CXを向上させるためのPDCA実践編

CX(顧客体験価値)という言葉が定着し、CX企画室など特化した部署を設置して全社的にCXに取り組む企業が増え始めています。とは言え、いまだに多くの企業は局所的にCXに取組み、試行錯誤をしているという状況でしょう。
本稿では、CXへの取組み方、PDCAを回しCXを改善していくための取組みステップ、さらには、部門別のCX活用方法などを解説します。

目次

1.CXM(カスタマーエクスペリエンスマネジメント)とは
 1-1.CXMが注目される背景
 1-2.CXMの目的
2.CXMを実践するためのステップ
 2-1.CXをデザイン・設計する
 2-2.CX測定指標を決定する
 2-3.CXMスコアリングを設計する
 2-4.CXスコアを計測する
 2-5.CX改善策を策定し、改善を実施する
3.部門別CX活用方法
 3-1.CX企画部門、経営企画部門など
 3-2.DX関連部門、マーケティング部門、販売促進部門
 3-3.CS部門、お客さま相談室など
 3-4.オペレーション管理部門
4.まとめ

1.CXM(カスタマーエクスペリエンスマネジメント)とは

顧客体験管理(CXM)とは、顧客と企業との全てのタッチポイントにおける顧客体験価値(CX)を管理することにより、顧客ロイヤルティを高め長期的に顧客との良好な関係性を維持する管理手法です。

1-1.CXMが注目される背景

商品やサービスのコモディティ化や生活者の価値観の多様化、IT進展等による社会背景の変化から注目されるようになったCXの概念ですが、概念にとどまらず実際にCXをコントロールする手法としてとしてのCXMが注目されています。
CX先進国のアメリカではCXを管理するツールの導入が進み、日本国内においても採用企業が増えてきています。

1-2.CXMの目的

CXの考え方が定着し、CJM(カスタマージャーニーマップ)を作成し、マーケティング戦略や戦術に活かすという動きは当たり前になってきました。ただし、本質的にはCJMは目的ではなく手段であり、目的は「いかにCXを向上させるか」に尽きます。そのためには、CXMでCXをしっかりと管理して、向上させるためのPDCAを実践する必要があります。

2.CXMを実践するためのステップ

2-1.CXをデザイン・設計する

CXMを実践するためには、まず顧客を理解することから始めます。顧客像を想定したペルソナや顧客行動を描いたカスタマージャーニーマップ(以下CJM)が代表的な例です。CJMは顧客を理解するツールとして一般的になってきましたが、本来顧客視点で描かれるジャーニーが企業視点で作成されことも多くまだまだ改善の余地があると言えるでしょう。顧客視点を取り入れるための手法としては、「顧客の立場にある人を交えて作成する」「事前アンケートやインタビュー等により顧客視点での行動を把握する」等いくつかの方法があります。また、作成したCJMは少なくともプロジェクト参加メンバー全員が共感できるものである必要があります。そういった意味ではプロジェクトの一部の特定メンバーだけでなく、ワークショップ等、全員参加型のタスクの方がより効果的なCJMを作成できます。描かれたCJMは共有され、販促施策への活用、オペレーション改善やシステム導入・改修等に活かされますが、CXMではCJMで洗い出された顧客タッチポイントにおける体験を計測し、提供するサービスや商品全体のCXに対して、どのような体験がどの程度影響を与えているかを把握します。

2-2.CX測定指標を決定する

CXを計測するためにはCXを測る指標が必要となります。CXを測る時によく使われるのは以下の指標になります。

 ・CSAT(顧客満足度)
 ・NPS(R)(推奨度)
 ・CES(顧客努力度)

これら(その他も含め)の指標はそれぞれ一長一短があると言われており、「指標Aを使ったけどうまくいかなかったので変えた」といった特定の指標に対する失敗体験等について耳に挟むこともあります。しかしながら、その失敗談のほとんどは使った指標の選択を誤ったのではなく、「CXMの設計ができていない」点に尽きると言っても過言ではないでしょう

(注)NPS(R)はBain&Company, Fred Reichheld, Satmetrix Systemsの登録商標です。

2-3.CXMスコアリングを設計する

前述の中「指標Aを使ったけどうまくいかなかったので変えた」といった類いの体験談で多く見受けられるのは単に指標となるスコアだけを取得しているといった例です。総合的な指標のスコアだけを取得し、スコアを上げるための継続的な取組みが体制を含めてできてなかったり、そもそもスコアをブレークダウンしてそこに影響を与えている体験が構造的に把握できる仕様になっていなかったりするため、どこを改善するとどの程度スコアが向上するのかを把握できずにやみくもに施策を走らせるといった例も見受けられます。

CXMにおける指標の構造例

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2-4.CXスコアを計測する

CXMのスコアリング設計が終わったらいよいよスコアを計測します。スコアリングのための前述の指標CSAT(顧客満足度)/NPS(推奨度)/CES(顧客努力度)ではいずれも顧客アンケートによりスコアを取得していきます。よくある顧客アンケート調査との違いですが、CXは体験を重ねるごとに変化する可能性があります。従って、従来型の顧客調査のように年一回調査をかけるという調査スタイルではなく、重要なタッチポイントで顧客が体験を重ねる度に、CXを計測しそれをリアルタイムでモニタリングし改善PDCAを回すというのがあるべき姿となります。

2-5.CX改善策を策定し、改善を実施する

CXスコアを計測し、スコアを向上させるために何を改善すべきか?を把握したら改善策を検討し、実行します。ただし、改善を実行したとしてもすぐにスコアに効果が表れるとは限りません。課題にはさまざまな要素が絡み合っているケースもあり、単純に実行できるものから、システム的な改善、あるいは組織的な改善が必要となる場合もあります。従って課題について「すぐに実行できる施策」「中期的に改善を検討していく施策」等仕分けをし、段階的に実行していくことも時に必要となります。また、マーケティング的な課題が抽出された場合等は、計画・実行した施策がキチンと顧客体験を改善させているかを計測し、効果が芳しくない場合は代替策を講じる必要があります。課題抽出→改善検討、実行→効果計測→代替案検討、実施をPDCAサイクルで回し、CXを向上させます。

PDCAサイクルのイメージ図

3.部門別CX活用方法

本来CXMは全社横断で実施していくと最も効果が高いと言われています。欧米ではChief Experience Officer(最高体験責任者)が先頭に立ち、トップダウンで実行されるケースもありますが、組織が縦割り・サイロ化している日本の企業では全社横断でCXに取り組むケースはまだまだ少ないと言えるでしょう。ここではいくつかの部門単位でのCX活用方法について紹介します。

3-1.CX企画部門、経営企画部門など

新設が増えているCX専門部門や経営企画室等では自社のありとあらゆる顧客接点の担当部門を参加させ、組織横断プロジェクトとして全社的な課題抽出→改善を実施していきます。課題を抽出して各部門に突きつけるだけでは、改善実行力がともなわないため、経営層も巻き込んだトップダウンプロジェクトで実施していくことが肝要となります。

3-2.DX関連部門、マーケティング部門、販売促進部門

販促施策のメディアやコンテンツ等に対する評価は、例えばWebサイトのランディングページ(以下LP)などではLPへのCVR(コンバージョンレート)等が用いられますが、LPのコンテンツを見て何を感じたか?というような感情評価はCXスコアを用いて実施します。
また、施策だけでなく、Webサイトのリニューアル等システム導入、改修などにおいてはリニューアル前に計測したCX課題からシステム要件を抽出、導入後測定によりCXが向上しているか検証するといったPDCAを回すことにより、CXを継続的に高める取組みが可能になります。このようなDXの導入時の要求仕様や、導入後の効果測定にCXMを利用するといった動向も見受けられるようになってきました。

3-3.CS部門、お客さま相談室など

従来からCS調査等を実施しているこの部門は、CXMに親和性があり、取組みが活発化している部門と言えます。旧来の年一回、膨大な設問量のCS調査とCXMにおける調査の違いをよく把握した上で、改善PDCAを回すことを前提に調査手法を設計していく必要があります。また、コールセンター等で得られる定性的な顧客の声やミステリーショッパー等の調査との違いをよく理解した上で体系的に使い分けることで効果が倍増すると言われています。

3-4.オペレーション管理部門

店舗のオペレーションや接客管理をCXで管理するという点においては最も効果的な手法がとられているのがこの部門です。全社的な課題、エリア特有の課題、店舗独自の課題、スタッフ個々の課題を見える化することにより、スタッフ個々に対してCXMの意識を浸透させ自ら改善PDCAを回すことができるようになる取組みが日本でも始まりつつあります。

4.まとめ

このコラムでは、CXを活用するためのステップと部門別のCX活用方法に関して解説しました。CXMの目的は単なるアンケートやカスタマージャーニーを描くということではなく、顧客体験価値を継続的に高めるための改善PDCAの実行にあります。
CXをうまく活用するためにも、目的を明確にした上で自社のCXMが正しく設計できているかを確認することが重要です。

※2022年10月時点の情報です。

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