2019/12/25

各地で進む「学校の働き方改革」
~教員の業務改善に向けた方策と自治体の取組み状況~

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長時間労働の是正や多様で柔軟な働き方の実現に向けて、政府による働き方改革が実行される中で、子どもたちを指導する"教員の働きすぎ"が社会的な関心を呼んでいます。そこで、こうした教員の多忙感の解消を目指す文部科学省の施策を整理するとともに、これを受けた全国の自治体での取組み状況を紹介します。

中教審の答申を受けて加速化

教員の長時間労働の常態化の解消に向けた「学校の働き方改革」は、2019年1月に中教審が出した「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」の答申によって、一気に加速化する動きを見せています。
ここでは、小学校で3割、中学校でも6割の教員が過労死ライン(月80時間残業)を超える仕事をしている現状を踏まえ、高い成果を上げてきた我が国の学校教育を維持・向上させ、持続可能なものにするためには、学校における働き方改革が急務と提言。その目的を「教員のこれまでの働き方を見直すことで自らの人間性や創造性を高め、子どもたちに対して効果的な教育活動を行うこと」としています。
また、そのためには文部科学省が時間外勤務(残業)の上限を原則「月45時間、年360時間」と決めたガイドラインの実効性を高めることが重要であり、学校現場で確実に遵守されるよう取り組むべきと指摘しています。

まずは勤務管理時間の徹底を図ること

これを受け、文部科学省では学校と社会の連携の起点・つなぎ役として、勤務時間管理の徹底や業務の明確化・適正化など、学校における働き方改革のための取組みに乗り出しています。特に、文部科学大臣を本部長とする「学校における働き方改革推進本部」を設置したことは、注目すべき点です。そんな動きに呼応してか、2月に開催された全国公立学校教頭会の中央研修大会でも「学校の働き方改革」が議題の焦点に当てられるなど、今や教育界における大きなテーマになっています。
また、こうした取組みの中でも重要となるのが勤務管理時間の徹底であることから、ICTやタイムカードなどを使って正確な情報を収集・把握することを求めています。同時に教員の健康管理にも注視していく必要があり、中教審ではストレスチェックがすべての学校で行われるよう、働き方改革の進捗調査と合わせて、市町村ごとに実施状況を公表すべきとしています。

どれだけ実効性を高めていけるか

しかし、こうした勤務時間管理の徹底などの働き方改革を学校現場で具体的に実行していくためには、国や文部科学省の方針を受けた全国の自治体が、どれだけ実効性を高めていけるかという課題があるのも事実です。いくら教員一人ひとりの意識改革が大事といったところで、制度や環境が整っていなければ本質的な業務改善にはなりえないからです。
そして、そのための1つのカギを握るのが、中教審が示した「学校及び教員が担う業務の明確化・適正化」です。ここにある、必ずしも教員が担う必要のない業務や、負担軽減が可能な業務について、どれだけ行政側としてタッチしていけるかということが、それぞれの学校現場の働き方改革の実現に結びついてくると考えるからです。
すなわち、児童生徒の休み時間における対応、部活動指導、学習評価・成績処理などに関する業務の補助、学校行事や地域ボランティアの見直しなどについて、どれくらいの手当てで、できるかが焦点になるでしょう。

業務改善に向けた環境づくりがカギ

中教審の「学校の働き方改革の実現に向けた環境整備」でも、教職員及び専門スタッフの強化として、小学校の英語専科担当、中学校の生徒指導担当などの指導体制や、校長・教頭等の事務軽減に有効な事務職員の充実が挙げられています。また、ほかにもスクールカウンセラーの全公立小中学校への配置、スクールソーシャルワーカーの全中学校区配置、あるいは、部活動ガイドラインの遵守を条件とした部活動指導員の配置促進、多様なニーズのある児童生徒に応じた支援スタッフ、授業準備や学習評等の補助業務を担うスタッフなどの環境整備が示されているところです。
このような業務改善・効率化への支援が必要なのは、すでに文部科学省の調査により実態が明らかになっているからで、教員の仕事に即して現実的に負担を減らすには、こうした手立てが必要と考えているからに他なりません。
もちろん、そのためには教員側が削減できる業務を洗い出すことや、校長が自らの権限と責任で、本来は地域や家庭で担うべき業務について削減していくといった強い意識が必要になります。その上で、教育委員会等が教員以外の担い手の確保やICT環境整備の推進といった業務改善に向けた人的・物的な支援を、スピーディーに具現化していくことが望まれます。

校務の効率化に向けた自治体のICT活用

続いて、全国の自治体における取組みについて紹介します。まず、学習評価など校務処理に費やす時間の削減に期待されている「統合型校務支援システム」については、文部科学省の「学校における働き方改革に関する緊急対策」でも、早期の導入を求めているところです。
こうしたなか、高知県教育委員会では2019年度に26市町村の195小中学校に校務支援システムを導入し、2020年4月からは全市町村で運用開始する予定です。授業以外の校務に係る業務をすべて情報システムに集約することで業務の効率化を図り、生徒と向き合う時間を創出することをねらいに掲げています。
また、長崎県では、効果測定重点校として長崎市など20校に導入して検証するとともに、市の予算で全小中学校108校にも導入。その他、岐阜県や愛知県名古屋市、大阪府堺市、神奈川県藤沢市など全国の多くの自治体で導入が広がっています。
一方、教員の業務負担を減らす取組みの1つに、横浜市などが実施している勤務時間外における留守番電話の設置がありますが、欠席連絡にICTを活用したシステムを導入することで、より効率化する取組みも始まっています。
あるいは、校務の省力化として現場の先生方から多くの声が上がるのが、学校の印刷環境の改善です。なぜなら、ほとんどの学校では職員室にあるプリンタを共有して使うことになるため、順番待ちする時間が増えて作業が効率的にはかどらないといったケースが日常化しているからです。そのため、働き方改革の一環として、校内のどこからでも印刷指示が出せるネットワークプリンタを全校に導入したり、各普通教室にプリンタを配備したりする自治体も現れています。こうした現場ならではのニーズを反映するのも働き方改革には大事な視点です。

教員をサポートする体制づくりも

さらに、教員以外の担い手の確保を進める動きも始まっています。山形県教育委員会では、1日6時間・週5日(年間40週)を基本に、スクールサポートスタッフを小中学校に計30名配置し、高校は「教師のゆとり創造校務補助員」を11人増員。また、部活動指導員を全中学校の半数にあたる49校に各1人配置しており、今後もこうしたサポートスタッフの拡充や少人数学級編成などを検討して行く意向です。
埼玉県戸田市でも、部活動を制限する新たな方針を策定。市の調査で教員の6割が週5日間、休日も4割活動していることを受け、休養日、活動時間、早朝練習の活動時間を制限する3つのルールつくり、生徒の健全な成長と教員の働き方改革を両立させることを目指しています。
また、岡山県教育委員会の取組みで強調したいのは、教員の時間管理による削減が月10時間、板書型指導案の活用・データ共有による削減が月7時間、部活動休養日の徹底で月12時間など、はっきりとした数値目標を設定していることです。これにより、2019年度までの3年間で時間外業務を現状よりも25%削減することを目標にしていますが、教員の動機づけや効果測定もしやすいことから、全国の自治体も参考にしたいところです。

今後に向けたスケジュール

なお、中教審の答申を受けた今後2023年度に向けた「働き方改革」におけるタイムスケジュールについては、文部科学省では定期的な業務改善の状況調査を実施して動向に注視するとともに、校務の情報化など学校のICT環境整備の推進、英語専科教員など学校指導体制の充実、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー、部活動指導員、スクールサポートスタッフなど多様なスタッフの配置を、財政面から支援していくことを挙げています。
次に業務改善・業務分担の推進については、文部科学省が標準的な職務モデル案の提示、部活動ガイドラインの策定等を示した上で、各自治体が教員の平日の仕事を補完する方策(校務支援システムによる業務削減、留守番電話の設置、業務アシスタントの配置、学校行事の見直し、休み時間、校内清掃等の役割分担・適正化)や、部活動、長期休暇中の業務圧縮など、具体的な業務改善につながる取組みを実施していくこと。またその結果を反映し、規制等で上限を決定することになっています。
さらに、今後の検討課題となる教育課程、免許、研修等についても、中教審等での検討の上、結論の出たものから制度改正していく予定です。

抜本的な制度改正を期待

いずれにしても学校の働き方改革の難しさは、平均的な教員の勤務シフトだけ見ても、残業の上限をはみ出してしまう現実があるからです。したがってこれを実現していく過程には、学校現場の努力や保護者・地域の理解だけでは済まない部分があるのも事実です。だからこそ、東京都が唱えているように、国レベルでの抜本的な制度改正や財政面の支援に期待したいところです。

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