企画展「再生紙と暮らす」の会場にて。DNP村上と武蔵野美術大学の若杉教授、良品計画の大友氏が談笑している。

リサイクルのあるべき姿を問う(後編) 新たな暮らしのかたち、紙やモノとの付き合い方とは?

DNP・株式会社良品計画・武蔵野美術大学の共創で開催した企画展「再生紙と暮らす」。企画に携わったDNPエスピーイノベーションの村上浩が、同展にかける想いや再生紙の未来について語った「後編」です。

目次

正面を向いたDNP村上の画像

DNPエスピーイノベーション
SPビジネス本部 部長
村上浩

長きにわたり、店頭の販促用什器の企画・製造を行ってきました。2021年頃より、製造工程で出る用紙の端材を活用してアップサイクルする活動を始動。「紙再生ボード」など再生素材を活用したデザインソリューションに取り組み、具現化に向け、各企業と連携したプロジェクトを進めています。

過剰を求めず、不便も楽しむ

——企画展「再生紙と暮らす」に来場した生活者の方からは、具体的にどんな反応があったのでしょうか?

肯定と否定が半々くらいですね。「雰囲気がいい」という肯定的な意見がある一方で、「耐久性が気になる」という否定的な意見もありました。私自身は否定が8割以上になると予想していたので、意外に肯定的な意見が多かった印象です。「不便も楽しむ」というコンセプトをご理解いただく手応えを感じ、勇気づけられました。

「再生紙と暮らす」の会場で展示を見る来場者

企画展「再生紙と暮らす」を見る来場者

「不便も楽しむ」というコンセプトについて、簡単にご説明します。

どのプロダクトも紙からつくっている以上、燃えやすく、水濡れにも弱いという宿命があります。樹脂塗工処理を加えることで防燃・防水機能を高めることはできますが、今回使った再生紙には、あえて、そうした処理を施しませんでした。まずは、材料としての課題を提示することで、生活者の皆さんに「長く使い続ける素材としての再生紙」がどういうものかを実感していただく。そのうえで、長所も短所も踏まえて大切に使い続けるという「使う側の意識の変容」が必要ではないかというメッセージを届けてみたかったのです。

企画展「再生紙と暮らす」の全景

DNPプラザで開催した企画展「再生紙と暮らす」

——「使う人の意識の変容」について、もう少し詳しく教えていただけますか?

今の時代は、便利さを求め過ぎている気がします。そのためプロダクトの世界でも、素材本来の良さが損なわれているケースが少なくありません。「果たして、こんなに便利である必要があるのか」と、一度立ち止まって考えてみたいのです。

私は仕事柄、よく工具を使うのですが、木槌やカンナなどは、あらゆる人が握りやすい設計になっていません。自分で使いやすいように調整して、長く使ううちにその人の手になじむという前提ですね。そこには、“道具に見合った技量になるよう、自分が努力や工夫を重ねる”という日本の伝統的な価値観の影響もある気がします。例えばこうした視点が、「不便も楽しむ」ということです。

インタビューに答えるDNP村上

同様に、“再生して使える紙”という長所を活かすためには、人が素材に寄り添うことも大切ではないでしょうか。水に弱いのであれば水に濡れないように意識して大事に使えばいいですし、いろいろな紙が混ざった紙再生ボードの色は真っ白に漂白されたボードとは違った風合いを楽しめます。

不安定な素材の特徴を活かして不便さを楽しむことは、モノを大切に扱うことにもつながります。それはDNPがめざしている「循環型社会の実現」にも通じる姿勢ではないでしょうか。

——過剰な品質を常に求めるのではなく、「必要な機能を必要な分だけ」という考え方が、これからはもっと大事になってくるということですね。

自分たちのライフスタイルに合わせて、ほどほどの機能があればいいという考え方は、これから世界的にもひとつの潮流として定着していくのではないでしょうか。プロダクトを世に出す側の企業も、こうした世の中の変化に率先して対応していくとともに、自ら変化をつくり出していく必要があると思います。

開発を楽しめるパートナーとともに

——企画展で得た気づきを踏まえ「紙再生ボード」「ペーパーブロック」を今後どのように展開していく予定ですか?

今回の三者の共創では、「紙再生ボード」という開発途上の素材をクリエーターの皆さんが面白く受け止めてくれたことで、その可能性を広げるきっかけになったと思いますし、あらためて技術的な課題も浮き彫りになりました。このプロジェクトを通じて、社内でもこうした取り組みへの共感の輪が広がったと感じています。今後も、再生紙に限らず幅広いテーマで良品計画さん、武蔵野美術大学さんとのオープンイノベーションに取り組んでいきたいと考えています。

「紙再生ボード」「ペーパーブロック」の次のステップとしては、製造工程で出る用紙端材を使ったプロダクト開発に協力いただけるパートナーを探していきたいと思います。現時点の紙再生ボードは均質なものを大量につくるのには向かないのですが、そうした“不均一さ”が魅力となることもあると思います。こうした素材の個性を前向きに受け止めていただけるパートナーと、ぜひ一緒にチャレンジしていきたいですね。

例えば、製造工程で出る端材をアップサイクルしたいと考えている企業、オフィス家具やインテリアプロダクトを開発している企業などとは親和性が高いと思います。その先では、建材として安定供給ができるようにしていって、広く世の中に流通させていきたいと考えています。

モノとして、世の中に賛否を問いかける

——一連の取り組みを通して、あらためてDNPの強みとして感じたことはありましたか?

私たちのようなモノづくりの専門チームが数多くある一方、「DNPプラザ」などのリアルな場の運用ノウハウも蓄積しているDNPには、大きな独自の強みがあると思います。プロトタイプを利用した人の意見を取り入れて、コンセプトを具体化していくことは、多くの生活者が本質的な満足を得られる製品・サービスを生み出すために欠かせないステップですから、DNPの強みはとても有効だと思います。

紙再生ボードで作ったインテリア雑貨

「再生紙と暮らす」展では、株式会社良品計画やDNPのデザイナー、武蔵野美術大学の学生等が「紙再生ボード」の可能性を探り、さまざまなインテリア雑貨などをつくり出して展示した。

「紙再生ボード」が乗り越えるべき課題はまだまだありますが、今後も社内外を問わず多くのパートナーとアイデアを交換し、一つひとつかたちにしていく作業を続けていきます。まだ道は半ばですが、その反復の先に、「循環型社会の実現」があると思います。

コラム:「再生紙と暮らす」展 パートナーの声

株式会社良品計画・大友聡氏

インタビューに答える良品計画 大友さん

B to Bの領域で多くの実績があり、製造エンジニアリングの面に強みがあるDNPさん。進むべき未来を考える個性豊かなクリエーターがいる武蔵野美術大学さん。そして、B to Cの領域で暮らしをデザインする良品計画。この三者が同じ素材、同じテーマで制作したことで、一者ではなし得なかった新たな提案ができたと思います。

今回の企画展では、来場者に、再生紙と暮らす未来を、うそっぽくなく、リアリティあるかたちで提示できたと思います。「紙って弱そうに見えて、十分に強い」と武蔵野美術大学の若杉教授がおっしゃっていて。成長とともに生活スタイルが変わっていく人生を考えると、“一生もの”だけれども重くて持ち運びにくい木の家具よりも、耐久性としては数十年くらいだけれど軽くて動かしやすい紙の家具ぐらいがちょうどいいのかもしれません。
デザインの潮流が「スペシャルな感動」から「身近な共感」へとシフトしている今、展示を見て感じた課題や共感が一人ひとりに広まっていくことこそが、次の未来につながると思います。

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