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プライバシーステートメント
ミュージアムIT情報
掲載/歌田明弘|掲載/影山幸一
おもてなしの心がデータベースを創造する「日本写真印刷」
影山幸一
 金色は、デジタルアーカイブにとって克服しなければならない色である。その難しさを教えてくれたのは、京都・二条城にある障壁画のデジタルアーカイブであった。金とどのように向き合ってきたのか、デジタルアーカイブの構築から運用にかかわる多くの技術は、金を乗り越えて向上してきたのかもしれない。日本の伝統文化が集積する京都に本社を置く日本写真印刷株式会社(以下、日写)が1999年に二条城(元離宮二条城[ミュージアムIT情報2003年1月15日号参照])の重要文化財である狩野探幽の一門が描いたといわれる障壁画を、世界最高水準の技術を駆使してデジタルアーカイブしていた。1929年創業の印刷会社である、日写は「オリジナルがもつ“美”の世界を再現するテクノロジーを追求してきた」と言う。63年に完成した『国宝』(毎日新聞社刊)第1巻は日写の代表的な仕事であった。数々の美術書や豪華本、写真集を世に送り出したその印刷技術がデジタル技術をはぐくんできたようだ。

東京DS部辻明弘氏、高島紳一氏、深瀬宰氏
左から、東京DS部
辻明弘氏、高島紳一氏、深瀬宰氏
 日本の印刷技術は世界トップといわれる。その優れた印刷技術を持つ会社ほどデジタル事業を熱心に幅広く展開していることに気づく。ハードコピーという言葉がある。パソコンの表示画面を画像として紙に印刷したものをいう。デジタルと印刷が相関関係にあるのはすでに常識なのだろう。
 東京・竹橋のパレスサイドビル9階、日写の東京支社を訪ねた。同社が開発したミュージアム用資料管理データベース「Artize MA(アルタイズ エムエー)」について話を伺った。日写は二条城の障壁画をデジタルアーカイブしたようにデジタル撮影 から印刷まで、トータルにデジタルコンテンツを取扱うシステムインテグレーターでもある。デジタル印刷情報事業本部DS(デジタル・ソリューション・ビジネス)本部・東京DS部の高島紳一部長、深瀬宰課長、辻明弘係長、エンジニアの樋口徹係長の4名が快く取材に応対してくれた。

 Artize MAについては使いやすいデータベースであると知り合いの学芸員から聞いていた。Artize MAの発売は今年2004年3月。2002年に販売されたArtize MA(旧バージョン)は高精細デジタルアーカイブシステムとして、画像を蓄積・保存する点に特徴があった。データベースはテキストというイメージを一新させた。そして、現行のArtize MAへのバージョンアップで新たに加わった機能は、「インターネット公開機能」「高精細画像ビュアー」「出品歴管理の機能拡張」「資料の移動履歴管理」「テキスト書出機能の充実」の追加で、業務の利便性を強化していると言う。Artize MAでは、作品データを検索すると作品の画像が一覧でき、そのうえ画像を劣化させず拡大して表示することができる。展覧会の企画、研究の記録保存、収蔵品の移動履歴記録、図録の製作などに効果的だ。しかし、画像を比較することや重ねられないのは残念だが、ミュージアムの業務には欠かせない情報をミュージアムに応じてカスタマイズ、サポートするというものだ。

ARTIZE MA 作品データ検索結果画面 ARTIZE MA 作品画像拡大表示画面
左:Artize MA 作品データ検索結果画面/右:Artize MA 作品画像拡大表示画面(*クリックで拡大します)

ポーラ美術館 情報コーナー
ポーラ美術館 情報コーナー
(画像提供:ポーラ美術館)
 安定性を得るためにオラクルを採用したArtize MAは、画像対応フォーマットに、TIFF、JPEG、BMP、PixelLiveを装備。ユーザーごとにアクセス権限を設定でき、貴重な情報のセキュリティ保持にも配慮がされている。公開用サーバと共に利用することで、さらに活用の範囲が広がるようだ。現在の導入先は、ポーラ美術館四日市市立博物館京都市立芸術大学伝統音楽研究センターなどである。

 一方、日写は京都国立博物館のデジタル画像販売権を今年9月に取得した。そして、雪舟の《天橋立図》などの絵画や刀剣、染織など約450点の国宝文化財画像を「アルタイズ・ドット・ネット」で公開販売している。利用者は、欲しい画像を選択し、商用利用の許諾手続きをネット上で済ませ、CD-Rで郵送されてくるデジタルデータを受け取る。利用料金はサイズ(約40-200メガバイト)と用途によって異なり、売上金の一部を博物館へ還元する。日写は今後も関西圏を中心に博物館や美術館のデジタル画像販売権を請け負う、画像コンテンツプロバイダー事業を推進していく計画がある。アルタイズ・ドット・ネットへは、京都国立博物館 の「@KYOTOMUSE」からもアクセスできる。

 コンピュータの専門家ではない学芸員にとって、アフターケアの充実したデータベース機器の導入は喜ばしいものに違いない。データベースのスペックや機能は、各製造メーカー間に、大きな差はないといわれる今、学芸員などの意向に応じたカスタマイズを丁寧に行なえる会社が求められている。京都の伝統あるおもてなしの気風や美術環境で養われた日写の芸術作品に対する気配りは、学芸員に安心と満足を与えるものとなっているようだ。展覧会図録の印刷などで長年培われたミュージアムとの信頼関係や、学芸員との対話の中からデジタル技術を応用した学芸支援システムといえる「Artize MA」が生まれてきたのだろう。紙に対する印刷技術を基礎としながら、デジタル技術も早期より導入し、Artize MAに標準装備されている画像フォーマットPixelLiveは、VFZと呼ばれていた時代から株式会社セラーテムテクノロジー(セラーテムテクノロジー[ミュージアムIT情報2004年5月15日号参照])と共同開発を行なってきたものだ。
 「デジタル化をどれだけ進めても、お客さまを満足させる水準には到達できません。顧客と接するスタッフの感性が、顧客満足度を高いレベルに押し上げるのです。」先端テクノロジーと人間の感性が、有機的なシステムとして機能し、高品位なものづくりとなる。75年間の印刷技術へのこだわりが、デジタル技術として生かされ信頼を築き上げている。

■Artize MAサーバー概要(日本語版・北京語版)
収蔵資料管理 作品管理(貸出、出品歴、修復)、図書管理、作家管理、著作権者管理、所有者管理、取引先管理
ユーザー情報管理 ユーザー管理、ユーザーグループ管理、ユーザー辞書
インターネット公開管理 公開情報管理
来館者端末管理 公開情報管理
CPU PentiumIII 600MHz以上
メモリ 512MB以上
ハードディスク 3GB+登録画像容量分の空き容量
OS Windows2000 Server、Windows2003 Server、Linux(カーネル2.4以上、GLIBC2.2以上)
対応画像フォーマット TIFF、JPEG、BMP、PixelLive
参考価格 216万円

■会社概要
会社名:日本写真印刷株式会社
創業年:1929年10月
資本金:56億8,479万円
売上高:66,235百万円(単独)、66,857百万円(連結)
代表取締役社長:古川 宏
従業員数:1,031名(単独)、1,951名(連結)
本社:京都市
支社:東京・大阪
事業所:名古屋・神戸・高松・長野・千葉・加賀・亀岡・久美浜
海外事業所:シカゴ・サンディエゴ・ダラス・プランテーション・コペンハーゲン・ヘルシンキ・デュッセルドルフ・ロンドン・ソウル・クミ・クアラルンプール・北京・上海・昆山・広州・香港・台北
事業内容:商業印刷、美術・書籍印刷。その他、印刷関連技術で産業資材・電子関連事業、システム開発、デジタルソリューション関連事業
理念:「印刷」を基盤に培った固有技術を核とする事業活動を通して、広く社会との相互信頼に基づいた「共生」を目指す。
スローガン:"Impression Technology"を掲げ、お客さまにより一層深い感動と、ニーズを超える新しい価値をお届けしたい。
(2004年3月末現在)
2004年11月
[ かげやま こういち ]
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