【シリーズコラム】DNPのデジタルアーカイブ 第3回 デジタルアーカイブ化に関する博物館評価

本コラムでは「DNPのデジタルアーカイブ」というシリーズで、近年注目されるデジタルアーカイブについてDNPの視点から解説を行ってまいります。第3回は、「デジタルアーカイブ化に関する博物館評価」というテーマについて、デジタルアーカイブの導入効果をいかに評価するか、という問いに対し博物館評価との関りから考察します。

作成日:2023年1月25日

コラム_博物館評価_キービジュアル

目次

はじめに

 デジタルアーカイブの構築は費用や労力を要する割に効果が見えづらく、及び腰であるという博物館関係者の方々も多いかと思います。収蔵品をデジタル化することは貴重な文化資源を後世に遺すという、「保存」の観点から非常に重要ですが、博物館に求められる役割が多様化する中で、その「活用」の基礎となるものです。それでは、このデジタルアーカイブはどのように評価されるのでしょうか。本コラムでは昨今の国内外の動きもふまえ、この点を博物館評価の観点から考察していこうと思います。

博物館評価とは

 博物館評価とは、その名の通りある博物館を評価することを指していますが、博物館法第9条(*1)では博物館設置者もしくは博物館自身による評価が定められています。
 博物館評価を行うことで、組織的・継続的に改善する体制づくりや、課題や成果の共有など、多くの意義があるとともに、評価結果に応じた改善措置や活動の促進といった効果も期待できます。

博物館法改正とデジタルアーカイブ

 令和4年の第208回国会において成立した博物館法の一部を改正する法律(*2)は、2023年4月1日より施行が予定されており、博物館にとって大きな変化となります。
 この改正は、制定から約70年が経過し、設置形態の多様化、博物館に求められる役割・機能の多様化・高度化といった課題を持つ博物館法について、文化芸術基本法制定(2017年)や博物館行政の文化庁への移管(2018年)を契機に行われました。またICOM京都大会(2019年)で決議として採択された内容(博物館を「文化をつなぐミュージアム」として、文化観光、まちづくり、社会包摂など社会的・地域的課題と向き合うための場として位置づけ)も背景として挙げられています(*3)
 改正内容としては、博物館登録制度の見直し、地域の活力向上への活動の努力義務化等、多くの論点が挙げられますが、登録博物館の事業に博物館資料のデジタルアーカイブ化が新たに追加されたことは大きな変化と言えるでしょう。昨今の社会情勢における急速なデジタル化の進展に伴いデジタルアーカイブの重要性は高まっており、博物館評価においてもこの側面は重視されていくと予測されます。

日本国内におけるデジタルアーカイブの評価方法

 それでは、博物館評価の方法にはどのようなものがあるのか、まず日本国内における状況を概観してみたいと思います。なお本節は文化庁の公開情報 (*4)を参考に記述しており、Webサイトに詳細なガイドラインが公開されていますので、そちらも合わせて参照ください。
 博物館評価は大きく分類すると、「自己点検」とそれにもとづく「評価・改善」というプロセスが必要となります。この評価指標には「アウトプット」と「アウトカム」の二つの考え方が挙げられています。「アウトプット」とは、予算・人員等の資源の投入に対して、生み出したサービスの量を表し、「アウトカム」とは、事業を行ったことによる成果、つまり利用者や社会に及ぼす影響を表しています。前者のみではなく、後者も含めたより大きな観点から指標を設定することが重要とされており、デジタルアーカイブにおいてもこの指標は重要であると言えます。
 また、内閣府が公開している「デジタルアーカイブ推進に当たってのガイドライン等」(*5)では、日本がめざすべきデジタルアーカイブの方向性や、アーカイブ機関が整備を進めるに当たって行うべき事項、またその共有や活用に当たり求められる事項が示されています。このガイドラインも参考に、評価指標等を設定していくことも有効と考えられます。

社会的インパクト評価

 評価プロセスにおける指標の設定については、財務的な価値に必ずしも収斂しない社会的価値を評価する手法である「社会的インパクト評価」の手法が注目されています。事業の実施による中長期での社会的な変化を事業成果としてとらえ、社会的価値創出のプロセスを明らかにするもので、非営利事業における評価手法として普及しつつあり国内でも内閣府で社会的インパクト評価検討ワーキング・グループが発足しています。
 「社会的インパクト評価」とは、『担い手の活動が生み出す「社会的価値」を「可視化」し、これを「検証」し、資金等の提供者への説明責任(アカウンタビリティ)につなげていくとともに、評価の実施により組織内部で戦略と結果が共有され、事業・組織に対する理解が深まるなど組織の運営力強化に資するもの』(*6)であり、これはデジタルアーカイブの評価にも応用できると言えるでしょう。

海外におけるデジタルアーカイブの評価方法

 デジタルアーカイブの「社会的インパクト評価」を用いた評価手法の事例として、特筆すべきものは、多数の機関が国家横断的に参加するEUの文化遺産プラットフォームEuropeanaによる取り組みです(*7)。その手引書であるEuropeana Impact Playbookでは、実務レベルにおけるデジタル化の具体的な評価実施手順が詳細に解説されています。この手順は「デザイン」「査定」「物語」「価値評価」の4段階に大別され、各段階で必要なツール類も含めWebページでも公開されています(*8)。
 このプレイブックは、デジタルアーカイブの評価結果を他者と共有できる共通言語となり得るものであり、評価方法の洗練化や評価結果の比較に結び付くと言えます。すべてを読み込み実施するには少し労力がかかりますが、前述の「アウトカム」策定の参考として一度覗いてみてはいかがでしょうか。

デジタルアーカイブの「活用」と博物館評価

 ここまで見てきたように、デジタルアーカイブを評価する動きは国内外で広がりつつありますが、「活用」の観点も加味すると、デジタルアーカイブの実施は他の評価軸とも密接に関わり合っていることがわかります。
 前述の「デジタルアーカイブ推進に当たってのガイドライン等」(*5)にもその意義として、[…様々なデジタル情報資源が、二次利用を促進する形でオープンに提供され、広く流通することが望まれる。様々な立場の人が多様な目的で活用できるデジタル情報資源が増えることで、新たなイノベーションが生み出され、社会が活性化する。多種多様なデジタル情報資源を抱える「デジタルアーカイブ」においても、このような成果につながる形での活用が求められている。]という記述があります。昨今の激しい社会環境の変化、オンライン化の中においては、このような新たな取組みにはそのインフラとなる収蔵品のデジタル化と公開がまず必要であると考えられます。
 2020年、新型コロナウィルス感染拡大の影響で休館を余儀なくされた多くのミュージアムは、北海道博物館が始めたオンラインを活用した教育普及の取組「おうちミュージアム」に参加しました。3月4日公開の第1弾は「松浦武四郎の描いた絵にぬりえしよう!」というデジタルアーカイブを用いたコンテンツでした(*9)
また同時期には、ゲームソフト内の空間に対して、国内外の多くのミュージアムが美術作品のデジタルアーカイブを提供し、大きな話題となりました(*10)
 文化財の観光活用においては、VR等を活用した体験型の取組が求められており、文化庁ではその制作・運用に関するガイドライン(*11)も公開されています。その基盤には対象物や空間の3DCGデジタルアーカイブが必要となります。
 このようにデジタルアーカイブは、情報発信を始め教育普及、異業種の連携促進、観光活用等の活動の基礎となるものであり、本稿で述べた博物館評価においても非常に重要な事項であると言えるでしょう。
さまざまな課題を抱える博物館において、こうしたデジタル化の取組は決して容易なものではありませんが、前述の博物館法改正もふまえると必要性は年々増しています。

 DNPは収蔵品のデジタル化から公開・活用まで全面的にサポートしております。本稿でご紹介した博物館評価の一連のプロセスに関してもお力になれる部分があると存じますので、是非お気軽にご相談ください。

DNPのデジタルアーカイブソリューション

 DNPでは、膨大な資料のデジタル化やデジタルアーカイブシステム構築に関する多数の実績を有するのはもちろんのこと、貴重な文化財の超高精細撮影や、高精細データを活用した複製の制作、3DCG、VR、ARといった最先端技術によるコンテンツ制作や、独自の鑑賞システム開発に強みがあります。さらに、デジタルデータの利活用については、イベントやワークショップの企画開催、商品開発など幅広いご提案が可能です。デジタルアーカイブの設計から、資料や文化財のデジタル化、システム構築、利活用に至るまで総合的なサポートを行っています。

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DNPグループでは印刷事業で培われた高精細デジタル処理の技術とノウハウを生かし、新たな情報基盤であるデジタルアーカイブ構築、そしてその先にある公開・展示を含めた各種ソリューションを取りそろえており、総合的なサービスを提供しています。

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