デジタルアーカイブの可能性「新しい文化体験モデル」への挑戦~BnFリシュリュー・ルネサンス・プロジェクトを通して~

2019年7月からアジア唯一の技術メセナパートナーとして参画したフランス国立図書館(BnF)のリシュリュー・ルネサンス・プロジェクトについて、プロジェクトリーダーである田井慎太郎へのインタビューを通して、プロジェクト参画の経緯や概要、具体的な実施内容、今後の展望等についてご紹介します。

作成日:2023年1月30日

目次

プロジェクトリーダー紹介

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田井 慎太郎 大日本印刷株式会社マーケティング本部アーカイブ事業推進ユニット事業開発第 1
デジタルアーカイブ事業企画を担当。文化財の3Dデジタル化と、データを活用した体験展示の企画・ディレクションを行う。これまで美術展・漫画展などの展覧会イベントや、科学館、展望台施設などの常設施設に対するインタラクティブメディア・映像システムの導入実績がある。フランス国立図書館リシュリュー館に新設されたミュージアムへのデジタルコンテンツ導入に向けたプロジェクトを担当した。

BnFリシュリュー・ルネサンス・プロジェクト

BnFリシュリュー・ルネサンス・プロジェクトとは?

田井 フランス国立図書館(以下,BnF)とは、BnFの古い建物であるリシュリュー館の300年に一度のリニューアルを目的に2019年7月に共同プロジェクトが発足しました。経緯としては2015年から2016年にかけて進められた、地球儀・天球儀3Dデジタル化プロジェクトがあります。同プロジェクトではBnFの所蔵する地球儀・天球儀55点の高精細なデジタル化と鑑賞システムの開発を行い、コンテンツを効果的に見せることに挑戦しました。それが評価され、今回BnFからリシュリュー・ルネサンス・プロジェクトへの参画の依頼をいただきました。

BnFは14世紀以降からフランス国内で出てきたあらゆる書籍を蔵書する活動を行なってきました。書籍だけではなく、ルイ14世やルイ15世にまつわる美術品も収蔵されています。今回のリニューアルプロジェクトは、17世紀に現在のリシュリュー館がBnFの図書館として使われるようになってから初めての改修となりました。

BnFフランス国立図書館の外観

BnFフランス国立図書館の内部

リニューアルにおけるBnFの目的は?

田井 BnFの目的は、あらゆる人たちに対して図書館を開放し、コレクションを多くの人々に見てもらうということです。その中で、まずは読書の場を広く公開することと、所蔵品を見せるためのミュージアムを開放すること、これらを見ていただくことによって個人それぞれの知識に寄与していくことをポイントにリニューアルを行なってきました。

DNPはこの共同プロジェクトの中で、作品の高精細なデジタル化と新しい鑑賞システムの開発を前回の地球儀・天球儀3Dデジタル化プロジェクトに引き続き行い、今回は反射物や半透過というようなデジタル化が難しいものを成功させました。そのデータを活用できる状態にし、今まで作品にアクセスができなかった人々にも触れてもらえるようにしました。

DNPがプロジェクトに参画した理由

DNP がプロジェクトに参画した理由を教えてください。

田井 DNPが参画した理由としては大きく二つあり、一つ目にアジアで唯一の技術メセナパートナーとして文化貢献を行うことです。二つ目にMLA(Museum:美術館・博物館/Library:図書館/Archives:文書館)が連携した「新しい文化体験のモデル」を構築し、その活用・普及を推進することでした。リシュリュー・ルネサンス・プロジェクトでは、鑑賞ツールを用いて「新しい文化体験のモデル」を構築しBnFへ提供しました。プロジェクトを通して構築したこれらの「新しい文化体験のモデル」を、国内のMLA施設に向けて発信・普及していくことが目論みとしてありました。「新しい文化体験モデル」では、生活者が新しい知識と出会い、興味を広げることを目的としています。そのために、多様な資料・作品をデジタル化し、MLA施設の枠組みを超えて情報連携させ、それらをリアル施設およびオンラインにおける鑑賞システムに利活用し、新しい文化体験として提供します。

例えば、美術館にある作品を図書館の関連資料とともに鑑賞したり、個人の興味にあわせて解説テーマを切り替えたり、遠く離れた博物館にある作品を目の前で鑑賞したり、といったことが可能となります。

リアルな施設で現物の作品を鑑賞することはかけがえのない体験ですが、デジタル化された知的情報をリアル・オンラインを通じて活用することで、これまで以上に好奇心の広がる豊かな文化の体験が可能になると考えています。

MLAが連携した新しい文化体験モデル

MLAが連携した新しい文化体験モデル

リシュリュー館内でDNPが携わった展示を紹介

田井 今回DNPが関わった新しい文化体験のモデルをふまえた鑑賞システムはふたつあります。

みどころビューア®「マザラン・ギャラリー」

田井 ひとつめはマザラン・ギャラリーと呼ばれる歴史的かつ天井画の美しい部屋空間の中に「みどころビューア」という鑑賞システムを設置したことです。高精細デジタル化したマザラン・ギャラリーの天井画を「みどころビューア」という鑑賞ツールを用いてさまざまな角度や大きさで観察することができます。ツール上ではみどころのポイントも表示され、画像とあわせて見ることによって天井画に対する興味を広げていくことができます。

マザラン・ギャラリーの内部

みどころビューアの現地設置画像➀

みどころビューア「ルイ15世の間」

田井 ふたつめは「ルイ15世の間」といわれている今回のリニューアルで同時オープンとなった空間です。こちらにもみどころビューアを設置しました。BnFから提供された図面や写真を用いてCGを起こし、部屋全体の構造と空間内に掛けられている作品をデジタル化しました。これらのデジタルデータをみどころビューアで閲覧することによって、作品のみどころを知り、興味を広げていただくことができます。

ルイ15世の間の内部

みどころビューアの現地設置画像②

3Dデータの提供・活用

ハンズオン展示の様子

田井 その他に、BnFが開発した鑑賞システムの中にDNPがデジタル化したデータが使われていたり、目の見えない人に向けたハンズオン展示として3Dプリンターで出力されたものにDNPの3DCGデータが使われたりしています。
ハンズオン展示はBnFが3Dプリンターで出力したものになっています。データをそのまま使うと模型として脆いものになってしまう可能性があったため、BnFのチームの方でDNPから提供したデータを加工し、厚みを持たせたり壊れにくいような形状にした上で3Dプリンターでの出力を行なっていました。

フランスでの反応

フランスでの反応はどうでしたか?
田井 BnFの関係者からはとてもポジティブな反応を得ており、多くの一般の来館者に使ってもらっていると聞いております。マザラン・ギャラリーの天井画はもちろん現地で見ることはできるのですが、高さ9メートルのところにあるため近づいて見ることができません。そういったものを、端末上で拡大し細かい部分までしっかりと鑑賞できることが有意義とのことです。

ルイ15世の間についても、私たちが撮影などで現地に入った際にBnFの関係者が操作されているのを見たのですが、「実際の空間のあの作品は、この端末で示しているこの部分だよね」と解説を見ながら交互にビューアと実際の作品を見ている様子で、複数人の方が端末を触り体験していました。本物の作品に対する「興味のきっかけ」を提供することができていると感じましたし、鑑賞システムとして一定の役割を果たしたのではないかとその反応を見て思いました。

DNPの強み

DNP の強みを教えてください。
田井 高精細なデジタル化や難しい素材のデジタル化を、クオリティを担保しながら行えることが強みです。対象となる素材の範囲を増やしたり、今までデジタル化できなかったような大きなスケールの空間を3D化したり、これらの技術力が世界最大級の図書館であるBnFに認められてきたという強みがあると思っています。
また、鑑賞システムでは、デジタル化した多様な知的情報を組み合わせて、見ている人それぞれの好奇心を高められるようなコンテンツづくりを行っており、BnFの学芸員からその点も評価を得られています。

今後の展望

田井 今回のBnFとの共同プロジェクトの成果である、多様な素材および大規模な空間に対応した3Dデジタル化技術によって、国内の貴重な文化資源・歴史的空間のデジタルアーカイブ化を進めていきたいと考えています。またそれらのデータを鑑賞システムに活用し、さまざまなMLAの情報と出会い好奇心の広がる新しい文化体験を、国内MLA施設に普及していきたいと考えています。それにより、MLA施設に訪れた来館者が、展示資料や関連情報に興味をもつきっかけを広く提供したいと考えています。

田井 さらに今後はMLA市場だけでなく、観光や教育、福祉、企業などの産業領域にも、デジタルアーカイブのコンテンツおよび体験を活用し広く価値提供を行いたいと考えています。例えば地域の文化財・資料を鑑賞システムで横断的にみられるようにし、観光の情報発信コンテンツとして活用したり、学校の地域学習のツールとして授業に活用したりといったことが考えられます。
また、鑑賞体験だけではなく、ブロックチェーンを活用したライセンス事業を組み合わせることで、デジタル化された資料・作品のコンテンツとしての流通を加速させ、市場における活性化をめざしたいと考えています。

MLA関係者へ一言

田井 ミュージアム、ライブラリの皆さんにおいては、日々施設を運営される中でさまざまな課題をお持ちで、ご苦労されていることも多いと思います。その中で収蔵されている資料・作品に対して興味のきっかけをどのように与えるかという課題に対して、DNPはデジタル化技術と独自の鑑賞システムを提供し課題の解決を図りたいと考えています。
それにあたってDNPが大切にしているのは「どのような資料・作品であっても等しく興味のきっかけを与える」ということです。大型の展覧会でたくさんの人に見られる資料・作品がある一方で、全国の施設には、まだスポットライトの当たってこなかったものも多くあると感じています。
「どのような資料・作品であっても、見方や切り口を変えたり、他の資料・作品や関連情報と紐づけたりすることによって、興味のきっかけを提供することができる。」そのような考えを具現化するために「多様な素材、空間の高精細なデジタル化」とDNPコンテンツインタラクティブシステム「みどころシリーズ®」を広く皆様に提供していきたいと考えております。また、そのことを通じて文化に興味を持つ人が一人でも増えれば大変嬉しく思います。

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プロジェクト始動から展覧会開催の裏側、来場者の反響など、展覧会の全貌をご紹介します。

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