【徹底解説】KPIがKGIへと紐づくカスタマージャーニーマップ活用法
設定された施策のKPI、経営目標に貢献できていますか?

インターネットやSNSでの、Search(検索)やShare(共有)、Viral(口コミ)といった行動が重要な役割を担い、購買行動が複雑化・多様化し続ける近年、選ばれる商品・サービスを提供するには、購買行動を可視化したカスタマージャーニーマップ(CJM)が必要不可欠です。しかし、時間をかけて作成しても活用しきれていないというケースも少なくありません。
そこでこの記事では、CJMを活用し、マーケティング活動のPDCAサイクルを円滑に回すための実用方法を解説します。

目次

1.カスタマージャーニーマップ活用の課題
  1-1.作成時の課題
  1-2.作成後、運用時の課題
  1-3.カスタマージャーニーマップ実用のポイント
2.感情スコアで課題を可視化 ~「エモーショナルカスタマージャーニーマップ」とは~
3.戦略マップと組み合わせたさらに一歩進んだカスタマージャーニーマップの活用方法
4.まとめ

1.カスタマージャーニーマップ活用の課題

カスタマージャーニーマップを作成する企業は、その重要性を理解しているはずです。それでは、なぜ実用面で活用しきれないケースが出てきてしまうのでしょうか。よくある課題を取り上げます。

1-1.作成時の課題

作ることが目的になっている

マップを作る最終目標は、最適なマーケティング活動を行うことです。そのためには、カスタマーエクスペリエンス全体でどこに課題があるのか、特にどの課題が重要であるのかといった分析が必要となります。このような、PDCAサイクルをまわすことに本来CJMは有用なものです。作ることが目的にならないよう、マップ作成の前に目的を明確化しておく必要があります。

マップの精度が低い

CJMは、通常AISASのような購買行動モデルをベースに作成します。しかし、実際の自社顧客の購買行動は、さらに細分化されるケースや、別のプロセスを経たりするケースがあり、これらを反映させることが重要です。顧客の理解や情報が不足していると、マップが一般的すぎて社内で活用できないものとなってしまいます。そのような場合には、関係者へのヒアリングやユーザー調査等で補う必要があります。

1-2.作成後、運用時の課題

カスタマージャーニーマップが施策への落とし込みや効果検証にまで活用されていない

CJMは、方向性の確認のみに使われているケースがよくありますが、本来は、施策および効果検証にまで活用すべきものです。詳しくは2章で述べますが、CJMを定量データで測定し、施策の実施前後にスコアがどう変化したかを確認することで有効に活用することができます。

カスタマージャーニーマップが改訂されない

マーケティング活動の中で、想定していなかった購買行動プロセスやターゲット層が明らかになることがあります。これらの新しい情報は、随時マップに反映させ、改訂していくことが重要です。マップの改訂がされないと、マーケティング活動が実際の顧客の状況から離れてしまい、課題の把握が難しくなります。

マーケティング活動指標としての活用が不十分で成果に繋がらない

CJMは、購買行動プロセスとそれに応じたマーケティング活動全体を俯瞰して、整理や検証ができるツールです。そのため、PDCAサイクルをまわすのに非常に有用ですが、その指標とマップが切り離されていると成果が見えません。そこで、マップとKPIの紐づけが必要です。

マップと紐づける際には、プロセスごとのKPIだけではなく、タッチポイント別のKPIも重要です。カスタマーエクスペリエンス全体としてどの課題がボトルネックとなっているのかを適切に判断するには、タッチポイントの面での検証が必要です。

また、マップ上のKPIがKGI(事業活動のゴール地点)と紐づいていることも重要です。KPIだけで指標を設定すると施策のKPIは達成しているのに売上や利益といったKGIが上がっていないという矛盾が生じるケースがよく見受けられます。

1-3.カスタマージャーニーマップ実用のポイント

これらの課題から、よりCJMの精度を高め、活性化・効果向上につなげるためのポイントは以下の5つです。

1.CJM作成の前に作成したCJMの利活用の目的を明確化する。
2.関係者へのヒアリングやユーザー調査等を行い、情報精度を補う。
3.CJMを定量データで測定し、施策前後のスコア変化を把握することで効果検証まで活用する。
4.新しい情報は随時CJMに反映し、定期的に改訂する。
5.CJMとKPIを紐づけ、マーケティング活動全体を俯瞰して整理・検証するツールとして活用する。

2.感情スコアで課題を可視化 ~「エモーショナルカスタマージャーニーマップ」とは~

これらの課題を解決し、カスタマージャーニーマップを活用する方法として、エモーショナルカスタマージャーニーマップ(エモーショナルCJM)という手法があります。エモーショナルCJMとは、従来のカスタマージャーニーマップの構造に加えて、ネットプロモータ―スコア(NPS)を使って見える化した感情スコアを紐付けたものです。感情スコアがカスタマージャーニーマップと紐づくことにより、顧客とのタッチポイントの課題を導き出すことができるようになるのです。

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エモーショナルカスタマージャーニーマップの例
顧客の感情・関心を可視化し、顧客の購買プロセスにおいて、どのタッチポイント・プロセスにどれくらいの大きさの課題があるかを数値で把握する。

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エモーショナルカスタマージャーニーマップとNPSを用いた分析例

3.戦略マップ*と組み合わせたさらに一歩進んだカスタマージャーニーマップの活用方法

カスタマージャーニーマップに感情スコアを紐付けるだけでも、タッチポイントの課題が明確化されるといった新しい活用ができますが、さらにカスタマージャーニーマップを進化させる方法があります。
それが、「エモーショナルカスタマージャーニーマップ×戦略マップ」という新しい使い方です。

*戦略マップ:1992年に、ハーバード・ビジネス・スクール教授であるロバート・S・キャプランが「Harvard Business Review」誌上に発表したバランススコアカードの概念をベースに、財務、顧客、業務プロセス、学習と成長ごとの課題と施策、個別目標の関係を図示したもの

戦略マップは、財務の視点~顧客の視点~業務プロセス~学習と成長の視点で指標の因果関係を紐づけます。エモーショナルCJMと戦略マップの考え方を組み合わせると、CJM上のタッチポイント別に設定したKPIを、さらに上位視点のKGIへと紐づけることができます。
エモーショナルCJMでは、感情スコアによって定量的に各タッチポイントの課題の大きさを把握することができるため、課題を持つタッチポイントがどこにあるのか、それが施策のどのKPIに影響を及ぼしているのか、さらには事業全体のKGIに貢献できているのか、もしくは、どうすれば貢献できるのかを可視化できます。

たとえば、ブランド訴求のTVCMを実施した場合、その施策自体の効果指標となるKPIは視聴率や広告想起率などが多く用いられます。エモーショナルCJM×戦略マップの考え方を用いると、視聴率などの業務プロセス視点でのKPIに関連づけて、新規顧客獲得数やCPAなどといった顧客視点でのKPIが設定されます。
感情スコアのスコアリング機能によって各タッチポイントでのさまざまな施策の実施効果の影響も勘案したうえで、TVCMというタッチポイント単体の効果まで測定できる為、TVCMという施策がKGI(新規顧客獲得数増大による売り上げへの貢献など)にどの程度インパクトを持ったかを可視化し、他の施策のKGIへのインパクトと比較しながら予算の再配分や施策のテコ入れなどに活用できるのです。

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エモーショナルカスタマージャーニーマップ×戦略マップによるKPI可視化例

4.まとめ

この記事では、顧客の視点を紐解くために活用されるカスタマージャーニーマップを、財務の視点までつなぐ活用方法を解説しました。今回解説した方法まで活用できている企業はまだまだ一部かと思います。
カスタマージャーニーマップはとても奥の深いものですが、使いこなせばKGIまで紐づく施策の効果や課題が分かる強力なツールです。エモーショナルカスタマージャーニーマップと戦略マップを組み合わせ、効果的にPDCAを回し、マーケティング活動全体に活かしていきましょう。

金子 祐一
大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部
C&Iセンター インテグレーテッド・コミュニケーション本部
第1プランニング部 第1グループ

※2019年6月時点の内容です。

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