2020/3/11

“よりよい教育の方法”、“教育の本当の効果”を測るために

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文部科学省が提言した個別最適化学習の実現(新時代の学びを支える先端技術活用推進方策)を遡る2017年より個別最適化学習(学びなら事業)に取り組む奈良市。
「学びなら」事業を通じた教育効果について、奈良市と共同研究を行ってきた大阪大学 大竹教授に、その研究の意義と結果の概要についてお聞きしました。

教育の効果を測定できるデータがない

人工知能(AI)やビックデータの活用などの技術革新が進む今後の社会を見据え、2018年6月15日に閣議決定された「第3期教育振興基本計画」では、客観的な根拠を重視した教育政策(EBPM=エビデンスに基づいた政策立案)を推進することが示されました。
すなわち、これからの教育にはどのような取組みが効果的なのかを客観的な数値として示していくことが必要になっています。

しかし、現在の教育現場ではデータ自体を蓄積する動きは進められているものの、教育の効果を計測できるような整理がされていないケースが大半です。
また、実際に教育の効果を計測するには、短期的だけでなく長期的な効果を測ることが重要になりますが、日本ではそのような必要データを研究者がそろえることも難しいのが実態です。

大阪大学の大竹教授によれば、こうした背景には教育の効果を測る難しさがあるといいます。
「たとえば、A学校の子どもたちの成績がよく、B学校ではそうではないときに、何が原因であるか、なかなか分かりづらい。それを判別するには最初の学力はどうだったのかまで遡らないと、学校によってどれだけ力を伸ばせたのか、ということが識別できないからです」

2,700人の3年間のテストデータを蓄積

こうしたなか、奈良県奈良市では2017年より市内全43小学校で、算数の単元テストの分析結果から個別の復習教材を提供する「学びなら」事業への取組みを始め、学習意欲の向上と学力の定着を図ってきました。

この取組みでは、奈良市全体・約2,700人(1学年あたり)のスタディ・ログを蓄積することにより、一学期ごとに算数の学力がどのように変化したのかを、個々の児童で3年間(4〜6年生)にわたって追跡することができます。

「したがって、これまでの教育に関わる分析の大きな課題になっていた“しっかりしたデータ”が存在することから、教育の効果を測ることができるのではないかと考えました」と大竹教授。児童の学びの変化を計測的に見られることの意義を強調しました。

活用の仕方によって“学力の伸びが違う”

その中で、今回「学びなら」のデータを分析するにあたっては、実際に各小学校のクラスの中でどのように使っているのか。また、それによる学習効果がどのくらい違うのかを明らかにすることを一番の目的にしたといいます。なかでも注目したのは、先生がどのような形で復習教材(以下、レコメンドシート)を使っているかで、その違いによる”学力の伸び”を追っていくことでした。

今回の分析で分かったのは、まさにそうした先生の活用の仕方によって、“子どもたちの学力の伸びが違う”ことだったと話します。
「レコメンドシートを家庭学習(宿題)のみで使っている先生の子どもたちよりも、授業で使用している先生の子どもたちや、朝学習・家庭学習を組み合わせて使っている子どもたちの方が、4年生から5~6年生になったときに学力の伸びが大きく、全般的に上がっているということが分かりました。その中でも、4年生時の学力(複数のテスト結果から分析)が芳しくなかった子どもたちの学力が顕著に伸びている結果がみられました。」

また、いちばん難しいといわれる総合的な思考力を問われる問題についても、そうした指導法を取り入れた方が学力は上がっていると指摘します。
「レコメンドシートを授業で使用する、もしくは朝学習や家庭学習と組み合わせると“学力の伸び”が観察される。それが私たちの研究結果の概要になります」

さらなる詳細なデータ分析に意欲

このように、「学びなら」を通じてデータを蓄積することで、“よりよい教育の方法”、“教育の本当の効果”を測ることができるのは、大きなメリットになるとした上で、今後の抱負としては、“やり抜く力”を伸ばしているかどうかについても分析を進めたいと語ります。

なぜなら、「学びなら」では、個々の児童の学力に応じた問題を提供しているため、よくできる子はもっと難しい問題ができるようになり、特定のところでつまずいている子は、それを克服できる仕組みになっているからです。

「だからこそ、頑張れば自分の学力が上がっていくことが実感できるわけですが、実際にその効果があるのかどうかについて分析を深めていきたいと考えています」と、さらなる詳細なデータ分析についても意欲を示していました。


「学びなら」のデータはさらに分析をすすめ、詳細な研究成果を取りまとめる予定とのことです。また、奈良市もこの結果を受け、さらに取組みをすすめる考えです。

※本分析は、個人情報を除いたうえで行っています。

※研究結果について、奈良市教育セミナー「奈良市の未来型教育2020」(主催:奈良市教育委員会)で公開される予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大の防止のため、中止となりました。

専門分野:労働経済学、行動経済学「国立教育政策研究所評議会評議員」「文部科学省中央教育審議会臨時委員」「尼崎市『学びと育ちの研究所』所長」等、各方面でご活躍されています。

奈良市の取組み、またリアテンダントについては下記問合わせフォームより、ぜひお問合わせください。

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