サステナブルな暮らしとデザイン Vol.4 アメリカ 前編

DNP生活空間事業ではこれまで、イタリアや北欧のライフスタイル、デザイントレンドを発信してきました。今回は、経済大国のアメリカから、ニューヨーク、ロサンゼルス、ハワイを視察した内容を、前編・後編に分けてご紹介いたします。 インテリア業界では数年前にブルックリンスタイル、カリフォルニアスタイルといったアメリカの地名を有したインテリアスタイルがトレンドになりました。インテリアトレンドというと欧州のイメージが強いですが、アメリカならではの多文化的で、自由な発想のデザインが魅力です。前編では、DNP生活空間の社員がニューヨークを視察した様子をご紹介します。

ニューヨーク市の中で、マンハッタン島とブルックリン区を視察しました。

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ニューヨークの景色に没入できる新スポット

ニューヨークの美しい街並みを望みながら、最新のアーティスティック体験ができる展望台として話題のスポットSUMMIT One Vanderbilt。高さ427メートルのOne Vanderbiltは、ニューヨークの建築事務所Kohn Pedersen Fox Associatesが設計しています。サステナビリティも考慮され、建築に使用された26000トンのスチールのうち、90%がリサイクルされた素材が使われています。

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One Vanderbilt の91階~93階に位置するSUMMITは、建築事務所Snøhettaが設計しました。この展望台は美しい景色を眺めることに留まらず、エレベーターに乗った瞬間からさまざまな没入体験を提供します。来場者は、Challenge、Inspire、Thrillといった感覚が刺激され、五感を研ぎ澄まし、新たな体験をすることができます。

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入場の際に、QRコード付きのリストバンドをもらいます。館内での写真撮影サービスや、アート作品の中に自分の顔を反映される仕組みと連動しています。



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まず展望フロアに出現するのは、Kenzo Digital がデザインした 2階建ての鏡張りのギャラリー インスタレーション「Air」。SUMMITを囲む景色が鏡に反射し、無限に映し出します。来場者は、ニューヨークの中心にある自然の中に没入し、天気、光、建物、人など、マンハッタンに存在する全てのものとの繋がりを体感することができます。



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上下左右ももはやなく、ただただ自分がマンハッタンの上空にさまよっているような感覚を味わうことができました。

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来場者はフロアを傷つけないように、シューズカバーをつけて体験します。またパンツスタイルやサングラスの着用が推奨されていましたよ。




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そのほか沢山の風船が浮遊するギャラリーや、草間彌生氏の作品「雲」が展示された空間もありました。いずれも異なるアートですが、シルバーを基調に統一されているため、全体が調和した一つの作品であるように感じました。

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景色や自分が反射しさまざまな風景が目に飛び込んできます。光の加減や見る角度によって、アート作品が変化するようでした。




自然とアートに溢れた水上公園

Little Islandはハドソン川沿いに位置する水上公園で、2021年に開業しました。ユニークな外観デザインの公園は、都会のオアシスとしてニューヨークの自然とアートを体感できます。設計はHeatherwick Studioが手掛けています。

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この公園は、合計132個の「チューリップポット」と呼ばれているプランターで構成されています。部材は船で運び、現場で組み立てることで、運搬における二酸化炭素排出量の削減も考慮されました。チューリップポットにはニューヨークの気候に適した100種類以上の木や植物が植えられ、生物多様性を促しています。またこのチューリップポットは水面下で暮らす生物にも配慮されています。ポットの下部は杭のように尖った形状にすることで、太陽の光が海洋生物にしっかり届くよう設計されています。海洋生物の重要な生息地となっていて、魚の繁殖地として保護されています。

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ユニークな外観は人々の快適性と、サステナビリティがしっかり考えられたデザインでした。中に入ると、ほど良い勾配と曲線を描いた道が広がっていました。



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公園内にはアートや音楽に触れるスポット、軽食やドリンクを販売している店舗もあり、ゆったりとくつろげる環境を提供しています。野外ステージではライブパフォーマンスが開催されるようです。

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小さな女の子が広場でピアノを弾いていました。徐々に人々が集まって、皆で音楽を楽しんでいた様子が印象的でした。訪れた誰もが、この自然やアートの一部になることができるのだなと思いました。




空中散歩ができる公園

The High Line(以下、ハイライン)はマンハッタン島の西側を全長2.3kmに渡って空中散歩することができる公園です。2009年に開業して以来、地元民・観光客問わず多くの人が訪れているニューヨークの人気スポットとなっています。

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一体、ハイラインの何がこれほどまでに人を惹きつけるのでしょうか?実際に空中散歩を体験してきました。



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ハイラインは19世紀半ばに建設された輸送用の高架鉄道でしたが、1980年代に廃線となりました。それ以降、周辺地域は荒廃し、ハイラインも撤去される予定でした。しかし、このエリアに思い入れのあった市民たちの活動により、撤去ではなく再利用されることになり、公園という姿に形を変え保存されることになったのです。公園となって生まれ変わったハイラインには多くの魅力があります。美しい植栽、ユニークなアート、そしてハイラインに引き付けられるようにして誕生した周辺のランドマーク。今やこのエリアは再開発が進み、トレンドの最先端となっています。

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行政の決定事項が地元民の活動によって覆されたわけですが、これはエネルギー溢れるニューヨークの街ならではのように感じました。




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細い道に背の高い樹木が植えてあり、樹のトンネルになっています。単調にならないように緩急のある植栽もハイラインの特徴だと思いました。

廃線となり放置されていたハイラインには、グラス類、野草、低木類といった野生の植物がたくましく生え、次第にハイラインを占拠する存在になっていました。現在のハイラインの庭には、これらのハイラインの「元住人」が多く取り入れられています。ハイラインに自生していた野生植物に、華やかな交配種の植物を組み合わせて作られたワイルドガーデンは、オランダの造園家Piet Oudolf氏によって創られました。彼の創造した庭は、綺麗に整えられた庭というより、多様性にあふれたカオスな庭。しかし自然と調和がとれている。そのような植栽は、まさにニューヨークの街そのものを表しているようです。



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道を歩いていて気になったのが、スリットの入った特徴的なモジュールのタイル。このデザインにより、植栽エリアと歩道エリアの境界線が馴染み、人と自然との距離がより近く感じられるように思いました。



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また、夜のハイラインは昼間とはまったく違う魅力があります。その魅力をつくり出しているのは画期的な照明システムです。従来型の上から照らす照明はまぶしく感じることがありますが、ハイラインの照明はベンチや手すりといった公園設備に内蔵されており、足元や植栽を柔らかく照らしてくれます。

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周囲の人々の存在をあまり感じないようなライティングとなっていて、没入感に浸ることができます。夜のハイラインならではの楽しみ方です。




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ハイラインを北方向に歩いていくと、ひと際個性的な建物を目にすることができます。Zaha Hadid氏がデザインしたプライベートレジデンス「520W28」です。自然からインスピレーションを得たデザインで、金属のファサードは、空に向かって伸びる曲線が複数のシェブロンパターン(山形の線)を構成しています。その複雑さは近くで見るほど深まり、有機的な曲線美を感じることができます。



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さらに北方向に歩いていくと、ハイラインの終点であるHudson Yardsに到着します。マンハッタン最大級の再開発として生まれ変わったこの場所は、複数の高層ビルで構成されています。

そのなかでも新たなランドマークとして注目されているのがThe Vessel。Thomas Heatherwick氏によって設計され、高さ46m、154段の階段で構成されています。カッパーのように見える外装の素材は、カラー・研磨されたスチールが使われています。現在、上層階に上ることはできず、建物の中に入り、1階から見上げることのみ可能です。

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The Vesselの内部入って見上げると、曲線美が上空に繋がり、空に吸い込まれるような感覚でした。

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The Vesselでは、パブリックビューイングスペースがあり、沢山の人がドリンクを片手にくつろいでいました。

The Vesselの隣には大型ショッピングモールのThe Shops & Restaurants at Hudson Yards があります。施設内の天井の一部には、DNPのアートテック®が採用されています。さまざまなショップやレストランが入居していました。(アートテックに関しては こちら をご覧ください。)

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男前インテリアのモデルになったブルックリン

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2017年ごろに日本でも大きなトレンドになった男前インテリアはブルックリンのライフスタイルモデルになったスタイルです。新進気鋭のアーティストや若者が賃料の安いブルックリンに移り住み、工場の跡地などの古い建物を活かしたアトリエやカフェ、ショップをオープンさせたことから、一躍、注目のスポットになりました。

マンハッタンとブルックリンを結ぶブルックリン橋は歩いて渡ることができます。ブルックリン橋は、1883年に完成した世界で最も古いつり橋としても有名です。マンハッタンの高層ビルを背景に、棟の上部からスチールのケーブルが放射線状に広がり、ゴシックデザインらしいシンメトリーの美しさを感じることができます。

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橋の下を流れるイースト川は、フェリーも運行しているので、フェリーで移動するのもオススメです。



ブルックリンのウィリアムズバーグにある人気のカフェ「Devoción」は、新鮮なコーヒー豆を焙煎したコーヒーを味わえるコーヒーショップとして地元の人々にも人気のスポットになっています。コロンビアからコーヒー豆を直接調達し、数日以内にDevociónに到着するので、フレッシュなコーヒーを味わうことができます。

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グレーのレンガで構成されたスタイリッシュな外観から中に入ると、まずは焙煎室があり、コーヒーの良い香り包み込まれます。カフェ中央にはコロンビアの植物がそびえたち、天窓からは太陽の光が惜しみなく降り注いでいました。アンティークなソファとラスティックなレンガ、そしてコロンビアの植物を感じながらコーヒーを楽しめる空間でした。



歴史を伝え、復興を表すデザイン

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The 9/11 Memorialは、9.11アメリカ同時多発テロで亡くなられた方を追悼する記念碑として、国際的なコンペティションを経て、建築されました。

World Trade Centerの跡地に設けられたリフレクティングプール。都会の喧騒の中で水の流れる音が一体を包み、訪れた人々に静けさと黙とうの時間を与えます。記念碑の隣にはミュージアムが併設されています。

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One World Trade CenterはWorld Trade Centerの跡地にたてられ、2014年に開業しました。その足元には、複合型施設「The Oculus」があります。翼を広げたような外観と、白に統一された左右対称の内装が美しい建築です。Santiago Calatrava氏が設計し、手元から鳩が飛び立つ様をイメージしています。

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真っ白なシンメトリーの空間で、空間に引きまれるような、不思議な没入感を感じました。



ニューヨーカーに愛される屋内マーケット

観光地としても人気のChelsea MarketはNATIONAL BISCUIT COMPANY(ナビスコ)の工場・複合施設だった建物を活かした屋内マーケットです。新鮮な魚や肉を購入できるショップや、レストラン、お菓子屋や雑貨店など、さまざまなお店がラインナップされています。

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工場らしいインダストリアルな構造や内装を活かした空間でした。いろいろなレストランやショップがあり、食の宝庫でした。



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Chelsea Marketの隣にはNew York Starbucks Reserve Roasteryがあります。2018年に開業し、多くのニューヨーカーや観光客で賑わうコーヒーショップです。エントランスのドアは、古い木材とカッパーを組み合わせた個性的なデザインで、Starbucks Reserveの世界観に没入させるような重厚感を感じる扉でした。



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店内の什器や家具はウォールナットが使われ、ややオーセンティックな風合いでした。天井は無数の直方体で構成され、照明や音響設備が埋め込まれていました。立方体の内側や、可愛らしいピクトグラムはカッパーカラーで統一されています。

以上が、「Vol.4 アメリカ 前編」のご紹介になります。
後編では、ロサンゼルスとハワイからトピックスををご紹介します




2022年12月時点の情報です。
※アートテックは、DNP大日本印刷の登録商標です。

取材、撮影&テキスト



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ミラノサローネなどの海外展示会や北欧のライフスタイルをリサーチし、トレンド情報を発信するセミナーやWebでのレポート記事を執筆している。またDNP 5Stylesの企画やコーディネイト提案にも携わる。
関連資格:インテリアコーディネーター、プロモーショナルマーケター




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ミッドタウンイーストで素敵なカフェを見つけました。Remi Flower & Coffeeは小さなお花屋さんの中にあるカフェです。ドリンクは見た目も美しく、店内のお花のカラーと調和しています。朝から多くのニューヨーカーが訪れ賑わっていました。

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現在は海外向けの化粧シートを中心にさまざまな柄や色のデザインに従事している。木材などの素材の調達や、加工方法の調査などにも携わる。伝統的な手法での木材加工に興味があり、漆塗や草木染にも挑戦している。







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原田マハさんの小説が大好きで、「楽園のカンヴァス」が愛読書です。物語の中でアンリ・ルソーの「夢」という絵画が出てくるのですが、ニューヨーク近代美術館のMoMAでようやく実物を見ることが出来ました。ずっと憧れていた絵画でした。

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