2021/12/20

「 Edvation×Summit 2021 Online」において
DNPが、ゴールドパートナーとして参加!(2021年11月開催)

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2021年11月、DNPはEdTechグローバルカンファレンスイベント「Edvation×Summit 2021 Online」にゴールドパートナーとして協賛しました。
そこで「~教育・指導・評価DXのあり方~子ども達を伸ばす、教育データ利活用を考える」と題したセッションを開催。ICT CONNECT 21 会長 赤堀 侃司氏、東京都教育庁 総務部情報企画担当課長 小林 正人氏にご登壇いただいたセッションをサマリーでご紹介します。

ご講演 ①学校現場から見たこれからの教育データ利活用

■教育データの利活用は、子どもに対する先生の「認知」がカギ

昨今、デジタル教材やデジタル教科書が増えてきたが、教材だけではダメで、履歴データのような教育データが必ず必要になる。履歴データから、この子にはどのような問題が適切なのかを知る必要があると思います。つまり、我々が「教材コード」と呼ぶ学習要素に基づいて誤答から課題を分析し、どの要素がわかっていないかをつかんで、次の問題を提示するという作業です。ペレグリーノの評価の三角形という理論がありますが、「観察」「解釈」「認知」のうち、子どもをどう見取るかという「認知」が先生の役割としてとても大切だと思っています。「観察」は得点などのデータを単に見ることです。「解釈」とはそれを見て良いとか悪いといった評価をすることですが、データだけでは不十分で、その子がつまづいている場所がどこなのかを「認知」することが大事なポイントなのです。例えば、引き算で、繰り下がりの要素の理解がない子は、小さい数から大きい数は引けないので、引くほうと引かれるほうを逆に計算してしまったりします。またある子は、3桁から2桁を引くときに空白の百の位は引くという概念が持てず、百の位を無視してしまいます。この例のように、個々の子どもがわからない部分がどこなのかを、先生が「認知」してあげることが大切なのです。子どもは、「物は上から下に落ちる」とか「買い物をすればお金が減る」といった生活体験からくる「素朴概念」を持っています。学校教育では、この「素朴概念」を「科学的概念」に変えていかなければならないのです。そのために理科では実験をしてみたり、算数では思考してみたりして、科学的な根拠を示すことで、子どもに「なるほど、その通りだ!」と納得させる必要があるのです。単に覚えろと言ってもだめなのです。

■医者モデルと教員モデルの類似点と相違点

科学的な根拠に基づいて個人に処方をする仕事に、医者があります。一方、教員は事例的な根拠に基づく経験値・暗黙知によって、個々の指導をしていくものです。この時、教育データ・スタディログを上手に活用できれば、医者にとってのカルテや病気履歴といった科学的根拠のような役割を担うのではないでしょうか。
経験値を支え、子どもに対する「認知」を助け、より精度の高い総合判断ができる手段になるように思います。

■データを活用して指導に役立てている具体例

実際にデータを見た先生の声をご紹介します。「採点をしていて80~90点の生徒が多い印象だったため今回のテストはよくできたと感じていたが、データをみたところ、平均点が低いことが分かった。不思議に思い、さらに細かく確認したら、一部の生徒が点数を取ることができず、結果が二極化していた。客観的なデータをもとに補修授業等の指導が必要な生徒を見つけることができた。」
データが個々の指導の手掛かりになっている様子が良くわかりますね。

ご講演 ②都立高校における定期考査採点・分析システムの活用について

■学び方改革、教え方改革、働き方改革を進める「TOKYOスマート・スクール・プロジェクト」について

東京都教育委員会は、同プロジェクトにおいて、子供たちの学ぶ意欲に応え、子供たちの力を最大限に伸ばすためのトータルツールとして、教育のデジタル化を強力に推進し、個別最適な学び、協働的な学びなどを実現し、授業スタイルを「知識習得型」から「価値創造・課題解決型」へと転換するとともに、校務の効率化を図るなどして、学び方改革、教え方改革、働き方改革の三大改革を進めています。
学び方改革では都立高校と都立特別支援学校高等部の生徒一人一台端末について、令和4年度新入生から、CYOD方式で実現していきます。また、統合型学習支援クラウドサービスは昨年の5月から利用を開始し、無線LANの設置工事は全ての都立学校で完了しています。
教え方改革では都内の全ての公立学校を対象にして、デジタル化を推進する中核教員の育成を目指した研修を実施していますし、働き方改革として、定期考査採点・分析システムを全都立高校に導入します。またあわせて、都立中学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、来年度開校する都立小学校で利用する統合型校務支援システムを開発しており、統合型学習支援クラウドサービスから得られる学習データ、統合型校務支援システムからの校務データ、定期考査採点・分析システムからの定期考査などの採点データなどを、一元的に可視化して分析する教育ダッシュボードを、令和5年度の稼働を目指して開発していきます。

■「定期考査採点・分析システム」について

この事業の目的は採点支援システムを導入し、定期考査などの採点業務を正確かつ効率的に行うことで、採点誤りの防止と教員の業務縮減を図るとともに、問題ごとの正答率等を集計・分析し、授業改善や生徒の補習等の取組を推進するものです。令和元年度から2年間、都立高校7校で実施してきました。このシステムの導入によって、問題ごとや観点別に正答率などを集計・分析できるようになります。昨年度、東京都では、採点データを授業改善や生徒の補習等の取組を推進するとともに、蓄積されたデータを活用し、弱点を見える化し、生徒の力を最大限伸ばす質の高い学びを実現することについての研究も行いました。昨年度の研究では、分析結果の可視化、見える化がポイントの一つと考え、単元別グラフ、設問別グラフなどを作成するとともに、個票としてテスト結果分析、達成度分析などを作成しました。また、これらの活用場面について研究をしました。研究校の先生からは、例えば『達成度分析』の個票について、
・自身の弱点を把握し、優先度をつけて勉強ができるようになる。
・生徒同士の教え合い学習のサポートツールとしても活用できる。
といったコメントをいただいております。

■教員の「業務負荷軽減」と「成果の実感」がデータ活用のカギ

しかしながら学校の先生方に分析ツールを活用してもらおうとすると、忙しくてなかなかその時間が取れない、また操作を覚えるまでに時間がかかるのではないかと敬遠され、さらには分析ツールの必要性を感じないなど、そもそも分析ツールを活用することが難しい状況にあります。これでは、多額の予算をかけて、学習ログを蓄積して教育ダッシュボードを開発しても、無用の長物になる可能性があります。大切なことは、取り組みやすいもの、効果的なものから始めるということです。例えば定期考査採点・分析システムを利用すると採点時間が半分に削減されるとともに、小問の正答率が自動計算されて表示されます。このメリットを生かして、小問の予想正答率と比較し、その原因を考察して、授業改善を行い、その成果を実感してもらうのです。ポイントは先生ご自身がデータを見てその原因を考察することと、成果を実感してもらうことです。そうすれば次は別のツールを使って、データを多角的に見て解釈するようになります。この状態は先生方の経験と、データを用いたエビデンスベースの指導とのベストミックスと言えそうです。都教育委員会は、まずは定期考査採点・分析システムを用いたデータ利活用を中心に教育データの利活用を推進していきます。

東京都のデータ活用研究に参加された先生へのインタビューをご紹介

Q.クラスごとの、朝学習(単元テスト)・定期考査の「得点率推移グラフ」は、どのように使いましたか?
A.自分の受け持つクラスが、学年の他のクラスと比べて、どのくらいの位置にいるか確認しました。他のクラスと比較して、得点の良くない部分を見つけられ、指導方法を振り返る参考にしました。

Q.担当クラスの、「単元別得点率グラフ」は、どのように使いましたか?
A.まず、クラス全体の理解度のチェックに使いました。
想定していたよりできていなかった問題を特に復習してみたり、教えあいを促すなどの声掛けを行い、クラスの雰囲気作りにも活用しました。

Q.研究全体でのご感想は?
データ活用を全教科の先生が実施するようになれば、観点別の粒度で生徒のつまづきなどが可視化されてきます。そうすると、クラス担任としては、自分の担当教科以外での個々の「つまづき」や「褒めるところ」」などが見えてくるので、生徒との面談などに活かせると思います。また、より先生方も一人ひとりを見とることができ、個別最適化を促せると感じます。
データ化によって生まれてくる生徒の変容を、他の先生に伝えたいです。そして、先生みんながデータを見るようになって、そのことが生徒にも気付いてもらえれば、生徒もさらに変容するのではと思っています。

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