One to One で顧客育成、「自社ポイント」活用のすすめ

多様化する顧客のニーズに対応するため、顧客との良好な関係を構築しファン化を促進するCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)導入が多くの企業で進んでいます。しかし、どのような施策から始めたら良いか分からない、または取り組んでいても思うように成果が出ない、というケースも少なくありません。 本コラムではCRM施策のひとつである「自社ポイント」をとりあげ、事例をまじえて効果的な自社ポイント活用法について解説します。

(2023年2月1日 公開)

目次

プレゼントの箱のイラスト

1.CRM施策を取り巻く状況
2.実店舗とECの統合顧客データを活用したCRM施策
3.自社ポイントの効果的な活用事例
4.自社ポイント導入の5ステップ
まとめ

1.CRM施策を取り巻く状況

インターネットが普及する前のマーケティングは、テレビコマーシャルなどによるマスマーケティングが主流でした。しかし高度経済成長期が終わると、しだいに生活者一人ひとりのニーズに合わせたOne to Oneマーケティングが求められるようになりました。当初は会員データをもとにダイレクトメールを送るなど、とれる手法は限られていましたが、2000年代になるとインターネットの普及、IT技術の進歩により大量の顧客データを容易に扱えるようになったことで、One to Oneマーケティングの手法も多様化してきました。
AIDMAからAISAS/AISCEAS/AIDCAS※ といった購買行動に変化しています。また、情報収集の精度向上や、CRMシステムの高度化により顧客像を可視化し、最適なタイミングで最適な情報を届けることが可能になりました。
※AISASやAISCEASはインターネット普及による「検索」や「共有」プロセスを加えたもの。AIDCASは「顧客満足」までを含み、顧客育成を考慮した顧客購買モデル。


2.実店舗とECの統合顧客データを活用したCRM施策

一方、近年ではプライバシー意識の高まりを背景に、Cookie規制の動きが強まっています。日本では、個人情報保護法が2020年6月に改正され、Cookieは個人関連情報と定義されました。Cookie規制強化によって、これまで「実店舗会員」「EC会員」「キャンペーン会員」「ブランドごとの会員」など別々に管理していた顧客情報の連携ができなくなる事態に備え、それぞれの会員データの統合が進んでいます。

会員データが統合されたことで、CRM施策の精度が上がりました。例えば統合前では、先週店舗でBBQコンロを買ったばかりなのに、ECサイトから「行楽シーズン到来、BBQコンロ割引キャンペーン」というメルマガが届くといったことも起こっておりました。実店舗とECの会員データが統合されていれば、BBQコンロを購入した顧客にはオートキャンプをさらに楽しむための関連商品のメルマガを送ることも検討でき、より満足感のあるサービス提供が可能です。
また割引クーポンを店舗とECで、仕様によっては同じ人が2回使うことも想定されますが、会員データが統合されていればクーポンの重複使用をふせげるので、その分、半額クーポンなど割引率を高めた集客力のある施策を実施することが可能になります。

ただし、会員データを統合したものの、効果的なCRM施策に活用できていないケースもあります。CRM施策にはメールマガジンやクーポン、ポイントなどがありますが、施策の効果が一時的なものにとどまってしまうと、継続性を重視した顧客育成につながりません。メルマガによる各種キャンペーンやクーポン施策では効果が一時的になる可能性が高いですが、それと比較してポイントは、たまったポイントを次に使う仕組みなので、継続性のある顧客育成につなげやすい手法といえます。

貯金箱のイラスト

日本では国民性からしてポイントを好む傾向があります。例えば、日本では国の施策でも「マイナポイント」や「Go To Eatキャンペーン」といったポイント制度が使われていますが、アメリカではポイントよりも圧倒的に値引き/クーポンといった施策が好まれます。また、日本とアメリカで金融資産の構成を比べると、日本では預金・現金が5割強に対してアメリカでは1割強でしかありません(日本銀行調査統計局「資金循環の日米欧比較(2020年)」より)。日本人はとにかく貯めることが好きな傾向があり、ポイントを貯めることにも喜びを感じる人が多いといえると思います。

ポイント施策は長らくBtoC取引が主である小売業や流通業で多くみられるものでした。しかし、最近では消費財メーカーなど従来BtoB、BtoBtoC取引が主流であった業界にも広がってきています。ポイント施策には「共通ポイント」と「自社ポイント」での施策が可能です。共通ポイントはLINEポイントや Tポイントなど、複数の店舗・企業間で共通してポイントの獲得、利用が可能です。共通ポイントは加盟店どうしの相互送客が期待できたり、仕組みを提供してもらえるというメリットがありますが、一方で企業にとっては、欲しい顧客情報がとれなかったり、共通であるがゆえに自社会員にダイレクトに届く施策(One to One施策)がしにくいというデメリットもあります。

各社の自社ポイントと共通ポイント(LINEポイント)の実施状況

各社の自社ポイントと共通ポイント実施状況の図表


3.自社ポイントの効果的な活用事例

ここでは各社が実施しているさまざまな事例を見ながらポイント活用方法について見てみましょう。

事例1 コロナ禍の実店舗売上減を自社ポイントによるEC送客で解消
ある化粧品メーカーでは自社ポイントを使って、コロナ禍でも離反顧客を出さないことに成功しました。実店舗が休業しているので店舗に行けない顧客に対して、ECで使える自社ポイントを付与してECに移行してもらうことに成功、結果的に店舗での売上減少分をECの売上増に転換することができました。このケースでは、他店舗でも使用できる共通ポイントではなく、囲い込みが可能な自社ポイントを付与したことが成功の要因といえます。

スポーツ施設のイメージ写真

事例2 行動予測によりポイント付与で離反防止
あるスポーツ施設では、すべての顧客ではなく、しばらく利用が滞っているような休眠客だけに的を絞って値引きしたいと考えました。顧客のデータを分析したところ、徐々に来なくなる人の行動パターンとして、いままで1週間ごとの利用だったのが2~3週間ごとになり、それが3カ月続くと来なくなってしまう、といった行動パターンがみつかりました。そこで来なくなる兆候が見られたタイミングでポイント付与のアナウンスをすることで、定期的に利用するように行動変容を促し、離反防止につなげることができました。

事例3 消費サイクルの長い高額商品メーカーが自社ポイントで関係継続
消費サイクルの長い車や住宅といった高額商品では、保守やアフターサービスを通じた長期的な関係構築が必要です。5年10年たつうちに、価格の安い保守サービス会社に切り替えられてしまうといったことが起こります。
ある高額商品メーカーでは、保守サービスを実店舗やECで提供する際にポイントを付与することで次の保守サービスの受注も促し、継続してもらうための工夫をしています。ポイントの有効期限は15年と、長期的な関係構築を前提とした設定になっています。


4.自社ポイント導入の5ステップ

Step1 顧客構成の把握

優良顧客、一般顧客、新規顧客の構成比をあらわす図

まず自社の顧客構成を整理します。「優良顧客」「一般顧客」「新規顧客」といった分類が一般的ですが、オリジナルの分類方法があるとより課題をとらえやすくなります。例えば「新規顧客」 といっても、その中で商品を知っている層とそもそも知らない層に分けられたり、「一般顧客」といっても、頻度は低くても継続的に購入してくれる層と、キャンペーンにしか反応しない層というふうに分けられたりするかもしれません。それぞれの層がだいたい何パーセントの構成になっているかを可視化してみましょう。

Step2 あるべき姿をえがく

次に、顧客に求める将来像、あるべき姿を設定します。例えば、「一般顧客の20パーセントが優良顧客にシフトして、優良顧客が増加した状態をめざしたい」という場合もあれば、「新規顧客を取り込んで、顧客数を1.5倍にしたい」という場合もあります。どの顧客カテゴリーを、どうしていきたいかによって、とるべき施策がしぼられてきます。

Step3 ゴールの設定

Step2の顧客に求める将来像、あるべき姿の達成によって実現したい、将来的なゴールはどんなことでしょうか?「5年後に商品カテゴリーでシェア1位をとる」「10年後に商品売上を今の1.5倍にする」など、具体的にゴールを設定すると、長期的な取組みの計画を立てやすくなります。

Step4 顧客データの整備

自社に会員サービスがすでにある場合、状況はどうなっているでしょうか?実店舗とECの連携がされているか、ブランドごとの会員情報は連携されているか、必要な顧客データがとれていて、施策に活用できる態勢が整っているか確認しましょう。 今後はグローバル企業を中心に、日本でも個人情報の取扱いが欧米基準に近づいていくことが予想されます。顧客育成は長期的な取組みになるため、将来予測も視野に入れて自社の顧客情報のあり方を設計しておくことも大切です。

Step5 顧客育成シナリオの検討

Step4で施策に使いたいデータが足りていないと判明した場合、自社ポイントを利用してファーストパーティデータや、ゼロパーティデータを取得する方法も検討できます。自社ポイントを、個人情報を提供してもらうためのインセンティブにすることで、顧客の興味関心データを取得できれば、より効果的なOne to One施策につなげやすくなります。長期的な顧客育成という観点から、自社ポイントを活用することで「あるべき姿」に近づけるシナリオが描ければ、自社ポイントの導入が有効だと考えられます。


まとめ

顧客のニーズは一人ひとり異なり、データを活用して状況に応じたアプローチを続けることが良好な関係構築につながります。自社の現状をしっかりと把握し 、あるべき姿を定めてから 適切なCRM施策を実施するのが成功の鍵です。CRM施策のなかでも自社ポイント施策は顧客の囲い込みや活性化、ファン化の促進に効果的なため、検討してみてはいかがでしょうか。

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