテラス席からも炎の揺らぎを見ながらくつろぐことができます。テラスも複数の席が設けられ、ゲストは心地良い風を感じながら好みの場所でゆっくりと過ごすことができるスペースでした。




02-3. エレガントスタイルのナチュラルな客室

全212室の客室は、Studio、Corner Studio、Suiteの3タイプあり、その中からSuite、Studioをご紹介します。


Suite

Suiteは客室の中央にバスルームが設置された個性的な間取りで、このバスルームが空間の軸となり、リビング、ベッドルームが広がります。そのバスルームの壁面ですが、一部が切り取られたようなデザインになっています。空間デザインとしての面白さだけでなく、この抜け感があることで客室をより広く感じさせます。レジデンシャルライクな空間で“暮らすように滞在できる” スイートでありつつ、ホテルライクな非日常感もあり、Suiteでの滞在に期待が高まる空間デザインでした。

Zentis Osaka 客室01

床や建具はグレージュカラーのオーク材を使用し、家具やファブリックにマスタードイエローやネイビーでアクセントを加えています。ベッドルームとリビングルームを仕切るスライドドアや、クローゼットの扉は、オーク材を縦と横に組み合わせたデザインで、シンプルでありながらも、しっかりと木質のぬくもりを感じさせる空間です。オリジナルデザインの家具が空間をゆるやかに仕切り、機能性も感じられました。

Zentis Osaka 客室02



Studio

25m2とコンパクトな空間でありながら、工夫された間取りにより実際の平米数よりも広く感じる空間でした。玄関を入ると、広めの間口が設けられ、クローゼットがあり、併設する形でサイドボードが置かれています。クローゼットをオープンにし、かつサイドテーブルの上をカウンターとして使用できる点が、空間を広く感じさせている演出なのではないでしょうか。またサニタリールームの壁面が一部切り取られているのもユニークなデザインで、これも空間を広く見せている要素だと思います。

Zentis Osaka 客室03

空間全体がグレージュカラーのオーク材や石で構成された落ち着いたナチュラルテイストで、ファブリックやヘッドボードのマスタードイエローが空間を華やかにしています。またウィンザーチェアをオマージュして作られたシビルチェアが、空間を優しい印象にしています。オリジナルデザインの家具は空間にすっきりとおさまり、かつ豊富な収納スペースも有した機能的なデザインでした。

Zentis Osaka 客室04

ヘッドボードの上には一筆書きで描かれたアートワークがあり、ほのかに和の要素を感じます。このアートは江原正美氏がホテルのコンセプトに合わせて作成したものです。



02-4. 新しい上質な感性を体験できるレストラン&バーラウンジ

ホテル2階に位置する「UPSTAIRZ Lounge, Bar, Restaurant」はバーラウンジを併設したオールデイ ファインダイニングです。バーラウンジは吹き抜けの空間の中で、ホワイトブリックやグレージュカラーの木質、マスタードイエローをアクセントにした開放的なデザインです。ダイニングスペースは幾何学模様を描くネイビーとホワイトのフロアタイルが空間全体を華やかに彩っています。このレストランもタラ・バーナード&パートナーズがデザインしているため、ホテル館内のインテリアとも調和していました。

Zentis Osaka レストラン・バーラウンジ01

バーラウンジに設えられたハイチェアは、座面がレザー、背面がファブリックとあえて異なる素材で構成されていて、マテリアルの質感を豊かに表現していました。テラス席はブルーやグリーンをベースに、外の景色と調和するようなカラーコーディネートで、都心部に居ながらリゾート感を味わえる空間でした。

Zentis Osaka レストラン・バーラウンジ02




02-5. 身支度を整えるRoom 001

Room 001と名付けられた宿泊者だけが利用できるこの部屋は、「最高の身支度を整える場所」をコンセプトとした、24時間利用可能な多目的ルームです。ランドリーやアイロン設備だけでなく、シューシャインスペース(有料)やフレグランスバーが設けられています。季節ごとにラインナップが変わるフレグランスが置かれていて、お気に入りの香りを身に着けて出かけることができます。

Zentis Osaka Room 001

室内には身支度にまつわるユニークなアートも展示されています。本やネスプレッソも用意されているため、ランドリーを待っている間もこの場所を楽しみながら過ごすことができます。Room 001はZentis Osakaならではのユニークなサービスで、サービスとデザインが見事に融合したスペースでした。

Zentis Osaka Room 001

Photos Zentis Osaka

03. トレンドレポート ホテルVol.3 まとめ&編集後記

今回は大阪、京都に開業した話題のホテルを2つご紹介しました。いずれのホテルも自然との共生を空間デザインに取り入れ、ナチュラルな印象のマテリアルを組み合わせて、共有部は空間をダイナミックに彩っていました。一方で客室は、共有部よりも落ち着きを感じるグレー、グレージュをベースとした空間で、ひとつひとつのマテリアルやデザインのディテールが際立つような構成がされています。さらにホテルでの滞在にプラスアルファの価値提案として、「身支度を整える部屋」と「メディテーションルーム」を取り上げました。ホテルでの滞在が、非日常的な暮らしの体験、くつろぎながら宿泊するといった従来の目的だけでなく、仕事をしたり打ち合わせをしたり、体験を写真や動画に残してSNSにアップしたりと多様化していいます。このようなゲストのさまざまな欲求を満たし、新たな価値や感性を呼び起こす提案が今後も見られるのではないでしょうか。同時に、それらを体験する空間もコンセプトやストーリーを表現する、“意思のある空間“が増えています。新しい視点でマテリアル・カラーを自由に組み合わせながら、落ち着きや癒しを感じさせるインテリアコーディネートに今後も注目したいです。





取材、撮影 & テキスト




Chihori Kunito (大日本印刷株式会社 生活空間事業部)
大学・大学院で心理学・認知科学・色彩心理学などを学ぶ。学生時代は内装の色彩が人間の心理に与える影響や、肌がきれいに見える壁紙の色彩などについて研究。日本色彩学会 2011年学会大会にて発表奨励賞を受賞。2012年DNPグループに入社し、壁紙の企画デザインを担当。2016年より現在の部署にて、ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター

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