2021/9/30

JAPET&CEC 情報教育対応教員研修全国セミナーのご報告
~「高校向け スタディ・ログを活用した指導と働き方改革」より~
(2021年7月30日開催)

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2021年7月30日、「高校向け スタディ・ログを活用した指導と働き方改革」と題し、オンラインセミナーが開催され、ご好評をいただきました。コーディネーターに(一社)日本教育情報化振興会名誉会長 赤堀侃司氏をお招きし、基調講演には東京学芸大学大学院 北澤 武 准教授を、また先進的な取り組み事例紹介には東京都教育庁様と高知県教育委員会様にそれぞれ登壇いただきました。その3つの講演内容をご紹介します!

左側◇コーディネーター (一社)日本教育情報化振興会 赤堀侃司名誉会長 
中央◇ご登壇者 東京学芸大学大学院 教育学研究科 北澤 武 准教授
右側◇ご登壇者 東京都教育庁 加藤 雅英 統括指導主事

各講演のあとには、コーディネーターの赤堀氏と登壇者のディスカッションタイムもあり、「現場の先生の働き方改革は本当に急務だが、実際やるのは大変!また、データを見て初めて気づく、というのは日常でもよくあること。学習のデータ活用も有意義なテーマだ。」といったお話が赤堀氏よりされました。

基調講演 (要約)

文部科学省が見据える「個別最適な学び」「協働的な学び」とは~「スタディ・ログを活用した指導」の展望 ~

Society 5.0が目指す超スマート社会に適応するためには、教育も改革しなければなりません。これまでの伝統的な授業から脱却し、「個に応じた指導」と「個別最適な学び」が必要になってくるのです。この「個別最適な学び」を実現するためには、子ども達が「自己調整学習」ができるように教師が促すことが重要です。
「自己調整学習」とは、自分で目標を設定し、モニタリングを経て自己評価を行うことです。例えば、「何時になったら宿題をやる」とか「何ページまでやる」といった目標を自分で立て、「この調子で進めれば終わる」とか「このままではだめなので違う方法をとる」とかといったモニタリングをし、最後に「次の目標は○○にしよう!」といった自己評価を行うことです。このような学習を進めるうえで、スタディ・ログが有効になるのです。
では次に実際にどうやってデータを活用するのかについては、東京都立高校での研究の最終報告書に基づいてお話します。朝学習と期末考査の分析結果は、学年・クラスごとはもちろん、個人ごとに可視化されています。

可視化されたデータから、この生徒は単元のどこが苦手であるか、あるいは、どれくらい達成しているのかが、学習指導要領に定められた「学習要素」ごとに把握できるため、教師は的確な指導がしやすくなります。今回の研究では、「テストができた」という自信を意味する「自己効力感」に着目した分析も行いました。テストの結果と自己効力感を縦軸と横軸に定義した4象限の表を作り、個々の生徒が各象限のどの位置にプロットされるかに注目しました。そして、象限ごとにどのような指導をすれば良いかを考察しました。例えば、点数は取れているのに自己効力感が低い生徒には、データを一緒に見ながら成功体験を確認し、自信を持たせることが考えられます。また、自己効力感が高いのに点数が低い生徒には、 データを見ながら現状把握をし、どの部分を強化すれば良いのかを細かくアドバイスする方法が挙げられます。このように、適切な学習方略を指導するためにスタディ・ログを活用することが有効です。さらに、自己効力感と点数が高い生徒と、これらが低い生徒が協働的に学び合う環境を整えることが重要です。
これにより、生徒同士で励まし合い,点数が高まる学習方略を共有できるため、自己効力感や成績の向上が期待できると考えています。

事例講演① より

「TOKYOスマート・スクール・プロジェクト」の概要 採点支援システムを活用した学習履歴データ活用研究の紹介

加藤雅英 統括指導主事より、まず始めに“子供たちの学ぶ意欲に応え、子供たちの力を最大限に伸ばすためのトータルツールとして、教育のデジタル化を強力に推進”している「TOKYOスマート・スクール・プロジェクト」についてご説明いただきました。今年度の取り組みは、学び方改革・教え方改革・働き方改革の三大改革があるといいます。それぞれの改革分野に各種システムやサービスを導入しデジタル化を進めており、そこで得られる教育データを一元化することで、個別最適な学びなどを実現し、授業スタイルを「知識習得型」から「価値創造・課題解決型」へと転換していこうとしています。さらに、教育データの一元化を実現できれば、様々な関係機関とデジタル連携が可能になると、将来の展望を語られました。例えば、小中学校や大学との間で学習情報や入学者選抜の情報連携ができますし、また家庭や私教育での学習情報とも連携できるようになるといいます。ただし、そのためには児童・生徒一人ひとりにIDを付与する必要があるなどの課題があるが、国の動向を見据えながら都としてできるところから少しずつ取り組んでいるとのお話でした。続いて、そういった取り組みの中の一つである「定期考査採点・分析システム」の導入による、教員の業務削減と学習データ活用の効果について解説いただきました。この取り組みは、令和元年11月から2年間、都立高校7校・89種のテストで採点・分析システムを利用したものです。採点・分析の実際の流れは、①定期考査・小テストを紙で実施、②答案をスキャンしPDF化、 ③問ごとに配点や観点を設定、④パソコン画面上で串刺し採点、⑤自動算出された合計点を成績を管理しているサーバーへコピー、⑥答案を返却し、分析結果を授業改善に活用、となります。その結果として、従来の方式での採点と比較して作業時間は約半分(49%)になったといいます。これは教員一人あたりの年間で試算すると42時間の時間削減になるということで、「働き方改革」に大きく貢献するということがわかったと、お話いただきました。

また、得られたデータの活用については、①小問ごとの正答率などを基に授業改善に利用、②教科会・ケース会議・個別面談などでの活用、③問題作成での活用、④指導計画・授業計画作成での活用、⑤考査返却時の指導での活用など様々あり、エビデンスベースの指導、個別最適な学びの実現につながるとの見解を述べられました。
最後に、様々な教育データを表示し、個別最適な学び・協働的な学びへとつながる「教育ダッシュボード」のイメージを紹介いただき、その実現のためにデータの収集から可視化まで一連の構成を構築し、試行検証を実施しているとのご報告をいただきました。

事例講演② より

働き方改革の実績のご紹介(高知県教育委員会)

働き方改革推進担当の田所チーフより、採点・集計システムの導入のきっかけについてまずお話いただきました。実証を行った高知追手前高校は、学業と部活動の両立を目指す学校で、教員の時間外在校時間等の多さが長年の課題でした。
人的配置による業務負担軽減では、いなくなれば元に戻り、さらに負担感の増加につながるといった状況です。そんな中、教員の多くを占める業務内容を検証したところ、教科指導における採点や成績処理が長時間を要している業務の一つであることが判明したといいます。そこで、当時の教頭先生が採点業務の効率化につながる手立てとして、本システムの活用を検討(教頭先生本人が、過去問で利用したところ、慣れてくれば必ず業務負担の軽減につながると評価)したとのことです。
また、コロナ禍の影響で、さらに教員の働き方改革が検討案件となり、2021年に県立高校3校へ導入することとなった、その経緯をご説明いただきました。また、結果と今後については「期待通りの結果が出ており、自動採点ができる選択問題の多い試験、また問題数の多い試験で特に効果的。現在の配置校内で、さらに活用が進むように働きかけを行い、22年度は設置校を拡大し、最終的には県内の希望校全校への導入を目指す。さらに、学習データの活用にも期待しており、働き方改革を入り口とし、きめ細やかな学習指導、教員の指導の質の向上も実現し、最終的には子ども達に還元していきたい。」と抱負を述べられました。

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