高栄養・低環境負荷な飼料原料を、DNPの技術で量産化

ミールワーム飼育システム (開発中)

持続可能な水産養殖を支える新たな飼料原料として、ミールワーム(チャイロコメノゴミムシダマシの幼虫)の飼育システムを開発しています。

動画:【昆虫マテリアル】海を守る、新しい”エサ”のカタチ。(03:40)

ミールワームとは?

飼料用途として注目されている昆虫であり、チャイロコメノゴミムシダマシの幼虫です。魚に与えることで成長促進や耐病性の向上が確認されており、水産養殖用の飼料としての機能性が高く評価されています。さらに、肉や魚と同等以上のタンパク質を含み、ビタミンやミネラルなどの栄養素も豊富に備えているため、栄養価の高い飼料原料としての可能性を持っています。加えて、ミールワームは乾いた環境でも飼育可能で、動き回らず共食いをしないため、飼育スペースを効率的に活用でき、水の使用量も最小限に抑えられます。これにより、土地や水資源への負荷を軽減しながら、高密度かつ衛生的な飼育が実現できます。さらに、環境制御によって成長速度を調整できるため、安定した供給体制の構築に適しています。

昆虫とミールワームの特徴

飼育システム開発の背景

現在、日本の飼料自給率は25%(植物性も含む)にとどまり、養殖魚用飼料の主な原料として魚粉が使われており、その多くが天然魚に依存しています。世界的な人口増加や環境問題、さらにはロシア・ウクライナ情勢などの影響により、養殖魚の飼料(エサ)として主に用いられている魚粉の需要は増加し、価格も高騰しています。輸入依存の体制では、安定的な供給が困難となり、買い負けによる供給不安が顕在化しています。こうした背景のもと、DNPは「日本の食の不安を解消するために、昆虫による動物性飼料原料の国産化を実現する」ことをめざしています。これは、持続可能な食料供給体制の構築に向けた重要な取り組みであり、国内の水産養殖業界にとっても大きな意義を持つものです。

世界の魚生産量の推移とその割合

飼育の自動化

DNPと国立大学法人愛媛大学は、養殖魚の飼料(エサ)となる昆虫の飼育を自動化する原理試作機を開発し、2024年9月20日(金)に愛媛大学の実験室で稼働を開始しました。

原理試作機の特長

  • 人工気象器: 温度・湿度・照明などの環境条件をコントロールする装置。ミールワームが最も成長しやすい条件を追求する。
  • 自動給餌・給水装置: 一定の時間間隔で、ミールワームに必要な量のエサや水を自動的に供給する装置。飼育作業を省人化し、多様な事業者による飼育環境の均一性を保つ。
  • 選別装置: ミールワームと糞(ふん)等を選り分ける装置。成長段階に応じたミールワームの選別を迅速かつ正確に行い、生産効率を向上する。

その後、原理試作機の検証を進めることで、ミールワームの生産から加工までの一貫したプロセスが実現可能な施設・体制を構築し、2025年4月に愛媛大学 樽味キャンパス(エコシステムセンター樽味ステーション)内にラボプラントを設置しました。これにより、人的コストの削減だけでなく、安定した品質管理や生産性の向上にもつながることが期待されています。
DNPと愛媛大学は、ミールワームの量産検証を行うラボプラントを2025年10月に本格稼働させ、年間3トンの養殖魚のエサ用粉末を生産します。その後、飼育工場(パイロットプラント)を立ち上げ、2027年度に年間100トン、2028年度以降に商業用プラントで年間1,200トンの生産をめざします。

ラボプラント外観と中の様子

今後の展望|DNP昆虫マテリアルビジネス

昆虫由来飼料による循環型食料供給モデル

DNPがめざすのは、「これまでと変わらない食」の提供を支える、持続可能な食料生産の仕組みです。その第一歩として、ミールワームを活用した飼料原料の生産システムを構築し、国産の動物性タンパク源の安定供給を実現します。

このビジネスモデルは、単なる昆虫の養殖にとどまらず、飼育技術、装置、種苗、食品残渣のネットワークを組み合わせた循環型の生産体制を構築することにあります。DNPは、食品メーカーや水産養殖業者と連携し、食品残渣を活用した飼育資源の安定供給を図るとともに、ミールワームの養殖から製品加工までを一貫して担うことで、品質と生産量の両立をめざします。

さらに、飼育過程で生じる副産物(フンやオイル)にも着目し、それらを高付加価値素材として活用することで、環境負荷の低減と経済的価値の創出を両立させます。生産されるミールワーム粉末の約9倍(乾燥重量比)も出る大量のフンは、吸着性が高く、空気や水をきれいにするフィルターとして広く用いられている活性炭へと変換できることも明らかになっています。このような取り組みにより、DNPは水産養殖業界に向けて、安定的かつ持続可能な飼料原料の供給を可能にする新しい選択肢を提供していきます。

ミールワームの生産性とビジネスのポイント

ニュースリリース

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