サプライチェーン全体の脱炭素化とは?基礎知識や取り組み方を解説

近年、企業の環境対応において「サプライチェーン全体の脱炭素化」が重要なテーマとなっています。自社の工場やオフィスだけでなく、原材料を仕入れる取引先や物流会社など、ビジネスに関わるすべての工程でCO₂排出量を削減する取り組みです。規制の強化や取引先からの要請を背景に、対応を迫られる企業が増加しています。本記事では、基本的な概念から具体的な進め方までを解説します。(2026年5月公開)

サプライチェーン全体の脱炭素化とは?

「サプライチェーン」とは、原材料の調達から製品の製造・販売・廃棄に至るまでの一連のビジネスの流れを指します。
「サプライチェーン全体の脱炭素化」とは、この流れ全体でCO₂などの温室効果ガス(GHG)の排出量をゼロに近づけていく取り組みです。

自社の製造・販売だけを対象にするのでは不十分で、原材料を供給する取引先や物流会社なども巻き込んだ上で、サプライチェーン全体としてGHG排出量を削減していくことが、脱炭素化の本来の姿といえます。

企業に脱炭素化が求められる背景

2015年に世界各国が合意した「パリ協定」をきっかけに、気候変動への対応は国際的な共通課題となりました。
日本政府も2050年カーボンニュートラル(GHG排出量を実質ゼロにする)を目標に掲げており、企業にも具体的な行動が求められています。

また、環境・社会・企業統治(ESG)を重視する投資家や金融機関が増加しています。
その結果、脱炭素化は「できればやる取り組み」から「経営上の必須対応」へとその位置づけが大きく変わりつつあります。

Scope1・Scope2・Scope3とは?

GHG(greenhouse gas)とは、温室効果ガスの略称です。
GHG排出量は3つのScopeに分類さます。

Scope1 自社設備や車両からの直接排出
Scope2 購入した電気・熱などに伴う間接排出
Scope3 上記以外のすべて(サプライチェーン全体)にわたるGHG排出量

原材料の調達・加工から製品の輸送・使用・廃棄までを幅広く対象とするScope3は、多くの企業でGHG排出量全体の大部分を占めます。
サプライチェーン全体の脱炭素化を進めるうえで、Scope3への対応が最重要課題といえるでしょう。

DNPと株式会社zeveroの協業により、企業のサプライチェーン全体における温室効果ガス(GHG)排出量の削減を支援しております。

サプライチェーンの脱炭素化が急務になっている理由

法規制の強化・政府の方針・国際ルールのすべてが企業に脱炭素化の対応を求めています。
対応を先送りすると、投資対象から外される・取引先に選ばれなくなる恐れがあります。
脱炭素化への取り組みは、もはやリスク管理の観点からも欠かせない経営課題となっています。

取引先からCO2排出量の開示・削減を求められたことはありますか? ある94.0%、ない6.0%

当社(大日本印刷株式会社、以下DNP)が実施した「サプライチェーン脱炭素化への対応実態調査」では、94%の担当者が「取引先からCO₂排出量の開示・削減を求められたことがある」と回答しています。
脱炭素への対応要請は特定の業種に限らず、幅広い企業に広がっていることがわかります。

2027年3月期から上場企業のCO₂開示が義務化される

金融庁は、上場企業に対してCO₂排出量を有価証券報告書で開示するよう、段階的に義務化を進めています。
自社の排出量だけでなく取引先も含めたScope3の開示についても、2027年3月期を目途に大手上場企業へ求められる見通しです。

Scope3の集計には取引先の排出量データが不可欠です。
そのため、大手企業からサプライヤー(中小企業を含む)へと、データ提出の要請が連鎖的に広がっています。

国・自治体の政策がサプライチェーン全体の脱炭素を後押ししている

国・自治体もサプライチェーン全体の脱炭素を促す政策を積極的に打ち出しています。
各省庁・自治体の主な取り組みは、以下のとおりです。

機関 主な取り組み
環境省 2050年カーボンニュートラルの実現に向けた施策を体系的に推進。企業の脱炭素経営を支援するガイドラインや補助制度を整備
経済産業省 GXに関する国家戦略を通じて、化石エネルギー依存からクリーンエネルギー中心への産業構造転換を推進
農林水産省 フードサプライチェーンにおける脱炭素化の「見える化」を重視し、食品業界全体でのCO₂削減を促進
東京都 中小企業のサプライチェーンにおける脱炭素化を支援し、CO₂排出量の見える化や削減の取り組みを促進

官民が連携してサプライチェーン全体の脱炭素を後押しする流れは、今後もさらに加速されることが予想されます。

国際的な枠組みもサプライチェーン対応を求めている

温室効果ガスの排出量を国際的に統一した方法で算定するための基準が「GHGプロトコル」です。
Scope1・2・3の分類はここで定められており、Scope3の計算方法も整備されています。

また、「SBT(科学的根拠に基づく排出削減目標)」という国際認証では、Scope3の削減目標の設定が条件となっており、認証取得を目指す企業は増加傾向にあります。
パリ協定の目標に合わせた行動が世界規模で求められる中、Scope3への対応は避けられない課題といえます。

サプライチェーン全体で脱炭素に取り組むメリット

脱炭素化は「義務だからやる」にとどまらず、積極的に進めることで自社の競争力を高める機会にもなります。

企業の信頼・評価が上がる

環境への取り組みを重視する投資家や金融機関が増えており、CO₂削減に積極的な企業は資金調達において有利になりやすい傾向があります。
また、大手企業を中心に取引先の環境対応を調達基準に組み込む動きも広がっています。
排出量の開示や削減実績を示せることが、発注先・調達先としての信頼性向上と、既存の取引関係の安定化につながります。

新しい取引先が増える可能性がある

サプライヤー選定の基準に脱炭素対応の状況を取り入れる動きが広がっており、GHG排出量の開示体制や削減実績が評価されるケースもあります。
対応が遅れると、既存取引先からの評価を見直しにつながる恐れもたるため、積極的な取り組みが既存ビジネスの維持と新たなビジネスチャンスを同時に開く鍵となります。

コスト削減につながる

脱炭素化の取り組みとコスト削減は、多くの場面で連動します。
電力・燃料の使い方を見直したり、省エネの設備を導入することは、中長期的な光熱費・燃料費の削減に直結します。

物流を最適化して輸送距離や頻度を減らすことも、コストとGHG排出量の両方に効果をもたらします。
GHG排出量データの管理体制を整えることで業務全体の棚卸にもつながり、非効率な部分を発見する機会にもなるでしょう。

サプライヤー連携を進める上での課題と解決策

脱炭素化の必要性を感じていても、サプライヤーとの連携がなかなか前進しないという声は少なくありません。

サプライヤーと連携した脱炭素の取り組みは現在どの段階ですか?

前述の調査では、取引先から要請を受けた94名のうち、サプライヤー連携を「すでに取り組んでいる」と答えた割合は約50%にとどまりました。
「取り組みを検討中」が44.7%、「必要性は感じているが着手できていない」が4.3%と、半数近くがまだ動き出せていません。

サプライチェーン全体の脱炭素化を進める上で課題に感じていることは何ですか?(複数回答可)※全9項目中上位7項目を抜粋

課題として最も多く挙げられたのは「サプライヤーの脱炭素への意識・対応力にばらつきがある」で56%でした。
次に「排出量データの収集・管理に手間がかかる」という回答が54%です。

サプライヤーによって対応レベルに差がある

複数の取引先を持つ大企業の場合、各社の脱炭素への理解度や対応できる余力には大きな開きがあります。
専任担当者を置いてデータ管理に取り組む企業がある一方、何から始めればよいかわからない企業も少なくありません。

一方的にデータの提出を求めるだけでは、協力を得ることは難しいです。
相手の状況を把握したうえで、どのような支援や情報を提供すれば動いてもらえるかを考えることが、連携を進めるうえでは欠かせません。

排出量データの収集・管理に手間がかかる

取引先から排出量データを収集するプロセスは、担当者にとって大きな負担です。
取引先ごとにデータの形式が異なること、そもそも実測データを持っていない取引先が存在することなど複数の問題が重なり、なかなか整備が進みません。

業界全体の平均値を使った推計では、各社の削減努力と効果の因果関係が見えにくく、改善判断に活用できるデータになりにくい面があります信頼性の高い実測値ベースのデータへ移行していくことが求められます。

サプライヤーが動きやすい仕組みを作ることが重要

サプライヤーとの連携が進まない背景には、「取り組むことのメリットが見えない」という問題があります。
発注元の要請に応えるために余分なコストや手間を負担することへの抵抗感は自然な反応です。

削減実績のある取引先を優先的に継続する、削減コストの一部を支援するといった仕組みが有効でしょう。
「取り組むことで自社にもメリットがある」と感じてもらえる設計こそが、取引先が自発的に動き出す現実的なアプローチといえます。

DNPサプライヤーエンゲージメント支援サービスでできること

こうした課題に対応するために、排出量データの可視化や、サプライヤーとの連携を仕組みとして整えることが重要です。
また、自社だけで対応しきれない場合は、外部サービスの活用も有効な選択肢となります。

その一例として、DNPと、Scope3削減支援の実績を持つ株式会社zeveroは協業して「DNPサプライヤーエンゲージメント支援サービス」を提供しています。

排出量の把握から削減実行まで一貫してサポート

サービスは2つのステップで構成されています。第1ステップでは、取引先が持つ排出量データを整理して実測値への移行を促します。
削減効果が大きい箇所を明らかにしたうえで、費用対効果も考慮しながら優先順位を整理するのが第1ステップの流れです。

第2ステップでは、実際の排出量と目標値を照合しながら削減施策を実行し、計測・改善のサイクルを繰り返して、長く続く削減の仕組みを構築します。
すでに適切なデータを持っている企業は第2ステップからの支援も可能です。

サプライヤーへの研修・説明会で連携体制を整える

DNPサプライヤーエンゲージメント支援サービスはデータ管理にとどまらず、取引先の意識向上を重要な柱として位置付けています。
排出量削減に取り組む意義や具体的な進め方を丁寧に伝えることで、発注元とサプライヤーの関係性に新たな変化が生まれます。

「要請されたからする」ではなく「自社にとっても意味のある取り組みだ」と感じてもらえる関係性の構築を目指しているのが、このサービスの特徴です。
担当者だけでは対応しきれないサプライヤーとのコミュニケーションを、専門チームがトータルでサポートします。

まずは相談から始められる

「自社のScope3がどのくらいあるかわからない」「サプライヤーに何を依頼すべきか整理できていない」という段階からでも気軽に相談できます。
着手できないまま、時間が経過してしまうケースは少なくありません。
必要に応じて、外部の専門家や支援サービスを活用することも一つの方法です。
自社だけでは対応が難しい段階でも、現状の整理やアプローチの検討を効率的に進められる可能性があります。

まとめ

サプライチェーン全体の脱炭素化は、CO₂開示義務化の拡大や取引先からの要請を背景に、対応を避けて通れないテーマになっています。
Scope3への取り組みが強く求められている一方で、取引先との連携を着実に進められている企業はまだ半数程度にとどまりまっているのが実情です。
データ収集の負担や対応レベルのばらつきといった課題を乗り越えるには、取引先が主体的に動ける仕組みづくりが欠かせません。
専門的な知見を持つ外部サービスの活用も、現実的かる有効な選択肢の一つです。

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