サステナブルな暮らしとデザイン
Vol.3 広大な自然と新しいデザインが融合した国 ノルウェー

DNP生活空間事業では2017年から北欧のライフスタイルやデザイントレンド情報を発信し、幸福度の高い北欧の暮らしから学んだことを、当社の提案にも活かしています。これまでデンマーク、フィンランドに関する記事を掲載して参りましたが、サステナブルな暮らしとデザイン第3弾はノルウェーをご紹介します。

ノルウェーの風景



ノルウェー地図


ノルウェーは28.6万㎡の国土を有し、ほぼ日本と同じ面積です。1814年にスウェーデンから独立し、日本とは1905年に国交を樹立しています。デンマーク、スウェーデン、ノルウェーが三兄弟と言われるなかで、ノルウェーは末っ子です。ヨーロッパの中でも資源が乏しい貧しい国と言われていましたが、1900年代後半から石油事業により世界でも屈指の豊かな国へと生まれ変わりました。



首都オスロの再開発風景

首都オスロでは再開発が進んでおり、至る所で大きなクレーンを見かけました。



キャラクター2

新しい建築物は個性的なフォルムのデザインや、窓の配置がランダムであったり、ユニークなものが多かったです。





01. 環境に優しい国際空港

首都オスロから約48キロ北に位置する国際空港です。1998年に現在の形になったこの空港は、世界で最も環境に配慮した空港とも呼ばれ、長さ136mの屋根を含め、北欧の森林から採取した木材を多用した設計になっています。コンクリートもリサイクルスチールや環境に優しい素材を混合したものが使われています。その結果、建物のCO2排出量を35%削減に成功しています。

空港ロビー



観葉植物やグリーンウォールが至る所で見られました。左側の写真は到着ロビーです。グリーンウォールに「Come follow our path」と書かれ、ディスプレイにはノルウェーの自然に関する映像が流れていました。右側の写真は出発ロビーの写真です。本物の植物が使われていました。

空港内1



空港内にはさまざまなレストラン、ショップが入っています。個性的なマテリアル・カラー使いをしたインテリアデザインが多く、思わず写真を撮りたくなる空間が沢山ありました。

空港内2


キャラクター1

環境に配慮しながら、デザイン性豊かな国際空港でした。

02. 湾岸に佇む建築美



オペラハウス

オスロの海に佇む美しい建築、オペラハウスは2008年に完成した歌劇場です。ノルウェーのスノヘッタが設計デザインを手がけました。海に浮かぶ氷山をイメージしています。石、金属、木という3つのマテリアルをキーワードに構成され、湾岸の景色と調和したデザインが表現されています。



オペラハウス外観

建物の外観は地面から屋根まで傾斜のスロープで繋がり、屋上からはオスロのフィヨルドや市内を一望できます。外装はホワイトの大理石、ホワイトに塗装されたアルミ、ガラスで構成され、まさしく氷山の上を歩いているような感覚でした。マテリアルの一つひとつがアーティストとのコラボレーションで作られ、細部までこだわりを感じます。

キャラクター2

美しい建築物とともに広大なオスロの景色を楽しめます。絶対に訪れて頂きたいスポットです!



オペラハウス内観1

館内の壁面は、ダイヤ型の幾何学パターンに切り抜かれた白い壁に、グリーンの照明が柔らかに透過しています。氷に光が当たった時の、透明感や反射を表現しているように感じました。


オペラハウス内観2

オペラハウスはガラス張りの構造空間の中に、木造のホール空間があり、外から見ると二重構造の建築物のように見えます。
建物の中に入ると、ホールの下から上まで包み込むように木質の螺旋階段が続いています。波の壁をイメージしたデザインはオーク材で構成されていました。無機質でクールな印象の外観とは対照的に、木質のあたたかさを感じるデザインです。




SALT1

SALT
オペラハウスの対岸、Langkaiaに建てられたこの木造建築は、アート、音楽、フード、建築を一緒に楽しめるプロジェクトです。Sami Rintalaがデザインした三角形の建築物が3つあり、北ノルウェーの伝統的なフィッシュラックからイメージしています。

キャラクター1

フィッシュラックは魚を保存したり乾燥するために使われていた建物だそう。柔軟な構造のため、移動したり、適した形に調整できる特徴があるようです。


SALT2

敷地内には、カフェやサウナがありました。そのほかコンサートやイベントも開催されるようで、連日多くの人々で賑わっています。海沿いにはテーブルとベンチが並べられていて、海風を感じながら食べ物や飲み物を手に、会話を楽しんでいる地元の人々が沢山見られました。



03. 地元の人に愛される人気カフェ


カフェ内観1

老舗のカフェFuglenは1963年、オスロで創業しました。日中はカフェ、夜はアルコールを提供するバーとして地元の人たちにも観光客にも愛されています。コンセプトは、コーヒー、カクテル、ヴィンテージデザイン。2012年には東京にも店舗が進出しています。



インテリアはミッドセンチュリーテイストで、家具は1950~60年代のヴィンテージ物が多く使われています。これらの椅子やテーブル、照明、食器など全て売り物だそう。店舗の隣には北欧のヴィンテージ雑貨を取り扱うショップも併設されています。

カフェ内観2

キャラクター2

レトロな家具や照明がとてもかわいかったです。日本のレトロブームとも親和性が高そうなデザインでした。



04. 新しいノルウェーデザインに触れる



Norwegian Design and Architecture Centre

Akerselva 川沿いにあるNorwegian Design and Architecture Centreは財団法人DOGAが運営するデザイン・建築に関する施設です。DOGAはデザインや建築を通して持続的な価値の提供を行う団体で、2005年に設立されました。国内のデザインを活性化させるため、デザイナーや企業を結び付け、その成果を発表する場を提供しながら、さまざまな人々が交流できる場となっています。



施設内部

私が訪れた際には「Reprogramming the City」という展示が行われていました。人口や市民のニーズが増えるにつれ、これらのニーズを満たす財源、スペース、天然資源が減少する世の中で、都市をどのように再プログラミングするかというテーマのもと、さまざまな提案が行われていました。



施設内部(トイレ)

施設内はトイレも個性的なデザイン。中でもエキシビションのために造られた、壁面を人工芝で覆った空間が話題を呼んでいます。



キャラクター1

ノルウェーのデザインの考え方や、自然との共生など新しいアイデアを学ぶことができました。



05. オスロのリビングインテリア



アパルトマン外観

オスロではアパルトマンに宿泊しました。建物の一部が宿泊用の部屋になっているようで、利用者のほとんどがこの建物の住人でした。私が宿泊したのは最上階である7階に位置するペントハウス。窓ガラス越しにはオスロの美しい景色を臨むことができました。カーテンがついていたないため、朝日や西日が入るととてもまぶしかったです。


建物内観1

ペントハウスには、メインのリビングダイニングルーム、2つのベッドルーム、バスルームで構成されています。フル装備のキッチンも備えられていて、長期滞在も可能です。白木の床、ホワイトの壁面空間の中に、ブラックをアクセントとして取り入れ、グリーンや真鍮で華やかさを加えたデンマークスタイルのインテリアでした。

建物内観2


キャラクター1

シングルベッドのサイズがとても小さく、体格の大きい北欧の人々から想像すると不思議な感じがしました。



06.ノルウェーのエルダリーライフ


高福祉が成り立っているノルウェー。実際に高齢者施設に訪問し、ノルウェーのエルダリーライフを視察しました。アートに溢れ、自然に触れながら個々のライフスタイルを満喫できるサービスと空間が整っていました。

Ullerud Helsebygg
オスロの南30kmの所に位置するDrøbakにある木造4階建ての高齢者施設です。建物は集成材で構成され、環境に優しい素材と現代技術が融合し2017年に竣工しました。ノルウェーのエネルギーラベリングシステムにおけるトップグレードであるAを取得し、建物のエネルギー需要の65%は再生可能エネルギーやヒートポンプ機能で供給しています。

高齢者施設 外観1




建物外観にはチョウやトンボを想起させるウォールアートや、動物の形をしたオブジェなどがあり、美術館のような佇まいでした。敷地内の庭はガーデンスペースとベンチでくつろげるスペースが一体となり、公園のような設えになっています。花壇の縁がベンチになっていたり、ストーンアートがあったり、自然とアートが融合したスペースになっていました。

施設外観2

キャラクター1

とても素敵なお庭でした。木々や植物が育つともっと魅力的な空間になりそうです!




施設内観1

エントランスラウンジと食堂はシームレスに繋がり、食堂は入居者だけでなく、誰もが利用できるレストランカフェになっています。沢山の人で賑わっていました。



施設内観2

壁面は各フロアごとに色を変え、自分の位置する場所が認識されやすいようになっています。なるべく自宅と同じようなくつろぎが感じられるよう、インテリアのカラーや質感も配慮しつつ、家具は体重をかけてもケガをしないよう頑丈な素材が選定されています。



ノルウェーでは、施設内に建築予算の3%をアートに使わなければいけないルールがあります。Ullerud Helsebyggの廊下にはアートコンペティションで選ばれた5人のアーティストの作品が飾られていました。絵画に描かれた小道が額縁を飛び越えて、壁面にも描かれ、また隣の絵に繋がるといった壁一面を使った作品もありました。どの作品も壁面のカラーとアート作品が美しく調和し、建築全体の計画としてアートが取り入れられていることを体感できました。

施設内観3


キャラクター2

壁面のカラーとアート作品が融合し、まるで美術館を訪問しているような感覚でした。



廊下の壁面には一部、マグネット式のフェルト製の掲示板が設置されていました。高齢者が転んでも怪我をしない配慮でしょう。

施設内観4



スタッフのオフィススペースも壁面にもマグネットシステムが採用されていました。デスクは昇降式。イスもさまざまなタイプのものがそろっていました。スタッフの働きやすさもきちんと考慮されていることを感じました。

施設内観5


キャラクター1

居住者だけでなく、働く人の快適性も考慮されたデザインはさすがです!



居室
居室からは美しいゴルフ場を眺めることができ、まるでリゾートホテルにいるような開放感のある展望でした。室内は木材とブルーを基調とした、温かみのある空間です。部屋の家具は、入居者が自分のものを持ち込みます。

居室1



居室の入り口にはモニターがあり、入居者の管理や照明を管理・調節できるシステムがありました。朝、夕方、夜など時間に応じた照明環境をワンタッチで調整することもでき、サーカディアンリズムを整えます。
室内に設置された排気口もデザイン性がありました。オリジナルデザインだそうです。

居室2

キャラクター1

年間を通して日照時間が短い北欧ならではの取り組みですね。




居室3

バスルームはベージュの落ち着いたトーンで構成されています。洗面台とトイレは昇降式で、車椅子対応できるようになっています。洗面ボールに手すり兼タオルかけとなるバーが取り付けられたこのデザインは、機能性とデザイン性が融合されています。



入居者が使用できるさまざまなサービスが用意されていますが、その中でも入居者が入浴や爪のお手入れを楽しむスパルームが印象的でした。照明の色を自由に変えられるシステムを導入し、気分にあわせて室内のムードがかえられるようになっていました。

居室4



07. まとめ


自然に囲まれ、その自然とともにデザイン美と機能美が融合した暮らしを実現している北欧諸国。北欧4か国の中では、まだまだ日本人が知らないことも多いのがノルウェーではないでしょうか。デンマークといえば日本でも認知されている老舗の家具デザインやブランドがあります。スウェーデンはIKEAやH&Mなど、数多くのグローバルブランドを展開していることは既知のことでしょう。フィンランドはマリメッコやイッタラなど、日本でも人気のブランドが多々あります。このように比較すると、ノルウェーの文化やデザインはまだ日本で知られていないことが多くあると思います。その中で、ノルウェーの建築事務所スノヘッタは世界的にノルウェーのデザインをアピールするきっかけになっているのではないかと考えています。東京 渋谷にもスノヘッタが設計した高層ビルが2027年に竣工すると発表されています。

ノルウェー街並み

ノルウェーの街を歩いていると古い街並みが残り、ノスタルジックなテイストがまだ多く残されていること感じました。一方で、再開発地域では個性的で大胆なデザインやカラーリングも見られ、自由にデザインをとらえ表現しています。歴史漂う街並みと新しい建築物の対比がノルウェーの面白さではないでしょうか。北欧らしい機能美とデザイン美が保たれたなかで、自由な発想でアートの世界を進化させていくノルウェー、今後も注目していきたいと思います。


2022年8月時点の情報です。



取材、撮影&テキスト

Chihiro Kunito

大学・大学院で心理学・認知科学・色彩心理学などを学ぶ。学生時代は内装の色彩が人間の心理に与える影響や、肌がきれいに見える壁紙の色彩などについて研究。日本色彩学会 2011年学会大会にて発表奨励賞を受賞。2012年DNPグループに入社し、壁紙の企画デザインを担当。2016年より現在の部署にて、ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター




船

オペラハウスがある海沿いは、素敵な景色が広がっていました。広大なフィヨルドに囲まれ、青い海が広がる景色は、とてもダイナミックで自然のパワーを感じました。





Special Thanks

一般社団法人ケアリングデザインのご案内で見学しました。

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