2020/8/5

教育ビッグデータを活用した指導のカギは?
~放送大学 中川一史教授にきく~

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「GIGAスクール構想」でのICT環境整備が本格化し、各自治体はICTを活用して得られる学習データの活用に動き出しています。
一方で、これまでイメージもしてこなかったデータの利活用に戸惑われる先生方もいらっしゃるのではないでしょうか。
学校現場のICT普及の先頭に立ってこられた放送大学・中川一史教授に、今後の教育ビッグデータの活用についてお聞きしました。

◆プロフィール

教育工学、情報教育を専門とする。横浜市の小学校教員、教育委員会、金沢大学教育学部教育実践総合センター助教授、独立行政法人メディア教育開発センター教授を経て2009年より現職。
文部科学省「デジタル教科書」の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン検討会議、「教育の情報化に関する手引」作成検討会など委員。著書『学びの資質・能力―ラーニング・トゥ・ラーン―』(共著 東洋館出版社)、『小学校プログラミング教育の研修ガイドブック』(監修 翔泳社)。

教育におけるICT環境整備の意義について教えてください。

「GIGAスクール構想」の実現による、ICTを基盤とした先端技術等の効果的な活用が求められています。令和時代のスタンダードな学校像として、全国一律のICT環境整備は急務です。1人1台端末やクラウド活用推進で、「多様な子どもたちを誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学び」を全国の学校現場で実現させることが必要です。
また、文部科学省から2019年に公開された「教育の情報化に関する手引」によると、「これからの学びにとっては、ICTはマストアイテムであり、ICT環境は鉛筆やノート等の文房具と同様に教育現場において不可欠なものとなっていることを強く認識し、その整備を推進していくとともに、学校における教育の情報化を推進していくことは極めて重要」としています。
今後は学習場面において、1人1台環境は当たり前になっていきます。

新型コロナウィルスの問題で、学校の授業が十分に進められない状況でも、先行整備していた自治体や学校はオンライン学習の実施など、児童生徒個々の学習への支援を行っていました。
今後ICTは、いかなる場面においても必要不可欠になることは間違いありません。

ICT整備が整った後の「データ活用」について教えてください。

「多様な子どもの一人ひとりの個性や置かれている状況に最適な学びを可能にしていくこと」※が重要です。
これまで学校では、教員が目視や経験により個々の児童生徒の学習状況や生活状況を把握していました。この経験則が重要であることは今後も変わりないでしょう。そこにICTなどの科学的視点をプラスし、相乗効果になるよう先端科学技術を活用できることが望ましい。
これまでにない詳細さと規模で学びの記録と蓄積が技術的に可能となることで、学習の認知プロセスが見え、これまで経験的にしか行えなかった指導と評価が、データをもとに行うことができるようになる可能性があります。
ベテラン教師の実践知や暗黙知をビッグデータ解析することで、若手世代へ引き継いでいくことも可能になるでしょう。

若手教員の増加に関しては、今後の授業づくりや学級経営において、育成の面で課題であることは間違いありません。
例えば学習データをもとに児童生徒の状況を分析することができれば、この解決になる教員支援が可能です。児童生徒の学習の理解度を確認するテストを例に取ると、問題ごとの正答率だけでなく、間違え方のパターンを分析することで、クラスや個人の迅速な状況把握ができます。

例えば、急激に点数が下がっている児童生徒の状況を把握し、その理由を推測することができます。ここから、テスト冒頭で誤答が多い、ある領域の誤答が多いなど、躓きの傾向に気づくことができる。反対に、急激に上がっている児童生徒の状況を把握し、その理由を推測することもできます。

  • 文部科学省「新時代における先端技術を効果的に活用した学びの在り方(最終まとめ)」(2019)

先生方の果たす役割の変化もあるのでしょうか?

コンピュータが分析してくれると教師は必要ないのか?それはNOです。先端科学技術やビッグデータの活用は教師本来の活動を置き換えるものではなく、『子どもの力を最大限引き出す』ためのもの。
データからの気づきと個々の児童生徒の他の生活などとの関連を解釈し、適切な助言をするなど、次に生かす教師の力量が必要になるのです。


まさに「教師の経験知と科学的視点のベストミックス」なのですね。ありがとうございました。

データを活用した指導実践アイディア

ここでは実際にデータをもとに生徒の指導に活かす例を取り上げます。
テストの結果から生徒の指導をすることは一般的に行っているものではないでしょうか。
このテストの結果データ活用を工夫すると、よりよい指導につなげることが可能になります。

クラスの弱点把握

  • 「見方のミカタ」の事例から抜粋

◆課題

クラスの弱点を掴みたい!

◆データ活用のねらい

①手採点では発見しづらい、クラス間の正答率の違いを把握する。
②複数の教師で同一教科を教えている場合、同じ温度で教えていることが大事。教え方を揃える良い基準になる。

分析から指導までの流れ

STEP1: 設問毎の正答率を、クラスごとに並べて表示し、違い(どこが違うか)を確認。
STEP2: クラス間の違いのデータをもとに、ざっくばらんに教師間で会話をする。
STEP3: クラスごとの弱点や課題は、次の授業で補っていく。

具体的な分析の方法

STEP.1: クラスごとの違いを捉える

・設問ごとの正答率をクラスごとに並べて表示する。
・クラス間の違いを確認する。

リアテンダントなら、設問ごと・クラスごとの集計結果をグラフで表示できます!

STEP.2:クラスごとの違いを教師間で共有

・クラス間に差があるか確認する。
・差がある場合、どの設問でクラス差が出ているかを見る。
・結果を、ざっくばらんに教師間で話し合う。
・授業改善のきっかけとする。

STEP.3:弱点・課題を次の授業で補う

・課題のある設問の中身を掘り下げる。
・以降の関連テーマ時の授業で配慮する。(または、長期休暇前の課題準備の参考にする。)

◆例

そのテスト範囲に対して、知識・技能の結果により、次の授業内容の計画を立てる。

例① 知識・技能の定着が芳しくなかった組に対して、授業の最初で少し振り返りを行い、適切な課題で協働学習での気づきにつなぐ。(個別の適切な練習課題での家庭学習を促す)

例② 知識・技能ができていると判断された組については、発展的な課題で生徒の発表機会も想定した授業を計画する。

リアテンダントなら、集計結果を観点別グラフでも表示できます!

◆Teacher’sボイス!

問題によっては正答率が高いクラス、低いクラスが生じることもある。先生ごとの教え方の違いに気付くきっかけにもなる。

学習データ活用の冊子を新たに発行!

このページで示した「データを活用した指導」はほんの一例です。
DNPでは、先生の効果的な指導にご活用いただける、学習データ活用の冊子を取り揃えています。

興味のある方は下記よりお問合わせください。
※お問合わせ内容に「見方のミカタ希望」とご入力ください。
※お問合せ後、発送までお時間をいただく場合がございます。あらかじめご了承ください。

関連リンク

未来のあたりまえをつくる。®