株式会社メニコン様

高い成果は現場起点のソリューションから生まれる。
「コンタクトレンズ棚卸業務DX」における作業体験のデザイン

「高度管理医療機器」を扱う現場で最終的な品質を支えるのは、スタッフ一人ひとりの確実なオペレーションです。しかしその負荷の大きさや属人化は、どれだけ丁寧な運用でも避けがたく、業務品質の安定性は長年の課題でした。
近年では、単なる業務効率化ではなく、「誰が行っても同じ品質が出せる運用そのものをどうデザインするか」が重要視されています。DXもシステム導入だけでは価値を生まず、現場に即した“使われ続ける仕組み”として構築できるかどうかが問われています。
それはメニコン様のコンタクトレンズ棚卸業務においても同様で、丁寧な目視確認や手書き記録に支えられてきた一方で、精度確保には大きな負荷が伴っていました。

本プロジェクトでは、高度管理医療機器を扱う現場に足を運び、人の動きや作業環境を可視化。 現場での実用性を担保しながら、精度と効率の向上を同時に実現する「作業体験のデザイン」を実現し、データ活用やシステム導入にとどまらない価値提供に取り組みました。
(2026年2月時点の情報です)

※本事例は、サービスデザイン・ラボ®の組織デザイン業務「デザインシンキング浸透活動」を通じて生まれたデザインシンカーによる取り組み事例です。

取組みの全体像

メニコン様では、全国1,000拠点以上で半年ごとの棚卸作業(個数カウント・使用期限チェック・帳票処理)が発生しています。しかし、従来の方法は、目視確認や手書き記録といったアナログ作業が中心で、カウントミスや期限切れ製品の市場流出リスクを撲滅するために多大な工数負荷がかかっていました。
DNPは徹底的に現場によりそい、棚卸作業に携わるスタッフの方々への丁寧なヒアリング、実際の棚卸作業のロールプレイなどを通じて、現場で行われる一つひとつの動作をAs-Is(現状)/To-Be(あるべき姿)として可視化するところから伴走しました。
「作業スピードが上がるか」「業務精度が高まるか」「現場で無理なく定着するか」の3点を基準に、解決方針を立案。ソリューションとして、棚卸業務に用いるスマートフォン専用アプリと在庫管理サイトを新規開発しました。さらに、運用定着支援として全国5カ所で作業者向けの事前勉強会を実施しました。

棚卸業務DXの全体像

お客さまのお取組み

株式会社メニコン

日本初の角膜コンタクトレンズを実用化した国内最大手の総合コンタクトレンズメーカー。コンタクトレンズおよびケア用品の研究開発・製造・販売を一貫して展開し、定額制サービス「メルスプラン」など独自モデルも提供。国内外で事業を広げ、世界80カ国以上へ製品を展開しています。

お客さまの課題とご支援成果

ご支援前の課題

1.棚卸業務のさらなる効率化
目視確認・手書き記録・コンタクトレンズの使用期限チェック・作業証跡としての署名受領といった丁寧な運用が行われており、確実性を担保するために多大な工数が発生。工数負荷を減らした業務へのアップデートが期待されていた。

2.業務品質をより安定的に保つ仕組みづくり
高度管理医療機器を扱う特性上、使用期限切れコンタクトレンズの市場流出を防ぐため、いずれのスタッフでも同じ品質で棚卸が実施できる仕組みが必要。属人的な手順に依存しない、より再現性の高いプロセスへの進化がテーマとなっていた。

3.業務バランス最適化
棚卸をはじめとするルーティン業務が一定の比重を占めるなか、よりコア業務に集中できる環境づくりが望まれており、生産性の向上に加え、担当者のやりがい・エンゲージメント向上にもつながるテーマとして位置付けられていた。

DNPの対応とご支援後の成果

1.プロジェクト目的の再定義
「棚卸業務の改善」というテーマの背景にある、メニコン様がめざされる上位目的を明確化。プロジェクト全体が迷わず進むよう、成功イメージを構造的に整理し、関係者間で共有できる基盤を整えました。

2.現場検証にもとづいた作業体験と、それを叶えるツールのデザイン
棚卸業務を行う現場を訪問させていただき、実際の棚卸時の個数カウント・期限確認・署名受領といった運用を一つひとつ確認。ロールプレイも交えながら作業環境や動線を正確に把握した上で、理想的な作業体験を叶える『撮影補助器具』を設計しました。

3.作業者視点での導入支援
DNPの提供価値は「納品することではなく“現場で使われ続けること”」だと考えているため、開発したソリューションの導入プロセスも重視しました。ツールの操作マニュアルにとどまらない、現場目線の業務手順書の作成と、作業者向けの事前勉強会を全国で開催。導入初期からスムーズな運用が実現し、業務効率と棚卸品質の双方で改善が確認されました。
特に品質面では、ヒューマンエラーが起こりにくい運用スキームとして評価され、安定した棚卸プロセスの実現に寄与しました。

これらの取り組みの結果、過去の棚卸で見落とされていた期限切れコンタクトレンズの検出精度が飛躍的に向上。さらに、導入後の現場からは50%以上の作業時間削減につながったという報告もいただきました。

Design:棚卸業務をスムーズに行う撮影補助器具

治具

導入したソリューション

本器具はスマートフォンに装着して使用するもので、棚卸業務におけるQRコード読み取り作業を安定かつ効率的に行うことを目的としています。
一見すると不要に見えるかもしれませんが、高度管理医療機器であるコンタクトレンズの棚卸業務を最適化する上で、不可欠な工夫が数多く盛り込まれています。

工夫①:正確性の担保を最優先した読み取り方式
高度管理医療機器を扱う棚卸業務において最も重視すべき要素は「正確性」です。
複数のQRコードを同時に読み取る一括読み取り方式では、読み取り誤りのリスクを排除できません。
そこで本業務では、狙った1点を確実に読み取る単発読み取り方式を採用。その実現に向けて、スマートフォンカメラの照準範囲を絞り込む撮影補助器具が必要となりました。

工夫②:多様な照明環境への対応
棚卸現場の照明環境は店舗ごとに大きく異なります。
明るい環境では商品フィルムの反射によりQRコードが認識されにくく、暗い環境では十分な照度が確保できません。
こうした環境差に対応するため、撮影補助器具の筒部には白色タイプと半透明タイプの2種類を用意。現場の照明条件に応じて使い分けることで、安定した読み取り精度を実現しています。

工夫③:作業スピードを損なわない設計
単発読み取り方式で業務スピードを維持・向上させるには、カメラのピント調整によるタイムロスを最小化することが重要です。
本器具では、最も読み取り精度が高い距離を一定に保てる構造とすることで、ピント調整を意識することなく、連続した読み取り作業を可能にしています。

このほかにも、実商品の上を滑らせるようにQRコードを読み取れるよう、筒の先端部に1mmのアールを設けるなど、小さくとも確実に業務効率を高める改良を随所に施しています。
こういった補助具は、現場導入を始めてから生じる問題に対応する形で後から生まれることが多いものです。しかしながら、本件では現場の実態を深く理解したことで生まれた工夫を積み重ね、スムーズな導入を実現しました。

プロセス

プロジェクト全体の流れ

ディスカッションを重ねながら要求整理を行い、メニコン様とDNP双方の目的を共通認識として整理することからプロジェクトを開始しました。
その後、実際の現場視察で得られた一次情報をふまえ、ソリューション設計(要件定義・開発)を実施。さらに、運用設計から現場への定着支援までを一気通貫でご支援しました。

Step 1:プロジェクト目的の設定

本プロジェクトで達成すべき目的を明確化しました。
棚卸業務効率にとどまらず、事業運営におけるどのような目標や指標に寄与する取り組みなのかを構造的に整理した上で、プロジェクトスコープを定義しました。

プロジェクト目的の整理

Step 2:業務フローの可視化

10カ所以上の現場訪問、12名へのヒアリングおよびロールプレイを通じて、棚卸業務の実態と作業者の人物像を把握。業務フローを構造的に整理し、ドキュメントとして体系化しました。

Step 3:業務分析・ありたい姿の策定

可視化した業務フローをもとに、各タスクを「作業者が担うべきタスク」と「仕組み化・他者に委ねられるタスク」に分類しました。
後者をDXによって効率化すべき対象として定義し、DXの適用領域を明確化しました。
あわせて、DX実施後の業務イメージ(ありたい姿)を可視化しました。

Step 4:制約条件の把握

プロジェクト推進にあたり、業務・運用・品質面での制約条件を整理しました。
本件では、以下の点を重要な制約条件として設定しました(一例)。
・棚卸スピード向上と引き換えに、カウント精度が低下しないこと
・確実に期限切れ商品を検出し排除できること
・製造・物流フローへ影響を及ぼさないソリューションであること

Step 5:ソリューション検討

業務内容および制約条件をふまえ、解決方針の検討を行いました。
メニコン様固有の業務要件に対応するため、既存パッケージではなく、スクラッチ開発による対応をご提案しました。

Step 6:実証実験(PoC)

プロトタイプのスマートフォンアプリを用意し、実際の棚卸現場にて実証実験を実施しました。
作業スピードおよび読み取り精度を計測するとともに、現場特有の課題を把握。
それらがシステム開発で対応可能であることを確認し、要件定義フェーズへと進めました。

Step 7:要件定義・基本設計・開発

現場視察で得られた実態をふまえ、必要機能の整理および要件定義を実施しました。
基本設計においては、ボタン配置、画面遷移、用語定義に至るまで、作業者の視点を重視した検討を行いました。

Step 8:導入支援(運用手順書作成・勉強会実施)

ツールの使い方だけでなく、前後の業務フローも含めて業務全体を可視化。
さらに、手順書をもとに作業者向けの事前勉強会を全国で実施し、導入期の不安や混乱を最小限に抑える体制を整えました。

導入説明会の様子1

導入説明会の様子2

プロジェクト推進において大切にした考え方

1.現場で起きている事実(ファクト)を一つひとつ積み重ねて把握
ヒアリング内容や現場視察を通じて、推測や先入観に頼らず、実際に起きている業務実態を丁寧に整理。

2.「本当にそうなのか」「ほかに選択肢はないのか」を問い続ける姿勢
表面化している課題や与件をそのまま受け取るのではなく、前提を疑いながら議論を重ね、現場にとって最適な解決策を模索。

成果と今後の施策

1.棚卸業務の確実性向上
システムによって、使用期限の自動判別や契約在庫数との突合を行うことで、期限切れ品の見落としや数量不一致のリスクを最小化。棚卸業務の確実性が大きく向上しました。

2.関連業務を含めた工数削減を実現
棚卸カウント作業にとどまらず、事前の準備業務や在庫差異発生時の確認・是正対応にかかる工数も効率化され、棚卸業務全体において継続的な負荷軽減を実現しました。

3.フェーズ2 開発への展開
現場で実際にシステムを利用された方々のフィードバックをもとに、運用実態に即した改善を進めるフェーズ2開発を開始。さらなる業務効率化と現場負荷の低減をめざします。

DNPは、これからもメニコン様のパートナーとして「ブランド価値向上と生産性・エンゲージメントの向上を両立する”現場に価値が生まれるDX”」に引き続き伴走します。

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それを継続的に提供するための組織や仕組みも含めてデザインする方法論「サービスデザイン」を推進しています。

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