執行役員 金沢貴人

【役員インタビュー】DX(デジタルトランスフォーメーション)の成否の鍵を握る「リアルとデジタルの融合」

ニューノーマル(新常態)を具体化するアプローチとして注目されるデジタルトランスフォーメーション(DX)。コロナ禍を受けて社会のさまざまなシーンでその活用が急がれるなか、DNPは独自の知見を活かしたDXを推進しています。執行役員であり、ABセンター ICT事業開発本部長の金沢貴人に、「DNPのDX」の強みと最新の状況について聞きました。

目次

役員 金沢

金沢 貴人
大日本印刷 執行役員
ABセンター ICT事業開発本部本部長

変革は、DNPのDNA

インタビューにこたえる金沢

Q. ニューノーマルの構築に欠かせないと言われるDX。DNPは、経済産業省と東京証券取引所がDXに積極的に取り組む企業を共同で選定する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020」にも選ばれていますが、社内ではどのようにDXを位置づけているのでしょうか?

ニューノーマルに向かう流れの中で、「仕事はどこにいてもできるもの」という考え方に変わってきました。DNPもこうした変化のもと、仕組みや制度づくりを進めています。今の状況をどう乗り越え、どう活かしていくか。一時的な対処ではなく、未来につなげていくことが大切です。
こうした変革の土台となるのが、膨大なデータやデジタル技術を組み合わせたDXです。DXを手段として、私たちの仕事のやり方自体を大きく革新していくこと。そして、多様なステークホルダーに対して、DXの観点で新たな価値を付加した製品・サービスをお届けすること。これは、DNPの幅広い事業領域のすべてで実現するべきミッションだと考えています。

Q. DNPがDXを推進する背景を教えてください

実はDNPにとってDXに取り組むことは、ごく最近のニューノーマルと言うよりも、“ノーマルなこと”、“あたりまえなこと”だと捉えています。なぜなら、DNPは常に変革に挑戦し、イノベーションを起こすことに努め、新しいビジネスモデルを構築し続けてきた会社だからです。
出版印刷業から始まったDNPは、1970年代にコンピュータ組版の取り組みをスタートし、1980年代から「情報加工産業」~「情報コミュニケーション産業」を標榜して、デジタルデータの編集・加工や情報セキュリティ技術などを磨いてきました。その後、2001年に「P&Iソリューション」、2015年に「P&Iイノベーション」というビジョンを掲げ、社会や生活者に直接向き合い、「P&I」(印刷:Printingと情報:Information)の強みを掛け合わせて、革新的なビジネスモデルを自らが打ち出して、広く提供しています。
変革し続けることはDNPのDNAであり、「あたりまえ」のことになっています。DXについても、新たに始めたというより、これまで通り全社一体となって「P&Iイノベーション」を推進しているという意識です。

Q. DXにおいて、DNPだからこそ提供できる価値とはなんでしょうか?

「P&Iイノベーション」を進める中で、主に培ってきた強みは次の2つだと思います。
そのひとつが、自分たち自身が「生活者目線」を獲得することです。私たちはこれまで、数万社の企業に対して、それぞれの業界の課題を解決してきましたが、現在は企業の先にいる生活者や社会に直接向き合い、その課題や期待を私たち自身が肌で感じながら、価値の創出に取り組んでいます。そうした活動の中で、「企業や生活者のニーズをいち早くつかみ、期待を超える価値体験の向上を実現する」というDXの基本姿勢を培ってきました。これが、当社が推進するDXのコアになっています。

もうひとつの強みは、「リアルとデジタルの融合」のノウハウがあることです。モノづくり企業として実績を積んできたDNPには、モノや場所などの「リアル」な領域の知見が豊富にあり、そこにデジタルをどう掛け合わせれば効果的かという経験値を備えています。社会課題や生活者の期待に、これらの経験値をうまく組み合わせて対応することで、「人・モノ・体験」が連動するDNPならではの価値が提供できると考えています。

さまざまなシーンに広がるDNPのDX事業

インタビューにこたえる金沢

Q. 具体的に、DNPが進めているDX事業の事例をお聞かせください。

例えば、出版関連事業のDXがあります。創業以来、出版市場を支えてきたDNPは、多様化する生活者の読書スタイルに合わせて、2001年に電子書籍販売サイトを、2012年にネット書店とリアル書店を融合したハイブリッド型総合書店「honto(ホント)」を開設するなど、新たなビジネスモデルを構築してきました。
現在は、「honto」で培った生活者とのコミュニケーションのノウハウをベースに、「バーチャルな書店」の立ち上げに取り組んでいます。これは、書店を「生活者が本をきっかけに知や人と出会えるコミュニケーションメディア」と捉え、立地や開店時間等の制約がないバーチャル書店で、自分の分身であるアバターを介してフロア散策やイベント参加といった多彩な体験ができるというものです。リアル書店だけ、ネット書店だけではできないオンリーワンの顧客体験をバーチャル書店で実現し、本を軸とした新しい体験価値とコミュニティを提供していきたいと考えています。

もうひとつDNPならではのDX事例として、金融分野で帳票印刷からICカード、電子決済プラットフォームへと広げてきた事業で培ってきた情報セキュリティ技術を活かした取り組みがあります。ソフトウェアとハードウェアの両面で最新技術を磨き、多様な企業とのネットワークを強みとして、近年ではデジタルキープラットフォームなどを開発しています。クルマやオフィスなどを共有するシェアリングエコノミーのコア技術として、多様なビジネスを展開していきます。

Q. 今後はどのような展開を考えているのでしょうか。

現在注力しているもののひとつが、「XR(eXtended Reality)コミュニケーション事業」です。リアルとデジタルの融合によってバーチャルな街や空間を作り上げ、新しい形で付加価値の高いコンテンツを展開します。現実の地域や施設が持つ価値や機能を拡張させ、生活者に新しい体験価値を提供し、地域創生につなげる「地域共創型XRまちづくりPARALLEL CITY(パラレルシティ)」などを推進中です。これまで培ってきたリアルとデジタル両面の知見と実績を活かしながら、新しい形の街作りやイベント運営の支援をしていきます。

また、小学校から大学までの学習支援と教員の働き方改革、生涯教育や電子図書館の構築支援といった「教育分野」のほか、オンラインヘルスケアサービス、X線・CT・MRI等で撮影した画像を活用して遠隔診断を支援する仕組みといった「ヘルスケア分野」でもDXを推進しています。

歩んできた道のりが支える、DNPのDX事業

インタビューにこたえる金沢

Q. DXの提供価値を高めるため、現在取り組んでいることは何でしょうか?

DNPのDNAでもある「変革への挑戦」を次の世代に継承し、さらに発展させていくためには、具体的な仕組みが欠かせないと考えています。代表的な施策として、社員一人ひとりのスキルの見える化や人材育成プログラムがあります。その推進に当たって大切にしていることは、「P&Iイノベーション」による価値の創出を「どこかの誰かがやっている他人ごと」にすることなく、自分自身が主体となって、全社一丸となって取り組むべきことだと捉えてもらうことです。

また、製造部門でのBYODの導入やテレワーク化も推進しています。従来、製造部門でのテレワークは難しいとされてきましたが、DNPでは高度なセキュリティが求められるBPO事業部門のテレワーク化に着手しました。AIを利用した各種申込書等の自動審査の支援、厳格なセキュリティ環境での個人情報の運用、各種情報のリモート入力や審査などを組み合わせたプラットフォームを構築し、本格的な運用につなげていきます。

今回紹介したのは、現在取り組んでいるDX関連事業の一端ですが、いずれも、DNPグループのこれまでの歩みの延長線上にあるものです。私たちは常に変革に挑戦するという企業文化の中で、事業ビジョンである「P&Iイノベーション」を推進し、「生活者目線」と「リアルとデジタルの融合」という強みを高めてきました。これらを土台にして生み出していくDXの提供価値によって、より良い社会、より快適な暮らしを実現していきたいと思っています。