ミラノデザインウィーク2023レポート Vol.3

イタリアで4月中旬に開催された今年のミラノデザインウィーク。DNPでは社員が実際に現地にて、100件を超えるブランドの視察・取材を行いました。各ブランドの新作や、ミラノデザインウィークでの展示の様子について、Vol.1~Vol.4まで4回に分けてご紹介します。 (Vol.1-2、Vol.4はページ下部「関連記事」にリンクがあります)



2023年ミラノデザインウィークの様子、各ブランドの新作紹介

arper ブランドサイトへリンク
今年のコンセプトは「Life Is Beautiful/人生は美しい」。私たちを取り巻く環境が複雑化する中で、暮らしや働くシーンに「美しさ」や「力強さ」、「活力」をもたらすソリューションとしてのプロダクトと新たな視点を提案するものです。García Cuminiがデザインした新作Semiton(セミトン)は、カスタマイズ力に優れ、あらゆる空間に構造やサーフェス、収納を追加できる順応性に富む製品です。組み合わせて、外して、片付けて、スペースを作って、飾って。 動きながら働くノマドワーカーを念頭に開発された自在に組み合わせ可能なモジュール性と豊富な仕上げによってほぼ制限なしで組み合わせが可能。あらゆるシーンにユニットを追加し、組み合わせを変えながらスペースを進化させることができます。

arper



Gervasoni ブランドサイトへリンク
Gabriele e Oscar Burattiのデザインによるダイニングテーブルとベンチのコレクション “Yaku”。その名は古代の森林への賛歌の意を込め、日本の屋久島から取られました。シンプルな要素による洗練された構成という日本の伝統的な表現手法にインスピレーションを受けてつくられたこのシリーズは、ミニマルな直線にカットされた木材と、わずかに空けられた区分線による繊細かつ力強い佇まいが特徴です。3配色展開のうち、Salone del Mobileの展示会場では “Cherry” と呼ばれる朱色のカラー(画像左)が目を惹いていました。

Gervasoni

Text by Hidehiro Anzai



カリモク家具  ブランドサイトへリンク
日本の家具メーカーであるカリモク家具は、2021年に国内で発表したZaha Hadid DesignとのプロジェクトのSEYUNを国際的にローンチしました。会場となったバガッティ・ヴァルセッキ美術館では、ダイニングチェア、アームチェア、テーブルの3種類が展示され、その何れも唯一無二の造形と言えます。なかでもメタリック塗装されたオーク材には、木の導管の凹凸が残り、その近未来的なモチーフはCMFの観点からも異彩を放っていました。近年、Foster + Partnersとのコラボレーションでも話題となった同社は、技術力の高さのみならず、デザイン性でも世界から注目を集めています。

カリモク家具

Text by Ryo Nagai



Kartell  ブランドサイトへリンク
Kartellは今年、Salone del Mobileで “My Kartell” というタイトルでスタンドを出展。広々とした空間の中、ソファ、テーブルそしてランプといったさまざまなプロダクトをそれぞれに最適な背景色と組み合わせた演出がなされていました。新作の一つ、Piero Lissoniによる “ASIA” は、柔らかなクッションとすっきりとした金属製のフレームが美しい関係性を生み出すソファシリーズ。展示会場では、白と黒によるミニマルな色合いが、コーラルカラーの背景と組み合わされ、エレガントな空間をつくりあげていました。

Kartell

Text by Hidehiro Anzai



Moroso  ブランドサイトへリンク
ミラノ市内のMorosoショールーム(画像左)に展示されていた、Patricia Urquiolaによるテーブル、シェルフの新コレクション “Rows”は、その形状と表面意匠の双方に見られる直線的なパターンが印象的。特に表面の凹凸によって表現されたストライプパターンは、ピュリスムの提唱者の一人として知られるフランスの作家/画家 Amédée Ozenfantの絵画のスタイルにインスピレーションを受けてつくられています。職人による巧みな技とアーティスティックな趣きが共存するシリーズです。

Moroso

Text by Hidehiro Anzai



Living Divani  ブランドサイトへリンク
Marco LavitデザインのコンソールALVEAは、木工細工に着目し、オーク材を三角形に組み合わせたユニークなデザインです。木材を格子に組んだ天板“carabottino” と、連続的な木目の側面のコントラストを楽しむことができます。David Lopez QuincocesデザインのARKは、シンプルで有機的なラインが特徴のチェアです。メイプルなどの木質で構成された直線的な背面と、アーチ状に切り抜かれた側面の組み合わせにより、ミニマルでありながら彫刻的な高いデザイン性を表現しています。

Living Divani

Text by Chihori Kunito



Poltrona Frau ブランドサイトへリンク
Poltrona FrauはManzoni通りのショールームで、 2023 Pleasures Collectionを発表しました。ロベルト・ラッツェローニがデザインしたInfinitamenteは限定72台の復刻版です。トップには光沢のあるビアンコ・リヴィリアーニ大理石を、ベースにはネロ・マルキーナ大理石を使用し、天然石の美しい質感を活かしたデザインです。

Poltrona Frau01


Poltorna FrauとCeccotti Collezioniのコラボレーションによる、DUO Collectionを発表しました。イタリア式の”甘い生活(ドルチェ・ヴィータ)”にインスパイアされた、同コレクションのアイテムは、キルティング仕様の家具と高級木製家具で、アームチェアやキャビネットなどさまざまな製品がラインアップされています。下の画像はDUOキャビネット。外装は天然クルミ材、天然クルミ材の寄せ木、またはエボニー材で、内部はカエデ材仕上げです。

Poltrona Frau02

Text by Chihori Kunito



編集後記

前回、私が出張した2019年は、世界から家具ブランドに関わらず、大手企業がこぞって出展し、デザインよりもプロモーションの側面が際立っていました。それに比べると今年は、家具ブランド以外の展示は大人しく、相対的に本来ミラノサローネで見られてきた家具やデザインの展示に注目が集まっていたと思います。その例として、ALCOVAには新進気鋭の作家やデザイナーが集い、原始的なフォルムや素材感、強い色彩感覚といった、自由で刺激的な感性が溢れていました。また、トルトーナ地区のIKEAは、未来や社会への自社が担うべき責任をダイナミックに展示し、家具ブランドながら2019年に通じる力強いインスタレーションを行いました。こうした本来の家具のデザイン見本市の文脈に近いブランドや展示が活躍する姿に、私は原点回帰の気配を感じます。あらためて私たちも、ミラノの「家具と感性」に目を向けるべきなのかもしれません。

Text by Ryo Nagai




Editor紹介

Chihori Kunito

ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネート提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター

Hidehiro Anzai

ドイツ・デュッセルドルフを拠点として欧州市場のデザインマーケティングを担当。現地駐在員として市場調査やデザイナーとの対話を通じ、ヨーロッパトレンド情報の収集、及びその発信活動に従事。

Ryo Nagai

WSシリーズのデザインに携わったのち、現在は生活空間に関わるデザイン領域を拡大するべく、企画職を務める。

未来のあたりまえをつくる。®