パターンライトの使用イメージイラスト

制御された“レーザー光”が暗所の安全を守る! 「DNP高視認性パターンライト」

夜間の工事現場やフォークリフトが行き交う倉庫など、安全対策の徹底が求められる場所では、ドライバーや周囲の作業員に注意を促す表示物の“見やすさ”や“目立たせ方”が事故防止のカギを握ります。こうした課題を解決する効果的なアプローチとして生み出したのが、「DNP高視認性パターンライト」です。印刷で培った微細パターン形成技術や光学設計の知見を融合したDNP独自の照明装置で、最も表示物を見せたい距離や方向に対して、高度に制御したレーザー光で“鮮明に見えるパターン”を実現しました。工事中の道路や物流拠点をはじめ、安全管理の重要性が高い現場で採用が進んでいるほか、公共空間での案内表示といった新しい領域への展開にも期待が集まっています。

目次

  • *パターンライトは、大日本印刷株式会社(DNP)の登録商標です。

現場の「見えない」「気づかない」は重大な事故リスク

深夜の高速道路。照明の届かないカーブの先で、工事の作業員が誘導灯を掲げる。そのすぐ脇を大型車両が走り抜ける――。こうした現場では、作業員もドライバーも瞬時の判断を迫られます。照明や標識などの表示物の「見えない」「気づかない」は、重大な事故につながる危険があります。

近年、高速道路や一般道の工事現場で、作業区域内に一般車両が進入する事故が増加傾向にあります。NEXCO3社(東日本高速道路株式会社、中日本高速道路株式会社、西日本高速道路株式会社)の公表データでは、工事規制内への進入事故は2020年の704件から、2022年には1,457件へと倍増しており、その約9割が漫然運転やわき見といった「前方不注視」でのドライバーの“気づきの遅れ”によって起きています。

工事規制内進入事故の原因
NEXCO3社による2018年1月~2022年12月の5年間の分析結果。漫然運転、わき見運転、居眠りの「前方不注視」が、事故原因の約9割を占めている。(「その他」の内訳は、ハンドル・ブレーキ操作不適当、速度超過、スリップ、横風などが原因の事故)。
出典:NEXCO西日本 ニュースリリース「高速道路上での工事規制内への進入事故が多発しています!-事故原因の約9割が前方不注視!前をしっかり見て、運転に集中して!-」(2024年3月27日)

現場では警告看板、標識、ラバーコーンなど、さまざまな表示物を設置して安全対策をとるものの、その都度、時間やコストがかかれば作業効率は下がることになります。また、道路上の表示物が増えすぎることは、運転中のドライバーの視点が正面から標識側に動く時間を増やすことにつながり、前方不注視のリスクが高まるおそれもありました。

こうした“安全と効率のトレードオフ”をどう乗り越えるか――。DNPの開発チームは、その解決策を「レーザー光」に見出しました。レーザー光は、原理的に遠くまで効率よく(視覚)情報を届けることができ、聴覚や触覚にアプローチする音や振動よりも、遠方から視覚的に危険の所在を知らせることに長けています。必要なときに、必要な情報だけを、必要な場所にレーザー光で表示できれば、トレードオフを回避してより安全な行動を導けるのではないか――。こうした着想から「DNP高視認性パターンライト」を開発したのです。

レーザー光を自在に操るDNPのHMXテクノロジー

「DNP高視認性パターンライト」は、小型で低消費電力でありながら、遠方まで明るく明瞭な光のパターンを安全に投影できる照明装置です。パターンによって異なりますが、最大で100メートル先まで高さ1メートルの位置からでも光を投影でき、投射距離や照射角度の設計自由度も高いという特長を持っています。

この製品の強みの中心にあるのが、DNP独自の「HMX(ホログラフィック・マトリクス)テクノロジー」です。「情報を正しく、わかりやすく伝える」ことを使命に、紙への印刷からパッケージや建材、ディスプレイ用光学フィルムなどに事業領域を広げてきたDNPが、「光そのものを表示物として扱う」という発想で生み出しました。

従来のホログラフィは、物体から発せられる立体的な光の情報(干渉縞)を媒体に記録し、その光を後からレーザー光で立体的に再生する技術です。複雑な3次元形状を容易に再現できる一方、遠距離で高精細な再生像を作り出すために光を精密に制御することは技術的に困難でした。そのため遠距離にパターンを投影する用途では、十分な画質を得にくいという課題がありました。

HMXテクノロジーでは、制御されたレーザー光を「HMX素子」に入射することで、従来のホログラフィでは実現できない手前から奥まで鮮明に見えるパターン投影を可能にします。
「HMX素子」とは、光の制御に欠かせない複数のHMX要素(特殊なホログラフィック光学素子)を精密に配置した集合体で、入射されたレーザー光の方向や強度を細かくコントロールすることができます。これにより、狙い通りのパターンや奥行きのあるパターン、広範囲に均一に見えるパターンなどを鮮明に投影することができるようになっています。

DNPのHMXテクノロジー(簡略図)。HMX素子に制御されたレーザーの光を入射することで、投射面に対して手前から奥までクリアな像の形成を可能にする。

また、HMX素子を使ったレーザー光は、安全性に配慮されていることも大きな特長です。

レーザーの発光点は通常、LED等の面光源に比べると非常に小さく、そのため小さなレンズでも原理的に光を遠くまで投射できます。ただし、人間の眼でこの光を直接見てしまうと、眼の水晶体のレンズ機能によって網膜上に再度レーザー光が収束してしまい、網膜に傷害を与えてしまうリスクがありました。

それに対して「DNP高視認性パターンライト」に搭載したHMX素子からの拡散光は、眼の瞳より十分に大きな断面積の複雑な拡散光で構成されるため、偶然この光を見てしまった場合でも網膜上の一点に集光する心配がありません。

「DNP高視認性パターンライト」の投影イメージ

実証から実装へ──磨いていく技術

「DNP高視認性パターンライト」の中心となるHMXテクノロジーの開発は、2022年の試験販売の10年以上前に開始しています。クライアントからの受託開発ではなく、DNP自身が“光そのものを表示物として扱う”という新しい領域に挑んだ独自プロジェクトでした。
膨大で複雑なデータを正確に扱い、製造プロセスへと落とし込む必要があり、光学設計と製造技術のDNPのチームが協力し、試作と改良を重ねて課題を一つずつ解消しながら最適な形を探っていきました。

並行して、欠かせない工程である実際の現場での検証も進めました。多様な環境で使われることを想定した製品だけに、何より重視したのは現場で実際に使用する人々の“使いやすさ”と“効果に対する納得感”です。道路事業者や工場関係者の協力を得て、工事中の道路や工場エリアなど多様な環境で性能を確認。照度条件や設置角度、振動や衝撃、風雨や粉塵といった外的要因への耐性を評価し、改良を重ねるなかで、屋外の過酷な使用環境でも安定して高い性能を維持できるようになり、実用化への道を開拓してきました。

DNP高視認性パターンライト。2025年6月に量産化して発売したポータブルタイプ。バッテリー搭載型(下/全長256mm、重さ600g)と、外部電源の接続が必要なバッテリー非搭載型(上/全長193mm、重さ450g)の2種類。

現場での実証の積み重ねで改良を加え、印刷で培った微細加工技術と大規模情報処理能力も融合することで、データ処理から設計、検証・量産まで高度に制御する体制を構築。プロセス全体を一貫して推進する力と、担当者の継続的な研鑽が、「DNP高視認性パターンライト」を“研究開発段階の成果”から“現場で活躍できる製品”へと育てていきました。

現場に根づく、新しい光を“未来のあたりまえ”に

「DNP高視認性パターンライト」は現在、道路等のインフラや工場の現場を中心に、導入が進んでいます。

「DNP高視認性パターンライト」による路面への光の投映
2021年11月に環状線で行ったパターンライトを使った試験施工の様子。矢印のパターンを路面上に投映することで、より直感的な早めの車線変更をドライバーに促すことができる。

阪神高速技術株式会社は、夜間工事区間の手前で矢印パターンを路面に照射し、ドライバーに早めの車線変更を促す取り組みを行いました。内照式予告看板と併用することで従来よりも視認性が高まり、工事帯への進入事故の抑止につながりました。

「DNP高視認性パターンライト」を用いた「G-スクライト工法」
区画線工事の罫書き作業をパターンライトのレーザー表示で行う工法。従来の区画線施工に比べて、約21%のコストを削減し、工程を約35%短縮させる実績が得られている。

また、北海道技建株式会社は、この製品を用いて、道路区画線施工の基準線を光で示す「G-スクライト工法」を開発しています。作業工程の短縮やコスト削減に加え、作業員が路上に出る時間を減らすことで安全性の向上にもつながっています。この「G-スクライト工法」は国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)にも登録され、その有効性が公的にも認められました。

この他にも、さまざまな場面での活用が期待されています。
工場や倉庫などの屋内空間では、危険箇所やフォークリフトの走行エリアを光で示すことで、安全確保と作業効率の向上に役立ちます。塗装や標識による表示が難しかった現場でも、光を使うことで柔軟なエリア管理が可能になります。
災害時や停電時には、避難経路を光で示す非常用誘導としての活用が見込まれています。言語に依存せず直感的に伝わるため、駅や交通機関、商業施設、イベント会場など、多様な人が集まる場所での安全な誘導に有効です。
自動車やロボット、AGV(無人搬送車)、ドローンなどの次世代モビリティ分野への展開も視野に入れています。進行方向を光で示すことで人との接触を防ぎ、安全性と効率性の向上に貢献できると考えられています。

小型で扱いやすく多様な場所に設置できること、必要なときに必要な情報を示せること――。「DNP高視認性パターンライト」を中心とする、光を基盤にした柔軟な仕組みは、多様な現場に寄り添う新しいインフラとして、静かに広がり始めています。

※記載された情報は公開日現在のものです。あらかじめご了承ください。