業界別CXマネジメントのポイント【流通小売業編】

前回CX(顧客体験価値)マネジメント(以下CXM)を実践するためのステップと部門ごとの活用方法について解説をしました。今回からは業界別にCXM導入のポイントを紹介していきます。

前回コラム:CXを向上させるためのPDCA実践編

目次

1.流通小売業のCXM
2.CS調査とCXMの違い
 2-1.目的の違い
 2-2.調査頻度の違い
 2-3.調査範囲の違い
 2-4.CS調査の設計上の課題
 2-5.その他
3.流通小売業でCXMを導入する部門
 3-1.CXMを最大限に活用するために導入を検討すべき部門
 3-2.CXMに親和性がありスムーズに導入できる部門
4.まとめ

1.流通小売業のCXM

流通小売業はお客さまとの接点が最も身近で、来店頻度も高い業種のひとつです。例えば、コロナ禍で生活者は外食を控え巣ごもりニーズが高まった結果、スーパーなどは生鮮三品を中心に需要が増大しています。また、非接触の意識の高まりからネットスーパーをはじめとするECによる食品販売も需要が高まっています。顧客の来店頻度は減少しているものの、まとめ買いやプチ贅沢、健康志向ニーズなど顧客の嗜好や購買行動自体が変化してきており、CX視点でとらえる必要性が増してきています。

2.CS調査とCXMの違い

顧客と最も身近な接点を持つ流通小売業においては、大多数の企業がCS調査など顧客調査を実施しています。しかしながら、調査自体が目的となり結果がうまく活用できていないという企業の声もよく耳にします。また、近年はCS調査も顧客視点で再構築しCX調査という形で実施されている企業も増えてきています。以下に、CS調査とCXMの違いを整理してみましょう。

2-1.目的の違い

従来からのCS調査の多くは、お店のチェックリストとして作成されています。店舗環境、店舗オペレーション、店員(接客)、商品を主なカテゴリーとし、おのおの細かく設定した項目をチェックして満足度で測るという仕様のアンケート設計がされています。チェックリストにもとづき、対前年比でおのおのの項目がどれくらいのポイントに対し、ポイントの変動を計測し、お店にフィードバックしていくことが目的となっています。
一方、CXMでは顧客体験視点でどの体験価値がお客さまにとって重要か?重要な体験におけるお客さまの評価はどれくらいか?という仕様でアンケート設計がされます。そして、重要な体験にも関わらずお客さまの評価が低い項目の改善をPDCAで回すことが目的となっています。

◆流通小売り(スーパー)のCX設計例

流通小売り(スーパー)のCX設計例

2-2.調査頻度の違い

CS調査では一般的には年1~2回の調査を実施します。しかし、CX視点で見た場合、お客さまの感情は来店の都度変化する可能性があります。年数回の調査ではこういった顧客の感情の変化を見逃してしまい、いつの間にか離反されている。という事態もあり得ます。例えば、商品がどこにあるか分からず探し回るといったマイナスの経験をしたとしても、直近の体験がプラスであればマイナスの感情が上書きされてしまい、調査時点では高い評価をうけるため、店舗側の本当の課題が調査結果に反映しません。

◆年1回調査イメージ(アンケート直前の体験が過去の体験を上書き)

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また、来店頻度が低い店舗の場合は、年1度の調査だと過去の記憶を正確に思い出すことが難しく、回答の信頼度も自ずと低くなりがちです。さらに調査結果から改善策を打ったとしても改善策がうまく効いているかを定量的にチェックできるのが1年後になってしまうため、間違った改善策を走らせてしまったとしても1年間気づかないという状況に陥る可能性すらあります。CXMでは顧客が来店する都度CXを測定することを推奨しています。具体的にはレシートなどに印字されたQRコードからアンケートサイトに誘導して回答していただくイメージです。これにより、常に体験直後にアンケートをとることができ、回答内容の信頼度が上がるのと同時に、期間を区切って集計分析が可能となります。これにより、改善前と改善後で施策が期待通りに効果を上げているかを検証し、施策のPDCAサイクルをまわしていけるようになります。

2-3.調査範囲の違い

CS調査では、前述のように店舗オペレーションを中心に評価を取得します。一方CXMでは顧客体験という視点でチェックをするため、来店前、来店中、来店後といったように店舗外での顧客との接点(タッチポイント)についても評価を取得することができ、マーケティングやアフターフォローも含めた企業全体での取組みの中で課題を抽出することが可能となります。これは単に範囲を広げているという事だけではなく、店舗オペレーションとマーケティングやアフターフォローなどを横並びで捉えて評価するということを意味しています。つまり、「顧客にとってどの接点、施策がどれくらいの比重で重要なのか?」を全体で俯瞰し、企業活動を見直すことができます。。また、全体の課題と同時に各タッチポイント、部門ごとの課題も把握できるため、部門ごとの強み、弱みを顧客視点でとらえることも可能になります。

◆一般的なCS調査における評価範囲

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◆CXMにおける評価範囲

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2-4.CS調査の設計上の課題

店舗視点で設計されたCS調査では、顧客にとっては実は重要でない項目が多く盛り込まれるため、調査項目が膨大な数になるケースが多く見受けられます。これには顧客のアンケート回答負荷が高まるのと同時に回答精度が低くなってしまうという問題点があります。また、個々のチェック項目が独立して評価されるため、顧客にとって本当に重要な改善点が見極められず、ある程度評価が下がった項目をすべて改善していくことが前提となります。しかし、実際はすべてを改善するにはマンパワーが足りず、とりあえず改善しやすい項目だけに着手するといった例が多いのではないでしょうか。

◆流通小売り(スーパー)のCS調査結果イメージ
 対前年比で僅差のポイントが大量に並び改善着手の優先順位がつけづらい

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2-5.その他

CS調査では、従来から総合指標として総合満足度、個々のオペレーション等の評価指標として満足度が用いられるケースが一般的です。しかし、満足度は調査→改善のサイクルをある程度の期間実施していくと、満足度自体が高止まりし、満足度が高くても売上に結びつかないといった結果が見受けられるようになります。例えば、店員の挨拶がよくないという評価が出たとして、教育を実施してお客さまへの挨拶を徹底した結果、「店員の態度」の満足度が上がったとしても売上が上がるかといえば、決してそうではないケースが多いのです。これは、お客さまがどの体験を重視しているかの視点が欠如しているために起こる現象ですが、さらには個々の指標(満足度)と総合指標(総合満足度)の関係性が弱いことも関係しています。近年では総合満足度より経営指標との相関が強いとされるNPS(R)(正味顧客推奨度)に総合指標を切り替える動きが多数見受けられますが、たとえNPSを使ったとしてもこの総合指標と各指標の関係性をきちんと設計しない限りは同じ結果の繰り返しに終わるでしょう。

※NPS(R)はBain&Company, Fred Reichheld, Satmetrix Systemsの登録商標です

3.流通小売業でCXMを導入する部門

3-1.CXMを最大限に活用するために導入を検討すべき部門

経営企画、CX部門などは前述の来店前、来店中、来店後といったすべての顧客タッチポイントを俯瞰で評価するのに適している部門です。俯瞰で見ることでどのセクションの対策を強化すべきかを把握し、関連部門も支援しながらCX全体の向上を目指します。

3-2.CXMに親和性がありスムーズに導入できる部門

CS部門、お客さま相談室など従来からCS調査を実施している部門は最もCXMに親和性があり、スムーズに導入が進む部門です。従来調査の内容を見直した上で、まずは自部門の範囲内からCXMを導入し、効果が確認できたら経営層を巻き込んで、全社的な取組みに広げていくのがセオリーです。

4.まとめ

顧客との接点が最も身近な流通小売業では、売り手視点のCS調査をCXMに切り替え、より顧客目線で自社の課題を抽出し、改善PDCAを回していくことが求められています。現状の調査を見直し、CXMの違いをよく理解した上で検討をはじめましょう。

※2021年9月時点の情報です。

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