制約と創造のつながりについて語り合う、菅俊一氏とDNPマーコムプロダクツのメンバー

什器やPOPのつくり手が語る、制約と創造の深い関係。モノづくりに必要な“距離感”とは

小売店の売り場や展示会のブースを彩る什器(じゅうき)やPOP——。街やイベント会場などで目にするそれらは、予算や納期、耐荷重など、数え切れない「制約」をクリアして生まれています。 「制約があるからこそ、いいものがつくれる」と言われる一方で、「制約を外さなければ、新しい発想は生まれない」というつくり手もいます。一見、正反対に見える二つの考え方。しかし話を聞いていくと、創造に必要なのは「制約があるか、ないか」ではなく、発想や実現のプロセスに応じて、制約との距離を変えることなのかもしれません。 人間の創造力を引き出す「制約のデザイン」を研究するコグニティブデザイナーの菅俊一さんと、什器やPOP、空間の設計を手がけるDNPマーコムプロダクツの3名が語り合いました。

目次

【プロフィール(写真左から)】
菅 俊一(すげ しゅんいち)さん
多摩美術大学統合デザイン学科准教授/コグニティブデザイナー
認知的手がかりの設計による行動や意志の領域のデザインを専門としており、近年は顔図版による視線を用いた誘導体験や、人間の創造性を引き出すための「制約のデザイン」についての探求を行っている。主な仕事に、NHK Eテレ「2355/0655」ID映像、21_21 DESIGN SIGHT企画展「単位展」コンセプトリサーチ、同「アスリート展」展覧会ディレクター。著書に、「行動経済学まんが ヘンテコノミクス」(共著・マガジンハウス)、「観察の練習」(NUMABOOKS)など。

高橋 圭介(たかはし けいすけ)、小西 百恵(こにし ももえ)、櫻井 徹(さくらい とおる)
株式会社DNPマーコムプロダクツ ACセンター

什器・POP・空間設計・ペーパークラフト——。同じ会社なのに、モノづくりの「流儀」は違う

――まず、皆さんが普段どんなものをつくっているのか教えてください。

小西:店頭の什器(商品を陳列する棚・台など)やPOP(製品・サービスの情報を伝える店頭販促物)の設計・デザインを担当しています。POPと聞くと紙のイメージが強いかもしれませんが、布などに印刷するものもあります。

高橋:主に、展示会のブースや期間限定のポップアップストアなどの空間設計を担当しています。DNPグループの中でも、私は比較的新しい素材や要素技術を活用したクリエイティブ案件が多いですね。

櫻井:私は、もっぱら雑誌の付録にあるようなペーパークラフトをつくっています。

高橋:会社は一緒なのに、一人ひとりが驚くほど個性的で。紙が得意な人、鉄が使える人、アクリルが得意な人など、得意分野もそれぞれ違うんです。

菅:僕は人間の認知のメカニズムを背景に、新しい体験や作品をつくったり、表現手法を研究したりしています。制約と創造性の関係は、以前から興味・関心の高いテーマでした。

――そもそも什器やPOPをどうやってつくっているのでしょうか?

小西:まずクライアントからのオリエンテーション(目的や前提条件を伝える場)があって、「こういうものをつくってほしい」という依頼をいただきます。そこから、与えられた予算や納期を考慮し、それらを踏まえて図面やデザインに落とし込みます。

高橋:自主提案もありますが、基本はその流れです。どういうものを・どれだけの個数・いつほしいか。納期が間に合うのか。紙なのかアクリルなのか。どこに納品するのか。そうした仕様を全部まとめた上で、デザインを決めていきます。

櫻井:私は出版社の方々とお仕事をするケースが多いので、前提条件も全然違いますね。「このキャラクターのグッズがほしい」という依頼では、素材はすべてこちらに任せられて、「とにかく読者が喜ぶような面白いもの、目立つものをつくってください」と言われがちです。だからまずやることが、対象キャラクターの漫画を読むっていう(笑)。

菅:面白いですね。皆さん、違う「競技」をしている。

菅さん(左)に、これまでつくったペーパークラフトを紹介する櫻井(右から2人目)

制約との距離感が、創造を変える

――「制約があるからこそ、いいものがつくれる」という言葉について、皆さんはどう思いますか?

小西:私は共感しますね。これは私自身の性格が、決定事項を制約として設けないと永遠に考えてしまうタイプだからというのも大きいと思います。趣味なら一人で永遠に妄想していられますが、仕事となると、制約があったほうがきちんと形に落とし込めるんです。

――制約を不自由に感じることは?

小西:実はあまりなくて。というのも、最初「こういう風につくりたい」と考えても、その後、(什器に乗せる)商品の荷重や輸送に耐えうるかどうかのテストで実現が難しくなることも多いからです。

以前、ある商品を入れる箱(什器)をつくったとき、耐荷重のテストで商品が箱の外へ飛び出してしまったことがあるんです。

商品がよく見えるように設計したら什器として成り立たないものになってしまった、それで結局少し野暮ったい見た目に調整せざるを得なかった、という経験があります。だからこそ、安全面など、什器として必要な条件と、見た目の表現の両方を成立させて初めて良いデザインになるのだと、あらためて感じましたね。

櫻井:私は逆で、制約は最初から考えないです。一度、常識を外して考えてみて、ちょっとトリッキーなことをしてみて、「でも、アリなんじゃないかな」という絵が見えてから、制約に合う形に変化させていく。「こういう制約があって」というところから考えると、どうしても凡庸なものしかつくれなくなる。

高橋:私はどちらも分かります。予算も、クライアントが何を望んでいるかも、ある意味すべて制約なので。つくるものが決まっていて、なおかつ綺麗なものをつくりたいなら、制約があったほうがいいでしょうね。

一方で、今までにないオリジナリティのあるものをつくらなければいけない場合は、制約が足枷になってしまう印象です。

――同じモノづくりでも、制約に対するアプローチが真逆なのが面白いですね。

高橋:什器やPOPは量産物が多く、万単位のロットもありうる。それに、後から量産できる仕様に修正するのが難しい形状も多いので、最初から制約が固まっていたほうが仕事しやすいでしょうね。

逆に私は展示会などで、ある種「一点もの」をつくる仕事が多いので、制約を外して、まず純粋にこうしたら面白いんじゃないかと考えがちです。

菅:制約と、どの距離感で付き合うか、という話なのかもしれませんね。自分のアイデアを飛躍させてくれるジャンプ台にもなるし、逆に足枷のようになってしまうこともあるので。

あえて、自分で制約をつくる

――菅さんご自身は、制約とどう向き合っていますか?

菅:僕は新しいアイデアをつくるのが仕事なので、普段からいかに制約を設けるかを意識しています。

例えば、PETボトルを「手を使わないで飲んでください」と言われたら、絶対に普段やらない飲み方になるじゃないですか。効率性とは真逆なんですけど、アイデアの幅を広げるには、通常とは全然違う手段を検討する必要もあると思っていて。

ゲームで、特定のアイテムだけ使うとか、時間制限をつけるといった「縛りプレイ」はゲームクリエイターが考えもつかなかった遊び方を生み出していますよね。

同じように、予算やコスト、時間、素材といった条件も、逆手に取れば新しい発想の入口になると思っています。

――具体的には、どんな制約を課しているのでしょう。

菅:「映像をつくってください」とご依頼いただいたときに、じゃあ映像をつくらないとしたらどうだろう、と前提から変えてしまうこともありますね。映像で伝えたいということは、すなわち動きによって何かを伝えたいということですよね。であれば、パラパラ漫画のような表現手法を採用したほうが、かえって伝わることもあるかもしれない。依頼内容を無視するというより、その本質を抽出して、別の視点から提案するんです。依頼してくれた方自身も、本当にほしいものをまだ言語化できていないかもしれないので。

昔、おもちゃメーカーで商品企画の仕事をしていたときも同じスタンスでした。「こういうおもちゃがあったらいいのに」というユーザーアンケートの結果に沿っておもちゃをつくっても、面白いものはつくれない。そうではなく、手にしたときに「そうそう、こういうものがほしかったんだ!」と初めて自分の欲望に気づけるようなおもちゃこそが、世の中にインパクトを残すんですよね。

櫻井:私も、自分で制約を課している部分はあるかもしれません。ペーパークラフトをつくるときは、まず最初に白い紙でつくっても対象物の形が分かるかどうかを考えています。子どもが自分でつくれないと意味がないので、構造はできる限り簡略化した上で、色や絵に頼らず、形そのもので「恐竜だ」「兜だ」と分かるようにする。

高橋:削ぎ落とすという意味では、今回の「MOSO展」(後述)でも、作品の説明をあえてキャプションに書かず、回転式の壁にまとめて掲示するようにしました。あれは、作品が主役であり、作品を「体験してほしい」という意図を伝えたかったからです。

制約が、忘れていた技術を思い出させる

――自ら課す制約もあれば、クライアントワークで外から課される制約も多いと思います。皆さんは、制約があったからこそ別の手段にたどり着いた、という経験はありますか?

高橋:ありますね。10年以上前ですが、あるイベントで3〜4メートルほどの領域に何か動くものを置きたい、という依頼をいただいたことがありました。そのサイズのモニターは当然調達するのが難しく、LEDを並べてビジョンにすると数千万円単位になり、予算が全然合わない。プロジェクターで投影しても、会場が明るくて絵柄がうっすらしか見えませんでした。

そこで思い出したのが、DNPが商材として扱っていた「変幻灯®」でした。静止画に影の印象だけをつけて動かす技術で、いわゆる人間の錯視を利用しています。例えば、滝の絵に動く影を投影すると、まるで滝が流れているように見える。プロジェクターが濃く映る必要はなくて、影がうっすら見えればいい。

そうして変幻灯を活用した見せ方を考えた結果、イベントでよく使われる丈夫な生地ターポリン1枚とプロジェクター1台で、動的な展示が実現できました。

  • *変幻灯:印刷物などの止まった対象に光のパターンを投影することで、静止画像にリアルな動きを与える光投影技術。DNPは変幻灯を活用した次世代POP広告を提供しています。変幻灯は日本電信電話株式会社の登録商標です。
    https://www.dnp.co.jp/biz/products/detail/20172433_4986.html

――変幻灯が使えるかもしれないという着想は、日頃から新しい技術や知識をインプットしていないと生まれませんよね。

高橋:そうですね。だから私はさまざまな要素技術を紹介する展示会によく足を運んでいます。ただ、忘れているものも多く、たいていは追い込まれないと思い出せないのですが(笑)。

菅:それはでも、制約のおかげで思い出せた、という事例ですよね。

高橋:たしかに、そうですね。

菅:アイデアやイメージがあっても、実装できなければ意味がない。その裏にある技術こそが、クリエイティビティを支えているんだなと。

僕は新しい表現を、遊んでいるうちに見つけることが多いです。日々いろんなものに触れていると、たまたま遭遇する確率が上がる。高橋さんは日頃から展示会に足を運んでいるとのことですが、そういう日頃のインプット、アスリートでいう日々のトレーニングが、本番で役に立つんだなとあらためて感じました。

制約を全部外したら、何が起きたか

――DNPマーコムプロダクツの皆さんは今回、企画展「MOSO展」を開催しました。展示作品はあらゆる制約を取り払って、自由な発想のもとでつくったと聞きました。

高橋:はい。参加メンバーの自由な発想=妄想から生まれた展示です。私がダメ元で企画書を役員会に持って行ってプレゼンしたら、予想外にも「すぐやって」という話になってしまって(笑)。

小西:最初は混乱しましたね。何をつくったらいいんだろう、と。

菅:そのとき、どうしたんですか?

小西:作品を構想していくなかで、私、素材の手触り感がすごく好きなんだなとあらためて気づいたんです。段ボールのゴツゴツした感じとか、紙のツルツルした感じとか。だから、段ボールや紙の温かみを伝えたいと思い、紙で植物をつくりました。ワイヤーの茎も、強度のために何本か巻いていたのを、一本で独立させた方が茎に見えてかっこいいのでそうしてみたり。

小西が段ボールでつくったサボテン(左)と、ワイヤーと紙でつくった植物(右)

――面白いアイデアですね。作品をつくってみて、日頃の仕事にも、良いフィードバックはありましたか。

小西:普段は3D(3次元)のシミュレーションだけでクライアントにデザインを判断いただくことも多いのですが、今後は積極的に紙でつくったモック(テスト用の模型)を持っていこうと思いました。その方が、質感も併せて伝えられそうなので。

菅:それはクライアントもうれしいでしょうね。こうなるんだ、と具体的にイメージできるので。

櫻井:私はどんどんアナログに回帰していきました。仕事では展開図をずっとつくっているのですが、今回ばかりは手仕事でペタペタと顔をつくって。もちろん3DCADの技術も覚えなきゃいけないんですよ。それも魅力的なんですけど、やはり素材を手でなぞることで気づくことは多いなと再度思いました。デジタルとアナログでは得られる気づきも違うんだと実感しましたね。そうすると今度は、こうした感覚や知見をどうやって後進に引き継いでいけばいいんだろう、という課題にも気づいてしまって(笑)。今回の制作は、仕事の進め方や技術継承について見つめ直す良い機会にもなりました。

櫻井がつくった紙の仮面

菅:使うツールの違いによって、気づくことも違うということですよね。

高橋:私は今回の「MOSO展」を企画推進する立場だったのですが、プロジェクトマネージャーの醍醐味を初めて感じました。

自分が手を動かすのではなく、メンバーに手を動かしてもらうにはどうするかを考えなければいけない。モノづくりが大好きなので、私もつい手を出したくなっちゃうんです。でも手を出すと自分のやるべきことが終わらないので、頑張ってお任せして。

――自分で手を動かしたい気持ちを抑えることも、一つの制約だったわけですね。菅さんは「MOSO展」をご覧になっていかがでしたか。

菅:観る前は、技術を紹介するタイプの作品が多いのかなと思っていたのですが、そうではなく、「お客さんがどうしたら喜んでくれるか」が強く意識されていることに気づきました。

ピンボールで遊べるとか、一緒に写真を撮れるとか、実際に回せるとか。体験する喜びを与えられるようつくられている。それは皆さんが普段、什器やPOP、空間、ペーパークラフトといったコミュニケーションのインターフェースを設計されていることの表れなのかなと思いました。

創造とは、制約との向き合い方なのかもしれない

――DNPマーコムプロダクツの皆さんは、今後制約とどう向き合っていきたいですか?

高橋:今日の対談までは、制約をマイナス方向に考えていたところもありました。でも、それを乗り越えるためにどうするかという、クリエイティビティを発揮する一つのバネだと考えれば、制約はモノづくりの良いきっかけになるんじゃないかと思い直しました。

櫻井:私も今後は制約をプラスに捉えたいと思います。思い返すと、時間がないからこそひねり出したアイデアとか、追い込まれたからこそできた作品もあったので。今後は制約を利用してやろう、くらいのスタンスでいたいですね。

小西:私は今までどおり制約を前提にモノづくりを進めたいですが、新しいアイデアやワクワクした気持ちは、ちょっと制約を外さないと出てこないのかなと、「MOSO展」の経験や今日の対談を経て思いました。

――皆さん、冒頭で話していたことと少し違うところに着地されていて面白いですね。菅さんはどうでしょう? あらためて、制約は創造の母になり得ると思いますか。

菅:もちろん、「制約は創造の母」という側面はあります。ただ、今日皆さんと話して、最初から自由に考えることが制約の大事さに気づくきっかけになったりもするんだな、と思いました。

「MOSO展」の作品づくりも、皆さんちょっとずつ無理されてますよね。ある種、自分の限界という制約を少し超える活動だったような気がしていて。その結果、自分のポテンシャルが拡張されたり、自分の本質に気づいたりしたと思うんです。

前提条件という意味を超えて、自分の可能性というか、リミットみたいなものとどう向かい合うのか。それもまた、モノづくりにおいては非常に重要なのかなと感じます。

企画展「MOSO展」Modeling Of Structural Output ―紙造作の世界観―

「MOSO展」は、DNPマーコムプロダクツの社員の自由な発想と「妄想(MOSO)」を形にする創造力から生まれた企画展です。テーマ別の4つの展示ゾーン「あそぶ」「こだわり」「ふしぎ」「うつす」で、紙造作や錯覚表現が生み出す世界観を楽しめるほか、創作の魅力に触れるワークショップも開催しました。日頃のモノづくりで培った技術と工夫を活かした作品を体感できる参加型のイベントとして開催し、多くの方にご来場いただきました。

会期:2026年7月3日(金)〜9月12日(土)
会場:DNPプラザ
 (東京都新宿区市谷田町1-14-1 DNP市谷田町ビル1階・B1)
主催:株式会社DNPマーコムプロダクツ
WebサイトURL: https://dnp-plaza.jp/CGI/event/reservation/detail.cgi?seq=0001520

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