縦になっても信念は変わらない。集英社の面白いマンガづくり
ジャンプTOONオリジナル作品をサポートする 「MANGA CREATIVE WORKSⓇ」

スマートフォンの普及とともに、新しい読書体験として生まれたコンテンツが縦スクロールマンガです。2024年5月、ついに「ジャンプ」の名を冠した縦スクロールマンガ専用アプリ「ジャンプTOON」がローンチされました。横開きマンガの雄が、縦スクロールマンガに参入して感じていることとは。そして、長年マンガ界でタッグを組んできた集英社とDNPの、新しいマンガ制作の形とは。 ジャンプTOON統括編集長を務める浅田貴典氏と、同じく副編集長を務める日比生高氏にお話を伺いました。2025年1月公開

(プロフィール)
株式会社集英社 第3編集部 部長代理 兼 ジャンプTOON編集部 統括編集長
浅田貴典 氏
株式会社集英社 第3編集部 ジャンプTOON編集部 副編集長
日比生高 氏

次のステップは、「縦スクロールマンガ好き」に認められること

––––––「ジャンプTOON」のローンチから半年以上経ちました。その後の縦スクロールマンガ市場の所感や、「ジャンプTOON」の現在の立ち位置を教えてください。

浅田氏
市場は今まさに拡大傾向にあります。縦スクロールマンガというスタイルは韓国発祥ですが、日本のスタジオが制作した作品からもヒット作が生まれるようになってきました。さらにアメリカを中心に海外へも進出しつつあるのが、業界全体の現在の流れです。

私たちは業界では新参者ということもあり、まだ大々的に海外へ出ていこうという段階ではありませんが、11月からは外部の電子書店でも作品の販売を始めました。まずは、「ジャンプTOON」の作品が面白いということを多くのユーザーに知っていただくための流れを作っていきたいです。

株式会社集英社 第3編集部 部長代理 兼 ジャンプTOON編集部 統括編集長 浅田貴典 氏

––––––読者からの反響は、どのように受け取られていますか?

浅田氏
手ごたえを感じられる作品は確実に増えてきました。例えば、『ハイキュー!! タテカラ―版』は横開きだったものを縦に再構成してカラー化しているのですが、かなりの好評をいただいています。また、『ラスボス少女アカリ~ワタシより強いやつに会いに現代に行く~』『伝説の暗殺者、転生したら王家の愛され末娘になってしまいまして。』など、「ジャンプTOON」発の作品からも徐々にヒット作が生まれてきています。

肌感覚としては、まず「ジャンプ」という名前で興味を持った横開きマンガのユーザーが楽しんでくれているようです。それに加えて、既存の縦スクロールマンガを楽しんでいる読者にも選んでいただけるようになってきた、という印象です。

自分たちが「面白い」と信じる作品を発信し続ける

––––––「ジャンプTOON」の作品づくりには、どのような方針がありますか?

浅田氏
我々が信じる面白い作品を届ける、ということに尽きると思います。そういった意味では、ことさらに流行を追ったり、特定ジャンルに力を入れたりはしていません。私が横開きのマンガ雑誌出身というのもあるかもしれませんが、全方位で作品を作っていくことが大切だと考えています。

その上で、縦スクロールマンガという文化や、読者と一緒に成長をしていきたいという思いは強く持っています。業界も発展途上であり、現在は作品よりも各社のマンガアプリが前面に出ている感覚もあります。今後1~2年すれば、縦スクロールマンガの作品性がより注目されるようになり、例えば、ナタリーさんが主催する「タテ読みマンガアワード」といった形で作品そのものの面白さに光が当たっていくことになると考えています。そして、次のフェーズとして、和製縦スクロールマンガがアニメ化されるような展開が本格化していくのではないでしょうか。このようなトレンドの中で、私たちは自分が面白いと信じる作品を世に出しながら、新しいムーブメントにしっかりと乗っていきたいですね。

––––––読者の反応という点では、自社アプリを持つことは有効だったのではないでしょうか。

浅田氏
「ジャンプTOON」内のデータがすべてではないので、外部の電子書店などでの評判も含めて手探りの状態ではありますが、マーケティング仮説を立てることや、その検証にも役立っています。ウェブ広告の精度もかなり向上しましたね。さまざまなクリエイティブを試して、それぞれの施策がどれだけ効果的なのか経験値がどんどん溜まっています。

ただし広告に関して言えば、せっかく関心を持っていただいても、肝心のアプリが「面白くない」と思われれば読者はすぐに離れてしまいます。逆に、期待通りに「面白い」と思ってもらえれば定着していただけるので、結局は面白い作品を出し続けることがアプリの誘引にも大きく影響します。たくさんの企画を打ち出して、経験値を積んで面白い作品をお届けする。これを繰り返していくことで作品がヒットし、アプリも大きくなっていくということが本質だと思っています。

––––––作品づくりはもちろんですが、タテマンガ新人賞の 「ジャンプTOON AWARD」など作家さんの育成にも熱心な印象を受けます。

浅田氏
「ジャンプTOON AWRAD」では、投稿作品の中から一緒に制作をしてもらえる才能を発掘しています。受賞作は表彰するだけでなく、ある程度ボリューム感のあるお仕事にできるように3話から4話程度の短期連載枠で積極的に展開していこうとしています。受賞作がいつどんな形で掲載されるかということが作家さんの一番注目しているところだと思いますので、最終的には短期連載から、長期連載までの道筋をはっきりとお見せすることで、作家への登竜門としてもしっかりと機能する場にしていきたいですね。

分業前提の縦マンガの世界では、各工程のクリエイティビティの最大化が重要

––––––縦スクロールマンガの制作をはじめるにあたって、想像と違ったところはありましたか?

浅田氏
何もかも別物だろうとはイメージしていましたし、始めてみると「やっぱりそうだった」というのが率直な感想です。フルカラーの作品が多いのもそのひとつで、これまであまり経験してこなかっただけに、面白くもあり難しいところです。単純に豪華な着色をすればよいというものでもなく、作風や読者層も加味したバランス感覚にはセンスが試されます。

カラーリング以外にも、横開きのマンガより工程が細分化されているのでクリエイティブの判断の機会が多いです。そのため「ジャンプTOON」の編集者の、制作ディレクターとしての役割は非常に重要です。

––––––工程の細分化による分業制は、これまでとの大きな違いだと思います。意識されていることはありますか?

浅田氏
企画を作る、脚本を書く、コンテを書く、線画を描く、カラーリングをするといった具合に各工程で担当者が分かれているからこそ、それぞれがクリエイティビティを最大限に発揮しなければよい作品はできないと考えています。関わる人全員が力を出し切れるように、環境を整えたりハンドリングしたりしていくのが編集部の使命です。

––––––日比生さんは実際に現場で制作をされていると思います。携わってみた実感としてはいかがでしょうか。

株式会社集英社 第3編集部 ジャンプTOON編集部 副編集長 日比生高 氏

日比生氏
これまでと勝手が違うと感じることは、やはり多いですね。現在私たちとお仕事をしていただいている作家さんは、横開きのマンガのときからお付き合いのある方も多く、移行する際には課題もいくつか出てきました。最初のころよく見られたケースとしては、スマートフォンの画面サイズを考えたときに、情報量が多すぎたり視認性に欠けるコマを作ってしまったり、などでしょうか。

また、例えば横開きのマンガでは、見開きごとに右ページ右上のコマで意外性のあるシーンを持ってきたり、左ページ左下のコマで続きが気になるコマを持ってきたりする手法がよく使われます。縦スクロールマンガではそれができないので、ヒキのコマとオチのコマがテンポ良く繰り返されるような構成にする必要があるんです。そのような縦スクロールマンガの“文法”を作家さんとともに日々模索しています 。

横マンガ時代からのノウハウが生かされた
「MANGA CREATIVE WORKS」ソリューション

––––––「ジャンプTOON」の一部の作品において、DNPは「MANGA CREATIVE WORKS」ソリューションで協業させていただいています。これまでの感想をお聞かせください。

日比生氏
私の担当作としては、『魔力ゼロだけど物理魔法で最強です』でご一緒させていただいています。DNPさんには制作進行をしっかりと管理していただいて、非常に助かっています。本作は、原作が「ダッシュエックス文庫」というライトノベルの編集部で作られています。そのため、関わる人数が多くなりがちな縦スクロールマンガ制作の中でもかなりの大人数で制作しているのですが、長年にわたる集英社との関係性と経験値が蓄積されているDNPさんが見てくれているという安心感があります。

––––––具体的に、どのような管理がされているのでしょうか?

日比生氏
連絡環境と、データを一元化していただいています。欲しい情報にすぐアクセスできるので、ストレスなく制作ができています。

縦スクロールマンガは工程が細分化されているという話がありましたが、その分扱うデータの点数も膨大になります。原作、ネーム、線画、カラーリング、写植といった具合ですね。本来であれば、そのデータをどこまで残しておくかということにもなりますが、今回は“編集者が全データを作業工程ごとに確認できるようにしておけないか”ということをご相談しました。データの点数や関わる人が多くなるほどアクシデントの原因にもなりますが、整頓と管理が徹底されているためその気配はなく、頼もしく感じています。

浅田氏
絶対にミスを出さないという姿勢には本当に助けられていますね。特に写植でDNPさんのありがたさを実感しているところです。集英社とDNPさんの間では当たり前にこなしている写植ですが、縦スクロールマンガでは新しい表現手法も多いですし、これまでとスキームが違うため写植工程での調整などもけっこう多いんです。DNPさんの場合は、写植内容を指定したら希望のスケジュール内にしっかり校正された状態で出てくる。当然のように思っていた光景がどれほど恵まれていたことかと、今になって感じています。

長年信頼関係を築いてきたパートナーに管理をお任せすることで、こちらは作家さんをはじめ各人がクリエイティビティを発揮できる環境を整えることに集中できます。その意味でも、DNPさんは本当に頼もしい存在ですね。

グローバルや多メディア展開も含めて、チームとして進んでいきたい

––––––今後の縦スクロールマンガの展望について、お聞かせください。

浅田氏
市場という観点では、縦だろうと横だろうと面白い作品が出れば広がっていくし、面白くなければ縮小していくというシンプルな考え方でいます。縦スクロールマンガだからという見方はあまりしていません。一方で、海外では日本ほど横開きのマンガの読み方に熟練した方が多くないため、読みやすい縦スクロールマンガならではの可能性もあると思います。

クリエイターの観点では、これまで以上に多くの人が参入できるようになるのではないでしょうか。制作ツールの進歩や、投稿できる場所もさまざまにある現在、マンガ家の数は史上最多になっていると思います。原作から作画まで、イチからすべてをこなす横開きマンガ制作のハードルを高く感じる人もいると思います。しかし、分業制が基本の縦スクロールマンガであれば、企画だけやりたい、線画だけやりたいといった人たちの選択肢も広がるかもしれません。

日比生氏
私も、海外市場の可能性は非常に感じています。先日、ニューヨークで開催されたイベントを視察した際に、DNPさんの現地オフィスも訪問したのですが、北米市場ではまだ紙の書籍のほうが電子書籍よりも圧倒的に大きい市場と聞きました。その点では、英語圏の縦スクロールマンガ市場はかなり開拓の余地を残しているといえそうです。

––––––そんな展望の中で、今後のDNPとの協業に期待することはありますか?

日比生氏
海外市場の話でいえば、グローバルに拠点を展開しているDNPさんとはその可能性を探っていけるのではないかと思います。

浅田氏
DNPさんに期待することとしては、よりよい作品づくりを今後も一緒にやっていきたい、ということに尽きます。その結果として認知や市場が広がっていくわけですから。

日比生氏
先日、DNPさんに「MANGA CREATIVE WORKS」を通してお声がけできる作家さんの情報を提供していただく機会がありましたが、こういう連携を深めていきたいです。
作品づくりや提案にこれまでと違う選択肢が生まれる可能性を感じていました。今後も、試行錯誤をしながら一緒に作品を作り上げる、そんなチームとして進んでいけると嬉しいですね。

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