2020/2/19

赤堀侃司先生 特別寄稿「GIGAスクール構想がめざすもの
子供たち1人1人に個別に最適化され、創造性を育める教育ICT環境を」

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2019年12月に発表された「GIGAスクール構想」について、どのように対応していったらよいのか、お悩みの教育委員会の担当者の方も多いかと思います。
そこで、本構想が目指すところや、自治体や学校現場に期待することについて、東京工業大学名誉教授 赤堀侃司先生に寄稿いただきました。

この記事のポイント

  • 子供が主役になれる学びの環境をつくることが大事
  • 教育におけるカルテ(個に応じたデータ)を見て指導するべき
  • どうICT環境を生かすかという視点で、知恵を集め、試行錯誤することが求められる

今なぜ、個別最適化か?

出典:文部科学省「GIGAスクール構想の実現パッケージ」

図をご覧いただきたい。タイトルに、個別最適化、創造性のキーワードが書かれている。この意味は重い。個別最適化は、新しい概念ではなく、これまで何度も言われてきたことである。学校の現場に行くと、1人1人に合った授業、個を大切にする授業、子供たちへの声掛け、机間巡視など、教師が子供1人1人に寄り添った指導をしている。日本の教師は、明治5年の学制発布以来、このような献身的な指導を行ってきたと言っても過言ではない。

しかし何故今、個別最適化なのだろうか。学校に行くと、教師が腰を屈めて子供の机の側で指導している。それは、きちんと基礎基本を学ばせたいと思うからだろう。しかし、子供を自由に表現させる指導もある。それは、学級崩壊につながる、何もできない子供になる、統制がとれないと心配する声が多い。現実は、どうだろうか。

学びの環境をつくるのが我々の役割

プログラミング授業の現場は、雰囲気が違っている。土曜日に学校で子供たちが、3時間も休みなしでプログラミングに熱中している光景を見たことがある。それは珍しいことではない。そしてその姿は、パソコンの前で頭を抱えているが、決して苦しんではいない。

子供たちは言う。ものすごく難しいけれど、面白い。やさしいから面白いのではなく、先生にほめられたから楽しいのでもなく、難しいことが面白いという声は、学びの本質を捉えた言葉であり、それは子供の発見と呼んでも良い。つまりやさしく教えてもらう喜びから、自ら発見する喜びへと変化したと言っても良いだろう。子供にとって小さな気づきは、発見と呼んでも良い。それは誰でも経験しているだろう。その気づきが創造性に結びつくことは言うまでもない。教師が、子供に寄り添い噛んで含めるように話しかける姿も尊いが、子供の気づきを見守って、アドバイスをする教師の姿も、優れている。ただし、この指導法には、いくつかの条件が伴う。

子供を自由放任にしただけでは何も学ばないことは、多くの経験で知っている。道具が必要である。道具というより環境と言ってもよい。ある子供は、小さい頃、父親から電気を測定するテスターを買ってもらい、身の回りにある何でも電気抵抗値を測定して、現在は物理学者として活躍している。コンピュータがあったら、どうだろう。分からないことは、何でも調べることができる。子供が主役になれる道具を与えるのである。

もう一つの条件は、教師の在り方である。医者は、患者に処方箋を出すときにカルテを見る。カルテを見て、診断する。つまり、個に応じたデータである。医者にカルテを見る能力が無ければ、医者と呼べない。教育におけるカルテを見て指導しようというねらいが、個別最適化を目指すICT環境の整備と言ってもよいだろう。

知恵を集めて、新たなチャレンジを

しかし、そのように簡単にはいかないだろう、という声も聞こえる。ICT環境をどのように整備するのか、子供1人1人にパソコンを渡しても、ただの箱になったらどうするのか、パソコンやネットワークの維持費をどうしたらいいだろうか、子供1人に1台の授業をやったことがない不安をどう解消したらいいのだろうか、など多くの課題があるだろう。だから、これから考え、試行し、良い実践ができれば共有し、どうICT環境を生かすかという視点が、今求められている。専門家の意見を聞くのも良い、現場の声を反映することも良い、行政と共に企画するのも良い、教育委員会同士で情報交換することも、効果的だろう。GIGAスクール構想を生かすとは、自分たちの地域や学校では、どのような条件ならばうまくいくだろうかと、試行錯誤することである。条件に合った最善策を探すことに他ならない。新しいチャレンジとも言えよう。

赤堀侃司(あかほりかんじ)東京工業大学大学院修了後、静岡県高等学校教諭、東京学芸大学講師・助教授、東京工業大学助教授・教授、白鷗大学教授・教育学部長を経て、現在、(一社)日本教育情報化振興会会長、(一社)ICT CONNECT 21会長、東京工業大学名誉教授、工学博士など。専門は、教育工学。主な著書は、「タブレットは紙に勝てるのか」(ジャムハウス、2014)、「プログラミング教育の考え方とすぐに使える教材集」(ジャムハウス、2018)、「AI時代を生きる子どもたちの資質・能力」(ジャムハウス、2019)など。

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